猫のひとりごと・私って、野良猫のメグちゃんなの?

野良猫とこの家の人々との、とても愉快な、でもちょっと寂しい生活物語

チキンの冒険

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三、春

  ナイフとローラの幸せそうな姿を見ていると、月日の経つのも忘れていましたが、何時の間にか、外は春の日差しになっていました。外から、柔らかい暖かな風が吹き込んで来たのです。それは明らかに、冬の厳しい寒さの中の風とは違っています。
「良い香りがするなあ。」ジョンが言うと、
「そうだなあ。外に行って見るか。」ジャックもそう言いましたので、一緒に外に出て行きました。

「ああ、もうこんなになっていたのか。」
そこには、もう殆ど雪は残っていませんでした。雪が残っていないどころか、奇麗な花がところどころで咲いているのです。それは雪割草でした。
「春だ。春になっていたのだ。」
「そうだよ。もうこんなになっていたのだ。」
ジョンはピンク達に知らせようとして急いで家に戻り、
「ピンク、サニー出ておいで。温かいよ。」と、大きな声で呼ぶと、ジャックも、
「リリー、チッチ出て来いよ。」と、言いました。
ピンク親子とリリーの親子は喜んで出てきました。出て行くのが待ち遠しかったのですから、喜んで出て行ったのは当然です。
ナイフとビッグも出てきました。
ローラだけは、未だ小さな子供が居ましたので、ゆっくりとしていましたが、子供の成長は早いもので、ローラの子供達はすくすくと成長し、辺りをはしゃぎ回る程になっていました。ローラの動きよりも、子供達の動きの方が素早い動きをしていたのです。
「ボビイ、メアリー、待ちなさい。そんなに急いではいけません。」
子供達の動きに遅れたローラが、子供達に慌てないでと注意をしましたが、子供達は言う事を聞きません。
「ママ、急いでよ。」
「急いでえ。」
逆に子供達に急かされてしまいました。
「はいはい。」それでも、ローラの動きはゆっくりとしていました。
ローラの子供は、ボビイとメアリーとに命名されたのです。

 全員が外に出て来ました。
穴の中では味わえなかった美味しい空気を、それぞれがお腹一杯に吸い込んでいました。
「美味いなあ。」
「気持ち良いわねえ。」
「最高だよ。」
「ああ、すっきりするよ。」
それぞれに歓喜の声を発していました。
「パパー、気持ち良い。」サニーも大きく背伸びをしながら、嬉しそうに言いました。
「あ、本当に気持ち良いわ。」チッチもサニーの真似をしました。
子供達にとって、初めて春の空気を味わったのですから、美味しいと思うのも当然のことです。穴の中は何でも有ったので、生活には不自由はしなかったのですが、空気は穴の中ですから湿気が多かったのです。外の湿度の少ない清々しい空気を吸うのは、秋に少し吸っただけで、久しぶりのことだったのです。
 ボビイとメアリーにとっては勿論初めてのことです。
「気持ち良い。」
「気持ち良い。」その言葉を繰り返していました。
「ねえ、これは何。」メアリーが雪割草の花を見つけて言うと、
「花だよ。奇麗だろう。」ナイフは、メアリーにその花を取ってやりました。それを受け取ったメアリーは、顔の前に高く差し上げて、
「奇麗。」うっとりと表情をしたのです。
「メアリー、これはこうするのだよ。」そう言うとナイフは、その花をメアリーから受け取り、頭の上に落ちないように挿してあげました。
それを見たローラが、「メアリー、とても可愛いわよ。良く似合うわよ。」と、ニコニコして言うと、
「嬉しい。私、可愛い。」笑みを浮かべて恥ずかしそうにしていました。メアリーはとても嬉かったのです。
 その様子を見ていたチッチも、自分で花を摘んで羽を飾った。
「どうサニー奇麗かしら。」
「うん、とても奇麗だよ。」チッチも満足していました。

