猫のひとりごと・私って、野良猫のメグちゃんなの?

野良猫とこの家の人々との、とても愉快な、でもちょっと寂しい生活物語

チキンの冒険

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 サニーとチッチは、約束通り誰にもそのことを言いませんでした。その為に誰もそれに気付きませんでした。そしてチッチは気付かれないまま卵を産んだのです。

卵が生まれてから初めて、回りの鶏達がチッチの異変に気付きました。
「チッチ、貴女お腹を上げてみて。」リリーがチッチに言いました。
「待って。」
「いいえ待てないわ。貴女のお腹の下を見せて御覧なさい。」リリーは気付きました。そしてピンクもローラも気付きました。
「チッチ、さあお腹を上げて。」
チッチは、仕方が無く言われた通りにしました。
「やっぱりそうね。貴女、生んだのね。」
「はい。」
「そう、貴女が。」
「はい。」
ピンクもローラも、その卵を見ていました。
「おめでとうチッチ。おめでとうリリー。この卵から可愛い赤ちゃんが出てくるわよ。」
「ありがとう叔母さん。」
「私はおばあさんになるのね。」リリーも、ニッコリとピンクの顔を見て言いました。
「さあこれから忙しくなるわ。新しい家族が増えるものね。」
「そうね。」ローラはチッチの顔を見ていました。そしてそっと聞きました。
「ところでチッチ、この子の父親は誰なの。」と、小さな声で聞いたのです。
「サニー。」
「そう。そうなの。」
ピンクは小声の会話を聞き漏らしませんでした。聞き漏らしませんでしたが驚きました。チッチが卵を産んだという事が分かった時に、直ぐに、サニーとは結びつける事が出来なかったのです。
『サニーが、サニーがチッチと・・どうしよう。』そんなふうに考えてしまいました。そして直ぐには言葉が出ませんでした。
ローラがすかさずピンクに言いました。
「あらピンク、貴女にとってもおめでとうと言う事なのね。貴女のお孫さんが生まれるのね。」
「孫。」
「そうよ貴女の孫よ。」
「ああ、私の孫。そうね、私の孫なのね。そう、ジョンに言わなくては。」そう言うと、外に出ていたジョンの処に急いで出て行きました。何故かピンクは慌てていました。落着きませんでした。
「ジョン、大変よ。」
「どうした。」
「チッチが卵を産んだの。それが、その父親はサニーという事よ。」
「サニーが。」ジョンは一瞬それが理解できなかった。
「何、サニーが。」
「そうよ。サニーとチッチよ。如何したら良いの。」
ジャックもその会話を聞いて驚いていました。

 急いで帰ってきたジョンは「サニー、お前、チッチとそういうことになっていたのか。お前、何時の間にそうなっていたのか。」と言い、
ジャックも「チッチ、お前サニーとそんな事になっていたのか。」と言った。ジャックは以外にもあっさりとしていました。
「すみません。何時言おうかと思っていたのですが、遂、言えなくて。」
「良いって事よ。これは目出度いぞ。なあジョン。これは久しぶりの良いニュースだなあ。という事は、俺はもう直ぐにおじいさんになるということだなあ。そうか俺に孫が出来るのか。」
「ジャックおめでとう。」ガンとナイフがジャックにおめでとうと言いました。
「いやあ、ありがとう。ジョン、お前もおじいさんという事だぞ。」ジョンの肩をポンと叩きました。
「そうだなあ。そういう事だなあ。」
「ジョン、如何したら良いの私達。」ピンクの問かけに、
「如何したらいいのって・・、とにかく、お前はチッチを見守ってやることだよ。」
「そうね。」そう言うとピンクはチッチの処に行きました。
ピンクにとっては、自分の子供が子供を作るなんて想像すら出来なかったのです。
突然のことで動揺してしまいました。でも、考えてみたら、サニーはもう十分に大人になっていたのですから、こうなるのは、至極当たり前で自然なことなのでした。


