猫のひとりごと・私って、野良猫のメグちゃんなの?

野良猫とこの家の人々との、とても愉快な、でもちょっと寂しい生活物語

チキンの冒険

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チキンの冒険・最終章

十三、親と子

 ピンクもジョンも、とても幸せに暮らしていました。
今が、今までで一番幸せとだと感じていました。
ジョンは、可愛い孫達と遊ぶのが一番の楽しみに変わっていました。

この頃になるとジョンは、孫達と過ごす時間が多くなり、食料探しとか、見張り台での見張り番などは、他の鶏達に任せる事が多くなっていたのです。
この日も、朝から孫と遊んでいました。サンデイは、生まれた時はとても小さな子供でしたが、秋の豊富な食料によってすくすくと育っていきました。アンとピンクを合わせて二で割ったような可愛いサンデイは、ジョンにとって、目に入れても痛くは無いくらいに愛しい孫でした。勿論、ジョージも可愛かったのですが、男の子と女の子の可愛らしさは全く違うものでした。
ジョンは毎日毎日、「サンデイ、サンデイ。」と言って暮らしていました。

 そんなジョンを横目にしながら、サニーが良く働いていました。今では、ジョンよりもサニーの方が働いていると言っても良いくらいでした。

サニーは、ボビイを亡くした責任が自分に有ると今でも自覚しており、その分、自分が皆の為に働かなければならないと考えていたのです。

何時しか、父親達の中で、サニーが中心的な役割をするようになっていたのです。しかし、ジョンはそんなサニーを、未だ完全には認めてはいませんでした。と言うより、父親にとっては、子供は何時まで経っても子供であり、子供のほんの些細なことでも「まだまだ」と感じてしまうのです。

 サニーと他の父親達は、冬の支度の為に保存食料探しを始めていました。ところが、毎日生活するだけの食料を探すのならば、この土地でも十分に探す事が出来たのですが、家族が多くなった今では、保存食料まで探す事は大変なことでした。探して採ってきても、食べる量が多くて、思うように備蓄ができなかったのです。もう一つの問題は、この土地が平原であった為に、食料の多い森の中に行くのに時間が掛かってしまっていたのです。その往復時間が、今の鶏達にはとても無駄な時間に思えました。サニーは、こんな状況では、これほど多くの仲間達が一冬過ごすのに必要な食料は、確保できないのではないかと思うようになっていたのです。
サニーはここでの食料探しには疑問を持っていました。このまま食料探しをしても、それほど多くの食料は備蓄できないのではないかと考えていたのです。

もう一つサニーが疑問に思っていることがありました。それはジョンの事です。ジョンはサンデイが生まれてからは。孫達と遊んでばかりでいるように思っていたのです。自分の父親が、他の父親と同じ様に働かないのは、恥ずかしい事と考えていました。それでも、孫達と遊んでいるジョンを見ると、楽しそうにしているので言うのを我慢していました。

 実を言うと、ジョンは仲間達にもピンクにも言わなかったのですが、自分の体の異変に気が付いていました。この頃になると、時々胸が苦しくなるのです。その苦しくなる頻度がだんだんと多くなってきました。苦しくはなるのですが、暫く我慢しているとそれは直りました。そして、何事も無かったように元通りの楽な状態になるのです。そんなでしたから、出来るだけ無理をしないようにと考えていたのです。皆にもピンクにも言わなかったのは、皆やピンクを心配させないようにと言う心使いでした。

 ジョンが言わなかったので、サニーがジョンの体の異変に気付くはずがありませんでした。それは、ピンクも他の仲間達も同じでした。

 間が悪い事に、それから数日が雨になってしまいました。この時期の雨には本当に困ってしまいました。一日も休まないで備蓄したとしても、その量が集まるのかどうか心配していたのに、この数日は出掛けることすらできなかったのです。その為に、せっかく集めた食料までも、食べなければならなくなってしまいました。

 サニーは苛立っていました。それはジャックもガンもナイフも同じ思いでした。
「今日も雨か。こうも雨が続くと、折角集めた食料が無くなってしまう。このくらいの雨ならば無理してでも探しに行きましょう。」
サニーは、探しに行こうとジャック達に言いましたが、ジャックは、
「この雨では大変だ。明日は止むかもしれないから、明日からにしたらどうかな。」
「でも叔父さん、明日止むなんて分からないよ。そんな事を言っていたら何時まで経っても食料は増えないよ。」
「サニー、そう焦るなよ。明日からで良いよ。こんな日に出掛けて、病気にでもなったら大変だよ。」
「ナイフ叔父さん、ガン叔父さん行きましょう。」今度はナイフとガンを誘いました。しかし、
「サニー、明日からで良いよ。今日は休もう。」
「叔父さん達は如どうしてしまったの。心配ではないの。食料が無くなっても心配では無いの。」
サニーが苛立って、怒るような口調で言いました。

そこまでは、黙って聞いていたジョンが、
「サニー、お前は未だ子供だ。皆の言う事を聞いていれば良いのだよ。」と言ったのです。
その言葉から、親子の激しい会話が始まりました。
「お父さん、僕が未だ子供だって。」
「そうだよ、お前は未だ子供だ。だから皆の言う事を素直に聞いた方が良い。」
「僕が未だ子供だと言うのですか。」
「そうだ。」
「僕が子供だと言うのならば、お父さんは何なのですか。」
サニーがジョンに向かって、怒ったように聞き返しました。ジョンが、毎日毎日何もしないで、遊んでばかりいる姿を見てきていたので、自分を子供だと言うのならば、遊んでばかりいる父親は何なのかと聞き返したのです。