 そんな皆の様子を見ていたジョンが、幸せを感じたのは言うまでもありません。その幸福感は他の雄鶏達も同じでした。
「ジョン、良いなあ。何時までもこんなふうにしていたいなあ。」ジャックが言うと、
「そうしようよ。俺達が頑張ってそうしようよ。」ジョンが返した。
ナイフも、「ああ、そうしようぜ。」と言った。

 ジョンは皆に言いました。
「これから俺達が、何か新鮮な食べ物を探してくる。サニーもチッチも皆も、お母さんの言う事を大人しく聞いて、待っていてください。」
「そうよ、皆、もう戻りましょう。」ピンクの言葉に、皆は素直に戻りました。
 ジョン達は、新鮮な食べ物を探す為に少し歩きました。食べ物は直ぐに見つかりました。それくらいに、外は暖かくなっていたのです。
 少し歩いただけで、柔らかな草の芽や木の芽等、そして、食べられそうな花などもありました。それを持てるだけ一杯に取りました。
「ジャック、もうこれだけあれば良いだろう。帰ろうよ。」
「よし帰ろう。子供たちも喜ぶだろうなあ。」
「きっと喜ぶよ。こんなに柔らかくて新鮮で美味しい食べ物は久しぶりだから。」
「ボビイとメアリーは、こんなのを食べるのは初めてだよ。」ナイフも子供達に食べさせようと、沢山取っていました。

 そして戻ってきたジョン達は、取って来た食べ物を皆の前に差し出したのです。
皆がそれを美味しく食べたのは、言うまでもありません。その様子を見て、父親達は大きな幸せを感じていました。それは同時に嬉しい責任感でもあったのです。父親である自分達が、やらねばならない、守らなければならないと強く感じていたのですから。
                         つづく

チキンの冒険・第3章

前ページよりつづく

 その声を聞いてしまったからには、ナイフはもう止まりません。
「鳴いた。鳴いたぞ。」そう言うとピンクとリリーを掻き分けて、ローラの処に近づいて、お腹の下に居るその声を出す小さな生き物に向かって言いました。
「おう、生まれたか。生まれたか。可愛いなあ。可愛いなあ。」と言い、生まれたばかりの子供達を触ろうとしました。
「待って、ナイフ。」ナイフは、又、ローラに止められました。
「何故だローラ。何故いけないのだよう。」
「待ってよ。直ぐに歩けるようになるから、それまで待っていてよ。ね、お願い。」
「待てないよう。」
「駄目、待ちなさい。」今度は強く言われてしまいました。
「意地悪だなあローラは。」

 ピンクもリリーもそんなナイフを見て、クスクスと笑っていました。それはジョンとジャックも同じでした。
「ナイフ、お前はもっと落ち着いていろ。」ジャックがナイフにとても強く言ったので、
「そうかあ。」と、言いながらジョンとジャックの近くまで再び下がって来ました。
「あのなあナイフ。ここはピンクとリリーに任せておけ。ピンク達は経験者だから何でも分かっているから。」
「そうか。そうかなあ。」まだ心配と不満がありました。
「任せておけって。」
「分かった。分かったよ。」渋々と頷きました。

 暫くしてピンクとリリーが離れたので、ナイフはローラの近くにいて、何時までも何時までも、生まれたばかりの子供達を見つめていたのは言うまでもありません。
その顔の表情は崩れんばかりの笑みで一杯でした。
勿論、ローラも同じでした。その日は眠りに付くまでずっと見続けていたのです。

 ビッグは、そんな騒ぎを静かに見つめていました。

 サニーとチッチにとってはこの騒ぎはとても珍しい騒ぎでした。と言うより興味深深の出来事でした。生命とはこんな形で生まれてくるものかと、初めて分かったのですから。
サニーとチッチは、黙ってその光景を興味深く見ていたのです。
 この頃のサニーとチッチは、既に大人になりかけているくらいに成長していたのですから、この出来事に興味が湧かないはずがないのです。
『そうか、こうやって生まれてくるのか。俺達もこうして生まれてきたのか。』
サニーとチッチは、お互いの顔を見つめあいながら不思議な感覚になっていました。
親鶏達の慌てぶりや喜びを、興味津々に見ていました。

