猫のひとりごと・私って、野良猫のメグちゃんなの?

野良猫とこの家の人々との、とても愉快な、でもちょっと寂しい生活物語

チキンの冒険

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チキンの冒険

終わりに

ジョンは、特に何かを考えて外に出てきたのではないのです。鶏小屋では、食べ物は与えられ、雨風は凌ぐことができ、特に生存競争などしないでも普通に暮らして行くことができたのです。
つまり、働きもしない、努力もしない、もちろん学ぶこともない、上から与えられるもので満足して生きていたのです。
生きるとは、そんなものと思っていました。
与えられるものを頼りに、楽をして生きて来たのですから。

ところが、外にほんの少し興味(欲望)を持っただけなのに、自分たちの置かれた環境が変わっただけなのに、いつものように与えられているものが与えられなくなってしまったのです。
何もしないのでは、食べる事も、寝る場所も無くなってしまいました。
生きるために、自分たちで学び、働き、時には闘ってでも、確保しなくてはならなくなりました。
その時、初めて、そのことに気がつきました。食べ物は、与えられるのではなく、自分たちで得るものだと。

 こうして、苦労を重ねて生きて来たのです。そして、幸せを追い求めてきたのですね。
求めれば求めるほど、幸せは何度も逃げて行きました。幸せの望みは叶えられない、そう思う事も何度かありました。でも、自分たちが気付かないうちに、とても大きな幸せを掴んでいたのです。それは、生活の知恵が備わり、家族ができ、子供が成長し、仲間が増えたことです。これこそがとても大きな幸せなのです。

 ピンクは、それに気が付いていたのです。
ピンクは、とても幸せだったのです。

 人間も同じだと思うのですね。
努力しないでは何事も達成できないでしょうね。
楽ばかりを望んでは、幸せはないでしょうね。
与えられることを望んでばかりではいけないでしょうね。
幸せって、一生懸命に、何かに向かって行動をしているうちに、案外、近くで育っているのかもしれませんよ。
ね、そう思いませんか。
ほんとうの幸せが・・。

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チキンの冒険・最終章

二十、永遠の眠り

 イエローが去った後も、鶏達は不思議なものを見たように、その去っていった方向を見続けていました。

イエローに会えた事で、ジョンの顔には安堵感と、優しさや穏やかさが表れていました。
「ジョン、会えて良かったね。」ピンクがそう言うと、
「ああ。あいつの事は何時も。」言葉の途中で、急にジョンの表情が変わりました。ジョンの顔が、口が、苦しそうに小さく震え出したのです。
その後は、ジョンは言葉を出しませんでした。胸を押さえて、苦しそうに倒れこんでしまったのです。
「ジョン。」ピンクは、ジョンを急いで抱き上げました。
「ジョン。ジョン。」
ピンクに抱かれたジョンは、小さく震えています。苦しそうに震えています。
「ジョン。ジョン。」泣き叫ぶようなピンクの声が響き渡りました。
その声に、最後の力を振り絞ってジョンが答えました。
「ああ、ピンク。」かすれた声で、ジョンが言いました。
「ジョン、元気を出して。」
「ピンク。ありがとう。今まで苦労を掛けて、す・ま・な・か・っ・た。」言葉は途切れ途切れになってきました。
「ジョン、駄目よ、駄目よ、ジョン。」
「ああ・・あ・り・が・と・う、あ・り・が・と・う。」途切れ途切れで小さな声でした。
それが、ジョンの最後の言葉でした。
余りにもあっけない最後でした。
ジョンの体は、ピンクに抱かれてグッタリとしていました。
その動かなくなった体を、ピンクは力強く抱いていました。
そして泣いていました。大きな涙が、ピンクの瞳から流れ出ていました。
「ジョン、ジョン、ありがとう。ありがとう。私も方こそ、貴方にありがとうと言うわ。私は、貴方と旅に出てとても楽しかったのよ。ありがとう、ジョン。」

