猫のひとりごと・私って、野良猫のメグちゃんなの?

野良猫とこの家の人々との、とても愉快な、でもちょっと寂しい生活物語

チキンの冒険

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チキンの冒険・第4章

十七、新たな旅立ち

 旅立ちの日は近づいていました。と、いうよりも、早く旅立たないと冬になってしまうのです。鶏達には、そんなにのんびりとしている余裕は無かったのです。
「サニー、ぼつぼつ出発したらどうかなあ。」ジャックがサニーに、出発したらどうかと聞いたのです。
「そうですね。もう行かないと厳しくなってしまいますね。」
「そうだよ。そんなにゆっくりとはしていられないぞ。」
「分かりました。それでは明日出発しましょう。」
「おい皆、聞いたか。出発は明日だぞ。」
サニーが皆に話し始めた。
「聞いてください。明日、雨が降らなければ出発しようと思います。ですから今日は、ここに有る食べ物を、できるだけ多く食べてください。持って行く事はできませんので、食べる事のできるものは全部食べてしまって下さい。それから、できるだけ早く寝てください。明日の朝は早く出発しますから、疲れないように睡眠は十分に取って下さい。」
「良し分かった。それなら今日は、今までで一番贅沢な食事をしようぜ。」
「そうだな。前祝いだな。」

この頃には、ナイフもガンも、すっかりサニーの話を信用していましたので、出発には何の不安も感じていない様子でした。

雌鶏達も子供達も同じでした。雌鶏達は夫である雄鶏が行くと決めたのだから、それには従うしかなかったのですが、この頃には、サニーの話していた美味しい貝とはどんな物だろうとか、サニーが見たとても広い川とはどんな所だろうかとか、そんな話で持ちきりだったのです。新しい処に対する期待は、むしろ雄鶏より大きかったのかも知れません。

子供達は単純でした。既にここの生活には飽き飽きしていたのですから、少しでも新しい処に移りたかったのです。子供達にとっては、楽しい冒険が始まる位にしか感じていませんでした。特に、母親達が美味しい食事の話とかをするものですから、子供達もその会話を聞いており、早くその素晴らしい処に行きたいと思っていたのです。

むしろ不安に感じ始めていたのは、サニーでした。それとジョンとピンクでした。
サニーは、最初の内は自信があったのですが、ジョンの話を聞き、皆が、サニーサニーと、サニーを眩しい物でも見るように言うものですから、その期待が多くなってくると、その期待を裏切らないようにと思い、不安が増してくるのです。勿論、雌鶏達が話している、食べ物の話とか、広い川の話は、そこに行けば期待を裏切らないで済むのですが、サニーが不安になるのは、それ以外のことでした。自分が、この後リーダーとして相応しくやって行けるのだろうかという事が、不安になっていたのです。

 それは、ジョンもピンクも一緒でした。サニーの事だから、大丈夫だとは思うものの、そこはやはり親です。思えば思うほど、他に何か心配事は無いだろうかと考えてしまうのです。それは、親が子供を思うが故に、当たり前の事と思えばそうですが、ジョンとピンクにとっては少し違うものでした。

 ジョンは、サニーにも仲間達にも何も言いませんでしたが、病は決して良い状況とはいえませんでした。それは自分自身が一番分かっているのです。
『おそらく、今度の旅が最後の旅になるのではないだろうか。』そう考える位に病状は悪化していたのです。
『この旅が最後で、この後はサニーが全て仕切って行く事になる。サニーよ頑張ってくれよ。』そう考えていました。

 ピンクもジョンの病状の事は分かっていました。分かっていましたが、ジョンが誰にも何も言うなときつく言うので、それを守っていました。ジョンの病を知った時から、ジョンの傍を離れる事はありませんでした。ジョンのどんな些細な変化にも、敏感に対応していたのです。
病を知った後、ジョンの様子を観察していると、時々苦しそうに屈み込むのです。
ジョンはそんな時でも、皆に気付かれない様にと思い、背を向けて分からないようにしていましたが、顔はかなり苦しそうにしていました。
ピンクは、そんなジョンを見るのがとても辛かったのです。辛かったのですが、ジョンの言い付けは守りました。皆に分からないように、そっとジョンの背中を撫でてやりました。
ジョンは、苦しくても何も言わずに、ニッコリとしていたのです。