 落ち着きを取り戻したピンクは、この後せっせとチッチの世話をしました。
そして、チッチは可愛い男の子を産んだのでした。
その子の名前はジョージと付けられました。
ジョージが生まれたことで、鶏達は更に忙しくなりました。そして鶏達の家も、草原の土手に開いたこの穴だけではとても狭く感じる程でした。窮屈な土の穴ですが、その穴での生活は更に活気付いていました。

 ジョンとサニーは、二人だけで良く行く、岩場の上にいました。ジョンがサニーを誘ってここに来たのです。ジョンはサニーと話がしたかったのです。
「サニー、お前は父親になったのだよ。これからは父親としての自覚と責任があるのだよ。」
「親父、それは分かっているつもりだよ。」
「そうか、それなら良いが・・家族を持つという事は大変なことだ。父親は家族の為に、辛い事や悲しい事があっても、それを乗り越えて、自分の家族を幸せにする為に働かなければいけない。どんなことが有っても家族を悲しませてはいけない。」
「親父もそうだったのか。」
「勿論、そうだ。いろいろな事があったがそれを乗り越えてきた。だから今が有るのだよ。」
「そうか。いろいろな事があったのか。」
「そうだよ。それはそれは大変な事が有ったよ。何れその事はお前にも話をするよ。」
「ああ、なあ親父。」
「なんだ。」
「俺は親父の姿を見て育ってきたよ。俺は大抵の事は分かっているつもりだよ。俺は親父のように、家族に優しい父親になるよ。チッチを幸せにするよ。子供を大切にするよ。心配するなよ。」
「そうか、ありがとう。頼むよ。」
「任せておけよ。それよりも親父、親父はもうおじいさんになったのだなあ。何時までも体を大切にして頑張ってくれよ。俺は親父より体が大きくなって力も有るけれど、まだまだ親父に教えてもらわなければならない事は沢山有るからなあ。頼むよ、親父。」
「何を言っているのかお前は、分かったよ、何でも教えてやるよ。」
「頼むよ。」
 ジョンは、サニーに父親としての心がまえを教えるつもりが、逆に励まされてしまったのでした。
その後も、ジョンとサニーはいろいろな話をしました、そして、暗くなる前には皆の処に戻って行きました。


 ジョージは、多くの鶏達に囲まれて、多くの優しい視線に包まれて、とても元気にすくすくと育って行きました。その生長は、この時期の、豊富で栄養のある食材を食べる事によりとても早かった。
鶏達の生活は、楽しい笑い声に包まれていました。

                            つづく

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チキンの冒険・第4章

四、孫の誕生

 夏も終わりに近づいたこの頃は、とても清々しい天気が続いていました。ジョン達は、実り始めた木の実や果物などで、とても美味しいご馳走を、毎日のように食べていました。       
この頃からの食卓は、そのような、一年で一番美味しい豪華な食事が出来る季節なのです。
この頃に、美味しい物を腹一杯に食べて、皮下脂肪をたっぷりと蓄えて、冬の厳しい季節に備えるのです。

 そんな季節ですから、当然のように、チッチもふっくらとした体付きになっていました。チッチのその体は、とてもふっくらとして福々しい感じになっていたのです。
そんな体の変化を、誰もが美味しい食事を沢山とっているからだと思っていました。しかし、それは間違っていました。チッチは、今にも卵を産みそうになっていたのです。チッチはその事を誰にも言いませんでした。それは、サニーにも同じだったのです。

 チッチとサニーは、以前のようには二人だけで外に行く事が少なくなっていました。それはサニーが大人として認められて、サニーの仕事が増えて、忙しくなっていたからです。でも、全く無くなった訳ではないのです。時々は二人だけで出かける事もありました。そんなでしたから、周りの鶏達がサニーとチッチの事に気が付かなかったのも無理は有りませんでした。