 ジョンは、サニーからその様に聞き返されるとは思っていませんでした。もっと素直に「そうですか。分かりました。」という返事を期待していたのです。
「俺はお前の父親だよ。」そう答えるしか有りませんでした。
「そう、父親ですか。それでも父親ですか。」横目で見ると、少しふて腐れたように言い放った。
「サニー、お前のその態度は何なのか。」
「態度、僕のどの態度ですか。」
「その態度だよ。」
「僕のどの態度がいけないのですか。」
「その言い方、その態度が父親に対する態度か。父親に対する言い方か。」
「父親父親と偉そうに言わないで欲しい。」益々、サニーの態度がふてぶてしくなって来ました。
「何と言う言い方をするのか。サニー、お前を見損なったぞ。」
「僕もお父さんには失望しているよ。」
「何。」
「お父さんは僕の何処を見損なったというのですか。僕は食べ物探しとか、見張り番とか、皆がやらなければいけないことは全部やっている。それなのに僕の何処を見損なったと言うのですか。」
「お前のその態度だよ。親を親とも思わないようなその態度だよ。」
「ふん。」
「俺は、お前をそんなふうになるようには育てていないはずだ。」
「こんなふうで悪かったですね。」
「何だその言い方は、それがいけないと言っているのだ。もっと素直になれ。」
「お父さんもお父さんらしくなったらどうですか。」
サニーの逆襲が始まりました。
今までは、それでも父親だと思っていたから我慢をしていたのですが、遂に言ってはいけないことを、言葉に出してしまいました。
「父親らしく。父親らしくとはどう言う事か。説明してみろ。」
「それなら言わしてもらいます。お父さんは一体何をしているのですか。僕達が食べ物探しとか、見張り番で忙しくしているのに、一体、お父さんは何をしているのですか。」
ジョンは、サニーの言いたい事が直ぐに分かりましたが、それには言い返しませんでした。言い返せば、自分の体の不調を話さなければならなくなってしまうからです。
「私のしている事に不満があるのか。」
「当たり前ではないですか。孫達と遊んでばかりで何も仕事をしないなんて、そんなことおかしいと思わないのですか。」
「遊んでばかりか。」
「孫が生まれて嬉しいのは分かりますよ。僕だって、ジョージの守をしてくれているから助かっていますよ。でも、だからと言って何もしないというのはおかしいと思いますよ。」
「そうか。」
「皆が働いているのだから、お父さんもお父さんらしく働いて下さいよ。」
「そうか。お父さんらしくか。分かった。お前がそのように思っていたのなら、お父さんは今までのように働くよ。」
「当然のことですよ。お父さん。」

ジョンは何も言い返しません。言い返さないことにしたのです。
 ピンクも他の鶏達も、ジョンとサニーの会話を黙って聞いていました。そして、ピンクがポツリと言いました。
「サニー、もう良いでしょう。貴方は言いたい事を言ったのだからもう良いでしょう。」
「ああ、良いよ。」
ピンクは黙っているジョンを見ていた。ジョンのその表情はどこか寂しそうでした。
ガンが、「それでどうするのか。雨が少し小振りになったようだが。」と、言うと
「行きましょうよ、ガン叔父さん。」
「ああ、俺は良いけれど。」
「ナイフ叔父さん行きましょう。」
「ああ。」
「ジャックお前は如何するのか。」ナイフがジャックに聞いた。
「うん。」ジャックは気乗りがしない返事を返した。
「ジャック叔父さんは良いよ。お父さんとここに居てよ。僕達だけで行ってくるから。」
「うん。」又、同じ様な返事を返した。
「・・・。」ジョンは黙っていました。サニーに働けと言われて、直ぐに動くのも癪に障っていたのです。これも父親の意地でした。

「そうか、それなら行くか。」そう言うとナイフとガンは腰を上げた。
サニーも立ち上がりました。サニーは少しだけ気持ち良くなっていました。自分の意見が通った事に対してそう思ったのです。しかし、父親のジョンの姿を見ると、何か寂しいものを感じたのも事実です
                          つづく

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チキンの冒険・第3章
十二、サンデイが運んでくれた贈り物

 温かい日差しの日曜日の朝に、その小さな卵から、とても小さな赤ちゃんが産まれました。
その子は、アンに似たとても可愛い女の子でした。
その子の名前は、サンデイと付けられました。
ピンクとジョンは、女の子が生まれてとても喜んでいました。ガンに似た男の子だけは嫌だと、神様に何度もお願いをしていたのです。その願いが叶えられ、とても可愛い女の子が産まれたのですから喜びはひとしおでした。

この頃には、アンとガンとの仲睦ましい姿を見るのも少し慣れてきていました。それを見て、嫌悪を感じるまではなかった。それは、アンの余りにも健気な態度が、そう感じる事を無くしてきた要因でした。
アンの幼さには変わりは無かったのですが、精一杯に背伸びして、自分をガンの妻として、産まれて来る子供の母親になりたくて、出来る事を一生懸命にやろうとしている、その健気な態度に、皆もピンクもジョンも少しずつ心が変わっていったのです。

 アンは、産まれたばかりのその子を優しく抱いていました。子供が子供を抱いているようなその姿は、とても危なっかしい姿に見えました。
「アン、そんな抱き方はいけないわ。貸して御覧。こうするのよ。」
ピンクは、その子をそっと優しく抱き上げた。抱いてみると、そのとても小さな子供が、可愛くて可愛くて仕方がありませんでした。子供を抱くと、ピンクにも母性本能が芽生えて来るのです。その子が誰と誰の子であろうが、それは関係の無いことでした。子供はどの子でも、抱かれている姿はとても可愛いのです。