 その日の夕食が、とても楽しく豪華な物となったのは言うまでもありません。鶏達はこれからの生活に期待をしていました。そして同時に、サニーにも期待していました。すでに他の父親達も、何時の間にかサニーをリーダー格扱いにしていたのです。
「サニー、お前はどう思う。」
「サニー、そこにはどう行けば良いのか。」
「サニー、これからの暮らしは如何したら良いのか。」と、気の早い事を聞いてくるのです。
サニーは、それには少し困った表情をしていましたが、そこは無難に返事をしていました。
そんな夕食は楽しく終わり、皆はサニーの指示の通り、早々に眠りに付きました。
ただ一人、眠りにつけなかったのはサニーでした。

ジョンとピンクは優しく抱き合っていましたが、熟睡していたとはいえませんでした。お互いに考える事が、沢山有ったのです。

 目覚めると早速、早々に朝食を取り、出発をしました。
「さあ、行くぞ。サニーもう準備は良いのかな。」
「良いと思いますよ。皆、良いかな、行くよ。」
「ハーイ、良いでえす。」
子供達の、元気な返事が返ってきました。
「さあ、行きましょう。サニー、案内して。」ローラの言葉に、
「良いですよ。それでは皆さん、出発します。」
「ハーイ、しゅっぱあつ。」子供にとっては楽しい遠足気分でした。
「ジョン、行くわよ。」
「ああ、行くとするか。」
「元気を出してね。」
「元気だよ。心配するなよ。」
「心配なんかしていないわよ。」
「そうか。アハハハ。」
ジョンとピンクも、サニーに従うように出掛けて行きました。
「これから十五日くらいの旅になる。途中では、少しくらいの休憩をするけれど、少し長旅になるよ。皆、怪我をしないようにゆっくりと進もうね。」サニーは子供達を気遣っていました。
「ハアイ。ゆっくりと行きます。」子供達は素直でした。
 
草原から海までの旅は、親の足で十五日ほど掛かるのですが、この辺りになると地形は穏やかな傾斜面であり、それほど無理をしないでも進む事ができました。既に鶏達が生活していた草原は、平地に近い処に有ったのですから、子供達でも進もうと思えば進めるところばかりでした。所々には窪みや、茂みも有りましたが、そこは迂回して進めば、十分に進むことができたのです。
ただし、さすがに小さな子供連れでしたので、その進むスピードはとても遅いものとなりました。当初予定していた十五日で目的地に到着するのは、行程の半分まで来た時点で無理と分かりました。既にその時点で十日以上経ってしまっていたのです。その場所に到着するには、当初の予定より十日ほど余分に掛かってしまう事が分かってきました。
「サニー、こんなにゆっくりで大丈夫か。」
「大丈夫ですよ。子供達に合わせてゆっくりと行きましょう。」
「そうか。しかし余りゆっくりとしていると雪が降ってくるぞ。」
「そうですかねえ。僕は未だ大丈夫だと思うのですが。」
「そうか、お前がそう言うのならばそれで良いが。」
ジャックは少し心配でしたが、サニーの意見に従うことにした。
「それよりも叔父さん。ここで少し休みましょうか。明日はここで一日休憩することにしましょう。」
「本当にそんなことで良いのか、サニー。」
「大丈夫ですよ。ここからは平らなところばかりですから、安心して進めますよ。ここまで来たのですからもう大丈夫です。明日はこの辺りで食べられる物を探して、ゆっくりと休みましょう。」
「ああ、そうか。」
サニーの自信の有る言葉には、反論できませんでしたのでそうする事にしました。

 この頃の、ジョンの容態は決して良いものではなかったのです。ここまで来る間にも、何度も心臓が痛くなり、その度にピンクの支えを借りて、何とかごまかしながらの旅を続けていました。そんなジョンの姿を見ても、誰もジョンが病気だとは気付いていませんでした。それはピンクの誤魔化しとも思える言葉が、功を奏したからです。
ピンクは、「ジョンは孫の守をしていてばかりでいたので、少し体力が落ちてしまったのよ」と、説明していたのです。
ジョンも、勿論ピンクの説明に合わせていました。
「サニー、ありがとう。お父さんが疲れたから休みたいと言っていた処だったのよ。良かったわ。」
「そうか。親父、頑張ってくれよ。親父が一番疲れているみたいだなあ。」
「済まないサニー。俺も年を取ったのかなあ。」
「おいおいジョン、止めてくれよ。年の事を言うのなら。お前と俺は変わらないぞ。」
「ああ、そうだったな。そうすると、俺の体力の落ちるのは少し早すぎるな。」
「そうだぞ。お前は未だそんなに老ける年では無いぞ。」
「ああ、分かったよ。少し運動でもして、体力を回復しないといけないな。」
「運動なんかしないで働けば良いのじゃないか。」
「そうだったな。アハハハ。」
力の無いジョンの笑い声でしたが、皆もつられて笑っていました。
「ワハハハハ。」
「ワハハハハ。」
「ワハハハハ。」
でも、ピンクだけは笑えませんでした。ピンクはジョンの様子を窺いながら、心配そうに見つめていました。ジョンの様子を見ていると、来るべき時が近づいていると感じるのです。

