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前ページよりつづく ボビイが、そんなふうに考えているとは誰も気付きませんでした。 力持ちと言ったピンクも同じでした。ピンクはビッグの為に良い事を言った。ビッグの名誉を回復させたと思っていたのですから。 「ねえビッグ、力持ちなの。それなら僕を上に乗せて。」 「ああ良いよ。」 「ビッグ私も乗せて。」 「メアリーもかい。」 「私も。」アンも乗せてと言ってきたのです。子供達にとっては、とても楽しい遊び道具に見えてきました。 ビッグは、それでも子供達の要求を聞いて、遊んであげていました。しかし、そうしてやればやるほど、遊びはエスカレートして行きました。 子供達にとっては、それはとても楽しい遊びだったのですから無理もありません。 「ビッグもっと早く動いてよ。」 「早くう。」 「走れ、走れ。」 ボビイとメアリーを背中に乗せたビッグは、穴の中を走り回っていましたがさすがに疲れました。 「もう、おじさんは疲れたよ。この続きは明日にしよう。」 「嫌だよ。もっと遊んでよう。」ボビイは聞きません。 「明日にしような。」もう一度言いましたがそれでも聞かないので、疲れていましたが仕方が無く、もう少しだけ遊んでやりました。 太ったビッグには、走り回るのはとてもきつかった。心臓がバクバクするくらいに疲れてしまいました。 「もう駄目だ。続きは明日だよ。」と言うと、 「何だ。デブは直ぐに疲れてしまう。ピンク叔母さんが力持ちと言ったのに弱いじゃないか。デブ、デブ。」と軽蔑したように言ったのです。 その言葉を聞いたピンクが、ボビイを激しく叱りました。まさか、子供達がこのような遊び方をするとは思っていなかったのです。 「ボビイ、貴方なんて事を言うの。ビッグはもう十分に遊んでくれたでしょう。もう良いじゃないの。ビッグにありがとうと言いなさい。」と、強く叱ったのです。 ボビイは、ピンクが大きな声を出したので、ローラの処にすがるように戻って行きました。 「ピンク、そんなに大きな声で言わなくても良いでしょう。」ローラは、又もボビイを叱らずに、叱ったピンクに向かって言い返してきたのです。 この時ばかりはピンクも、冷静さを欠き始めていました。 「ローラ、貴女何を言っているのよ。もっと自分の子供の仕付けをしてよ。」 「仕付け。どう言うことよ。私が仕付けをしていないというの。」 「そうよ。貴女は自分の子供には何も言わないのよ。もっと良くいろいろな事を教えてあげてよ。」 「何よ。何を教えろと言うのよ。」 「貴女、自分の子供を見ていて何も感じないの。」 「何を感じるというの。」 「ローラ、貴女どうしたのよ。貴女は子供が出来てからおかしいわよ。どうしてしまったの。」 「私がどうしたって、ピンク、私がどうしたって言うの。」 「貴女はこんなじゃなかったわよ。もっと皆に優しくて。」そこまで言うとローラが言葉を遮った。 「ピンク、貴女は何が言いたいのよ。貴女ねえ、先輩ぶって偉そうに言わないでよ。」 「ローラ。」少し強い口調でピンクはローラの名前を言った。 この時には、ピンクもローラも冷静さを失いつつありました。 ビッグのことで話始めた事なのに、話しているうちにビッグの事は忘れてしまい、自分の事しか頭に無くなっていたのです。 こうなると、雄鶏達も黙って見ていられなくなりました。元々、ピンクとローラは大の仲好しだったのです。その仲良しが言い争いを始めてしまったのですから大変です。 「ピンクもローラももう止めろ。止めろ。」 「止めろよ。そこまで言えばもう良いじゃないか。」 「私が先輩ぶっているなんて、私のどこが先輩ぶっていると言うのよ。」 「分かった。後で落ち着いたら話そう。だからここはもう良いじゃないか。」ジョンがそう言うと、 「良いわよ。後で教えてよ。」ピンクは不満でしたが、その場は取りあえず治めることができました。 ジョンとジャックが割って入った事により、言い争いは一先ず止まりました。 そんな仲間達の様子を見ていたビッグはとても寂しい気持ちになっていました。そして何故か涙が出てきて止まりませんでした。 『どうして、どうしてこうなるのか。』 『俺の気持ちは誰が分かってくれるのか。』 寂しくて、空しくて、そんな気持ちで穴の隅に蹲っていました。 つづく
