猫のひとりごと・私って、野良猫のメグちゃんなの?

野良猫とこの家の人々との、とても愉快な、でもちょっと寂しい生活物語

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チキンの冒険・第4章

十八、子供のようなジョン

 久しぶりにゆっくりと休むことが出来た鶏達は、とても元気に目覚めていました。
「気持ち良いなあ。さあ、何か探しに行こう。」
「そうしましょう。」
「お母さん達はここで待っていてくれ。何か美味しい物を探してくるよ。」
「ええ、分かりました。沢山取ってきてね。」
「分かったよ。さあ行くぞ。」
「お、ジョンどうした。」立ち上がろうとしないジョンを見て、ガンがそう言うと、
「ああ、少し気分が悪い。悪いけれど今日はお前達で取って来てくれないか。」
「それは良いけれど。お前本当に体力が無いなあ。それとも何処か悪いところが有るのか。」
「いや、そうじゃないのだ。もう少し休めば良いと思うのだけれど。」
「分かったよ。お前はそこで休んでいたら良いよ。俺達で取って来るよ。」
「済まないな、ガン。」
「ああ。」

サニーは、そんな父親を黙って見ていました。そして、今までと少し様子が違うことに気がつき始めていました。
「親父、この頃少し痩せたのではないか。大丈夫か。」
「心配するな。」
「お母さん。」サニーはピンクに向かって何かを言おうとしたが、
「サニー、貴方はそんな事を心配するより、早く食べ物を取って来て。皆は腹を空かして今にも倒れそうよ。」と、サニーの言おうとしている事を遮るように言いました。
「ああそうか。分かった。」サニーは、今のサニーの言葉に対する母親の対応の仕方に、明らかに不自然なものを感じました。ピンクは、サニーが何かを言おうとするのを遮るように、食べ物探しに行くようにと言ったのです。普通であれば、サニーの話を聞いてから何かを言うのですが、何時ものピンクとの会話の時とは違っていました。
『おかしい、何かを隠している。』そう感じましたが、それが何かまでは分かりませんでした。
サニーはピンクの顔を振り返って見直しましたが、ピンクは、行けと目で合図を送っているように思えました。
『どうしたのだろうか。』そう思いながらも、ジャック達と一緒に出掛けて行きました。

 ジョンは横になっていました。少し辛そうな表情に、さすがに残った鶏達も、ジョンの様子が気になり始めました。
「ねえ、ピンク、ジョンは大丈夫なの。」
「貴女、何か隠していない。」
「ジョン、如何したの。苦しいのではないの。」
「お義父さん、大丈夫ですか。」
皆、それぞれにジョンを心配そうに見ていました。
「大丈夫よ。少し休めば大丈夫よ。」
「そう、でも苦しそうよ。」
「直ぐに直るから大丈夫よ。」
ピンクの言葉のように、ジョンの苦しそうな表情は直ぐに直りました。
「ああ、皆、悪かったな、もう大丈夫だから。」
「心配したわよ、ジョン。貴方何処か悪いところが有るのではないの。」
「いや、心配はいらないよ。」
「そう。」
雌鶏達は、ジョンの異変に気付きかけていました。

 サニー達が戻ってきました。戻ってきたサニーに、母親達がジョンの様子を話したのは言うまでも有りません。
サニーは話を聞いて、
「親父、何処か悪いところが有るのか。それなら僕に言ってくれないか。」
「悪いところが有るなら言うよ、サニー。けれども大丈夫だよ。時々少し苦しくなるだけだ。たいした事は無いよ。」
「苦しくなる。苦しくなるってどういう事なの。」
「だから大した事は無いと言っているだろう。直ぐに良くなるから大丈夫だ。」
「そう。」そしてピンクの顔を見ると、
「うんうん」と頷いていました。
サニーは、それ以上に問い掛ける事はしませんでしたが、『父親の体に何かの具合の悪い事がおきているな』とは感じました。
そして『どうしよう。親父の具合が悪い。これから先の行動を如何したら良いのか。』そんな事を考えたのですが、それからの食事の時間で、その心配が払拭されたように思えました。

 食事の時のジョンは、とても楽しそうにはしゃいでいました。今までのジョンの姿で、こんなにはしゃいでいる姿は見た事も無いようなはしゃぎ方でした。それはまるで、小さな子供になったような、我が儘で、可愛らしい姿でした。