 サニーも他の鶏達も、ジョンの余りにもあっけないほど急な最後に、どうしようもなく、ただポカンと、その時間が過ぎ去るのを待っているかのようでした。
暫くすると、鶏達全員が大きな声で泣き出しました。
全員が、誰をはばかる事無く大声で泣きました。
泣き崩れました。
「ジョン。」
「ジョン。」
「ジョン。」孫たちも泣いていました。
ジョンが死んでしまった事が分かったのです。
「おじいちゃあん。」
そう言いながら泣いていました。


皆は何時までも泣いていましたが、ピンクは既に泣くのを止めていました。
そして、ピンクが静かに話を始めました。
「サニー、皆、私の話を聞いて。私はここに残るわ。ジョンとここに残るの。貴方達は新しい処に向かって行くのよ。サニー、さあ、皆を連れて行ってあげて。」

それには、サニーも他の鶏達も驚いた。ただ、ジャックだけは静かに聞いていた。
「お母さん、ここに残ってどうするの、一人では暮らして行けないでしょう。」
「心配しないで、サニー。私の事は大丈夫よ。」
「大丈夫って、どう言うことですか。何が大丈夫なのですか。」
「私の事は大丈夫よ。それよりも貴方は、皆を安全に生活できる処に案内することですよ。」
「それとこれとは。」
「サニー、貴方はジョンの子よ。ジョンと同じ様に、皆を助けて、幸せにすることよ。」
「何を言っているの、お母さん。」
サニーは、ピンクの言っている事が全く理解できません。ここに一人で残って、どうやって暮らしていけると言うのか。そんなことは出来るはずがありません。ましてや、もう直ぐに冬になるのです。冬になれば寒くなり、雪が降る、そんな事は誰でも分かっている事なのに、ここに残って一人で生活などできるはずも有りません。

 ジャックには、ピンクの考えが分かっていました。
そしてリリーもローラも、それを分かりかけていました。
「サニー、行こうか。」ジャックがそう言うと、
「叔父さん、冗談は言わないでくれるか。」ジャックに襲ってくるかのような、サニーの険しい態度です。
「サニー、お前には分からないのか。」
「何が、何が分からないというのですか。」
「ピンクの気持ちが分からないのか。」
「どんな気持ちを分かれと言うのですか。」
「分からないのなら、ピンクを良く見てみろ。」
そう言われて母を見ると、母はサニーの言葉が耳には入っていないような様子で、ジョンを優しく抱いているのでした。
その姿は、自分のいとおしい子供を抱いているような姿でした。
すでに母の気持ちは、サニーや他の仲間達とは違う処にあるように思えました。
その姿は、今までの母とは明らかに違って見えました。
「お母さん。」そう言ったものの、ピンクにその言葉は聞こえていませんでした。
ピンクは、サニーが「お母さん。」と言っても、サニーを見ません。ただ、ジョンの顔だけを見続けているのです。
「お母さん。」もう一度声を掛けましたが、返事は返って来ませんでした。

 暫くの間、皆は黙ってその姿を見ていました。
ピンクと抱かれているジョンを見て、何も言葉を掛ける事が出来なくなっていたのです。
時間が静かに過ぎていきました。
「お母さんは、何故。」
誰に聞くともなく、サニーが寂しそうに言うと、
「お前にも、何時の日にか分かるときがあるよ。」
そんな返事が静かに返ってきたのです。

ジャックが、「行くぞ。」と、言うと、皆は重い腰を上げた。
サニーも、それに従いました。
そうするしかなかったのです。
そして、鶏達は静かに旅立って行ったのでした。