 ジョンも、ピンクのとても穏やかな幸せそうな顔を、久しぶりに見たように思いました。
そのピンクの笑顔は、最初にチッチを産んだときのように穏やかなものでした。
『良かった。ピンクが幸せそうになって良かった。』ジョンはそんなピンクを見て、自分もとても幸せに感じていました。

 周りの仲間達も幸せでした。新しい仲間が増えたのです。ジョージが生まれ、サンデイが生まれ、このように新しい生命が生まれるということは、誰にとっても幸せなことでした。
「忙しくなるなあ。家族が増えたからなあ。」
誰の子供であろうがそれは新しい家族の誕生なのです。
「美味しい、食べ易いものを探してこないといけないなあ。」
「そうだよ。この子はとても小さいから、一杯に食べてもらわないと。」
「そうだね。」
「アハハハハ。」
「アハハハハ。」
「アハハハハ。」鶏達はとても幸せな笑顔で笑っていました。この時ほど、幸せを実感出来る時間を過ごした事が無いようにも感じていました。
「ピンク、ピンクおばあさん。孫が二人も出来た。おばあさん。」
誰かが冗談っぽくそう言いましたが、その言葉も、ピンクにはとても心地よく聞こえました。
「あら、私はおばあさんになってしまったのね。」
「何を言っているのお義母さん、ジョージが生まれた時からおばあさんでしょう。」
チッチがそう言うと、
「あらそうだったわ。私はジョージが生まれた時からおばあさんだったのね。」
「アハハハハ、ピンクは呑気だなあ。ピンクはもうビッグばあさんだよ。」
「ビッグはひどいわ。おばあさんだけにして下さい。」
「アハハハハ。」
「アハハハハ。」
「アハハハハ。」

そんな笑い声を聞いて、一番ホッとしていたのは言うまでも無くガンでした。ガンはこの時程、幸せを感じた事は有りませんでした。ガンは今まで孤独だったのです。その孤独を我慢していたのですが、それを救ってくれたのがアンでした。ガンはアンには感謝していました。
『こんなに幼いアンが、こんなに子供っぽいアンが、俺をこれほど幸せにしてくれるなんて。アン、ありがとう。アンは俺にとっては天使のようだよ。ありがとう、アン。』
そう思っていると涙が出てきてしまいました。

ガンは一人で外に出てきて涙を拭いました。
そんなガンを、ナイフが肩をポンと叩きました。
何も言葉に出さなくても、ナイフの気持ちが、ナイフの言いたい事が分かりました。
ガンは嬉しくて嬉しくて、ナイフにすがって泣いていました。
そこへピンクがそっと近寄って来ました。
「ガン、こちらにいらっしゃい。生まれた子供を見てやって。貴方の子供よ。とても可愛いわよ。さあ、アンが待っているわ。アンの傍に行ってやって。」
その言葉には、ガンは震えが止まらないほど嬉しく感じた。ピンクがそう言ってくれたことが更に嬉しかった。
「ピンク。」それだけ言うと、ガンの大きな体が、小さなピンクにしがみ付いた。
しがみ付かれたピンクはよろける様になったが、そのガンを受け止めました。
ガンはピンクにしがみ付くと、その場に座りこむように、ピンクの腰の辺りで顔を埋めワアワアと泣き出してしまった。
ガンの頭を自分の羽で優しく包み込んだピンクも、一筋の涙を流していた。
『これで良いわ。これで良いのよ。』
周りの皆も家から出てきました。
ピンクとガンの様子を見て、皆が泣いていました。貰い泣きです。嬉し泣きです。幸せ泣きです。
ジョンも泣いていました。大きな涙が頬を伝っていました。
ジャックが、ジョンの頭をポンポンと叩いていました。
『仲間が、皆が喜んでくれている。ガンがピンクに甘えている。ピンクがガンを優しく包んでいる。』これが一番見たかった光景でした。ジョンが望んでいた光景でした。
『俺は、これが見たくて旅に出てきたのだ。これだ、これだ、これなのだ。これこそが幸せなのだ。』ジョンは嬉しかった。
『皆が一つのことで一緒になっている。皆の心が一つになっている。皆が同じ事で喜んでいる。良かった。良かった。旅に出てきて良かった。』

ジョンは皆の表情を見回した。
皆が笑顔で泣いていました。皆の顔が同じでした。
皆がピンクとガンを見て笑顔を送っていました。
『これだ。これだったのだ。旅に出た目的はこれだったのだ。』
ジョンは実感していた。ハッキリと心に摑んだものがありました。確信するものがありました。

 そんな時また、ジョンの胸が痛んだ。その痛みは以前とは少し違っていました。
ジョンは痛むところをそっと触ってみました。
『変だ、今までと少し違う。』
『痛み方が増しているようだ。』そんなふうに感じていたが、ジョンの事に気付く者は誰も居ませんでした。皆はピンクとガンを見ていたのです。


秋の風が、ピンクとガンの羽を揺らしていました。
もうじきに冬になってしまうのです。
冬支度を急がなくてはなりません。
鶏達には余りにもいろいろな事が有りすぎて、その支度が遅れていました。
冬の為の保存食料は無いのです。
それどころか、冬をこの場所で暮らすことが良いのかさえ、決めてはいなかったのです。
急がなくてはいけません。
急がなくては。
                        つづく