 チッチは、サニーには自分の体の変化を相談したかったのですが、サニーが余りにも忙しそうにしているので、相談する事が出来なかったのです。
サニーは、勿論チッチの体の事を知りませんでした。
親の、リリーもジャックも知りませんでした。
「チッチ、こちらにいらっしゃい。お話でもしましょう。」
「うん、私、少し休んでいるわ。」
「あら、どうしたの。」
「ううん。何でも無いけど。」
「そう、それなら良いけれど。」
リリーの誘いにもチッチは乗ってきません。
チッチはサニーと話をしたかったのです。
「ねえ、サニー。」
「うん、何。」
「今日も忙しいの。」
「否、今日はそんなでもないよ。」
「そう、それならば少し散歩でもしましょう。」
「ああ良いよ。」
チッチはリリーの誘いを断っておきながら、サニーに、散歩に誘って欲しいとおねだりをしました。
「あらチッチ、貴女は今少し休みたいと言ったのに、サニーと散歩に行くのね。そうなのね、若い者だけでどこかに行きたかったのね。ごめんなさいね、そんなことに気が付かなくて。」
リリーは笑いながらチッチに話しかけた。
チッチは少しニッコリとしただけで、それには何も言いませんでした。
「何処に行こうかチッチ。」
「何処でも良いけれど、静かなところが良いわ。」
「そうか、それなら森に行こうか。」
「そうね、行きましょう。」
そう言うと、サニーとチッチは森の方に向かって行きました。

 草原から森まではそれ程遠くでは無いのです。元々、森から出てきて、そこに草原が広がっており、その草原の土手に開いている穴を見つけ、そこを今の生活の場所にしているのですから、森は直ぐ近くにあるのです。森が近くにあるので、森の中に有る木の実や昆虫なども豊富に取ることができていたのです。
森の中に入って行くと、そこは木陰になっていてとても涼しかった。
「ここにするか。」
「嫌、もっと歩きましょう。」
「そう、そんなに遠く迄行くの。」
「もう少し歩きましょう。」
「良いけれど、さっきは叔母さんが誘った時、少し休みたいと言っていただろう、大丈夫かい。」
「大丈夫よ。何でも無いのよ。」
「そうか。それならば良いけれど。」
そう言うと、更に奥に入って行きました。
「あそこに岩場が有るから、あの上に登ろうか。」
「そうね、行きましょう。」
森の奥にある、一際大きな岩をサニーが指差しました。
そして、サニーとチッチはその岩を登って行きました。
チッチは大きなお腹を支えながらゆっくりとした足取りで登って行きました。
サニーはそんなチッチを心配そうにしていました。
「チッチ、お前、最近少し太りすぎだぞ。」
「そうなふうに言わないで。」
「少し体の事も考えたらどうか。」
「考えているわよ。」
「そうかあ、でもなあ。」と言って、もう一度チッチの体を見ていた。
「そんなに太ったかしら。」
「うん、少しなあ。」
「そう。」
チッチはサニーに手伝ってもらいながら、岩場の頂上まで登りきりました。
「ああ疲れた。息が切れるわ。」
「そうだろう。だから言っているのだよ。」
「分かっているわ。」
「そうか、それなら良いが・・。」
「少し休みましょう。ここは景色が良いわねえ。気持ち良いわ。」
「そうだろう。実は、俺は一人で時々ここに来ているのだよ。」
「そう、ここに・・で、ここに来て何を考えているの。」
「特別に何と言う訳でもないけれど、たとえば親父が弱くなったなあとか、そんなことだよ。」
「ふうん。」
「・・・・。」
「私の事は。」
「チッチの事も考えているよ。」
「そう。」
「・・・・・。」
「どんなふうに。」
「どんなって、どう言うこと。」
「たとえばどんなことを考えているの。」
「たとえばか、そう、元気かなあとか。」
「毎日会っているのに、元気かなあと考えているの。」
「他にもいろいろと考えているよ。」
「そう。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「チッチ、お前、今日は何か変だぞ。話があるのだろう。」
「そうなの。」
「で、何。」
「うん、ねえ・・サニー、何だか分からない。」
「えっ。」
「分からないのね。」
「なに。」
「太ったと言ったでしょう。」
「そのことか、気になったのなら御免。」
「ううん、そうでは無いの。」
「何。」
「私ね、お腹の中に赤ちゃんが出来ているの。自分で分かるのよ。それでお腹が大きくなっているの。」
「あ、あ、あかちゃん?。」
サニーはその言葉に驚いてしまいました。想像していた言葉ではなかったのです。思いがけない言葉でした。
「あかちゃん。と言う事は子供が出来るという事か。」
「そうよ、貴方の子供よ。」
「俺の・・・おれ・・俺に子供が。」
それを聞いてもサニーはピンと来ませんでした。まだ実感が湧くまでには到底至りませんでした。
「チッチ、お前が母親になるのか。」
「そうよ卵が生まれて、そこから赤ちゃんが出てきたら、それは私と貴方の子供よ。」
「そうか。それで何時子供が生まれるの。」
「それは未だ私にも分からないけれど。」
「ああそうか、お前は・・未だ生んだ事が無いものなあ。」
「そうよ。」
「子供・・。」
「子供よ。」
「俺の子供・・。」
「嬉しくないの。」
「えっ、どうして。」
「さっきから嬉しいと言わないもの。」
「あっ、そうか。う、嬉しいよ。」
「何だか嬉しく無いみたい。」
「いや、嬉しいよ。嬉しいよ。」
「本当に嬉しいの。何だか困っているみたいな顔をしているわよ。」
「いやそうじゃなくて、どうしたら良いのか分からなくて。」
「そうね。サニーにとっても初めての事ですものね。」
「そう・・そうなんだ。それにそんなこと考えてもいなかったから。」
「そう、ビックリした。」
「うん、驚いた。それでこの事は誰か知っているの。」
サニーは、とても驚き動揺してましたが、チッチは、そんな事を分かっていたかのように落ち着いていました。
「誰も知らないわよ。叔母さん達も気付いていないみたいよ。」
「そう、それなら早速言わなくてはいけないなあ。」
「言うのは少し待って。」
「どうして。」
「うん、恥ずかしいから卵が生まれてからにして、お願い。」
「そうか、分かった。」
「御免ね。」
「良いよ。そうか俺はもうじき親父になるのか。俺が父親になるのか。分かった。分かったよ。それならば今まで以上に頑張らなくてはいけないなあ。子供とお前が幸せになるように頑張らないと、頑張るぞ。」サニーは、父親になるという実感が少しずつ湧いてきたようです。
                    次ページにつづく