何時の間にか、ピンクからはサニー達の姿は見えなくなっていました。
ピンクは、何時までも何時までもジョンを抱きしめていました。
「ジョン、皆は行ってしまったわ。」
「・・・・」
「貴方と私だけよ。」
「・・・・」
「ねえ、ジョン。私は楽しかったわよ。貴方に外に行こうと誘われて・・そこはどんな処かと思ったけれど・・とても楽しい旅だったわよ。とても、とっても。」
「・・・・」
「貴方に会わなければ、こんなに楽しい思いは出来なかったですもの・・私は・・何も知らなかったのですもの・・。」
「・・・・」
「子供にも孫にも恵まれて、何て素晴らしい事かしら。ありがとう、ジョン。ありがとう。」
「・・・・・・・・・」
「あら、この音は何かしらね。聞こえて来るわね、なんて美しい音なの。これが、サニーたちの向かっている処の音かしら・・・ねえ・・聞こえる・・ジョン。」

その音は、遠くから聞こえてくる波の音でした。海の音でした。
風に乗って「ザザー、ザザー」と優しい音楽のように伝わって来ていました。
「ああ、良いわねえ。とっても優しい音ねえ。ねえ、貴方。」

どこからか風に乗って、白い物が落ちてきました。
もう直ぐに、この辺り一面は、白い草原になるのでしょうか。
                              完

チキンの冒険・最終章

前ページよりつづく

それからほんの少し歩いただけですが、神様が大きな贈り物を持って来てくれました。
ジョンにも他の鶏達にも、それはとてもビックリする贈り物でした。それは信じられないものでした。

 先頭を歩いていたサニーが、遠くに微かに見えるものを見つけました。そのものは、ゆっくりとゆっくりとした速度で、こちらに向かって歩いて来ているようです。
「あれは。」
「ああ、こちらに向かって来ているようだな。」
「仲間か。」
「そのようだが。」
「それにしても、随分と年老いているなあ。」
年老いた鶏が、ゆっくりとした足取りで、歩いてこちらに向かって来ているのです。
「何でこんな処に居るのかなあ。」自分達以外に、ここに鶏が居る事が不思議なことです。
サニーも、自分がこの辺りを歩いていた時は、それを見る事は無かったのです。
「そうだなあ。どうして居るのだろう。サニー、お前は見掛けたのか。」
「いえ、見なかったですよ。」
「ふうん。」
「少し見ていようか。」
「そうですね。」
ジョンとピンクとジャックが追い付いて来ました。
「どうしたの皆、どうして止まっているの。」
「うん、あれ。」
サニーがそれを指差しました。
ジョンもその方向を見た。
するとジョンは、「ああ。」と、声を出した。
「どうしたのジョン。」ピンクはジョンに、どうしたのかと聞きました。
「あいつだ、あいつは生きていたのか。」
ジョンは、その歩き方をハッキリと覚えていたのです。その歩き方は、年老いて少しは衰えているものの、ハッキリと記憶に残っている歩き方でした。
「ジョン、あれは誰だ。」
「あれを見て分からないのかナイフ。お前なら覚えていると思っていたけれど。」
「俺なら。」
「そうだ、お前とは一緒に苦労した仲間ではないか。」
「そうか分かった、あれはイエローか。」そう言えばイエローの歩き方です。思い出しました。ハッキリと思い出しました。
「あいつ、生きていたのか。それにしても随分と老けたなあ。」
「そう、イエローなの。」ピンクは、未だそれがイエローとは分かりませんでした。
「そうだよ、イエローだよ。」
「どうして、今まで生きて来られたのから。」
「そうだなあ。」
ジョンも、イエローが生きていたとは思っていませんでした。
突然出て行ったイエローの事を忘れた事は無かったのですが、再び会えるとは考えてもいなかったのです。

 それからの鶏達は、その老いた鶏が近づいて来るまで、待つことにしました。
その鶏は、静かに皆の処にやって来ました。
「皆、久しぶりだな。元気だったか。」
ゆっくりと落ち着いた話し方で尋ねてきました。まるで、皆に会う事が分かっていたような、静かな話し方です。
「はい、元気です。」