                           つづく

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二、待望のあかちゃん

 ローラは何時もナイフに甘えてばかりいましたが、心なしか、甘え方が今までとは違うように思えました。
ローラは、座ったきりで全く動こうとはしなかったのです。ナイフはローラの事が心配で、優しく声を掛けました。
「ローラ、最近元気が無いように思うが、どこか具合が悪いのか。」
「何も無いわよ、元気よ、気にしないで。」
「そうか、それなら良いのだけれど、余り元気が無いように見えるので心配で・・。」
 ナイフは全く気付いていませんでした。実はローラは卵を温めていたのです。ローラのおなかの下には卵があったのです。しかも驚くことに、二つの卵を抱いていたのです。

 ジョン達もジャック達も、不覚にもこの事に気付いていませんでした。普通ならば、既に卵を抱いた経験のあるピンクとリリーが気付くはづなのですが、それには気付きませんでした。
 その理由は、それぞれが自分の子供の子育てに夢中になり、気持ちがローラにまでいかなかったのです。
 もう一つの理由は、ローラはナイフに子供のように甘えていて、特にこの岩穴の生活になってからは殆ど動いていなかったのです。動く必要が無い位に、ナイフがローラの世話をしていました。そんなナイフとローラの様子を毎日見ていたから、ローラが動かないのを不思議とは思わなかったのです。それが普通のことのように考えたのです。
 ローラの体を心配するようになってからのナイフは、益々、ローラに優しくしていました。ローラはそんなナイフに甘えて、全くその場から動きませんでした。

 その後も特に変わった事も無く、何時もと同じ様な単調な生活が続きました。
 雄鶏達はお喋りをしたり、子供の世話をしながら、のんびりとした生活を送っていましたが、さすがに冬の生活がこれほど永くなると、そろそろ飽きが来ていました。
「もう少しで春になるのかなあ。」
「そうだなあ、外に行きたいなあ。」
「体がムズムズするよ。思いっきり走りたいよ。こんなに狭い処にいると退屈だよなあ。」
「少し外の様子を見てみよう。」
「そうするか。」
「いやいや、まだ早いと思うよ。」
「行ってみようよ。」
「本当に行くのか。」
「行ってみるよ。」
「分かった。行くか。」ジョンはそう言うと、
「ピンク、外の様子を見てくるからね。」と言い、ジャック達と穴の外に出て行った。
「気を付けて行って来てね。」