チキンの冒険・第4章

前ページよりつづく

 ジョンは、そんなピンクの、憂鬱そうな表情を感じ取っていました。
そんなピンクを気遣ったジョンは、二人で何かを話し合いたくなった時に何時もするように、ピンクを散歩に誘い出しました。
「ピンク、出掛けようか。」
「ええ。」ピンクは気乗りがしない返事をしましたが、
「天気が良いから散歩でもしようか。」
「ええ。」
既にピンクは、ジョンが何故散歩に行こうと言っているのかを分かっていました。ジョンとピンクは、言葉に出さなくても心が通じ合えるようになっていたのです。
「そうね、行きましょうか。」
ピンクは、アンとガンが寄り添っているのを見ているのも辛かったのですから、散歩に誘われて良かったと思いました。
「行ってくるからね。」ジョンはアン達にそう言うと、ピンクと二人で出掛けて行きました。
「気持ち良い天気ね。」
「そうだね。最近晴れている事が多いからなあ。」
「そうね。」
「ピンク。」
「何。」
「アンの事だけどな。」
「うん。」
「こうなってしまった以上、俺達としてはアンの幸せだけを考えてやろうと思うのだよ。」
「そうね。」
「ピンクだって、アンが幸せになるのが一番良いと思っているだろう。」
「そうよ。」
「それならもうガンを許してやろうよ。」
「・・・・・。」
「何時までもそうやって暗い表情をしていると、アンもガンも幸せにはなれないよ。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「どうしてガンの幸せまで考えてやらなければいけないの。アンの事は良いわよ。どうしてガンのことまで考えるのよ。」
「それは、アンを幸せにするということは、ガンも幸せにするという事ではないのか。アンとガンは夫婦になったのだよ。」
「夫婦・・嫌だ、私は認めていないわよ。」
「でも、もうじきに子供が出来るのだから。」
「それとこれとは別よ。私は今でもガンを許していないのよ。」
「そうか、未だあの事を思っているのか。」
「そうよ。ガンは私に・・。そのガンがアンの夫だなんて考える事も汚らわしいわ。」
「そうか。」
「そうよ。私はガンを心から許していたわけではないのよ。でもガンがここに居る以上、いがみ合って暮らしていても良い事は無いと思ったから、だから何も言わずに一緒に生活しているだけなのよ。貴方は、私をこんな目に合わせたガンを、私が本当に許していたと思っていたの。」
「そうは思っていなかったよ。でも何も言わなくなったから、その事は余り気にしなくなったのかとは思っていたけど。」
「私の気持ちを、母親にとって子供を亡くすということがどう言う事なのか、貴方は分かっていなかったようね。」
「分かっていたつもりだよ。」
「分かっていなかったと思うわ。」
「分かっていたよ。分かっていたけど、それを乗り越えていたと思っていたのだよ。」
「それが分かっていなかったという事なのよ。それは一生掛かっても忘れる事はできないことよ。一生掛かっても許せることはできないことよ。それ位に辛いことなのよ。」
「そうか、分かったよ。ピンクの気持ちは分かったよ。それでもなあ・・。」ジョンは、ピンクの肩を優しく抱いたまま黙ってしまいました。
「私はガンを許していないけれど、アンの幸せは考えているわよ。子供の幸せを考えない母親は何処にも居ないと思うわ。そんな事は当たり前の事でしょう。」
「うん。」
「でもね、どうしても気持ちの整理が出来ないのよ。アンとガンが親しくしていればしているほど体に寒気を感じるわ。嫌なのよ。見るのも嫌なのよ。」
「そうか。」
「アンとガンが添い寝しているのなんか、見たくもないわ。ああ嫌。」そう言うと、ピンクは体をブルッと震わせ頭を抱えた。考えるだけで、自分の体に寒気を感じるのです。
「それはそうだ。それは俺も同じだ。あいつは、俺達の気持ちを少しは考えれば良いものを、皆が優しくしているから好い気になっていやがる。」
「アンもアンよ。どうしてあんな年上と。」
「そうだなあ。」
「・・・。」
「でも考えると、ガン以外には居なかったのだなあ。」実際、独身男性はガン以外には居なかったのですが。
「何も、ガンを選ばなくても良いものを。」
「そうだなあ。」
また、顔を見合わせて黙ってしまいました。
「ガンを決して許さないわよ。でもアンの幸せは願っているのよ。だから、ガンに辛く当ることはしないわよ。それ位は分かっているわよ。」
「そうか、そうしてくれるか。良かった。何時までも、そうして暗い表情をしていると、回りの皆が気にしているからなあ。」
「私の表情がそんなに暗いの。」
「最近のピンクは、今までの様に明るく話をしていないと思うよ。」
「そう、分かったわよ。それならできるだけ明るく振舞うわ。それで良いのね。」
「そうか、良かった。」
「アンはとても小さな卵を産んだけれど、大丈夫かしら。」
「きっと可愛い子供が産まれると思うよ。神様にお願いしていようよ。」
「そうね。アンのように可愛い子供だと良いわね。ガンに似た子は絶対に否よ。」
「それは。」
ジョンは、これにはどう返事したら良いものか困ってしまった。男の子が産まれたらガンに似ているかもしれないからです。
「とにかく、元気な子供が産まれるように神様にお願いしようよ。」
「そうね。」
その後は、今までの辛かったことや楽しかったことなど、いろいろな話をしていました。
その時に、ジョンは自分の胸を苦しそうに叩きました。
「ジョン、如何したの。」
「否、何でも無いよ。ただ最近時々、この辺りが痛いと思う事がある。」
「そう、何時も一生懸命に働き詰だから、少し休んだ方が良いかもしれないわね。」
「そうだなあ。ああ、もう痛くなくなったよ。」
「良かった。」
「うん。」
未だこの時は、この事がジョンの体にとって、とても深刻な事が起こっているとは思っていませんでした。