サニーには、イエローの事は、余りハッキリと見覚えのある事では無かったのですから、突然に現れたその老人が不思議な者に見えていました。
「イエロー、お前こそ元気だったのか。」ナイフが尋ねると、
「私はこの通りだよ。見た通り少し老けてしまったけれど、元気ですよ。」
「そのようだなあ。」
「皆、元気で良かったよ。」
「うん。ただジョンが少し。」
「ジョンが。」
「ああ、少し具合が。」
「ジョンはどちらに居るのかな。」
「イエロー、ここだよ。」最後部で腰を降ろしていたジョンが弱々しい声で、ここに居ると言うと、イエローは、ゆっくりとジョンに近づいて行きました。
「ジョン、久しぶりだなあ。」
「ああ、本当に。」
「お前は痩せたなあ。」
「お互いにな。お前もお爺さんになっているよ。」
「お爺さんか。そうだな、確かにお爺さんになったよ。ジョン、お前、何処か体が悪いのか。」
「ああ、少しな。」
「そうか。お前は随分頑張って来たからなあ。」
「そう言うお前も、お前に会えるとは思わなかったよ。」
「そうか。俺はここに来れば、お前達に会えるような気がしていたよ。」
「そうか。」
「ああ。」
久しぶりに会ったというのに、ジョンとイエローはとても落ち着いていました。
こんな場合には、手を取り合ったり、抱擁したり、笑い合ったりするのが普通の事と思われるのですが、ジョンとイエローは、お互いを優しく見詰め合うだけでした。
ここで会えるのを、お互いに楽しみにしていたように話をしていました。
「イエローも苦労したのだろうなあ。」
「ああ、それはなあ。苦労はあったけれど、一人暮らしは気が楽だよ。それに比べて、お前は大変だよ。お前の方が、俺よりももっと苦労していると思うよ。」
「それは違うよ。俺はこの苦労を楽しんで来たから。」
「そうか、それがお前の良いところさ。」
「それで、イエローはこれからどうするのか。」
「俺は一人で永く暮らしてきたから、もうお前たちと一緒にはできないよ。これからも一人で暮らしていくよ。」
「そうか。」
「ジョン、体を大切にしろ。」
「何だ、もう行くのか。」
「お前に会えたから、もう良いよ。」
「そうか。行くのか。お前も元気でな。」
「ああ、ジョンお前もな。ピンク、ジョンを宜しく頼むよ。」
「ええ。」ピンクは短く答えました。
「またどこかで会えるかな、イエロー。」
「そうだな、何処かでな。」

そう言うとイエローは、ほんの少し手を上げて合図をすると、静かに去って行きました。
その姿は、草原に吸い込まれるように消えて行ったのです。

ピンクもそうですが、ジャックもナイフもガンも他の鶏達も、殆どイエローとは言葉を交わす事ができませんでした。それ位に静かに現れ、静かに去っていったのです。

鶏達は皆、イエローのその姿を、黙って見ているだけでした。不思議なものを見ているように黙って見ていたのです。と言うよりも、言葉を交わせる相手では無いような、そんな不思議な感覚に襲われていたのかも知れません。

                          つづく

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チキンの冒険・最終章

十九、イエロー

 サニーは、昨夜のジョンの振る舞いを見て、出掛けても大丈夫だとは思ったものの、やはり具合が悪いということを知ると、このまま予定通りに、今日出発しても良いのだろうかと、迷っていました。
ピンクの様子を覗うと、ジョンの体のことなど心配していないかのように、明るく振舞っていました。それが、サニーの判断に、更に迷いを誘うのです。
「お母さん、大丈夫かなあ。」
「お父さんのこと。」
「うん。」
「大丈夫よ。昨日はあんなに元気にはしゃいでいたでしょう。あんなにはしゃげるのだから大丈夫よ。貴方は貴方の事だけを考えていれば良いのよ。」
「そうかなあ。」サニーは、未だ迷っていましたが、
「皆はね、貴方を頼りにしているのよ。その貴方が、そんなにフラフラとした考えでどうするの。しっかりしなさい、サニー。」
「うん。」
ピンクのその言葉で、今日の出発を決めました。