                       つづく

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チキンの冒険・第4章

十六、責任と覚悟

 ジョンとサニーは草原を歩いていました。ジョンがサニーと話をしたくて、散歩に行こうと誘い出したのです。

 サニーもジョンが何を言いたいのかは、うすうすとは分かっていました。自分が言い出した事に不安があるから、誘われたのだろうと思っていました。

 かなり遠くまで来ました。ここに来るまでは、ジョンもサニーも何も言わずに、黙って歩いてきました。
サニーは、ジョンの後ろを黙って付いてきたのです。
「サニー、この辺りで座ろうか。」
「うん。」ジョンに言われるまま、サニーは黙って座りました。
「良い天気だな、今日も。」
「うん。」
「お前、本当にお父さんが、情けないお父さんになったと思っているのか。」
サニーは意外に思いました。サニーが想像していたこととは全く違う事を、ジョンが質問してきたのです。
ジョンも、本当はこの事を言いたかったのではなかったのですが、何故かこのことから話し始めてしまいました。
「ああ、そのことですか。そのことなら言い過ぎたと思っています。あの時はつい気持ちが・・済みませんでした。」
「お前がそう思うのも、無理は無いのかも知れないなあ。確かにお父さんは、お前の言う通り、余り仕事をしなかったからなあ。」
「いえ、そんなことは無いですよ。孫の守も仕事ですよ。僕は、それをして貰って随分と助かっていますよ。チッチも感謝していましたよ。」
「そうか。チッチもそう言っていたのか。」
「そうですよ。」
「そうか。」

サニーはジョンの顔を見ていました。本当にこのことだけを言いたくて、僕を誘ったのだろうかと、疑っていたのです。
「他に話は無いの。」
「ああ、実はお前の事が心配でなあ。」
「僕のこと。」
「そうだ。」
「何がですか。」
「お前が言い出したことだよ。」
「そのことですか。」
サニーは安心しました。自分が予想していたことに話題が移ったのです。
「そのことの何が心配なのですか。」
「お前の言っている事は、本当のことだと信用しているよ。きっと、そこにはお前の言う通りに、沢山の食べ物が有るのだろう。」
「そうですよ。有りますよ。そこで僕は一杯に食べて来たから、こうして元気に戻って来られたのですよ。」
「そうだろう。それは信じるよ。お前は嘘を言うような奴ではないから。」
「はい。」
「それはそれで良いとして。」
「はい。」
「それからのことだけどな。」
「はい。」
「お前は分かっているのかどうか分からないけれど、大変なことなのだよ。お前の話に皆が付いて行くと言う事は、その事に対して、全責任がお前に有ると言う事だよ。」
「責任。」
「そうだよ。誰もお前の見てきた物を見ていないのだ。それなのに、お前の話を信用して付いて行くということになる。全て、お前を信用して行くという事だ。それがどう言う事か、お前にはそれが分かっているのかと思ってな。」
 サニーは、ジョンの顔をしっかりと見て話を聞いていた。
「分かっていますよ。」
「本当に分かっているのかなあ。」
「分かっていますよ。そこに行った時に、僕の言った事と違っていたら大変な事になるという事でしょう。」
「そんなことは当たり前のことだよ。そこに行って、もしも食べ物が無かったら、皆は寒さと飢えで死んでしまうことになるのかもしれない。そんなことは絶対にあってはならない事だ。お父さんは、そこに行って食べ物が無いなんて思っていないよ。それはお前を信用しているよ。」
「だったら良いじゃないですか。」
「それだけではないのだよ、サニー。食べ物が有っても、住むところがあっても、そこが温かいところであっても、それでもいろいろな予想もしない問題が発生すると思っていなければいけないよ。そんな問題が発生した時は、それが全て、そこに案内したお前の責任になるのだよ。お父さんは、お父さんのほんの気まぐれな思い付きから、多くの仲間達を旅に連れ出してしまった。その事でどれだけ多くの仲間を失ってしまったのか。仲間を失った時に、どれほど心を痛めたと思うのか、辛かった、悲しかった、外での暮らしは、如何したら良いのか知らなくて、そんな処に皆を連れて来てしまった事に対して、自分を責めて苦しんだよ。自分の責任を感じてきたよ。それは今でも同じだよ。未だに、出て来て良かったのだろうかと思う事がある。」
「お父さんの苦労は、叔父さん達から聞いたよ。」
「そうか。」
「お父さんは、何も分からずに出て来てしまったのでしょう。でも、僕はそうでは無いですよ。実際に見てきた処に皆を案内しようとしているのですから。それにねお父さん、僕は、お父さんの暮らしていた小屋の事を知りません。どんな処か分からないのですよ。分かっているのは今の生活だけです。だから、逆に、僕はそこへ戻る事はできないのです。そこの事を知らないのですから。」
「それはそうだね。お前はそれを知らないのだからなあ。だから、そこへ戻るなんて事を言いたいのではなくて、そう言う苦労が、全て言い出した者の責任になるという事だよ。それをお前には分かって欲しいのだよ。そう言う覚悟が必要だという事を。」
「責任と覚悟ですが。」
「そうだよ。これからは、お前に皆が付いて行く事になる。お前だけが知っている処に行くのだから、皆はお前の指示に従おうとするのだ。つまり、自分が好むとか、好まないとかは関係無しに、お前はこの事を切欠として皆のリーダーになるという事だ。リーダーは自分の言う事、自分の行動には責任が有るということだ。お前にその覚悟が有るのかと心配になって話をしたかったのさ。」

