猫のひとりごと・私って、野良猫のメグちゃんなの?

野良猫とこの家の人々との、とても愉快な、でもちょっと寂しい生活物語

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チキンの冒険・最終章

十九、イエロー

 サニーは、昨夜のジョンの振る舞いを見て、出掛けても大丈夫だとは思ったものの、やはり具合が悪いということを知ると、このまま予定通りに、今日出発しても良いのだろうかと、迷っていました。
ピンクの様子を覗うと、ジョンの体のことなど心配していないかのように、明るく振舞っていました。それが、サニーの判断に、更に迷いを誘うのです。
「お母さん、大丈夫かなあ。」
「お父さんのこと。」
「うん。」
「大丈夫よ。昨日はあんなに元気にはしゃいでいたでしょう。あんなにはしゃげるのだから大丈夫よ。貴方は貴方の事だけを考えていれば良いのよ。」
「そうかなあ。」サニーは、未だ迷っていましたが、
「皆はね、貴方を頼りにしているのよ。その貴方が、そんなにフラフラとした考えでどうするの。しっかりしなさい、サニー。」
「うん。」
ピンクのその言葉で、今日の出発を決めました。

 サニーは皆を集めました。
「さあ、皆、集まって。」
全員が集まると、
「今日は、予定通り出発します。ここからは歩き易い処ばかりだと思いますが、足元には注意して進んでください。特に、小さな子供は自分達だけで前に行くという事は無いようにしてください。分かりましたか、ジョージ。」
「ハアイ、分かりました。」
「はい、それではナイフ叔父さんとガン叔父さんと私が先頭になって進みます。それからお母さん達と子供達が行きます、最後にはジャック叔父さんと親父が進みます。それで良いですか。ああそうだ、親父は少し具合が悪いみたいなので、親父にはお母さんが付き添ってください。皆、良いですか。具合が悪い人がいますので、そんなに急がないで、ゆっくりと進みましょう。」
「ハアイ。」ジョージが再び元気な返事をしました。

皆は、ジョンの事が気になっていましたが、サニーとピンクの会話を聞いていましたので、余り多くを語ろうとはしませんでした。
それでもリリーが、「ねえピンク、本当にジョンは大丈夫かしら。」と、聞いてきた
「リリー、心配掛けて御免ね。大丈夫よ。時々痛むみたいですけど、少し休めばよくなるのだから大丈夫よ。」
「そう。」尚も、心配していました。
「ねえ、貴方、大丈夫よね。」
「ああ、心配は要らないよ。」
ジョンもピンクの考えが分かっていましたので、ニコリと微笑むとポンポンと胸を叩いて、リリーに向かって返事をしました。
その様子を、他の鶏達は全員で見ていました。ジャックもナイフもガンも、皆がジョンの事を心配していたのです。

 サニーが手を叩いて、
「出発。」と、大きな声で号令をしました。
「ハアイ。しゅっぱあつ。」
「皆、元気に行きましょう。」
「ハアイ。」
サニーとジョージのその声につられて皆は立ち上がると、サニーの指示した順番に列を組んで歩き始めました。
「歩こ、歩こう。」皆が心配しているとは知らずに、ジョージは相変わらず元気でした。

ジョンとピンクは、最後部をゆっくりと歩いていました。ジャックはジョンとピンクの様子を見ながら、心配そうに歩いていました。
「ピンク、ジョンは本当に大丈夫なのかなあ。」
「御免ねジャック。貴方には迷惑掛けるわね。」
「いや、そんなことは無いよ。それよりもジョンがなあ。」
「ジャック、済まないなあ。俺のことで、皆には心配掛けてしまって。」
「そんなこと気にするな。それよりもジョン、歩くのが辛くなったら遠慮しないで言ってくれよ。」
「ああ。」
「もうここからは、平らな処ばかりと言っていたから、そんなに急がなくても行けるだろう。だから遠慮無く言ってくれよな。」
「ああ。」

