猫のひとりごと・私って、野良猫のメグちゃんなの?

野良猫とこの家の人々との、とても愉快な、でもちょっと寂しい生活物語

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チキンの冒険・第4章

十七、新たな旅立ち

 旅立ちの日は近づいていました。と、いうよりも、早く旅立たないと冬になってしまうのです。鶏達には、そんなにのんびりとしている余裕は無かったのです。
「サニー、ぼつぼつ出発したらどうかなあ。」ジャックがサニーに、出発したらどうかと聞いたのです。
「そうですね。もう行かないと厳しくなってしまいますね。」
「そうだよ。そんなにゆっくりとはしていられないぞ。」
「分かりました。それでは明日出発しましょう。」
「おい皆、聞いたか。出発は明日だぞ。」
サニーが皆に話し始めた。
「聞いてください。明日、雨が降らなければ出発しようと思います。ですから今日は、ここに有る食べ物を、できるだけ多く食べてください。持って行く事はできませんので、食べる事のできるものは全部食べてしまって下さい。それから、できるだけ早く寝てください。明日の朝は早く出発しますから、疲れないように睡眠は十分に取って下さい。」
「良し分かった。それなら今日は、今までで一番贅沢な食事をしようぜ。」
「そうだな。前祝いだな。」

この頃には、ナイフもガンも、すっかりサニーの話を信用していましたので、出発には何の不安も感じていない様子でした。

雌鶏達も子供達も同じでした。雌鶏達は夫である雄鶏が行くと決めたのだから、それには従うしかなかったのですが、この頃には、サニーの話していた美味しい貝とはどんな物だろうとか、サニーが見たとても広い川とはどんな所だろうかとか、そんな話で持ちきりだったのです。新しい処に対する期待は、むしろ雄鶏より大きかったのかも知れません。

子供達は単純でした。既にここの生活には飽き飽きしていたのですから、少しでも新しい処に移りたかったのです。子供達にとっては、楽しい冒険が始まる位にしか感じていませんでした。特に、母親達が美味しい食事の話とかをするものですから、子供達もその会話を聞いており、早くその素晴らしい処に行きたいと思っていたのです。

むしろ不安に感じ始めていたのは、サニーでした。それとジョンとピンクでした。
サニーは、最初の内は自信があったのですが、ジョンの話を聞き、皆が、サニーサニーと、サニーを眩しい物でも見るように言うものですから、その期待が多くなってくると、その期待を裏切らないようにと思い、不安が増してくるのです。勿論、雌鶏達が話している、食べ物の話とか、広い川の話は、そこに行けば期待を裏切らないで済むのですが、サニーが不安になるのは、それ以外のことでした。自分が、この後リーダーとして相応しくやって行けるのだろうかという事が、不安になっていたのです。

 それは、ジョンもピンクも一緒でした。サニーの事だから、大丈夫だとは思うものの、そこはやはり親です。思えば思うほど、他に何か心配事は無いだろうかと考えてしまうのです。それは、親が子供を思うが故に、当たり前の事と思えばそうですが、ジョンとピンクにとっては少し違うものでした。

 ジョンは、サニーにも仲間達にも何も言いませんでしたが、病は決して良い状況とはいえませんでした。それは自分自身が一番分かっているのです。
『おそらく、今度の旅が最後の旅になるのではないだろうか。』そう考える位に病状は悪化していたのです。
『この旅が最後で、この後はサニーが全て仕切って行く事になる。サニーよ頑張ってくれよ。』そう考えていました。

 ピンクもジョンの病状の事は分かっていました。分かっていましたが、ジョンが誰にも何も言うなときつく言うので、それを守っていました。ジョンの病を知った時から、ジョンの傍を離れる事はありませんでした。ジョンのどんな些細な変化にも、敏感に対応していたのです。
病を知った後、ジョンの様子を観察していると、時々苦しそうに屈み込むのです。
ジョンはそんな時でも、皆に気付かれない様にと思い、背を向けて分からないようにしていましたが、顔はかなり苦しそうにしていました。
ピンクは、そんなジョンを見るのがとても辛かったのです。辛かったのですが、ジョンの言い付けは守りました。皆に分からないように、そっとジョンの背中を撫でてやりました。
ジョンは、苦しくても何も言わずに、ニッコリとしていたのです。


 その日の夕食が、とても楽しく豪華な物となったのは言うまでもありません。鶏達はこれからの生活に期待をしていました。そして同時に、サニーにも期待していました。すでに他の父親達も、何時の間にかサニーをリーダー格扱いにしていたのです。
「サニー、お前はどう思う。」
「サニー、そこにはどう行けば良いのか。」
「サニー、これからの暮らしは如何したら良いのか。」と、気の早い事を聞いてくるのです。
サニーは、それには少し困った表情をしていましたが、そこは無難に返事をしていました。
そんな夕食は楽しく終わり、皆はサニーの指示の通り、早々に眠りに付きました。
ただ一人、眠りにつけなかったのはサニーでした。