 ジョン達は穴の外に出ました。といってもほんの五メートル位離れた処までです。
 春が近づいていたとはいえ、まだまだ寒かったのです。穴の外には、少なくなったのですが、未だ雪が残っていました。その固まった雪の上を五メートル位歩いたのです。
「寒い。」体が寒さでブルブルと震えました。
「寒いよ。」
「オウ寒い。」それぞれに寒い寒いと連発しました。
「やっぱり未だ早いなあ。」
「だけどもう少しで春になるよ。」
「そうだな。雪がこんなに少なくなっているからもう少しだな。」
「この寒さでは、子供達はとても外に出せないぞ。」
「それは無理だよ。」
「もう少し温かくなるまで穴の中で我慢するか。」
「それしかないなあ。」
「帰るか。」
「いや、待て。せっかく外に出てきたのだから少し走ろうぜ。」
「それは良い。俺も久しぶりに体を動かしたい。」
「そうか、それならそうするか。実は俺も体がむずむずして何かをしたかったよ。」
「そうだろう。じゃあ一緒じゃないか。」
「そうだ。アハハハハ。」
「よし走るぞ。」そう言うと一斉に走り始めました。
久しぶりに体を動かして、とても気持ちが良い思いをしていました。ほど良い汗が体から出てきていました。外の空気は未だ冷たかったが、その空気を腹一杯に吸い込み、とても満足しました。
「アハハハハ。」
「アハハハハ。」
「アハハハハ。」
「気持ちが良いなあ。」
「最高だよ。」
「やっぱり外は良いなあ。」
「子供達にも、この空気の美味しさを教えてやりたいなあ。」
「そうだな。もう少し後にな。」
「アハハハハ。」
「アハハハハ。」そう言うと雪の上に寝転びました。
他の鶏たちも同じ様に寝転びました。
「おい、この空を見てみろ。最高だ。」
その空は、雲が一つも無い青空でした。空気は冷たいが、青空から射して来る太陽の光は、確実に春の訪れを語っていました。
「奇麗だなあ。」
「奇麗だ。」
 穴の生活が永く、太陽を見るのは久しぶりだったのです。ジョン達は思い切り羽を広げて太陽の光を受けました。体一杯にその光を受けようとしていたのです。その格好はまるで魚の日干しを作っているかのようです。
「気持ちいい。」
「気持ちいい。」
「こんなに気持ちが良いのは久しぶりだ。」
「良いなあ、外は。」
「良いなあ。」
「良いなあ。」
 そのまま三羽の鶏は、静かにのんびりと、うっとりとして空をみていました。

 ジャックが雪の上の異変に気がつきました。
「ジョン、これは何だ。」
「何。」ジョンも起き上がりました。
ナイフも起きて、雪の上に付いているその模様を見ていました。
「これは。」
「こんなに。」無数の足跡がそこにはありました。
「そうだな。」
「何の足跡かなあ。」
「分からないが、この近くにも何かが居ると言う事だよ。」
「熊か。」
「分からない。」その足跡は熊では無いのです。なぜなら、今は熊も冬眠しているからです。しかし、鶏たちがそんな事を知っているわけがありません。
「気をつけないと。」ジョンは獣の足跡を見て危険を感じていました。それは、ジャックもナイフも同じでした。
「そうだよ。こいつらには会いたくないよ。」
「子供達には会わせたくないよなあ。」
「そうだ。」ジャックとナイフが気を付けようと言いました。それはジョンも同じです。
 ジョンはその足跡をじっと見ていましたが、話を始めました。
「ジョン、ナイフ。」
「何だよ。」
「俺は、もう二度とピンクやサニーにあのような辛い思いをさせたくない。」
あのような思いとは、旅に出てきてから多くの仲間をいろいろなことで亡くした辛い思いと、ロック達との争いのことです。
「俺は、ピンクとサニーを幸せにしてやりたい。あのような辛い思いはもう絶対にしたくない。特にサニーはまだその事を何も知らない、知らなくて元気にすくすくと育っている、だから、あのように素直な子になっていると思う。サニーには絶対にそんな辛い思いはさせたく無い。」
「俺もそうだよジョン。」ジャックも話した。
「俺もチッチという可愛い子供ができた。子供には辛い思いはさせたく無いよ。」
「俺だって同じだ。」ナイフも答えた。
「皆で守ってやろう。」
「そうしよう。」
「うん。」ジョン達は獣の足跡を見ながら誓い合った。
 
 ジョン達は岩穴に戻って来ましたが、皆を心配させないという気持ちがあったので、獣の足跡の事は言いませんでした。
「ピンク、もう少しで春が来るよ。」
「そう。嬉しいわ。」
「サニー、もうじきに花が一杯に咲いている処を見られるよ。春が来るのだよ。春は楽しいよ。美味しい草や虫も一杯有るぞ。」
「春が、待ち遠しいな。一杯食べたいなあ。」
「取り方を教えてやるよ。」
「うん。」
 この頃のサニーは、一冬を穴の中で過ごし、体だけは大人と見間違える位の大きさまで育っていました。
それはチッチも同じでした。子供達の成長はとても早かったのです。