 ジョンとピンクが話をしている頃、ガンとナイフも出掛けていました。ナイフがガンを誘い出したのです。
ナイフはガンに、どうしても言いたい事があったのです。
ガンはナイフが、何故自分を誘い出したのかは、既に分かっていました。
二人は黙って歩きました。かなり遠く迄歩いて来て、草原の一際大きな石の横に、もたれるように座りました。
「ガン、ここに座れ。」
「ああ。」
「俺は、お前に言いたい事がある。」
「分かっているよ、ナイフ。お前が言いたい事は分かっているよ。」
「そうか、何だと思う。」
「アンと俺の事だろう。」
「そうだ。」
「言わなくても分かっているよ。」
「お前なあ、アンは、お前の孫のように小さいのだよ。それをお前は。」
「・・・・。」
「皆、お前の事を信用していた。それがこんな事になるとは。」
「申し訳ない。」
「お前の気持ちが良く分からないよ。お前のした事は普通の大人がすることではないよ。」
「済まない。」
「俺にはとても出来ない事だよ。考えられないことだよ。だいたいお前は、ピンクとジョンの事を考えた事が有るのか。」
「有るよ。ピンクとジョンには済まない事をしたと思っているよ。」
「済まないことか。済まないで済むほど簡単な事では無いぞ。」
「うん。」
「お前はピンクにとって何をしてきたのか。そして、今度はまた。その事を考えると、ピンクやジョンはどんなに辛い思いをしていると思っているのか。お前に、そういう気持ちが有るのか。俺にはお前という奴が分からなくなってきたよ。」
「有るよ。有るよ。でもなあナイフ。俺も最初はそんなつもりは無かったのだよ。それはお前達と同じだ。俺とアンでは年が違いすぎるよ。分かっているよ、そんなこと。だけれど、どうにもならなくなってしまった。俺は、俺を押さえられなくなってしまったのだ。」
「それが俺には分からない。」
「お前には分からないだろう。お前には家族が有るから分からないだろう。俺も、お前達のように、同じ幸せを味わいたかった。だからアンが・・。」
アンから積極的に来たのでこうなったと言いかけたが、それは口先まで出てきたが止めました。大人気ないと思ったからです。このことの責任は、全てが自分に有ると思ったからです。
「家族か、俺達のようになりたかったということか。だからといっても、アンでは幼すぎるよ。そうは思わないか。」
「それなら誰が居るのか。誰も居ないじゃないか。」そう言ったものの、良く考えると、ナイフの子供のメアリーが、アンより年上でした。
言ってしまったあとでは遅すぎました。ガンはナイフの顔を見られなくなってしまいました。
「そうかメアリーでは駄目か。」
「いや、そういう訳では。」
気まずい雰囲気になりかけました。
「そうだろうなあ。メアリーは我が儘で、気が強いから可愛くないのか。」
「いや、メアリーも可愛いよ。」
「良いよ。無理して言うなよ。」
「済まないナイフ。」
「それより、お前はピンクとジョンの前では、アンと余り仲良く引っ付いてばかりでいるなよ。少しは考えろよ。」
「分かっているが、アンが。」実際に、ガンがそうしているのではなく、アンがガンに寄り付いているのでした。
「アンにも言えば良いだろう。」
「ああ、分かったけれど。」
「ピンクの気持ちを考えたら、それくらいの配慮をしたらどうか。」
「そうだなあ、分かったよナイフ。」

 ガンとナイフは、そんな話をした後に皆の処に戻って行きました。
ナイフはガンに、皆の前では、余りアンとベタベタするなと注意したのですが、アンのガンへの甘えようは更にエスカレートしていったに様に思われました。
それはアンが、自分達の事を皆に認めてもらえたという安心感と嬉しさとで、このような甘えた行動がエスカレートして行ったのです。アンとガンとのその行為は、まるで父親が子供を抱いているような不思議な光景です。考え方を変えるならば、嫌悪を感じるような行為にも見えるのですが、それが実際の夫婦と言う事ならば、許せない事も許さざるを得ないのでした。
ピンクとジョンにとっては、それは見たくも無い姿でしたが。
                             つづく