ジョンとピンクは優しく抱き合っていましたが、熟睡していたとはいえませんでした。お互いに考える事が、沢山有ったのです。

 目覚めると早速、早々に朝食を取り、出発をしました。
「さあ、行くぞ。サニーもう準備は良いのかな。」
「良いと思いますよ。皆、良いかな、行くよ。」
「ハーイ、良いでえす。」
子供達の、元気な返事が返ってきました。
「さあ、行きましょう。サニー、案内して。」ローラの言葉に、
「良いですよ。それでは皆さん、出発します。」
「ハーイ、しゅっぱあつ。」子供にとっては楽しい遠足気分でした。
「ジョン、行くわよ。」
「ああ、行くとするか。」
「元気を出してね。」
「元気だよ。心配するなよ。」
「心配なんかしていないわよ。」
「そうか。アハハハ。」
ジョンとピンクも、サニーに従うように出掛けて行きました。
「これから十五日くらいの旅になる。途中では、少しくらいの休憩をするけれど、少し長旅になるよ。皆、怪我をしないようにゆっくりと進もうね。」サニーは子供達を気遣っていました。
「ハアイ。ゆっくりと行きます。」子供達は素直でした。
 
草原から海までの旅は、親の足で十五日ほど掛かるのですが、この辺りになると地形は穏やかな傾斜面であり、それほど無理をしないでも進む事ができました。既に鶏達が生活していた草原は、平地に近い処に有ったのですから、子供達でも進もうと思えば進めるところばかりでした。所々には窪みや、茂みも有りましたが、そこは迂回して進めば、十分に進むことができたのです。
ただし、さすがに小さな子供連れでしたので、その進むスピードはとても遅いものとなりました。当初予定していた十五日で目的地に到着するのは、行程の半分まで来た時点で無理と分かりました。既にその時点で十日以上経ってしまっていたのです。その場所に到着するには、当初の予定より十日ほど余分に掛かってしまう事が分かってきました。
「サニー、こんなにゆっくりで大丈夫か。」
「大丈夫ですよ。子供達に合わせてゆっくりと行きましょう。」
「そうか。しかし余りゆっくりとしていると雪が降ってくるぞ。」
「そうですかねえ。僕は未だ大丈夫だと思うのですが。」
「そうか、お前がそう言うのならばそれで良いが。」
ジャックは少し心配でしたが、サニーの意見に従うことにした。
「それよりも叔父さん。ここで少し休みましょうか。明日はここで一日休憩することにしましょう。」
「本当にそんなことで良いのか、サニー。」
「大丈夫ですよ。ここからは平らなところばかりですから、安心して進めますよ。ここまで来たのですからもう大丈夫です。明日はこの辺りで食べられる物を探して、ゆっくりと休みましょう。」
「ああ、そうか。」
サニーの自信の有る言葉には、反論できませんでしたのでそうする事にしました。

 この頃の、ジョンの容態は決して良いものではなかったのです。ここまで来る間にも、何度も心臓が痛くなり、その度にピンクの支えを借りて、何とかごまかしながらの旅を続けていました。そんなジョンの姿を見ても、誰もジョンが病気だとは気付いていませんでした。それはピンクの誤魔化しとも思える言葉が、功を奏したからです。
ピンクは、「ジョンは孫の守をしていてばかりでいたので、少し体力が落ちてしまったのよ」と、説明していたのです。
ジョンも、勿論ピンクの説明に合わせていました。
「サニー、ありがとう。お父さんが疲れたから休みたいと言っていた処だったのよ。良かったわ。」
「そうか。親父、頑張ってくれよ。親父が一番疲れているみたいだなあ。」
「済まないサニー。俺も年を取ったのかなあ。」
「おいおいジョン、止めてくれよ。年の事を言うのなら。お前と俺は変わらないぞ。」
「ああ、そうだったな。そうすると、俺の体力の落ちるのは少し早すぎるな。」
「そうだぞ。お前は未だそんなに老ける年では無いぞ。」
「ああ、分かったよ。少し運動でもして、体力を回復しないといけないな。」
「運動なんかしないで働けば良いのじゃないか。」
「そうだったな。アハハハ。」
力の無いジョンの笑い声でしたが、皆もつられて笑っていました。
「ワハハハハ。」
「ワハハハハ。」
「ワハハハハ。」
でも、ピンクだけは笑えませんでした。ピンクはジョンの様子を窺いながら、心配そうに見つめていました。ジョンの様子を見ていると、来るべき時が近づいていると感じるのです。

                       つづく

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