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チキンの冒険・第4章

三、親と子の間

 ジョンがサニーに腕相撲で負けてからは、ジョンとサニーの関係には、明らかな変化が起こりました。
 サニーが成長するにつれて、父親であるジョンとの関係が、少しギクシャクしていたのです。それは、ジョンが父親として、サニーに注意をしたり指示をしたりすると、サニーはその指示や注意に対して、反発した態度を取ることが多くなっていたのです。サニーにしてみれば、自分は、既に大人になっているという自覚も有ったので、そんなに細かな事まで、子供のようにいちいち指示をされたくない、もっと自分を認めて欲しいという気持ちが強かったから、ジョンの指示には苛立ちもあって、言葉には出さずに態度で反発するようになっていたのです。
 その態度に対して、ジョンも、サニーの態度が父親に対する態度では無いと感じて、その行動に少し苛立ち、余計に煩く指示や注意をすることがありました。
ジョンが注意すればするほど、サニーがそれに反発するという悪循環になっていました。
 ピンクはそんな親子の関係を見ていて、何れは良くなるからと、あえて親子の間には立ち入らないようにしていた。
 しかし、ボビイが腕相撲をしようと言い出したことから、偶然にも親子で対決する事になってしまいました。その時までは、ジョンもサニーもそうなるとは思っていなかったし、ましてや、父親のジョンが、こんなに簡単に、サニーに負けてしまうとは思ってもいませんでした。
ジョンは、負けた瞬間にとても寂しい思いと、サニーの、自分を超えるまでになった成長に驚きましたが、それはサニーも同じで、父親の力がこんなに弱かったのかと、改めて感じた一瞬でした。
父親は自分より弱かった。自分より力が無かったと、始めて知ることになったのです。それを知ったときに、そして、負けていつまでもその倒れた自分の腕を見ている父親が、何故か哀れに感じてしまったのも事実なのです。
『こんなに簡単に負けてしまうのか。こんなに力が弱かったのか。それとも自分が父親よりもはるかに強くなってしまっていたのか。それはいつ頃からそうなっていたのか。』そんな事を感じてしまったのです。