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チキンの冒険
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第3章 六、ビッグの気持ち その日の朝からこの問題は始まった。否、本当はもっと早くから始まっていたのですが、そのことに誰も気付いていなかっただけなのです。 ジョンが今日の食事探しに出掛けると言いました。 「ナイフ、今日は川に魚を捕りに行こう。皆、魚を捕って来るから待っていておくれ。」 「うん、大きいのを捕って来てね。」アンの言葉に、 「分かったよアン。ジャック、ジャックはビッグと虫でも捕りに行ってくれよ。ビッグは魚を捕れないから付いて行ってやれよ。」と、ごく普通にさらりと言ったのです。 ジョンは、その言葉から発生する問題など何も考えていませんでした。むしろ優しさでそう言ったのです。 「ああ、分かったよ。ビッグは図体が大きいだけで、何にも出来ないからなあ。」 「そうだな。お前は太りすぎだよ。だから動きが鈍い。」ナイフも、ビッグの体を眺めながら、その大きさを指摘しました。 「いやあ、アハハハ。そうかなあ。」ビッグは自分の体を見ながら笑っていました。笑うしか返答のしようがなかったのです。 そんな会話を聞いていたボビイが、 「ビッグおじさんは魚が捕れないのか。そうなの、太りすぎで捕れないの、ふうん。」 その体を興味深そうに見ていました、『本当に太っているなあ、だからビッグおじさんだけが何にも出来ないのだなあ。』と思っていたのです。 「ねえビッグおじさん、おじさんはどうしてそんなに太っているの。」そう聞くと、ビッグは黙っていましたがナイフが、 「ビッグは食べ過ぎだよ。一番多く食べるのに動かない。寝てばかりいるから太るのだよ。」 「そう、だからパパのように出来るようにならないの。」 「そうさ、太りすぎさ。デブちゃんだよビッグは。」 「デブ。」初めて聞いた言葉です。興味深い言葉でした。 「そう、デブだよ。」 ジョンは、この頃のビッグの寂しい気持ちなど知る余地もありませんでした。そんな事ですから、まだこれから起こる事にも気付いていませんでした。勿論、ナイフもジャックも他の鶏たちも気付いていませんでした。何時もの様に、ビッグは何もないかのようにやり過ごすと考えていたのです。実際ビッグは、何時も何を言われても気にしないというふうな反応をしていたのですから、今日も何時もと同じ事くらいに考えていたのです。 でもそれは、子供達の、言葉に対する敏感な反応からこの事件が起こったのです。 それから、ジョン達は二手に分かれて出掛けて行きました。 「じゃあ行って来るからな。美味しい魚を捕ってくるから待っていてね。」 「はあい、待っています。」アンが可愛い声で返事をしました。 ビッグとジャックも虫や野菜を取りに出掛けて行きました。 ビッグが出て行ってから、子供達の間では、ビッグの太った体の話で盛り上がっていました。ビッグの太った体を、面白く可笑しく話していたのです。 「デブ、デブと言うのだよ。ビッグおじさんのように太っているのをデブと言うのだ。」 「デブかあ。面白い言い方だなあ。」サニーもその言葉を知りませんでした。