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チキンの冒険・第4章
十一、幼妻

ガンがどのように話をしようかと迷っているうちに、その日はやって来てしまいました、
この日まで、ガンはピンクとジョンに言わなければならないと考えていたのですが、話をすると、ジョンとピンクそして皆からどんな反応が返って来るのかと考えると、ついつい言えなくて、この日を迎える事になってしまったのです。
「叔父さん。」アンが、小さな声でガンを呼び寄せました。
「叔父さん、産まれるわ。」アンがそう言うと直ぐに、可愛い小さな卵を産みました。
「産まれたわ、叔父さん見て。」又、小さな声で言いました。
「そうか、見せてくれないか。」
「うん、良いわよ。」アンはそっとお腹を浮かせた。
そこには小さな可愛い卵が一つ有りました。その卵は本当に小さな卵でした。とても未熟な卵でした。アンの小さな幼い体から出てくるには、これ位の大きさの卵でないと無理だったのかもしれません。
「今まで見てきた物より、少し小さいようだな。」
「うん、でも私のよ。」
「そうだね。」
そんな小声の会話でしたが、その会話がピンクに聞こえました。
それからが、想定していたように大変な事になってしまったのです。
ピンクにもジョンにも、その事は全く予想していなかった事でした。
「アン、あなた今何と言ったの。貴女、そこを退きなさい。」そう言うと、アンの手を強く引き寄せた。
アンは仕方が無く、ピンクの言うように、そこを空けました。
ピンクは、アンのお腹の下に有る物を、自分の目を疑っているかのように見つめた。そして、大きな声でジョンを呼び寄せた。
「ジョン、来て。アンが。」
ジョンはピンクが何を言っているのか分からなかったが、直ぐに近寄ると、アンのお腹の下に有る物を見つけた。
そしてジョンが、アンに向かって何かを言おうとした時に、「済まないピンク、済まない。」ガンが、ピンクとジョンに慌てて謝ったのです。
ジョンもピンクもそれには『まさか。』と、我を疑った。しかし、直ぐにその事が認識されました。
「ガン、お前、まさかアンと。」
「済まないジョン、本当に済まない、ジョン。」ガンはそう言ったが、その言葉が終わるか終わらないかの内に、ジョンの拳がガンの顔をめがけて飛んできた。
「お前は。」
ジョンのその言葉と同時に、ガンの顔が横に折れた。
ジョンの拳が顔を打ったのです。
ガンはすっ飛びました。そして、バタリと倒れました。
「貴方は何て事を。」ピンクも、体を震わしてガンに言った。
そして、更にガンに何かを言おうとしたが、それを見ていたアンの行動は早かった。それは、ジョンとピンクの予想していたものとは全く違っていました。想像できない行動を、アンが行ったのです

アンは倒れているガンに、抱きつくように、覆い被さる様に座り込むと、ピンクを振り返り、「叔父さんを叱らないで、お願いママ、叔父さんを叱らないで。パパお願い、叱らないで。」既にこの時、アンの瞳から涙が出ていたのです。
「パパ、ママ、お願い、叔父さんを叱らないで。」すがる様にピンクとジョンを見上げていました。その姿にジョンは動揺したが「アン、お前は黙っていろ。」と言いました。アンのその姿を見てそれしか言えなかったのです。アンのその姿を見ただけで、アンとガンの関係がどうなっているのか直ぐに分かったのです。
「お願い、パパ。」
「退け、アン。」
「嫌だあ、私の叔父さんを叩かないで。」アンが、泣きながらジョンに哀願していましたが、
「アン、退くのだ。」
アンは、再び、強引にガンと引き離されてしまいました。
アンの気持ちは分かっても、ジョンとしては許せる事ではなかったのです。
「ガン、お前は何という事をするのか。それがお前の俺達への仕打ちか。」
「済まない、済まない。」
「お前は、お前は、自分のした事がどう言う事か分かっているのか。」
ジョンの拳が震えていました。
ピンクの体も震えていました。
「貴方は、私達に何の恨みが有るの。どうしてこんな事をするの。」
「済まない、ピンク。」
「貴方のした事が、どう言う事か分かっているの。」
「済まない、済まない。」ガンは、ひたすらに頭を下げていました。
「パパ、ママ、もう良いでしょう。叔父さんを苛めないで。お願い、パパ。お願い、ママ。」
「アン、貴女は何時頃からガンとこうなっていたの。」
「ずっと。」
「貴女は、自分のした事がどう言う事か分かっているのね。」
「分かっているわ。私には赤ちゃんができるのよ。」
「そうよ、貴女には赤ちゃんができるのよ。」
「分かっているわ。分かっているわよ。私の赤ちゃんよ。私と叔父さんの赤ちゃんよ。」
「貴女、子供を産むという事がどういう事か、貴女が母親になるという事よ。」
「分かっているわよ。だからもう叔父さんを叱らないで。」倒れているガンを介護するように、小さなアンがガンを抱きかかえていました。
一生懸命に、ガンを守ろうとする幼いアンの姿を見ていると、ピンクもジョンも何も言えなくなってしまいました。
アンは未だガンを抱いていました。まるでその姿は、母親が子供を抱いているようにも見えました。小さな体のアンが、その倍以上もある体のガンを抱きしめていたのです。ガンの体を、ジョンの攻撃から守ろうとしているようでした。その行動はアンの本能的な母性行動のように見えました。ガンに対しての、愛の深さが分かるものでした。

ガンはアンに抱かれて、泣いて詫びていました。
それは、不思議な光景でした。
ジョンもピンクも、そんなアンを見てしまっては、ガンを攻撃することはできなくなってしまいました。
「ガン、お前は情けの無い奴だなあ。こんな小さな子供に支えて貰うなんて。しっかりしろガン。良いか、お前のやった事は、決して許せることではないぞ。」
「アン、済まない。」
「叔父さん、痛くない。」アンが、ジョンに殴られたガンの顔の辺りを優しく撫ぜながら見ていた。
「痛くは無いよ。大丈夫だ。」
「そう、良かった。」
「ジョン、ピンク、本当に済まない。でも俺はアンを・・、産まれてくるこの子を、きっと幸せにする。」
「当たり前だガン、アンを不幸にしたら許さん。」
ジョンはそう言いながら泣いていました。未だ、拳が震えていました。
ピンクも泣いていました。
ピンクは、ジョンがガンを許したようには許せませんでした。ただ、これ以上ガンを責めると、アンが可哀相だと思ったから黙っていたのです。
『ガンは私に辛い思いをさせておきながら、私のアンをもこのようにして・・。』
そんな考えを持っていたのです。