 サニーは皆を集めました。
「さあ、皆、集まって。」
全員が集まると、
「今日は、予定通り出発します。ここからは歩き易い処ばかりだと思いますが、足元には注意して進んでください。特に、小さな子供は自分達だけで前に行くという事は無いようにしてください。分かりましたか、ジョージ。」
「ハアイ、分かりました。」
「はい、それではナイフ叔父さんとガン叔父さんと私が先頭になって進みます。それからお母さん達と子供達が行きます、最後にはジャック叔父さんと親父が進みます。それで良いですか。ああそうだ、親父は少し具合が悪いみたいなので、親父にはお母さんが付き添ってください。皆、良いですか。具合が悪い人がいますので、そんなに急がないで、ゆっくりと進みましょう。」
「ハアイ。」ジョージが再び元気な返事をしました。

皆は、ジョンの事が気になっていましたが、サニーとピンクの会話を聞いていましたので、余り多くを語ろうとはしませんでした。
それでもリリーが、「ねえピンク、本当にジョンは大丈夫かしら。」と、聞いてきた
「リリー、心配掛けて御免ね。大丈夫よ。時々痛むみたいですけど、少し休めばよくなるのだから大丈夫よ。」
「そう。」尚も、心配していました。
「ねえ、貴方、大丈夫よね。」
「ああ、心配は要らないよ。」
ジョンもピンクの考えが分かっていましたので、ニコリと微笑むとポンポンと胸を叩いて、リリーに向かって返事をしました。
その様子を、他の鶏達は全員で見ていました。ジャックもナイフもガンも、皆がジョンの事を心配していたのです。

 サニーが手を叩いて、
「出発。」と、大きな声で号令をしました。
「ハアイ。しゅっぱあつ。」
「皆、元気に行きましょう。」
「ハアイ。」
サニーとジョージのその声につられて皆は立ち上がると、サニーの指示した順番に列を組んで歩き始めました。
「歩こ、歩こう。」皆が心配しているとは知らずに、ジョージは相変わらず元気でした。

ジョンとピンクは、最後部をゆっくりと歩いていました。ジャックはジョンとピンクの様子を見ながら、心配そうに歩いていました。
「ピンク、ジョンは本当に大丈夫なのかなあ。」
「御免ねジャック。貴方には迷惑掛けるわね。」
「いや、そんなことは無いよ。それよりもジョンがなあ。」
「ジャック、済まないなあ。俺のことで、皆には心配掛けてしまって。」
「そんなこと気にするな。それよりもジョン、歩くのが辛くなったら遠慮しないで言ってくれよ。」
「ああ。」
「もうここからは、平らな処ばかりと言っていたから、そんなに急がなくても行けるだろう。だから遠慮無く言ってくれよな。」
「ああ。」

そう言っている間にも、ジョンの容態は悪化して行きました。昨日の大はしゃぎがかえって悪かったようです。ジョンには、あの様にはしゃぎ回る体力は無くなりかけていたのかも知れません。
昨夜のそれが、最後の大はしゃぎでした。
「うう。」ジョンが胸を触ると、突然座り込んでしまいました。
「ジョン。」ピンクがジョンを急いで抱いた。
ジャックも、急いでジョンの横に座った。
「ジョン、どうした。」
「うう、胸が。」
「ジョン。」
「ジョン、待っていろ、皆を止める。」
ジャックは、少し離れかけている皆を、大きな声で呼び止めた。
「止まれ。止まれ。ジョンが倒れた。」
その声で皆は急いで戻って来て、ジョンの周りを囲むようにした。
「ジョン、大丈夫。」
「おじいちゃん、どうしたの。」
「お義父さん。」
「親父、どうした。」
ジョンを囲むと、皆はそれぞれの言い方でジョンに言葉を掛けた。
ジョンは、暫く苦しそうに座り込んでいましたが、心臓は再び活動を開始しましたので、見る見るうちに顔色も良くなってきました。
「ジョン。ジョン。」ピンクはジョンジョンと何度も呼んでいました。ピンクの瞳からは涙が出ていました。この時には、ピンクは既に覚悟を決めていました。ジョンの残りの命が、少なくなっている事が分かっていたのです。