暫く黙っていたサニーでしたが、
「僕がリーダーですか。分かりましたお父さん。お父さんの言いたい事は分かりました。僕は僕の言い出したことには責任を持ちます。皆を安心して暮らせる処に連れて行きます。」
「そうか。言うのは簡単だけれど、なかなか難しいことだよ。」
「はい、覚悟しています。」
「そうか、それなら良いが。頼むぞ、サニー。」
「はい。」
「うん。」
「はい。」
ジョンは、ニッコリとしてサニーの顔を見た。
サニーも、ジョンの顔を見てニッコリと頷いた。
ジョンとサニーの目と目が合いました。目と目で何かを語り合っているようです。
父と子の心に、今までに無かった、何か心に通じ合える物を感じていました。

 この事を切欠にして、リーダーがジョンからサニーに移って行きました。
ジョンは、自分の限界を感じ始めていましたので、この事は、サニーにリーダーを譲る良いチャンスとも考えていました。しかし、少しばかりの不安もあったので、サニーと話をしたかったのです。サニーと話をしてみると、その不安も解消されました。サニーの生長を、一層感じることが出来たのです。
そしてジョンは、サニーにリーダーを譲る事を決めました。
                            つづく
前ページよりつづく

 サニーが話し終わっても誰も何も言いません。ナイフもガンも言葉を発しませんでした。
未だ、俄かには信用しがたい話だったのです。
「皆、サニーが話し終わったが、この話をどう思うのか。」ジャックが皆に聞いたが、
「どう思うと言ったって。」ガンが返事にならない返事をしただけでした。
そこで再びジャックが切り出した。
「サニー、教えて欲しい事が未だ有る。」実は、ジャックはもう一つの不安を考えていたのです。
「そこには生活できるような穴は有るのか。雨や雪を防げるような穴は有るのか。」
「有ります。岩があって、その岩には穴が空いているところがあちらこちらに有りました。そこでなら、風も雨も雪だって防げます。」
実際にそこには、風化により岩に大きな穴が空いている物が無数に有ったのです。
「そうか、それでその穴はどのくらいの大きさか。」
「大きいのも小さいのも有りました。岩の穴だけではなくて、土手にも穴が空いていました。ここの穴よりは大きな穴でした。」
「そうか、そんな穴が有ったのか。」
「はい、有りました。」
「そうか、分かった。」
ジャックがもう一度皆を見回した。
「皆、何か意見は無いか。」
「・・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・・。」
やはり、誰も意見を言いません。言えなかったのです。