 そんな事がありましたが、それから数日が過ぎて行きました。
アンは、体は幼いままでしたが、卵を抱いている表情とか、ガンと話している仕種などは、既に大人の感じを受ける程になっていました。
アンとガンの中睦ましいその姿は、どちらかと言うと、ガンがアンの指示に従っているような感じでした。実際にガンをリードしていたのは、アンの方だったのです。子供とも孫とも思えるほどの年の差がありましたが、この事に関しての精神年齢は、アンの方がはるかに上だったようです。
 ピンクとジョン以外は、そんなアンとガンの姿を微笑ましく見守っていましたが、ピンクとジョンは、未だに心の中では、ガンを許せませんでした。それは、ピンクの気持ちが特にそうでした。
                  次ページへつづく

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チキンの冒険・第4章

十、ガンの不思議な行動

 ジョンもピンクも、サニーが帰ってきたことにより、とても嬉しかったのは当然のことですが、その嬉しさ故に、余りにも周りの事に注意が足りなかったようです。
 ジョンとピンクが全く気付かない内に、ジョンの家族には新たな問題が発生していたのです。しかし、未だそのことには気付いていませんので、その事は誰にも分からずに、静かに進行していました。

 ガンは、ジョン達と一緒に食べ物探しとか、多くの仲間達の手伝いを、一生懸命に行っていました。ガンは、ピンクとジョンに多くの迷惑を掛けたのですから、その事を許してもらい、再びこうやって一緒に生活できるとは思っていませんでした。けれど、謝るのだけは誠心誠意謝ろうと考えて、ジョンとピンクの処に戻って来たのです。
 戻ってきて見ると、そこには幸せそうに暮らしている仲間達が居て、自分ももう一度同じ様に暮らしたいと思ったのです。
 一生懸命、誠心誠意を込めて謝った結果、ピンクの許しを貰う事ができました。それは、ガンにとっても驚きでもありました。許してもらえないと考えていたのに、ピンクの優しい大きな気持ちで、許してもらえたのです。
 このような優しいピンクに、何故あのような事をしてしまったのかと、自分のしたことに対して悔みました。そして、ピンクとジョンの家族の為には、自分のできる限りの事をしようと心に決めていたのです。勿論、多くの仲間達にも、同じように出来るだけのことをしようと考えていました。
 ガンは、ピンクとジョンの言いつけには素直に従い、どんな事でも行っていました。アンに対しても、亡くなったチッチの代わりと思える位に優しくしていました。

 アンはそんなガンを、最初は優しい叔父さんと思っていたのですが、それが、少しずつ、アンの気持ちの中に変化が起きてきていたのです。それは、アンを取り巻く環境にもありました。アンは、サニーとリリーの関係を、小さな時から見続けてきたのです。そして、子供の誕生までのその行動を一番知っていたのは、実はアンだったのです。アンはそれを知っていましたが、子供であったので、そのことを親達にはどう聞けば良いのか分からなかっただけなのです。そんなアンは、まだ体は未成熟なところが有りましたが、その心は何時までも子供ではなかったのです。子供の生長は早いもので、今では少し成熟しすぎた少女のようになっていました。

 ガンは、勿論このような子供に興味が有った訳ではありません。ガンはアンを見守っていただけなのです。アンを決して危険な目には合わせたくない。ピンクを、決して寂しくさせたく無いという思いで、アンに優しくしていたのです。

 この事は、どちらかと言うと、アンの方が積極的にでした。そんなアンの行動にガンは戸惑いました。余りにも年の差の離れたアンの行動に、最初はどう対処したら良いのか分からなかったのです。しかし、ガンのそんな思いは最初の内だけでした。ガンにしてみれば、ジョンもジャックもナイフも、それぞれが楽しい家族を持っている。家族を持っていないのが自分だけ。自分もジョン達のように幸せな家族を持ちたい。ガンには、そんな気持ちが、心の隅から芽生えて来ていたのです。
 しかしそれは、アンの幼さ故に、罪悪を感じるものでもありました。そして。そのことは、ジョンとピンクにどのように説明したら良いものかと悩むことでした。それは、優しくしてくれたピンクを裏切ることにもなるからです。
そんな気持ちが有りましたが、自分の気持ちを押さえる事が出来ず、アンの積極的な行動を受け入れ、なるようになっていってしまったのです。
 アンもガンも、当然この事は誰にも言いませんでした。言える事ではありませんでした。
 周りの仲間達も、ガンはアンを優しく面倒を見ていると思い、信用していたのです。ですから、ガンとアンがどこかに遊びに行っても、それは何の不思議にも思っていませんでした。

