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 夏休みに入って学塾に一本の電話が入った。「学習相談」だったが祖父母からの場合、教育権のこともあり生徒の両親とは若干違った対応になる。電話をくださったおばあちゃんは、孫のことがよほど心配だったのだろう、何度も電話をくださって生徒の状況を説明した。
 そのおばあちゃんの熱心さに、担当者も「塾長面談」を入れようと、許可を求めに来た。祖父母の場合は「塾長面談」をしないのだが、状況を聞き面談OKを指示した。
 おばちゃんは6年生の孫を連れて、面談にこられ孫がゲームとTVに夢中で、学校でもよく寝るらしく先生からも注意されているとのことだった。周囲の子たちは「進学だ!受験だ!」と騒ぎ、5年生ぐらいからは友だちもいなくなった。唯一の親友までが親の仕事で他県に引越ししたとのことである。
 その6年生の生徒は学習には関心がなさそうに、話をしようともしない。かなり学習が嫌いなようだ。だが、
「君は将来何かやりたいことがあるのか」と聞くと。
「ゲームクリエーターになりたい」と即答してきた。あまり喋らない生徒の即答に驚きながら、
「やりたいことがあるのはいいことだ」と、生徒を励ましながらゲームの話をしたが、気になっていることが頭から離れない。
「失礼ですが、おばあちゃんはどこかお加減でも悪いのですか」と聞いてみた。
「はい。癌で全身に転移しているんです」とあっさりと答えが返ってきた。顔が少し腫れた感じなのも抗癌剤治療をしているからだと言う。その気丈さと孫に対する愛情の深さに驚きながら、生徒のことはさて置きおばあちゃんの話になった。
「君のことはもういい。どうせ人間は一生学習するんだ。今はおばあちゃんの方が一大事だ」と、生徒を無視することにした。
「女性にお年を伺うのは失礼ですが、お幾つでいらっしゃいますか」とか、
「病院はどちらですか」と、生徒を無視して話をしていた。
「○○病院です。もう何度も手術をしています」
「それはたいへんですね。お孫さんはおばあちゃんを大切にしてくれますか?」
「はい。優しいいい子です」
「それはよかったですね」と、生徒の話に触れたとき、決意したのだろう。
「あのぉ、ぼくやります。あしたから」
 沈黙して二人の話を聞いていた生徒が、自ら学ぶことを意思表示したのである。たぶん、生徒は事の重大さを考えていなかったのだろう。それがわかったのかもしれない。
「おお。やるか。だが、学習も大事だが、おばあちゃんを大切にすることは、もっと大事なことだからな・・・」
「はい」素直なよい生徒だった。
 おばあちゃんは何度も「ありがとうございます」と言い残して生徒と帰っていった。その生徒は翌日からニコニコしながら、塾に通ってきている。by塾長


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