 皆をゆっくりと見回したジャックが、
「誰も意見が無いようなので、俺が喋らしてもらう。ナイフ良いか。」
「あ、うん。」ナイフが不意を突かれた様に返事をした。
「お前の意見は素晴らしいと思う。お前の考えを聞いて、俺は、どうしてそんなに簡単な事を思い付かなかったのかと自分を恥じた。それを思い付いたお前が素晴らしいよ。良い考えだ。」
「うん。」
「でもなナイフ、お前の考えにも俺は不安を感じていたよ。それは、ここで暮らす事自体がどうかということだ。今は、既に家族も多くなってきて、ここではとても狭くなってきた。穴も小さいし窮屈だ。なによりも、これからの厳しい冬の寒さを、この小さな穴では防げないのではないのかと考えていたのだよ。これからは雪も降るだろう。寒い風も吹くだろう。それをここで防げるだろうか。ここで春まで持ちこたえることができるだろうか。そんな事を考えていた。お前の、食料に関する考えは素晴らしいが、その事が気になっていた。」
「うん。」
「そこで、俺はもう一度サニーの話を聞こうと思ったのだ。サニーの話を聞いていると素晴らしい事ばかりじゃないか。素晴らしすぎて、俄かには信用できないようなところも有る話だよ。でもな、ナイフ。俺は、サニーが嘘を言っているとは思っていないよ。こいつは嘘を言えるような器用な奴ではないよ。そうは思わないか。サニーの話を信用するとしたら、そこは素晴らしい処じゃないか。そこならば、風も雪も厳しい寒さも防げそうだよ。そうだな、サニー。」
「はい、そうです。」
「そこでだ。俺は、ここはサニーに賭けてみようと思う。サニーを信用して行ってみようと思うが、皆、どうだろうか。」

突然のジャックの提案に、誰も返事ができません。どうしたら良いのか分からないのです。
「行くといっても、ここには小さな子供が居るではないか。子供を如何するのか。」ガンが
聞くと、
「勿論連れて行くさ。皆で助け合って連れて行くさ。」
「行けるのか。行ける所なのか。」
「行けると思います。皆で協力し合えば行けると思います。」サニーが答えると、
「本当に行けるのか。」
「はい。」
「そうか。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・。」又、黙ってしまいました。
皆には不安がありました。如何したら良いのか分からなくなってしまっていたのです。
相変わらず、ジョンとピンクは何も言いませんでした。

 その日の話し合いはそこまでで終わりました。
ジャックがサニーの話した処に行くと言ったものの、直ぐには決定できないような大きな問題だったのです。
                          つづく

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チキンの冒険・第4章・・最終章

十五、サニーの提案

  サニーは、先頭に立って働いていました。
ジョンも、この頃には外に出て行って食料を取って来ていました。
勿論、他の鶏達もそうしていました。しかし、疑問に思っていた事が現実になりかけていました。
食料は、取って来ても取って来ても、思うようには備蓄量が増えていなかったのです。
鶏達はその現実に直面して、焦り始めていました。このまま保存食料が増えていかないと、とてもこれだけ多くの家族を、冬の間養ってはいけないのです。