勿論、その言い方が、太った者に対して軽蔑した言い方だとは知りませんでした。 「デブになると何も出来なくなるの。」メアリーも参加しました。 「太りすぎて動けないのだろう。」 「動けないくらいになってしまうのね。」 「そうだよ。メアリーも気を付けろよ。」 「私は大丈夫よ。私はあんなに太らないわよ。食べ過ぎないようにするわ。」 「私も太らないわ。」アンもそう言いました。 「ビッグ叔父さんは、何も考えていないからあんなに太ってしまうのよ。私はもっと賢いわよ。」メアリーはそう言うと更に、「叔父さんは食べる事しか頭の中には無いのよ。軽蔑するわ。」 「食べる事しか考えないビッグ叔父さん、デブ叔父さん。」アンも楽しそうにそう言いました。 「アハハハハ。」 「アハハハハ。デブ、デブ、デブ、デブのビッグ叔父さん。」そう言って子供達は可笑しそうに合唱しました。 ピンク達母鶏は、そんな会話を黙って聞いていました。ピンク達は、『デブ』と言うその言葉には、敏感に反応していたのです。雌鶏には、その言葉は結構きついことばでした。そんなきつい言葉をナイフが子供に教えてしまったのです。しかもそれはジョンの言葉から始まったのでした。 『困った言葉を、子供達は知ってしまったわ。この言葉が悪い言葉と知らないで話しているから余計に困るのよ。』母鶏達はそう思っていましたが今は何も言いませんでした。 ジョンは自分の言葉から、『デブ』と言う言葉につながって行くとは思っていませんでした。『ビッグには悪い事をしたのかな』くらいにしか考えていませんでした。だから、それくらいに軽く考えていたから、その事は直ぐに忘れてしまっていたのです。 ジョン達は戻って来ました。 ジョンとナイフは、沢山の魚を捕って来た。 「ほら、一杯捕ってきたよ。今日は美味しい食事が出来るぞ。」ジョンが言うと、 「ジャックはどうした。」ナイフが聞いたので、 「まだ戻って来ないのよ。」ピンクが答えました。 「そうかまだ戻って来ないのか。ビッグが一緒だからなあ、しょうがないなあ、あいつは鈍臭いからなあ。」と、またも軽蔑した言い方を、軽い気持ちで言ってしまいました。 そんな会話には、子供達は敏感に反応します。子供達にとっては、退屈な生活を少しでも楽しくする、絶好の話題だったのです。 「デブと一緒のジャックおじさんは可哀想だね。」更に、 「鈍臭い叔父さんだから仕方が無いね。」ボビイが早速その言葉に反応してきました。 ピンクとリリーは、その会話には眉をしかめていました。 ローラは、自分の夫のナイフの言葉ですから、ピンクとリリー程には感じていませんでした。それは、太りすぎたビッグが悪いと考えていたのです。ビッグ自身の問題だと思っていたのです。 そんな話をしていたらジャックとビッグが戻ってきました。 「デブ、お帰り。」ボビイが早速『デブ』とその言葉を使ったのです。 他の子供達はその言葉が面白くて、 「アハハハ。」 「ウフフフ。」 「デブかあ。」と言いながら、ビッグの体を改めて見直しながら笑っていました。 それでもビッグは何も言い返しませんでした。言い返さないのはビッグの優しさなのですが、それにも誰も気付きません。 言い返さないのを良い事に、子供達は更にエスカレートしていったのです。 子供達には、ビッグの気持ちなど分かる訳がありませんでした。 「デブ、デブ、鈍臭いデブ。」そう言うと、ボビイとメアリーがビッグの体を触りました。 ビッグは『嫌な言葉を子供達に教えたなあ』と、不愉快になりましたがそれでも黙っていたのです。 「本当に大きな体だ。なんだかブクブクしているよ。」と、珍しい物を見ている様に言いました。 「俺は太りすぎかい、ボビイ。」怒りを押さえて優しく言うと、 「太りすぎのデブだよ。デブ。」 「そうか、それでは少し痩せようかなあ、アハハハ。」 