 ジョンは、このときからサニーに対して多くの指示や注意を言わなくなっていました。この時から、これを切っ掛けとして、サニーが大人になったと認めたのです。認めざるを得なかったのです。
『もうサニーは自分の手から離れた。これからはそっと見守ってやるだけ。何かを聞きに来たら、その時には自分の知っていることをできるだけ丁寧に話してやろう。』
そんなふうに思い始めていたのでした。
 
 サニーも、今までのように父親に反発したような態度をとることは無くなっていました。ジョンが、サニーに注意や指示を出す事は少なくなったが、それでもジョンが、この大家族のリーダーで有ることには違いが無く、父親としてではなくリーダーとして指示を出す事はありました。そんな指示には素直に従っていました。それは、明らかに今までの態度とは違っていたのでした。
 もう一つ違う事がありました。それはサニーの言葉です。
今までは父親に対して、「パパ」と言っていましたが、それが何時の間にか「親父」と言うようになっていたのです。「パパ」と「親父」の違いが何処にあるのかは分かりませんが、誰かが教えた訳でもないのに、「親父」と言うようになっていたのでした。
 ジョンもピンクも、そんなサニーの変化を頼もしく感じていました。それは他の鶏達も同じでした。

 ジョンがサニーに何も言わないと、サニーの方が気遣うようになっていました。
「親父、今日は午後から天気が悪くなりそうだよ。」
「そうだな。雲行きがあやしいな。」
「そうだよ。午後には雨になるかも知れないよ。食事探しに行くなら早く行ったほうが良いと思うけれど、どうかなあ、親父。」
「そうだな。その方が良いかもしれないな。」
「行こうか。親父。」
「ああそうするか。皆、今日は午前中に済ましてしまおう。」
「ああ分かった。」皆はそれに賛成した。
「俺とジャックは野菜を採りに行こう。ガンとナイフとサニーは川に行け。だけど注意してくれ。もしも雨が降ってきたら川の水が増えるから、その前に帰って来い。無理して捕らなくても良い。ああ、サニーは未だ水には慣れていないので深い所には行くな。」
「親父、分かったよ。親父の方こそ、雷が来るかもしれないので注意してくれ。」
「ああそうだな。それとボビイ、お前も付いて来るかい。お前もこれからは大人の仲間入りをするように少しずつ色々な事を覚えるのが良い。」
 ジョンがボビイを誘うとローラが、「あら、ボビイも連れて行ってくれるの。嬉しいわ。ボビイ、ジョン叔父さんが連れて行ってくれるそうよ。行ってらっしゃい。」
 ローラは嬉しかったのです。サニーの成長振りを目の当たりにして、自分の子供のボビイも、サニーのように立派な大人になって欲しいと思っていたのですから。
「ワア嬉しい。僕も連れて行ってくれるの。嬉しい、何を取りに行くの。」
ボビイは飛び上がって喜んでいました。ボビイはジョンから誘われたのが勿論嬉しいのですが、母親が、自分が誘われた事に対してとても喜んだ表情をしたのが更に嬉しかったのです。母親の心境を敏感にキャッチしていました。
「ボビイ、お前は初めてだから、叔父さん達の言う事を良く聞くのだよ。」
サニーがボビイを心配して優しく言いました。
「分かっているよ。分かっているってば。」
「そうかそれなら良いが、お前は心配だから。」
「大丈夫だよ。」
ボビイがそう言うと、ジョン達は野菜採りに出かけて行きました。
そして、直ぐ後をサニー達も出かけて行きました。

 その日の午後は、サニーの予想したように雨が降ってきました。その雨は雷と共にやって来ました。
その為に、サニー達は余り多くの食料を捕って来ませんでしたが、ジョン達が多くの野菜や昆虫を取ってきたので、何時もの様に楽しい食事となりました。否、何時もよりはるかに喧しく賑やかな食事となっていました。その原因はボビイとローラにありました。
 ボビイが初めて取ってきた食材が食卓に並んだのですから、ボビイがはしゃがないはずが無いのです。そしてそれは、母親であるローラも同じでした。自分の子供を、サニーのように立派に生長させたいと願う母親の、素直な態度があからさまに出ていました。ローラの、そんな素直で隠し立ての無い態度に、皆は悪い気持ちはしませんでした。ただ、余りにも素直すぎて『ローラこそ、少し大人になって欲しい。』と思うくらいでした。