そして、その様子で、皆も本当の事を知りました。
ジョンの本当の容態を知ったのです。
「ジョン、貴方達は黙っていたのね。私達に心配掛けないように黙っていたのね。どうして、どうして黙っていたの。」
「親父、何故俺にも言わなかったのか。俺にだけでも言ってくれれば良いものを。」
「おじいちゃん、どうしてしまったの、おじいちゃん。」
ジョンが元気を取り戻すと、
「ああ、苦しかった。アハハハ、心配掛けてしまったな。申し訳ない、申し訳ない。さあ、行こうか。」
「何を言っているのか親父は、そんな体で行けるわけが無いだろう。」
「ところがサニー、確かに苦しい時はあるが、それが収まるとこんなに元気だ。」
「元気なわけが無いだろう。」
「元気だよ。ほら。」と、言いピョンピョンと跳ねて見せた。
「元気だろう。」
「親父。」
皆はサニーとジョンの会話を聞いていました。そしてジョンとピンクが、何を考えどうしようとしているのか、何となく分かるような気がしてきました。
既に、涙を流し始めている者もいました。
「ジョン、お前は。」ジャックは、言葉を詰まらせながらそう言うのが精一杯の言葉でした。
「ジャック、済まないな。俺の頼みだ。このまま進ましてくれ。俺は行きたいのだ。サニーが見た物を見たいのだ。サニー、お父さんに見せてくれ。お前の見たものを見せてくれ。」
「ジョン。」
「ジョン。」
「お願い。ジョンの願いを聞いてあげて。お願いサニー。お願い、皆さん。」
「ピンク。お前、本当にそれで良いのか。」
「お願い、聞いてあげて。お願い、お願い。」ピンクは皆に向かって、お願いお願いと繰り返しました。
「そうか。分かった。分かったぞジョン。お前の願いを聞いてやる。叶えてやるぞ。」
ジャックの瞳には、既に大きな涙が流れていた。ジャックはジョンとピンクの考えている事が分かってきていたのです。
「サニー、お前には分かったのか。親父の気持ちが分かったのか。進もう、進もう、良いか、皆、行くぞ。」
「ジョン。」
「ジョン。」
「分かりました。分かりました。親父、分かったよ。頑張って下さい。必ず見せてあげます。必ず連れて行きます。」
「ああ、サニー。」

鶏達は再び歩き始めましたが、ジョンの足取りは、とてもゆっくりとしたものでした。立ち上がってピョンピョン跳ねるなんてとても無理な行動でしたが、先程は精一杯の無理をしました。そんな無理がたたって、弱っている心臓は今にもパンクしそうでした。

次ページにつづく

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チキンの冒険・第4章

十八、子供のようなジョン

 久しぶりにゆっくりと休むことが出来た鶏達は、とても元気に目覚めていました。
「気持ち良いなあ。さあ、何か探しに行こう。」
「そうしましょう。」
「お母さん達はここで待っていてくれ。何か美味しい物を探してくるよ。」
「ええ、分かりました。沢山取ってきてね。」
「分かったよ。さあ行くぞ。」
「お、ジョンどうした。」立ち上がろうとしないジョンを見て、ガンがそう言うと、
「ああ、少し気分が悪い。悪いけれど今日はお前達で取って来てくれないか。」
「それは良いけれど。お前本当に体力が無いなあ。それとも何処か悪いところが有るのか。」
「いや、そうじゃないのだ。もう少し休めば良いと思うのだけれど。」
「分かったよ。お前はそこで休んでいたら良いよ。俺達で取って来るよ。」
「済まないな、ガン。」
「ああ。」