「臭いから痩せたほうが良いかもね、アハハハ。」 そんな会話を聞いていたピンクが、ビッグに助け舟を出したのです。否、それは出したつもりだと言った方が正確かもしれませんでした。 「あのねボビイ、ビッグは太っていますが、太っている事で良い事も有るのよ。ビッグおじさんはね、とても力が有るのよ。ジョンよりもジャックよりもパパよりも有るのよ。凄いのよビッグおじさんは。」 「ふうん、そう。そうなのパパ、ビッグおじさんは力持ちなの。」 「そうさ、ビッグは一番の力持ちだよ。」 「そう。」ボビイは感心してもう一度観察する様にビッグを眺めました。 「そうさ。おじさんは力持ちだぞう。」ビッグは自慢げに言いましたが、ボビイはそれとは全く違う事を考えていたのです。 『そうか、そんなに力持ちなのか。それならば、もっと色々な事をして遊んでもらえば良いのだな。』そんなふうに考えていたのです。 次ページへつづく
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チキンの冒険・第3章 五、成長 ジョンとピンクは、子供の名前をアンと付けました。アンはすくすくと育ちました。ふさふさとした黄色い羽の可愛いアンは、とても良く話す子でした。お喋りが大好きなアン、おしゃれの好きなアンは、ジョンにもピンクにも、目に入れても痛くも無いような可愛いらしさでした。 「アン、こんどはどんな花を取ってきて欲しいの。」 「赤い色の可愛い花がいいなあ。」 「そう赤い花。お父さんにお願いしようね。」 「うん、パパお願いします。」未だ片言ですが、その片言言葉が、ジョンには堪らなく可愛いいのです。 「ああ分かったよ。アンの願いならば探して来るよ。」 「約束ね。」 「はいはい分かりました。」ジョンはニコニコして答えました。 「やったー。」アンは飛び上がって喜んでいました。 サニーとチッチはとても仲良くしていました。 サニーとチッチは、このころには、体は大人と見分けが付かないくらいに大きくなっていたのです。体だけでは無く、行動や考え方も変わりつつありました。心も大人に近づいていたという事です。 サニーとチッチは、度々二人だけで出掛けるようになっていました。といってもピンクの言い付けは良く守っていました。余り遠くには行かなかったのです。遠くには行かないが、朝一緒に出掛けたきりで、夕方まで帰らない事もありました。 「お前達は良く出掛けるが、何処に行っているのかい。」 「うん。そんなに遠くには行っていないよ。丘の上の広場で遊んでいる事が多いよ。」 「そうか、それなら良いが、余り遠くには行かないようにしてくれ。いろいろ危険があるからお母さんが心配するよ。」 「分かっているから大丈夫だよ。」 この頃のピンクは、アンの事で精一杯でしたので、以前のようにサニーに世話をやいたり、煩くは言ったりはしていませんでした。 サニーにとっては、その方が良かったのです。サニーは、ピンクがいろいろと細かく煩く言うので少し嫌になっていたのですから、むしろ清々していたのです。 チッチはとても美人で色っぽくになりました。大人になりかけたチッチの体は美しいものでした。そんなチッチを、ジョンやナイフも眩しく見つめていました。 『この子も、もう大人になったのだなあ。』 そんなふうに見つめていたのです。 ボビイはとても腕白坊主に育っていました。ナイフもローラも、子育ては放任主義だったのです。悪戯好きのボビイは、何時も誰かに怒られてばかりでいましたが、そんなことは何とも思っていない様子で、怒られても怒られても悪戯を繰り返していました。 ナイフもローラも、ボビイが他の親達に怒られているのを見ていても、自分の子供を叱るという事が有りませんでした。子供にはとても甘かったのです。 この日もボビイが幼いアンに悪戯をしました。