 今回も、サニーの発言から、如何するべきかを相談するようになりました。
ジョンも他の鶏達も、何とかしなければとは思っていましたが、それをどうしたら良いとかを、言うだけの自身が無かったのです。
でも、サニーには前から考えていた事がありました。それを言うのか言わないのか迷っていましたが、このように食料が増えていかないのを見ると、そうするしかないと決心したのです。
「皆さん、聞いてもらえませんか。」
「何だ、サニー。」
「備蓄食料のことですけど。今までに何とかしようと頑張ってきましたが、思うようには蓄えられていないのが現状です。」
「だからなんだ。」
「それで僕は、ここを出て行ったらどうかと思うのですが。」サニーが、いきなり結論をぶつけたから、他の鶏達は一体何を言っているのかと呆れてしまいました。
「出ていくだと。何を言っているのかお前は、気でも狂ったのか。」
「僕は正気ですよ。皆でここを出て行くのです。新しい処に行くのです。」
ピンクもジョンも、一体サニーは如何してしまったのかと、心配になってきてしまいました。
「新しいところ、お前そんなところを知っていて話しをしているのか。」
「そうです。僕は皆が生活できる新しい場所を知っています。」
「お前が知っているだと。俺達も知らないような場所を知っているだと。アハハハハ、アハハハハ、お前は何を言っているのか。俺達より、お前の方が知っている処なんて有る訳ないではないか。お前は今まで俺達と一緒に居たではないか。お前だけで一体何処に行った事があると言うのか。馬鹿も休み休みに言えよ。」
「馬鹿ではないですよ。僕だけで行ったところが有りますよ。それは、ボビイを探しに行った時です、ボビイを探そうと川を下っていたのです。そしたらそこには見渡す限りに、食べ物が一杯にあるところがあったのです。」
「見渡す限りに食べ物が一杯にあるだと。」
「そうです。足元にも、そこら辺に、一面に食べきれないほどの食べ物がありました。僕はそれを食べました。そしたらそれはとても美味しくて。」サニーが話し終わらないうちに、
「いよいよ頭がおかしくなってきたぞ。」
「足元に、食べきれないほどの食べ物があるというのか。動かないでも食べきれないほどの食べ物が有ると言うのか。」
「そうです。」
「ジョン、サニーが変だぞ。頭がおかしくなってきたぞ。お前、心配ではないのか。」そこまで黙って聞いているジョンに、ナイフが聞いた。
「俺はサニーを信用したいと思っているが。」と、言ったものの、今までに聞いたことのない話に、一体どうしたものかと考えてしまいました。
「信用したい、足元に食べきれないほどの食べ物が有るという話を、信用したいというのか。お前ら親子はどうなってしまったのか。夢でも見ているのではないのか。ジョン、しっかりしてくれよ。足元に有る石ころでも食べるというのか、お前達親子はどうしたと言うのか。」呆れたように言うと、
「ああ。」とジョンからは中途半端な返事が返ってきた。
「親父、ありがとう。そこは向こう岸が見えないくらい広い川でした。そこに水草とか、貝とかが食べきれないほど有りました。それが食べてみるととても美味しいものでした。」サニーは尚も話続けようとした。
「またまた冗談を言う。向こう岸が見えないほど大きな川など、有るはずがないではないか。」
「それが有るのです。」
「もう信用できない、馬鹿げている話だ。」
「そうだ、サニー、もうそんな話は止めにしてくれ。」ガンもナイフも、全く相手にはしていない様子でした。さすがに信用できなくなってきたのです。
「サニー、お前の心配は分かっているよ、お前は食料が貯まらないのを心配したからそんな、いい加減な事を言うのだろう。」
「いい加減ではないよ。本当の話だよ。」

サニーは、話の仕方を間違ってしまったようです。いきなり結論から言い出したので、皆は、サニーが何を言っているのか分からなくなってしまったのです。その辺りが、ジョンが心配していた、サニーのもう少し足りないところでも有りました。
「皆、サニーは食料の事を心配している。それは俺も同じだったよ。実は俺も、食料が貯まらないのを心配していたよ。このままの状態で食料探しをしても、冬の間食べるだけの食料はとても確保できない。そこで俺には考えが有るよ。」ナイフがそう言うと、
「どんな考えか。」とガンが聞いた。
「俺達男親だけではとても貯まるだけの量を取ってくることが出来ない。それは家族が多くなったので、食べる量も増えたからだ。採って来ても採って来ても、食べてしまうから直ぐに無くなってしまう。そこで俺は考えた。これからは、母親にも協力してもらいたい。それは食料探しを手伝ってもらうだけではなく、食べることにも協力してもらいたいのだよ。」
「何を言っているのかナイフ、食べる事に協力するとはどういうことか。食べる事が増えたら、又、食料が無くなってしまうではないか。ナイフまで可笑しな事を言わないでくれよ。」
「ガン、待てよ。俺が言っていることはそういうことではないよ。食べる事とはそういうことではないのだ。実は、俺達は、食料を取って来て、それを夕食として皆で食べているではないか。良く考えてみよ。何で、せっかく取って来た物を、その日の内に食べてしまうのか、それこそが可笑しなこととは思わないか。」
「食べなければ腹が減って眠れないではないか。」
「そこが違うのだ、ガン。俺は食料を取りながら、その場でも腹一杯に食べて帰ってくれば良いのではないのかと考えた。母親達も俺達と一緒に出掛けて、外で腹一杯に食べて帰ってくれば、夕食は食べなくても済むのではないか。夕食は留守番をしていた者と子供だけで良いのではないかと考えた。そうすれば食料は確保できるよ。ローラ、お前はどう思う。俺達に付いてくる事は出来ないだろうか。」
「良いわよ。良い考えだと思うわよ」ローラは直ぐに良いと返事をした。

ガンも他の鶏達も、勿論ジョンもピンクも、ナイフの考えには驚きました。
考えてみれば当たり前のことでした。
どうして、そんな簡単な事に気が付かなかったのだろうかと、不思議にも思うくらいでした。
「素晴らしいよナイフ。お前は頭が良いよ。」ガンがナイフを素晴らしいと誉めると、
「それほど言われるようなことでもないと思うのだがなあ。」と謙遜した。
「素晴らしい、素晴らしい。それなら明日からそうするぞ。」ガンはすっかりその気分です。