サニーは、そんな父親を黙って見ていました。そして、今までと少し様子が違うことに気がつき始めていました。
「親父、この頃少し痩せたのではないか。大丈夫か。」
「心配するな。」
「お母さん。」サニーはピンクに向かって何かを言おうとしたが、
「サニー、貴方はそんな事を心配するより、早く食べ物を取って来て。皆は腹を空かして今にも倒れそうよ。」と、サニーの言おうとしている事を遮るように言いました。
「ああそうか。分かった。」サニーは、今のサニーの言葉に対する母親の対応の仕方に、明らかに不自然なものを感じました。ピンクは、サニーが何かを言おうとするのを遮るように、食べ物探しに行くようにと言ったのです。普通であれば、サニーの話を聞いてから何かを言うのですが、何時ものピンクとの会話の時とは違っていました。
『おかしい、何かを隠している。』そう感じましたが、それが何かまでは分かりませんでした。
サニーはピンクの顔を振り返って見直しましたが、ピンクは、行けと目で合図を送っているように思えました。
『どうしたのだろうか。』そう思いながらも、ジャック達と一緒に出掛けて行きました。

 ジョンは横になっていました。少し辛そうな表情に、さすがに残った鶏達も、ジョンの様子が気になり始めました。
「ねえ、ピンク、ジョンは大丈夫なの。」
「貴女、何か隠していない。」
「ジョン、如何したの。苦しいのではないの。」
「お義父さん、大丈夫ですか。」
皆、それぞれにジョンを心配そうに見ていました。
「大丈夫よ。少し休めば大丈夫よ。」
「そう、でも苦しそうよ。」
「直ぐに直るから大丈夫よ。」
ピンクの言葉のように、ジョンの苦しそうな表情は直ぐに直りました。
「ああ、皆、悪かったな、もう大丈夫だから。」
「心配したわよ、ジョン。貴方何処か悪いところが有るのではないの。」
「いや、心配はいらないよ。」
「そう。」
雌鶏達は、ジョンの異変に気付きかけていました。

 サニー達が戻ってきました。戻ってきたサニーに、母親達がジョンの様子を話したのは言うまでも有りません。
サニーは話を聞いて、
「親父、何処か悪いところが有るのか。それなら僕に言ってくれないか。」
「悪いところが有るなら言うよ、サニー。けれども大丈夫だよ。時々少し苦しくなるだけだ。たいした事は無いよ。」
「苦しくなる。苦しくなるってどういう事なの。」
「だから大した事は無いと言っているだろう。直ぐに良くなるから大丈夫だ。」
「そう。」そしてピンクの顔を見ると、
「うんうん」と頷いていました。
サニーは、それ以上に問い掛ける事はしませんでしたが、『父親の体に何かの具合の悪い事がおきているな』とは感じました。
そして『どうしよう。親父の具合が悪い。これから先の行動を如何したら良いのか。』そんな事を考えたのですが、それからの食事の時間で、その心配が払拭されたように思えました。

 食事の時のジョンは、とても楽しそうにはしゃいでいました。今までのジョンの姿で、こんなにはしゃいでいる姿は見た事も無いようなはしゃぎ方でした。それはまるで、小さな子供になったような、我が儘で、可愛らしい姿でした。