 ローラは相変わらず動かないでいました。
「ローラ、元気か。」
ナイフがローラに優しく語り掛けましたが、ローラは返事を返さなかった。
「ローラ。」心配になり、もう一度覗き込むように呼びかけました。と、その時です。
「ナイフ、あちらに行って。」と、離れるように言いました。
ナイフは心配でしたが、言われたように少し離れたところに移動しました。
「ピンクお願い来て。」そこで、初めてピンクに傍に来て欲しいと言ったのです。
「どうしたのローラ。」
「ピンク、私どうしたらいいの。」と言い、お腹を少し上げました。
「えっ。」ピンクはローラの異変に気付きました。お腹の下で子供が生まれようとしていました。まさにその時に卵の殻から鶏が出て来ようとしていたのです。
「リリー来て。」ピンクは、慌ててリリーも呼び寄せました。
驚きました。ピンクもリリーもとても驚いたのです。ローラのお腹の下で、小さな鶏が卵の殻を元気に割って出て来ようとしているのですから。しかも卵は二つも有りました。ローラが卵を抱いているなんて考えてもいなかったのです。
「ローラ、貴女凄いわね。」リリーが驚いて言うと、
「ねえ、どうしたら良いの。」ローラにとっては初めての経験でしたし、同時に二つの卵から子供が生まれようとしていたのですから当然です。ローラには、同時に二羽の子供が生まれたことで、皆とは違うということがあり少し恥ずかしかったのです。

 ナイフは、未だ何が起きているのか分かりませんでした。
「凄いじゃないの。一度に二人の子供を生むなんて。」
 その言葉を聞いたナイフは、心配していた顔から、一気にほころんだ顔に変わりました。
「何、子供。二人だと。」傍に急いで来たナイフは、
「ローラ、お前は卵を抱いていたのか。そうか、そうだったのか。」嬉しそうに、ローラのお腹の下を覗き込もうとしました。
「待って、もう少し待って。」ローラが言うと、ピンクも、
「ナイフ待って、未だ生まれていないから。」
「そうよ、もう少し落ち着きなさいよ。」リリーも言いました。
それでもナイフは落ち着きません。
「ジョン、ジャック聞いたか、ローラが子供を生んだぞ。それも一度に二羽だ。」
ジョンもジャックも驚きました。
「凄いなローラは。二人も生んだのか。」
「だから、最近元気が無いように見えたのか。そうだったのか。」ナイフは、ジョンとジャックの手を取って喜びを表現しました。「凄いぞ。俺にも子供が出来たぞ。子供が出来たのだ。」未だ卵の殻は割れていませんでしたが、ナイフは既に生まれたかのような喜びようです。
「そうだな。これでお前も父親だな。」
「そうだよ。俺も父親だよ。」
「やったなあ、ナイフ。おめでとう。」
「ありがとう。ありがとう。」飛び上がらんばかりに喜んでいました。
嬉しさで落着けないナイフはローラに「ローラ、どうだ生まれたか。」と、落ち着きがなく聞きました。
「うん、生まれたみたい。」
「そうか生まれたか。やったぞ。見せてくれ。」
「未だよ。未だよ。もう少し待って。」
「何だよ。じれったいなあ。どうしてだよ。」ナイフは甘えたようにローラに言いましたが、
「未だ生まれたばかりで動けないのよ。もう少し待ってよ。」ローラが言いましたが、ピンクも、
「ナイフ、落ち着いて待ちなさい。元気に生まれているから。」と、ナイフを諭すように言いました。
「分かったよう。」ふて腐れたように再びローラから少し離れました。
 
 その間にも、ピンクとリリーがローラの世話をしていました。
既に経験のあるピンクとリリーにとっては、生まれたら直ぐにやることは分かっていたのです。生まれたばかりの赤ちゃんを優しく拭いてあげました。すると子供たちが小さな声で「チッチ、チッチ。」と鳴いたのです。