 サニーは自分の意見が聞き入れられず、ナイフの意見が、仲間たちに賛成されたと思うと、少しガッカリとしてしまいました。何も言えなくなって俯いてしまいました。

 そんなサニーを黙ってみていた者が、ジョン以外にも居ました。それはジャックです。
「ナイフの意見は分かったよ。未だサニーの話が途中で終わっている。その話を最後まで聞いてやれ。」
「サニーの話なんかどうだって良いよ。どうせいい加減な話だよ。」ナイフが言うと、
「いい加減な話かどうかを判断するのは、最後まで聞いてやってからで良いのではないか。話は未だ終わっていないぞ。」ジャックがピシャリと言い切った。
「分かったよ。サニーの寝言を聞くよ。」
「そういう言い方はお前らしくないぞ。」
「分かった。分かったよ。」

ナイフもガンも、サニーの話をもう一度聞く事にした。
「サニー、悪いな、お前が一生懸命に話そうとしているのに悪かったな。」
「いえ、ジャック叔父さんありがとう。」
「さあ、話してくれ。皆が分かるように、分かり易く話せよ。」
「はい、分かりました。」

ジョンもピンクも黙っていました。自分の子供を信用していますが、これからどんな話をするのかと思うと、心配になってきました。
ピンクは心の中で『頑張って。』と言っていました。

サニーが、今度は先程とは違いゆっくりと話し始めました。
「先程は済みませんでした。僕の話が分かりにくかったみたいで済みませんでした。もう一度最初から話します。実は、ボビイを探そうとあの川を下って行ったのです。それは十五日ほど歩いて行ったと思います。そしたら突然とても広い処に出たのです。そこは砂も岩も有りました。とてもとても広いところでした。僕も、こんなに広いところが有るとは知りませんでした。そこは、川が突然に広くなるのです。向う岸は見えませんでした。僕は十五日も歩いていたので、何時の間にか疲れてしまっていました。そして、そこで朝まで眠ってしまったようです。翌朝気がつくと、とても腹が減っていたのです。それで、足元に有る物は、何でも食べてみようと思いました。足元の岩には、ゴツゴツとした貝が一杯に付いていました。岩が見えないくらいに一杯にです。それが、食べる事ができるものかどうか分かりませんでしたが、余りにも腹が減っていたので、何でも食べようとしたのです。その貝を割って食べてみました。中にはプリンプリンとした軟らかい実が有ったのです。それを口に入れると、今までに食べたことのない、とても美味しいものでした。それからは夢中でそれを食べました。腹一杯になって辺りを見回すと、どの岩にもそれはビッシリと付いているのです。何年掛かっても食べきれない位です。もう一つの、食べた事がない食べ物も有りました。水草(海草)です。その水草も、食べきれないほど岩にビッシリと付いていました。それを食べると、それもとても美味しかったのです。腹一杯でしたから、それ程食べることは出来ませんでしたが、本当に美味しかった。その場所へ、僕は皆で行こうと思うのです。そこに行けば、慌てて食べ物の備蓄をしなくても何とかなると思ったのです。僕が元気になって戻って来られたのは、そこで腹一杯に美味しい物を食べる事ができたからです。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・・。」
                     次ページにつづく

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チキンの冒険・第4章

十四、父親達の会話

 サニーは、先頭に立って食べ物探しに出掛けて行きました。
ナイフとガンがそれに従って行きました。ナイフとガンは、ジョンの気持ちも分かるので、何故か気の重い行動となっていました。

 残ったジョンとジャックは、暫く黙っていましたが、どちらからとも無く話を始めました。
「ジョン、お前怒っているのか。」
「いや。」
「そうか。それなら良いが。」
「うん。」
「サニーがあのように言うとはなあ。」
「うん。」
「あいつもしっかりしてきたよなあ。」
「うん。」
「あいつは確かに最近良く働いているよ。」
「・・・。」
「子供が産まれてからは本当に良く働くようになった。父親の自覚かなあ。」
「父親か。」
「そうだよ。あいつも父親だよ。」
「そうだな。」
「そうだ。」
「しかし・・。」
「ん。」
「しかしなあ。」
「何。」
「もう少し、良く考えるようにならないと。」
「そうかなあ・・よく考えていると思うが。」
「そのように見えるか。」
「ああ、どこか不満でも有るのか。」
「不満ではないが・・もう少し回りの事を考える余裕があればなあ・・今のサニーはただ一生懸命にやっているだけで・・。」
「それでいけないのか。」
「何れは、あいつが俺達を引っ張って行くようになるだろう。そうなった時にあいつにもう一つ足りないものがあるような気がする。」
「そうか、まだ足りないものが有るのか。」
「そうだよ。まだまだだよ。」
「そうか。お前は自分の子供だから厳しく見すぎているのだよ。サニーは立派な大人になってきているよ。」
「そうか。立派な大人か。立派ななあ。」
ジョンはフウと溜息を付いた。
「なあジョン、最近元気が無いのではないのか。」
「そんな事は無いよ。」
「そうか、それならば良いけれど。」
ジャックは何か引っかかるものを感じていましたが、それが何かは分かりませんでした。