夕食は、サニー達が、何処からか取ってきた美味しい物が並びました。何時もならば、子供達が一番で食べ物に手を出すのですが、この時は違っていました。
それは、ジョンが何時もと違っていたのです。
真っ先に手を出したのはジョンでした。
「ウワア、美味しそうな物が取れたなあ。どれから食べようか。」
「親父、子供から好きな物を」と、言いかけていましたが、
「これは美味そうだ。これを食べよう。」と言って、たった一つしか取れなかったものをさっさと取ってしまいました。
それにはサニーも呆れてしまいました。そして、
「親父、それはジョージに」と、言うよりも早く、ジョンの口の中に放り込まれてしまったのです。
「親父。」サニーは、もう一度、父親を叱るように言いましたが、ジョンはそんな言葉は全く耳に入っていない様子です。
「おじいさんが僕の食べ物を取ったあ。」
ジョージがそう言っても、
「ジョージ、これはおじいさんの物だよ。皆がおじいさんの為に取ってきてくれたのだよ。」
と、言って、ジョージが泣くのもお構い無しの様子です。
そしてその次は、サンデイが食べようとしたものがありましたが、それを、
「あ、サンデイ。あそこに不思議な物が有るよ。」
「え、何処に。」と、言ってジョンの指差すところを見たその隙に、ジョンはサンデイの物まで食べてしまったのです。
サンデイが気付いた時には、もう食べようとしていた物は自分の前に有りませんでした。
「無い、私の物が無い。」
「ここだよ、サンデイ。」そう言うとジョンは、口を大きく開けてサンデイに見せた。
「ワア、私のものを、おじいさんが食べてしまったあ。」サンデイも泣きだしてしまいました。

皆は、ジョンは如何してしまったのか、冗談でやっているのか、気が変になってしまったのかと思い、そんなジョンの仕種を、ポカンと口を開けて見ていました。
その後もジョンは、そんな悪戯を続けました。
自分の悪戯で、皆が困っているのを見て、可笑しくて笑っていました。とても楽しそうに笑っていました。
真面目なジョンが、このような他愛無い悪戯をするのを、皆は始めて見ました。生真面目なジョンは、そのようなことをする性格ではないのです。

ジョンは楽しみたかったのです。思いっきり楽しみたかったのです。皆が自分の事を心配しているのは分かっていましたから、心配いらないよ、と言うメッセージも込めて、思いっきり楽しみたかった。ただそれだけでした。

ピンクは分かっていました。ジョンが、皆に甘えるように楽しんでいるのを分かっていましたので、黙って優しくその様子を見つめていました。
『ジョンは楽しい思い出を残そうとしているのよね。ジョン、良いわよ。思いっきり皆を楽しませてあげて、思いっきり皆を困らせてあげて、そう、それで良いわよ。今日は楽しみなさい。気が済むまで楽しみなさい。気が済むまで甘えて御覧なさい。』

 ジョンのそんな行動に、皆は慣れてきたのか、それも良いなと思ったのか、ジョンを指差して笑っていました。子供達が泣いて訴えても、親達は子供には同情しませんでした。むしろ、ジョンの行動を楽しがっていました。可笑しいと笑っていました。

子供達も、親達が味方してくれないと分かると諦めたのか、早い者勝ちの、食べ物の取り合いになってきました。
とてもお行儀の悪い食事です。
とても散らかして汚い食事です。
でも楽しい食事です。
「ワハハハハ。」
「ワハハハハ。」
「ウフフフフ。」
「可笑しいわ。」
「ジョンの顔に食べ物が付いているわ。」
「アハハハ。」
「へへへ。」
「アツハハハ。」
笑っていました。皆が笑っていました。

ジョンの胸に、軽い痛みが走りました。ジョンは「ウツ。」と、軽いうめきを発しましたが、皆の笑い声で、それはかき消されてしまいました。
ピンクは、ジョンの変化を敏感に気付きました。
『大丈夫ジョン。もうそれくらいにしたらどうなの。』
心の中でそう言うと、それはジョンに伝わったようです。
「楽しかった。もうこれくらいにして、疲れたから寝るよ。」
そう言うと、さっさと眠りについてしまったのです。

ピンクは眠っているジョンを、何時までも何時までも優しく温かく包み込むように見つめていました。そのピンクの笑顔は、とても美しく微笑ましく優しいものでした。
ピンクの瞳から、一筋の涙が柔らかな光を受けて静かに床に落ちました。
それでもピンクはジョンを、愛おしい我が子を見つめるように、何時までも何時までも見つめていました。

ジョンの、そんな自分勝手な、我が儘な子供のような振る舞いをした一夜は、こうして終わりました。
                          つづく

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