                      次ページにつづく
前頁よりつづく 

 外は嵐になっていました。ゴウゴウと風が吹いていました。
「ジョン、外の様子を見てみようか。」
「ああ、見てみようか。」
ジョンとナイフが岩穴の出口まで来て、外の様子を見ました。
「凄いなあ、この嵐では今日は相当に積もるぞ。」
「そうだなあ。この家が見つかって良かったなあ。」
「こんなに良いところは他には無いと思うから大切にしよう。」
「そうだね。」
ナイフは尚も外を見つめていました。
「どうしたナイフ。もう皆の処へ戻ろうよ。」
「ああ、俺は・・。」
「何。」
「俺は・・この前の冬はとても寂しかった。こんな嵐の中で、一人で寂しく暮らししていたよ。寂しくて、辛くて、そのまま誰にも知られずに死んでしまうのかと考えていたよ。」
「そうだなあ。お前は一人で生き抜いてきたのだなあ。」
「寂しかったよ。」
「それを考えたら、俺とピンクは何時も一緒だったから、お前よりも良かったのかも知れないなあ。」
「そうだよ。お前は幸せだったのだよ。」
「そうか。」
「だからな。」
「うん。」
「俺はこの幸せを壊したくない。この幸せはどんな事をしても守りたい。俺は、今までにこんなに幸せな気持ちを味わった事がない。今の幸せは、どんな事をしても守りたい。ローラを幸せにしたい。」
「俺もそうだよ。ピンクとサニーの為にこの幸せを守りたいと思っているよ。」
「そうだね。力を合わせて守っていこう。」
「ああ。そうしよう。」
ジョンとナイフは、手を握り合って硬い約束をしていました。

 そんなナイフの願いが通じたのか、ナイフにとってはとても嬉しい出来事が待ち受けていました。
                           つづく

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チッキンの冒険
(第三章・子供の成長)


   








            みのけん



鶏の家族

ジョンとピンクの家族

 ジョンとピンクの間にはチッチという可愛い女の子がいましたが、ジョンを追いかけてきたロック達との争いの後に亡くなってしまいました。
 悲しい時が過ぎ、二番目の子供が生まれました。今度は男の子でした。太陽の様に輝く子という意味で、サニーと名付けられました。

ジャックとリリーの家族

 ジャックとリリーはロック達と一緒にジョンを追いかけて来ました。ジョン達は幸せに暮らしているに違いない。それならば俺達もその幸せを欲しいと思い追いかけて来たのです。しかし、来てみたらそれは違っていました。そしてロック達との考え方の違いも分かってきたのです。
 ロック達とジョン達が争うのを見たとき、ジャックとリリーは考えました。そしてジョンと一緒に行くことを決めたのです。
 ジョン達と一緒に生活を始めました。そして、リリーとの間に女の子が生まれました。その子の名前はチッチと付けられました。

ナイフとローラ

 一度鶏小屋に戻ったイエローが仲間を連れて帰ってきました。そのときにローラは付いてきたのです。ピンクが心配でやって来たのです。そこでナイフに出会いました。そして恋に落ちたのです。今は、ナイフとローラは仲良く恋人同士のように暮らしています。

ビック

 デブでお人好しのビッグは子供達の人気者でした。子供達と遊んだりしながら楽しそうに暮らしていました。でも、ビッグは寂しさを感じていたのでしたが、そんな気持ちを知るものはいませんでした。





一、 静かな暮らし

 雌鶏達は、とても幸せな生活を送っていました。
ピンクは、サニーの成長をとても嬉しく思っていました。サニーは、ジョンが願いを込めて名付けた様に、太陽の子供のように明るく育っていたのです。サニーを囲んで、ピンクとジョンの生活は、ほのぼのとした温かい家族になっていました。