するとピンクがボビイを叱ったのです。 「ボビイ、止めなさい。貴方はアンよりも大きいのだからそういう事は止めなさい。」と、叱ったのです。 ところがローラは、「ボビイ、止めなさい。ピンクが怒るから止めなさい。」と、言ったのです。 決して、『ボビイの悪戯が悪いから怒られたのだよ』とは言いませんでした。何時もローラの言い方はそのような言い方で、『ボビイが悪いことをしたから叱られたのではなくて誰かが怒るから止めるのだよ』と言っていたのです。ですからボビイは、自分が悪い事をしているという自覚は殆ど有りませんでした。 メアリーも同じでした。同じ様にわがままで悪戯好きに育っていました。むしろメアリーの方が、女の子でしたのでお喋りが多く口が達者で、他の親達のいう事を聞かなかったのかも知れません。 メアリーは、ピンクやリリーに叱られると、子憎たらしい表情をしてふて腐れることがありました、そんな時は必ず何かを反発して言い返していました。 それでもローラとナイフは、自分の子供を叱ろうとはしなかったのです。 『怒られるから止めなさい』とは言うものの、自分の行動が間違っているとは教え無かったのです。 ナイフとローラには、考えに甘えがありました。その甘えとは、自分達よりも先に子育てをしているジョン達とジャック達が、自分達を助けてくれているという、甘えた考えが有ったのです。でも、その考えは間違っていたという事を、後に知るのです。 この日はとても良い天気でしたので、ジョンは皆を誘って、少し遠出をしようと考えました。 ジャックとナイフとも相談して、皆を連れて行く事にしたのです。行くのはアンも含めた全員の初めての旅です。 「皆聞いてくれ。今日はとても気持ちの良い天気だよ。外もとても温かくなった。そこでお父さん達は相談したのだよ。驚くな。皆で少し遠く迄散歩に行くよ。勿論、アンも一緒だよ。全員で行くのだよ。」 「わあ、遠くまで散歩するの。」 「遠くに行くの、嬉しい。」子供達は直ぐに賛成しました。 でも、ピンク達母鶏は直ぐには返事をしませんでした。それぞれに顔を見つめ合って、心配そうな表情をしていました。 「ナイフ、ボビイとメアリーも行くというの。」ローラがナイフに問い掛けた。 「勿論そうさ。」 「何言っているのよ。まだ子供達には無理よ。一体何処まで行こうと言うのよ。」 「まだそれは決めてはいないが、そんなに遠くには行かないよ。」 「当たり前でしょう。ジョン、貴方は子供達を何処へ連れて行こうと言うの。」今度はジョンに向かって言いました。 「ローラ、心配するなよ。危険なところには行かないよ。」 「そんなことは当たり前です。行くところも決めないでいい加減な事を言わないでよ。」ジョンは困ってしまいました。 ピンクは、ローラがこれほど反対するとは思っていませんでしたので驚きましたが、ピンクも同じ気持ちは有ったのです。ですが、さすがに、これほどまでに強くジョンに向かって言われてしまうと、心とは反対の言葉になって口から出てしまいました。 「ローラ、ジョン達が、責任を持って連れて行ってくれるのだから良いじゃないの。」 「貴女は、こんなに小さな子を、散歩に連れて行くと言うの。」と言い、アンを指差した。 「そうね、アンにとっては少し無理が有るかもしれませんが、でもこれも経験よ。ゆっくりと歩いて行けば大丈夫よ。」 「貴女は何も考えていないわねえ。」と呆れた様に言うと、今度はリリーを見た。リリーはどう考えているのかを聞いているように見えたのです。 「私も気持ちが良いから散歩に行くわ。」リリーがそう答えたから、ローラはもう反対を言えなくなってしまいました。 「あらそうなの、貴女も賛成なのね、それなら仕方が無いわ、でも呆れたわねえ。」そう言いながら、不満げに渋々と従ったのです。 