そう言っている間にも、ジョンの容態は悪化して行きました。昨日の大はしゃぎがかえって悪かったようです。ジョンには、あの様にはしゃぎ回る体力は無くなりかけていたのかも知れません。
昨夜のそれが、最後の大はしゃぎでした。
「うう。」ジョンが胸を触ると、突然座り込んでしまいました。
「ジョン。」ピンクがジョンを急いで抱いた。
ジャックも、急いでジョンの横に座った。
「ジョン、どうした。」
「うう、胸が。」
「ジョン。」
「ジョン、待っていろ、皆を止める。」
ジャックは、少し離れかけている皆を、大きな声で呼び止めた。
「止まれ。止まれ。ジョンが倒れた。」
その声で皆は急いで戻って来て、ジョンの周りを囲むようにした。
「ジョン、大丈夫。」
「おじいちゃん、どうしたの。」
「お義父さん。」
「親父、どうした。」
ジョンを囲むと、皆はそれぞれの言い方でジョンに言葉を掛けた。
ジョンは、暫く苦しそうに座り込んでいましたが、心臓は再び活動を開始しましたので、見る見るうちに顔色も良くなってきました。
「ジョン。ジョン。」ピンクはジョンジョンと何度も呼んでいました。ピンクの瞳からは涙が出ていました。この時には、ピンクは既に覚悟を決めていました。ジョンの残りの命が、少なくなっている事が分かっていたのです。

そして、その様子で、皆も本当の事を知りました。
ジョンの本当の容態を知ったのです。
「ジョン、貴方達は黙っていたのね。私達に心配掛けないように黙っていたのね。どうして、どうして黙っていたの。」
「親父、何故俺にも言わなかったのか。俺にだけでも言ってくれれば良いものを。」
「おじいちゃん、どうしてしまったの、おじいちゃん。」
ジョンが元気を取り戻すと、
「ああ、苦しかった。アハハハ、心配掛けてしまったな。申し訳ない、申し訳ない。さあ、行こうか。」
「何を言っているのか親父は、そんな体で行けるわけが無いだろう。」
「ところがサニー、確かに苦しい時はあるが、それが収まるとこんなに元気だ。」
「元気なわけが無いだろう。」
「元気だよ。ほら。」と、言いピョンピョンと跳ねて見せた。
「元気だろう。」
「親父。」
皆はサニーとジョンの会話を聞いていました。そしてジョンとピンクが、何を考えどうしようとしているのか、何となく分かるような気がしてきました。
既に、涙を流し始めている者もいました。
「ジョン、お前は。」ジャックは、言葉を詰まらせながらそう言うのが精一杯の言葉でした。
「ジャック、済まないな。俺の頼みだ。このまま進ましてくれ。俺は行きたいのだ。サニーが見た物を見たいのだ。サニー、お父さんに見せてくれ。お前の見たものを見せてくれ。」
「ジョン。」
「ジョン。」
「お願い。ジョンの願いを聞いてあげて。お願いサニー。お願い、皆さん。」
「ピンク。お前、本当にそれで良いのか。」
「お願い、聞いてあげて。お願い、お願い。」ピンクは皆に向かって、お願いお願いと繰り返しました。
「そうか。分かった。分かったぞジョン。お前の願いを聞いてやる。叶えてやるぞ。」
ジャックの瞳には、既に大きな涙が流れていた。ジャックはジョンとピンクの考えている事が分かってきていたのです。
「サニー、お前には分かったのか。親父の気持ちが分かったのか。進もう、進もう、良いか、皆、行くぞ。」
「ジョン。」
「ジョン。」
「分かりました。分かりました。親父、分かったよ。頑張って下さい。必ず見せてあげます。必ず連れて行きます。」
「ああ、サニー。」

鶏達は再び歩き始めましたが、ジョンの足取りは、とてもゆっくりとしたものでした。立ち上がってピョンピョン跳ねるなんてとても無理な行動でしたが、先程は精一杯の無理をしました。そんな無理がたたって、弱っている心臓は今にもパンクしそうでした。

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