そんな会話を聞いていたピンクが、
「ジョンはサニーの言う通り、孫達と遊んでばかりで少し気が緩んだのよね。頑張ろう、おじいさん。」おどけたように言いました。
ジョンは、そんなピンクに笑顔で返しました。
『ピンクには、時々痛くなる胸の事を伝えた方が良いのかなあ。』そう思いましたが、やはり心配掛けないようにと思い言いませんでした。


 サニー達は食料探しの途中で休憩していました。
今までは、それぞれが何も言わずに、黙って黙々と作業をしていましたが、休憩時間になったので一箇所に一緒に座りましたから、誰からともなく会話が始まりました。
「なあサニー、お前、少し言い過ぎではなかったのか。」
「うん、僕も言い過ぎたと思っているよ。」
「やはりなあ。」
「うん。親父、少し寂しそうだった。」
「そう感じたのか。」
「うん。」
「ジョンも、最近は少し元気が無かったからなあ。」
「そうですか。子供達と遊んでばかりだから、そう見えるのではないですか。」
「そうかなあ。」
「ジョンは今まで随分と働いてきたよ。」
「それはそうでしょう。」
「だから、少し休ませてやっても良いのじゃないか。」
「休んでいるではないですか。」
「だから、もっと休ませてやれば良いじゃないか。」
「そうだよサニー。ジョンは俺達の先頭に立って、今までいろいろな事に立ち向かってきたのだよ。だから、もう少し休ませてやれ。」
「だから、休んでいるではないですか。」
「分からない男だなお前も、もう少し休ませてやれと言っているのだよ。」
「叔父さん達がそう言うのならそれで良いですけどね。親父はもう少し仕事をした方が良いと思いますよ。それは親父自身の為にもその方が良いと思いますよ。」
「それは何故かな。」
「親父は最近優しくなりすぎていると思う。子供と遊んでばかりだからそうなってしまうのですよ。僕は、もっと親父らしく頑張っていてほしいのです。」
「そうか。頑張っているけどなあ。」
「駄目ですよ。あのままでは本当にお爺さんになってしまう。まだそうなるには早すぎますよ。」
「そうか。」
「そうですよ。」
「お前も自分の父親には厳しいなあ。」
「ジョンがサニーに厳しいのと同じだな。」
「親子だからなあ。」
「親子は似ているということか。」
「僕はそんなに親父には似ていないですよ。」
「そうでもないぞ。似ている処が多いぞ。」
「そうかなあ。」
「そうだよ。優しいところも。責任感があるところも似ているよ。」
「そうかなあ。」
「そうだ。」
「そうだ。」
「なあサニー。」
「何。」
「親父にもっと優しくしてやれ。」
「うん。」

暫く休憩した後、もう一度食料探しを始めることにしました。
それも、サニーの掛け声から始まったのです。
「さあもう少し採りましょう。今度は何時雨になるか分からないから、持てるだけ沢山採りましょう。」
「そうか、よく働くなあ、サニーは。」
「叔父さん達は疲れたの。」
「馬鹿を言うな。まだそんな年ではないぞ。」
「親父と同じ年でしょう。」
「俺はジョンみたいには老けてはいないよ。」
「そうかあ、お前も随分老けてきたように見えるぞ。」
「冗談は止せよ。」
「アハハハハ。」
「アハハハハ。」
「さあ、取るぞ。」
「ハイハイ。」
「帰りましょう。皆が待っているので一杯持って帰りましょう。」そう言うと、再び働き始めました。

サニーは考えていました。
『親父も叔父さん達も年を取ってきたのかなあ。今までのようには働けないのか。それならば自分が働かなければいけないなあ。』
そんなふうに考えていたのです。

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