ローラは渋々と従っていましたが、皆は楽しく浮き浮きとした気分で歩いていました。 ジョン達が、「急がないで」とか、「真っ直ぐに歩きなさい」とか言いましたが、子供達は一向に言う事を聞きません。特にボビイとメアリーは、自分勝手な行動をしていたので、 「お前達、そんなに自分勝手に行動するのなら、もう帰るぞ。」と、ジョンは怒ってしまいました。 ジョンは、少し後悔をしていました。 『まだ、子供達には皆と一緒の行動をするというのは無理だったのか。』と、反省をしていたのですが、こうして出て来てしまってからでは遅すぎました。 ピンクはジョンの気持ちが分かっていましたので、 「貴方達、お父さんの言う事を聞きなさい。聞かないと本当に帰るわよ。」と、言って叱りつけた。 子供達は、せっかく出て来たのに直ぐ帰るのは嫌だと思ったのでしょうか、仕方が無く少しだけ言い付けに従うようになったのです。 「だから未だ早いと言ったのよ。」ローラが勝ち誇ったように言いましたが、それには誰も返事をしませんでした。 そんなバラバラな行進でしたが、何とか最初の目的地の、広場までやって来ました。 そこはとても気持ちの良い、広々とした処でした。サニーとチッチには、既に何回も来た事のある処ですが、アンとボビイとメアリーには初めての処でした。 「うわあ。とても奇麗。」 そこは一面に草花が咲いていました。この時期の草原は、いろいろな色の花が一杯に咲いていたのです。花だけではなく。蝶々等も飛んでいました。それらが全て、始めて見るものばかりでしたので、感動するのは当たり前でした。全てが初めての経験でしたから。 「パパー、あれを捕ってよう。」とメアリーがナイフにお願いしました。 メアリーがお願いしたのは蝶々でした。飛んでいる蝶々を捕ってと言ったのです。 「メアリー、それは無理だよ。お父さんが何でも出来ると言っても、飛んでいる蝶々は捕れないよ。」 「嫌だあ。」捕ってよう。」又、メアリーのわがままが始まったのです。 「無理だよ。メアリー他の物を取ってあげるから、それで良いだろう。」 「嫌だあ。捕ってえ。」まだ駄々をこねていましたが、ナイフは奇麗な花を取って、メアリーの羽を飾ってやりました。 「メアリー、とてもかわいいよ。奇麗だ。美しいよ。」その言葉に、やっと駄々を言うのを止めました。 「奇麗、私、奇麗。」 「ああ、奇麗だ。可愛いよ。」ニッコリしてメアリーは言いました。「ありがとうパパ、私、奇麗ね。」 「そうだよ。」 メアリーは、その言葉を聞いて、とても満足して機嫌が直っていました。 他の鶏達は、余り離れない距離で、思い思いの行動をしていました。
ピンクとジョンは、久しぶりのデイトを楽しんでいました。 ピンクにとっても、久しぶりにこのような広い処に来たのですから、気持ちが良かったのは当然です。 ピンクはアンを抱いていました。アンだけは体から離そうとはしませんでした。 「ピンク、気持ちが良いだろう。久しぶりだからなあ。」 「そうね、外の空気はこんなに美味しいのね。」 「そうだよ。ピンクは穴から出ようとしなかったからなあ。」 「仕方が無いでしょうそれは。アンが未だこんなに小さいのだから。」 「そうだね。でも少しは外に出た方が良いよ。太陽の日差しに当った方が体には良いと思うよ。」 「そうかしら。」 「そうだよ。アンの為にも良いと思うよ。近くで良いから、たまには外に出たら良いよ。」 「そうね。そうするわ。」 「良かった。最近のお前は穴の中ばかりに居るから、心配していたのだよ。良かったよ。」 「そう。心配かけて御免ね。」 そんな会話をして、楽しい一時を過ごしました。 次ページにつづく |