 
前ページよりつづく

 ジョンはフウと溜息を付いて、尚も負けたその手を見つめていました。
 重い空気を打ち払うようにガンが、
「ジョン、サニーは随分強くなったなあ。これなら俺も負けそうだなあ。」と。明るく言いましたが、誰もその言葉には乗ってきませんでした。
間の悪くなったガンは、「ああジョン、そうだ今日は魚でも捕りに行こうか。」と、話題をそらした。
「そうだな。」ジョンは静かに答えたが、その話にサニーが乗ってきた。サニーもこの場の雰囲気を変えたかったのです。
「ああ僕も行くよ。そろそろ捕り方を教えてよ。」
「そうだな、お前は力持ちになったかも知れないが。まだまだこういう事の知恵は無いからなあ。」
「そうだよ。僕はまだまだ叔父さん達にはかなわないよ。」
ジョンはサニーの言いたいこと、サニーの気持ちが分かりました。
『こいつは、俺に気遣っているのか。』そんなサニーをますます『大人になったなあ。』と思ったのです。
突然、ジョンが笑い出しました。
「アハハハハ。こいつは俺よりも力が強くなりやがった。何時の間にこんなに強くなったのか。アハハハ。」
ジョンが笑ったので、皆も一斉に笑いました。
「アハハハ、本当にそうだ。これからはサニーにもっと働いてもらうぞ。何といっても一番力持ちだからなあ。アハハハハ。」
「アハハハハ。」
「アハハハハ。」
 ジョンが笑った事により皆は笑う事が出来たので、その場は急に明るくなりましたが、ピンクは笑いませんでした。
ピンクはジョンがどんな気持ちで笑ったのか、そして今、どれほど寂しく感じているのか、それが分かるのです。子供が、自分を追い越した事を確認したのが、今の腕相撲でした。そしてこれからは、あらゆる事で子供に追い越されて行くのです。
それが分かったのも、この時でした。
 父親達とサニーは、何事も無かったかのように魚捕りに出掛けて行きましたが、ジョンの後ろ姿を見ていたピンクは、急にその姿が小さくなったように見えました。
『ジョン。』
ピンクは心の中で声を掛けていたのです。


 その翌日に、ジョンがピンクを誘い出しました。
ジョンは、皆の前で話せない事があると言い、ピンクを外に誘い出したのです。
 この時は腕相撲の後でしたから、ピンクはジョンが何を言い出すのか直ぐに分かりました。
 夕食の時も、ジョンは明るく振舞っていましたが、その様子は何時もとは少し違っていたのです。
 他の鶏達はそんなことには気付きませんが、ピンクには分かっていました。分かっていたのですが、ジョンの為とも思い、何も言わなかったのです。
 何時もの場所に来ると、ジョンが話し始めました。
「ピンク、俺が負けると思っていたか。」
「思っていなかったわよ。貴方が勝つと思っていたわよ。」
「そうか。俺が手加減したと思うか。」
「分からないわ。」手加減していない事は分かっていましたが、分からないと答えました。
「俺は本当に負けてしまったよ。力一杯に戦って、負けてしまったよ。」
「そう。」
「あいつは強くなった。」
「そうね。」
「あんなに強いとは思わなかった。」
「そうね。私も思わなかったわ。」
「何時の間に、あんなに強くなったのかなあ。」
「分からないけれど、これからもどんどん強くなるわ。」
「そうか。これからもっと強くなるか。そうなると、もう俺には戦える相手では無いなあ。」
ピンクはジョンの顔を見ました。その瞳は寂しそうに遠くを見つめていました。
「ジョン。」
「何。」
「サニーは強くなったけれど、まだまだ知らない事は沢山あるわよ。力だけで強くなったと思っていては駄目よ。これからは、貴方の持っている経験や知恵が必要な事が沢山あるのよ。これからも、サニーや他の子供達を立派な大人になるように、しっかりと指導していかなくては駄目なのよ。やることは一杯あるのよ、ジョン。」
「そうか、力だけでは駄目か。」
「そうよ。サニーには、もっともっと貴方が必要よ。頑張ってね、ジョン。」
「そうか、お前にそう言われると元気が出るなあ。」