 この日もガンとアンはどこかに行ったきり戻ってきません。夕食時なのに何故か戻って来ないのです。
「なあジョン。」
「何。」
「最近、ガンとアンは遠くに行っているのかなあ。」
「そうだなあ。こんな時間に戻って来ないからなあ。」
「お前、心配では無いか。」
「何、ガンが一緒だから大丈夫だよ。」
「そうかあ。」
ジョンは、ナイフが、アンの帰り時間が遅くなると危険だから心配していると思っていました。
しかし、ナイフがジョンに話したのは違う意味だったのです。ナイフだけが、ガンの行動のどこかは具体的には分からないが、少しだけ不自然を感じていました。
「それにしてもガンは、最近アンと良く出かけるなあ。」
「そうだな。あいつは良くやってくれるよ。助かるよ。」
「そうか。」
そう言うと食事の支度を始めた。
食事の支度が終わった頃に、アンとガンは戻ってきた。
「ああ疲れた。今日は何かしら。」アンはそう言うと食べ物の前に座った。
ガンは、少し遅れてナイフの横に座った。
ナイフがガンに小さな声で聞きました。
「ガン、お前、今日は何処まで行ってきたのか。」
「ああ、そこまでだよ。」と、ナイフの目を見ないで答えた。
「そこまでと言って、何処までなのか。」
「いや、本当にそこまでだよ。」又、目を見ないで答えました。と言うより、自分の行動を考えると、その目を見る事が出来なかったのです。
「お前、何か都合の悪いことでも有るのか。」
「いやいや、そんな事は無いよ。何も無いよ。本当だよ。」その答え方は、少し慌てて訂正したような言い方でした。
ナイフは、その様子を見て、ますます疑問に感じました。「そうか。」と言うと、鋭くガンを見つめた。
ガンは、明らかに動揺している様子でした。
ナイフは、それ以上は、この場では追求しないようにしました。
「分かったけどなあガン、隠し事は良くないぞ。」
「分かっているよ。」そう言うと、食事の途中なのにガンは外に出て行こうとしました。
ピンクはそんなガンを、
「あらガン、もう食べないの。」
「あ・あ・腹が・腹が一杯だから。」
「あら、でもほんの少し食べただけなのに。アン、あなた達外で何か食べて来たの。」
「ううん、食べていないけれど。」
「そう、どこか具合でも悪いのかしら。」そんなふうに心配していたのです。
「放っておけよ、ガンの事なんか。」ナイフが、そのように言ったので、このことはこれで終わりました。

 ガンは外に出て来たものの悩んでいました。それはアンのことです。アンはもう直ぐに卵を産むのです。
実はガンも、そのことには驚いていました。アンから相談を受けたときに「まさか。」と自分自身を疑ったのです。自分には、その事に対する、自分自身の体にその覚えが有るものの、まさかこのように、幼いアンが卵を産む事が出来るなんて考えてもいなかったのです。でもアンの指示に従い、アンのお腹を触って見ると、確かにアンの言う通り、そのお腹の中には硬くて小さな物が感じられるのです。
「ここを触ってみて、叔父さん。」アンはお腹を大きく広げて、ガンに触るようにと言いました。
「どうしたのだい、アン。そんなにお腹を出すと風邪をひくぞ。」
「良いからここを触って。」
「ああ分かった。急にどうしたのか、アン。」そう言うと指示されたように、アンのお腹を優しくゆっくりと撫でました。
「もっと、もっと強く触って。」
「ああこうかい。」指示されたようにもう一度触った。
「何か感じる、叔父さん。」
「否、何も、何も分からないけれど。」実際、経験の無いガンにはそれが分からなかったのです。
「駄目ねえ、叔父さんは。お腹の中に何かコリコリするものを感じないの。」
「コリコリ。」
「そうよ。今までと違う何かを感じないの。」
今までに何回と無く触ってきたアンのお腹ですが、今までと違う処が有るのかと聞かれると、何か硬い物が有るような気がしました。
「そう言えば、何か硬い物が有るような気がするなあ。」
「そうでしょう。私のお腹の中に卵があるの。」
「卵が。」そう言われても、ガンの脳裏には、未だピンとは来ませんでした。
「そうよ。叔父さんと私のよ。」
「このコリコリと感じられるものが卵なのか。」
ガンは自分の子供より小さな年頃のアンに聞きました。それ位にこのことに関しては、ガンの方が無知だったのです。
「そうよ叔父さん、私のお腹の中で育っているのよ。チッチ姉さんの時もサニー兄さんがこうやって姉さんのお腹を触っていたわよ。」
「そうか。ここで育っているのか。」
ガンは、尚もそのお腹を念入りに触っていました。『そうか、この中でおれの子供が育っているのか。』
嬉しいような、困ったようなそんな感じでした。どうしたら良いのか分からなくなっていました。
ガンは不思議な感覚になっていたのです。
「叔父さん、もう良いでしょう。」何時までも触っているガンに、アンは「もう良いのではないのか」と言い。自分のお腹の乱れた羽を整えた。
「あ、そうだな。御免なアン。」
「嬉しい、叔父さん。」
嬉しいかと聞かれても、直ぐに素直に嬉しいとは言えない気持ちです。
「あ、うん、そうだね、アンがお母さんになるのだね。」
「そうよ。叔父さんもお父さんになるのよ。」
「ああ、そうだね。」
「可愛い赤ちゃんが産まれると良いね。」アンが笑顔でガンの顔を見上げた。
「そうだね。アンがお母さんだから可愛いに決まっているよ。」
「そう、嬉しいわ。」
「良かったね。赤ちゃんが出来て。」
「うん、嬉しい。」アンはとても素直に喜んでいた。

 そんな会話のやり取りで、ガンはアンの妊娠を知ったのですが、この事をピンクとジョンにどのように説明したら良いのか分からず困っていました。
 親子以上に年の離れたアンとこのような関係になったこと、そしてアンは、あれほど迷惑を掛けてきたピンクとジョンの子供だと言う事、ピンクに許してもらってここに居る事ができるのに、その信頼を大きく破ってしまうと言う事を、そしてなによりも、自分のしているこの行動は、自分自身が考えても、一般的な常識が有る者が行う行動では無いと自覚しているということです。

                       つづく

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