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第3章 四、アンの誕生 鶏達は幸せを実感していましたが、ジョンとピンクにとっては、さらに大きな幸せがやって来ました。 ピンクが女の子を産んだのです。 「ジョン、暫くサニーの世話をしていてね。私、新しい赤ちゃんが出来るのよ。」 「そうか、それは嬉しい。」ジョンは喜んでサニーの世話をしました。 サニーは既に大きくなっていましたので、ジョンのサニーに対する世話は、ピンクのやりかたとは全く違っていました。ピンクは、サニーを出来るだけ外に出さないで、手元に置くというやり方でしたが、ジョンは、サニーを積極的に外に出そうとしました。 ピンクがサニーを外に出さないようにしていたのは、当然と言えば当然のことなのです。最初の子供を、不幸な出来事で亡くしてしまったのですから、サニーに対する思い入れはとても強かったのです。危険な目には遭わせたくないという考えが強くあったのです。 しかし、ジョンは男である以上、いずれこの子も責任のある立場になるのだから、ある程度のことは知っておかなければいけないと考えていました。勿論、ジョンも子供を亡くしてしまったので、もう二度と同じ思いをしたくないという考えはピンクと同じです。 「サニー外に行ってみようよ。」 「うん、行こう。」 「ジョン、サニーを外に連れて行くの。」 「ああ、そうしようと思う。」 「何処に行こうというの。」 「そんなに遠くには行かないよ。」 「危ない所には行かないでね。お願いだから。」 「分かっているよ。」 「行きたいよう。」 「サニー、貴方はジョンの言う事を良く聞くのよ。慌てないで行くのよ。」 「分かっているから大丈夫だよ。」 「ピンク、大丈夫だよ。俺がしっかりと見ているから。」 「貴方が一番心配なのよ。」 「何、俺が、俺を信用していないのか。」 「そうよ、お願いよ貴方。」 「信用無いなあ。」 「早く行こうよう。」 「ああ行こう。」 「うん。」 「じゃあ行ってくるからな。」 「気を付けて行ってきてね。遠くには行かないでね。川には近づかないでね。出来るだけ早く帰ってきてね。」ピンクはまだ心配していましたので、立て続けにいろいろな事を言いました。 「分かっていると言っただろう。しつこいなあピンクは。」そう言うと、ジョンとサニーは出て行きました。 ピンクの言い付けた事は、既にその時から守られていませんでした。 ピンクが、慌てずに落ち着いて行くようにと言いましたが、サニーは駆け足で行ってしまいました。そして、ジョンがその後を追いかけるように出て行ったのです。 「ああ、だから言ったのにジョンは駄目ねえ。」と、ピンクはサニーが駆けて行った後を、心配そうに何時までも見ていました。 サニーは何をするにしても、ジョンより素早かった。ジョンは、サニーの後を付いていくのが精一杯だったのです。しかし、サニーは素早く走ったり動いたりはしましたが、何も出来ませんでした。ただ楽しくて嬉しくてむやみに走り回っていたのです。 ジョンは息が切れていました。 「サニー待て。少し休もう。」 「気持ちが良くて最高だね、パパ。」 「そうだね。だけどサニー少し休もうよ。そんなに走り回っていると疲れてしまうよ。」 「疲れないよ。」 「待てと言っているだろう。パパは少し休むよ。」 「分かったよ。」 サニーは仕方が無くジョンの横に並んで座りました。そして何処までも広がる草原を見ていました。 草原には既に雪はなく、温かい日差しを受けたその辺りは、一面に緑のじゅうたんとなっていたのです。そして、空は一面の青空で、ポッカリと浮かんだ雲がありました。 「パパ、外はこんなに広いの。」 「そうだよ。とても広いのだよ。ここよりもっともっと大きな広い処も有るよ。」 「そう、凄いね、外は。」 「この他にも森が続いている処も有るし、川も有るよ。」 「川。」 「そう。」 「川って何。」 「うん。」 