 ピンクは、心の中で、単純なジョンを笑っていました。そして、自分がジョンを支えて行かなければいけなのだと、この時、改めて感じていたのです。
『貴方は本当に扱い易いわねえ。元気をだしてジョン。皆は、貴方をもっともっと必要と思っているわよ。』
『さあ、皆の処に戻って、元気な貴方を見せるのよ。そして皆を引っ張って行って下さい。』
                           つづく

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チキンの冒険・第4章

2、 腕相撲

 この日も、朝から楽しい一日が始まろうとしていました。遅い朝食を軽く済ませた後に、ボビイとサニーが腕相撲をしていました。それは、ボビイがサニーに挑戦したことから始まりました。
「サニー兄さん、僕は凄い力持ちになったよ。」
「そうかい。」
「サニー兄さんにも負けないくらいになったよ。」
「ほう、それは凄いじゃないか。」
サニーは、笑いながらボビイの話を聞いていました。その時はボビイと腕相撲をする気など無かったのです。サニーとボビイとでは明らかにサニーの方が強く、相手にはなりません。
それでもボビイは、自分がサニーと勝負できるくらいに強くなったと、繰り返し言いました。
「兄さん僕と力比べをしようよ。」
「アハハハ、お前とか。アハハハ、もう少し大きくなってからにしようか。」お前のような子供では相手にはならないよと言いたかったのですが、そうは言わずにもう少し大きくなってからだと言ったのです。
「僕はもう大きいよ。お兄さんと比べてもそんなに小さくは無いよ。」
確かに背丈だけはサニーとボビイは殆ど違わないくらいになっていましたが、その体は未だ骨格が弱そうで、筋肉も付いていなくて、サニーのように大人の体格ではありませんでした。
「ほらこんなに大きいよ。兄さんより大きいくらいだよ。」
サニーの近くに来て、背の高さを自慢しましたが、
「ボビイ、力持ちになるには背丈が伸びているだけではだめだぞ。」
「力が有るってばあ、やろうよう。」
「しつこいなあ、お前では俺の相手にはなれないよ。」
「なれるよう。」
本当にしつこいなあ、お前は、

 その話を聞いていたジャックがサニーに言いました。
「サニー、仕方が無いからやってやれよ。」
「嫌だよ。ボビイとなんかやりたくないよ。」
「サニー、遊びだと思って、やってやれば良いじゃないか。」
ジャックにそこまで言われると、サニーも困ってしまいました。
「サニー、悪いなあ。少し相手をしてやってくれるか。」
ナイフも、サニーに相手をしてやって欲しいとお願いをしました。
サニーは仕方が無く相手を引き受けましたが、その時は腕相撲そのものを余りやりたくなかったのです。
「分かったよ。ナイフ叔父さんに頼まれては仕方が無いですね。」
「やったあ。」ボビイは喜んでいました。
「それではボビイ、遠慮はしないぞ。」
そう言うとサニーとボビイが、石の台を間にして向かい合った。
そして腕相撲が始まったが、勿論ボビイが戦える相手ではありませんでした。ボビイがどれほど力んでも、サニーの腕はビクリともしなかったのです。そしてサニーがほんの少し力を入れただけで、ボビイの腕は倒れてしまいました。
「どうだボビイ、お前にはまだまだだろう。」
そう言うとニコリと微笑んだのです。
ボビイは何も言わずに、しょんぼりとして戻っていきました。
「サニー、強いなあお前は。どうだ俺とやってみないか。」サニーの強さに感心したジャックが、サニーにそう声を掛けました。
「え、ジャック叔父さんとやるの。」
「そうだよ。」
サニーはその誘いには驚きましたが、それも面白い事だと思いましたので直ぐに返事をしました。
「ええ、勿論良いですよ。」
「そうか、それならやるか。良いか、お互いに手加減無しだぞ。」
「勿論です。」
さすがに、サニーは、体が興奮してきました。今までも、自分が父親達には負けないくらいの力が付いてきたとは思っていたのですが、それを試す機会も無かったのですから、サニーが興奮と緊張で力が入るのは当然のことなのです。
「叔父さん、やりましょう。お願いします。」
「ジョン、見ておれ。俺とサニーの勝負だ。」
この時は、誰もジャックが負けるとは思っていませんでした。
そして勝負が始まった。