 リリーの生活も同じでした。ジャックもリリーもチッチが可愛くて仕方がありませんでした。チッチは、ピンクの亡くなってしまった子供のように、とても可愛らしく育っていたのです。ジャックは、何時もチッチを抱きしめていました。チッチを抱いている時間はリリーよりも多かった。それくらいに可愛がっていたのです。

 ローラも、幸せ一杯の生活を送っていました。ナイフとローラは、何をするのも何時も一緒でした。ナイフが、ローラにとても優しくしていたのです。

 ビッグは、相変わらずマイペースで暮らしていました。サニーとチッチの遊び相手になっていたと思うと、直ぐにゴロリと横になって眠っていました。ビッグは本当に良く寝ます。今は冬ですから、外に出て行く事もできないので、食べては寝るという生活が続いていました。その為に、いっそう太ってしまいました。その太った重そうな体が、子豚のようにも見えて愛嬌がありました。そんなところも、子供達に好かれる原因なのでしょうか。

 岩穴の生活はとても快適でした。今は真冬です。外は雪が積もっていて、冷たい風が吹いていましたが、この穴のなかは暖かくて別世界のようでした。岩穴の奥から、地熱の暖かい空気が流れ出ていたのです。
 飲み水にも苦労はありませんでした。穴の奥には地下水が湧き出ていたのです。その地下水は、特に冷たくも温かくもなく、飲むのに適温だったのです。
 昨年の冬の生活は、粗末な食べ物で体が弱り痩せてしまったのでとても寒い冬を過ごしたのです。それと比べると、雲泥の差がありました。
 
 食べ物はとても豊富にありました。昨年の苦労が身にしみたので、食べきれないほどの量を蓄えていたのです。又、その種類も多かった。偶然の出来事から、食料の乾燥保存を覚えました。その為に、魚も有ったのです。この真冬に美味しい魚を食べる事が出来たのです。魚と野菜が豊富な食事は、鶏達の体重を落とすことはありませんでした。むしろビッグのように、食べては寝るという生活から、消費エネルギーが少なく、ブクブクと太っていってしまったくらいです。

 このように温かい室温と豊富な食事ですから、子供達が元気に成長していったのはいうまでもありません。

 ジョンとピンクは、時々チッチの事を思い出す事はあったが、今は、サニーの成長を楽しみにしながら、とても楽しい生活を送っていました。

 ジャックとリリーも同じでした。初めての子育てだったのですが、ピンクの指導もあったので、安心して行っていました。そんな中で、チッチはとても可愛く育っていったのです。

 ナイフとローラの仲良しぶりはとても恥ずかしくて見ていられない程でした。ナイフは人が変わったようにローラを優しくしていました。ローラは子供でもないのに、まるで子供のように、食べ物を口に運んでやり食べさせたり、ローラが寝る時には、眠るのを見守るように、何時までも片方の羽で優しく包んだりしていました。ローラもそんなナイフに甘えていました。ナイフが子供のように可愛がれば、ローラは子供のように振る舞いって甘えていたのです。

 ジョンとジャックは、そんなナイフとローラのしぐさを優しく見守っていました。
ピンクとリリーは子育ての事もあったので『この様子は子供達には見せたくないわ。教育に悪いわ。』と、思う事もありました。それほど、ナイフとローラはベッタリと寄り添っていたのです。

 ビッグだけは相変わらず一人でいました。子供と遊んでからは、岩穴の隅でゴロリと横になっていました。会話にも余り入って来ませんでした。

 「サニー、そんなに奥の方へ行ってはいけません。」ピンクが叱りました。
サニーはとても元気に育っていました。男の子ですから、その行動が、チッチの子育ての時とは少し違っていました。サニーの行動半径は広がっており、又、その行動スピードも速く、ピンクは何時もハラハラしながらサニーを見守っていたのです。