ジョンはそこまで言うと、サニーが川に興味を持って、行くと言い出すといけないと思ったので、それ以上は言いませんでした。 ジョンは話題を変えました。 「なあ、サニー。」 「何。」 「もうじき、お前に弟か妹が出来るのだよ。」 「お母さんが卵を抱いているから。」 「そうだよ。お前はお兄さんになるのだよ。」 「お兄さんに。」 「お兄さんだよ。」 「なんだか実感が湧かないなあ。」 「そうだろうなあ。でもな、子供はもうじきに生まれるから、お前はそうなるのだよ。」 「僕がお兄さんになるのか。」 「どちらかなあ。」 「何が。」 「妹か弟か。」 「そういうこと。お前はどちらが良いの。」 「分からないよ。」 「そうだろうね。」 「パパはどちらが良いの。」 「パパか。パパは女の子が良いよ。」 「どうしてなの。」 「実はな、お前にはお姉さんが居た。その子は、お前が生まれる前に亡くなってしまったのだよ。」何故亡くなったのかは説明しませんでした。 「ふうん。」 「だから、女の子が生まれたらママは喜ぶと思うよ。」 「そうか、ママが喜ぶなら女の子が良いね。」 「そうだね。女の子が生まれると良いね。」 「妹か、妹ができたら可愛がってやらないといけないね。」 「そうだよサニー。宜しく頼むよ。お兄さん。」 「イヤア、アハハハ。」サニーは照れくさそうに頭を掻いた。 それから数日も経たないうちに、可愛い女の子が生まれてきました。 ジョンとサニーは、可愛い女の子を覗き込むように見ていました。 「可愛いだろう、サニー。」 「うん、何だか同じ鶏ではないみたいだなあ。」 サニーには、殻から出てきたばかりの鶏は、とても可愛いとは思えませんでした。 「今はな、でも明日になると皆と同じになるのだよ。黄色くて柔らかい羽に包まれたとても可愛い姿に変わるよ。」 「そうなの。」 「女の子だよ。お前に妹が出来たのだよ。」 「妹か、何だか変な感じだね。」 「変な感じ。」 「うん、何だかもう一人の自分が出来たみたいな。」 「そうか、もう一人の自分か。」 「・・・・。」サニーは、不思議な物を見るように妹を見つめていました。 「もう一人の自分なあ。そういう表現も有るのだね。」ジョンは感心していました。同時に、サニーに、兄としての自覚が生まれているのだという、安心感がありました。 ピンクは、ジョンが想像していたようにとても喜んでいました。 「ジョン、嬉しいわ。女の子が生まれたのよ。」そう言うと、目にうっすらと涙を浮かべていました。 「良かったねピンク。女の子で良かったね。」ジョンは、ピンクが喜ぶのがとても嬉かったのです。 ジャックもナイフも、ピンクの最初の子がどうして亡くなってしまったのかを聞いていたので、優しくピンクにお祝いの言葉を掛けました。 「ピンク、女の子で良かったね。可愛いねこの子は。」 「ありがとうジャック。ありがとうナイフ。」 リリーもローラも同じでした。 「おめでとうピンク。」 「ありがとうリリー。ありがとうローラ。」 いよいよ鶏達は忙しくなってきました。十二羽の大家族となってしまったのですから当然です。ジョンにとってはこのような大家族になるとは、想像もつかないことでした。 昨年の冬は、ジョンとピンクだけが残ってしまい、寂しい思いをしたのを考えると、想像もつかないのは当たり前の事です。 父親達は、十二羽の食べ物を探して来なければならないので大忙しです。 ビッグも、今まではのんびりと、食べては寝るの生活をしていましたが、子供達の為に、ジョン達と一緒に働きました。 「忙しいぞ。」 「大変だ。」 「美味しい物を探さないと・・。」 そう言いながら忙しく出て行きました。 その忙しさは、とても幸せで嬉しい忙しさでした。 つづく
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