「頑張れ、サニー兄さん。」ボビイがサニーを応援した。
父親たちもこの勝負を面白そうに見ていました。
母親達は父親達ほどではなかったのですが、サニーとジャックの勝負を楽しそうに見つめていました。
そして勝負が始まりまった。
その勝負は、どちらが勝つか分からないほど接戦になりました。
ジャックは自分の予想とは違い、サニーの力がとても強いのに驚きました。そして顔を赤くして真剣に戦いました。まるでジャックが挑戦者のような戦い振りになったのです。
そのうちにジャックには疲れが出たのか、手がブルブルと震え始めた。そしてその手がゆっくりと倒れたのです。
「ふう、サニーお前は強いなあ。こんなに強くなったのか。」
皆も驚きました。サニーが勝つとは想像していなかったのです。
「サニー、貴方そんなに強いの。」
母親達も、サニーを見直したように言いました。
ピンクは、そんなサニーを見て、とても嬉しかったのは言うまでも有りません。
「ジョン、凄いわねえサニーは。」
「ああ、そうだな。」
ジョンは、サニーの成長振りを改めて知ったのです。

 ジャックはハアハアと荒い息をしていましたが、ジョンに言いました。
「ジョン、サニーは予想以上に強いぞ。お前、サニーと戦ってみろ。」
「え、いや良いよ。」その言葉を驚いて遮った。
「そう言うな。お前自身で確かめてみよ。」
ジョンは戦いたくなかったのです。皆の前でサニーに負けることを思うと、それはやりたくなかったのです。
サニーもそうでした。ジャックに勝ったのですから、父親にも勝ってしまうかもしれない。勝てば自分は嬉しいが、父の事を思うならば、戦うのが良いのかどうか迷いました。
「さあ、ジョンやってみろ。」
「そうだよジョン、やってみたら良いじゃないか。」ナイフもジョンに戦ったらどうかと勧めてきた。
「いやあ。」ジョンはハッキリとした返事をしませんでしたが、
「ジョン、やってみたら。」ピンクは、ジョンの気持ちもサニーの気持ちも分かっていましたが、この時ばかりはその結果に興味を持ちましたので、ジョンにそう言いました。
「そうかあ。」
気乗りはしなかったが、ピンクに勧められてジョンはやることにしました。
「パパ、やるの。」
「ああ、やるとするか。」
「そう、でも手加減しないよ。」
「当たり前だろう。」
「分かった。」
そう言うとジョンとサニーは向かい合った。そして勝負に入りました。

 その勝負は、それ程長い時間は掛かりませんでした。ジョンが真剣にサニーに向かって行きましたが、サニーの力には及ばなかったのです。勝負は呆気なく付きました。サニーの勝ちです。
負けたジョンは、倒れた手を起こさないで、暫くそのまま見ていました。そしてゆっくりと起こしました。
皆の顔を見ると、皆は不思議そうな顔をしていました。戦う事を進めたジャックとナイフもジョンを見て何も言いません。戦うように勧めたものの、ジョンがこんなに簡単に負けてしまうと、何か寂しくなってきて、何も言えなくなってしまったのです。
楽しくて遊びのつもりで始めたのに、終わってみれば何か寂しくて、不思議な感覚になりました。このような感覚になったのは、皆、始めてのことです。
勝ったサニーも同じでした。父の顔すら直視できませんでした。
『何だろう。勝ったのにこの不思議な感覚は何だろう。』そう思っていました。
ピンクも同じでした。こんなにあっさりとジョンが負けるとは思っていなかったのです。
『ジョンに戦うようにと勧めなければ良かった。』そう後悔しましたが、しかし、それはもう遅かった。『ごめんなさい。ジョン。』心に中で謝りました。

次ページにつづく

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