 穴はどこまでも奥につながっていました。それは、まだ誰も気付いていませんでしたが、鍾乳洞でしたので、どこまでもどこまでも奥に広がっていたのです。
そこに興味を持ち、サニーが入っていこうとしていました。
「サニー、だめです。行っては駄目よ。」
ピンクがもう一度叱りましたが、それでもサニーは少しずつ中に入っていきます。中に行くほど暗くなるので、足元が分かりません。恐ろしい処に入っていくように、ソロリソロリと足元を確認しながら進んでいるようでした。
「サニー、言う事を聞きなさい。危ないから止めて戻ってきなさい。」
「・・・・。」
サニーは返事をしません。奥の方を覗き込んでいます。
「サニー。」と、言うとジョンに、
「ジョン、サニーを連れ戻して。」
「ああ、分かった。サニー戻っておいで。」
それでもサニーは奥の方を覗いています。
「戻っておいで、サニー。」サニーは知らん振りをした。
「ジョン、なにやっているの。連れ戻してきてよ。」ピンクがジョンを叱りました。
ジョンは横になっているだけで、体を起こそうとしなかったので、ピンクが怒ったのです。
「分かった。分かった。」ジョンは起き上がるとサニーの処に行きました。
「ほら、ピンクが怒っただろう。戻ろうサニー。」
「うん。」そう言うと、サニーはジョンに連れられて戻ってきました。
「サニー、どうして素直に言う事が聞けないの。あっちへ行ったら暗くて危ないので駄目と言っているでしょう。」少し甲高い声でピンクが叱りました。
「うん。」
「言う事を聞きなさいね。」今度は優しく言いました。
「うん。」
「そうだよサニー、お母さんの言う事は聞かなければいけないよ。」
「うん、分かった。」そう返事をしたものの、未だ奥の方を見ていました。
『この子は男の子だから、俺達のようにいろいろの事に興味を持つのだなあ。』ジョンは子供の成長に心配も有ったが、いろいろな物に興味を持つ好奇心の強いサニーを頼もしくも思っていました。

 ジョンはピンクに語り掛けました。
「ピンク、男の子だから少しはおおらかに見てやらないといけないよ。」
「どうしてよ。」
「男の子には、冒険してみたいという気持ちもあるから・・。」
「だから貴方達はこうやって旅に出たのでしょう。」
「いや、それとこれとは。」
「分かっているわ。でも駄目。サニーは駄目よ。」
「そうか。分かった、分かった。」
ジョンは、それ以上は言いませんでした。ピンクのサニーへの可愛がりようをみると、これ以上は言わない方が良いと思ったのです。それくらいに溺愛していました。けれどそれは仕方が無いことだったのかも知れません。一番目の子供のチッチを、悲しい出来事で亡くしたのですから。
「ピンク。」今度は話題を変えました。
「何。」
「今年の冬は楽だなあ。去年とは全く違うよ。」
「そうね。去年の事は思い出したくないわね。」
「そうだなあ。あの時は俺とお前だけになってしまい、この先、どうなってしまうのかと心配した。」
「そうね。辛かったわ。」
「俺は、このままピンクと一緒に死んでしまうのかとも思ったよ。」
「私もそうよ。もうどうなっても良いとさえ考えたわ。」
「そうだなあ。辛かったなあ。それを思うとこの子達は幸せだな。」
「そうね、幸せね。この幸せを何時までも続けていたいわね。この子達には、絶対にあのような悲しくて辛い思いはさせたく無いもの。絶対に嫌よ。絶対に嫌。」ピンクが首を振って強く言いました。
「そうだな。あんな思いは俺達だけで良い、この子にはさせたくないよ。」ジョンもそう思いました。子供には、二度とあのような思いはさせたくないと。
「ジョン、この子達には悲しい思いはさせないようにしましょう。」
その話を聞いていたリリーが、
「そうね、私達が頑張って、この子達にはそのような思いはさせないようにしましょう。」
リリーも同じ思いでいました。
親の気持ちとしては当然のことなのですが、後にこの考えが大きな問題となってくるのです。でも、今はその事に誰も気付きません。

                       次ページへつづく

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