夕食は、サニー達が、何処からか取ってきた美味しい物が並びました。何時もならば、子供達が一番で食べ物に手を出すのですが、この時は違っていました。
それは、ジョンが何時もと違っていたのです。
真っ先に手を出したのはジョンでした。
「ウワア、美味しそうな物が取れたなあ。どれから食べようか。」
「親父、子供から好きな物を」と、言いかけていましたが、
「これは美味そうだ。これを食べよう。」と言って、たった一つしか取れなかったものをさっさと取ってしまいました。
それにはサニーも呆れてしまいました。そして、
「親父、それはジョージに」と、言うよりも早く、ジョンの口の中に放り込まれてしまったのです。
「親父。」サニーは、もう一度、父親を叱るように言いましたが、ジョンはそんな言葉は全く耳に入っていない様子です。
「おじいさんが僕の食べ物を取ったあ。」
ジョージがそう言っても、
「ジョージ、これはおじいさんの物だよ。皆がおじいさんの為に取ってきてくれたのだよ。」
と、言って、ジョージが泣くのもお構い無しの様子です。
そしてその次は、サンデイが食べようとしたものがありましたが、それを、
「あ、サンデイ。あそこに不思議な物が有るよ。」
「え、何処に。」と、言ってジョンの指差すところを見たその隙に、ジョンはサンデイの物まで食べてしまったのです。
サンデイが気付いた時には、もう食べようとしていた物は自分の前に有りませんでした。
「無い、私の物が無い。」
「ここだよ、サンデイ。」そう言うとジョンは、口を大きく開けてサンデイに見せた。
「ワア、私のものを、おじいさんが食べてしまったあ。」サンデイも泣きだしてしまいました。

皆は、ジョンは如何してしまったのか、冗談でやっているのか、気が変になってしまったのかと思い、そんなジョンの仕種を、ポカンと口を開けて見ていました。
その後もジョンは、そんな悪戯を続けました。
自分の悪戯で、皆が困っているのを見て、可笑しくて笑っていました。とても楽しそうに笑っていました。
真面目なジョンが、このような他愛無い悪戯をするのを、皆は始めて見ました。生真面目なジョンは、そのようなことをする性格ではないのです。

ジョンは楽しみたかったのです。思いっきり楽しみたかったのです。皆が自分の事を心配しているのは分かっていましたから、心配いらないよ、と言うメッセージも込めて、思いっきり楽しみたかった。ただそれだけでした。

ピンクは分かっていました。ジョンが、皆に甘えるように楽しんでいるのを分かっていましたので、黙って優しくその様子を見つめていました。
『ジョンは楽しい思い出を残そうとしているのよね。ジョン、良いわよ。思いっきり皆を楽しませてあげて、思いっきり皆を困らせてあげて、そう、それで良いわよ。今日は楽しみなさい。気が済むまで楽しみなさい。気が済むまで甘えて御覧なさい。』

 ジョンのそんな行動に、皆は慣れてきたのか、それも良いなと思ったのか、ジョンを指差して笑っていました。子供達が泣いて訴えても、親達は子供には同情しませんでした。むしろ、ジョンの行動を楽しがっていました。可笑しいと笑っていました。

子供達も、親達が味方してくれないと分かると諦めたのか、早い者勝ちの、食べ物の取り合いになってきました。
とてもお行儀の悪い食事です。
とても散らかして汚い食事です。
でも楽しい食事です。
「ワハハハハ。」
「ワハハハハ。」
「ウフフフフ。」
「可笑しいわ。」
「ジョンの顔に食べ物が付いているわ。」
「アハハハ。」
「へへへ。」
「アツハハハ。」
笑っていました。皆が笑っていました。

ジョンの胸に、軽い痛みが走りました。ジョンは「ウツ。」と、軽いうめきを発しましたが、皆の笑い声で、それはかき消されてしまいました。
ピンクは、ジョンの変化を敏感に気付きました。
『大丈夫ジョン。もうそれくらいにしたらどうなの。』
心の中でそう言うと、それはジョンに伝わったようです。
「楽しかった。もうこれくらいにして、疲れたから寝るよ。」
そう言うと、さっさと眠りについてしまったのです。

ピンクは眠っているジョンを、何時までも何時までも優しく温かく包み込むように見つめていました。そのピンクの笑顔は、とても美しく微笑ましく優しいものでした。
ピンクの瞳から、一筋の涙が柔らかな光を受けて静かに床に落ちました。
それでもピンクはジョンを、愛おしい我が子を見つめるように、何時までも何時までも見つめていました。

ジョンの、そんな自分勝手な、我が儘な子供のような振る舞いをした一夜は、こうして終わりました。
                          つづく

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