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前ページよりつづく そう言うとピンクはジョンと出て行きました。その日はとても空が晴れ渡り、気持ちの良い日でした。 「まあ、良い天気ね。とても気持ちが良いわ。」 「そうだなあ。とても良い天気だ。何時までも良い天気が続くと良いなあ。」 「そうねえ。天気が続くと良いわねえ。」 「うん。」 ピンクは、ジョンが言いたい事をなかなか言い出さないなあと思い、じれったく感じていました。 「ねえジョン。」 「うん。」 「貴方、私に何か話したい事があるのではないの。」 「え、どうして。」 「貴方が、そういうふうに、真面目そうに私を誘う時は、何か話がある時よね。」 「え、そうかなあ。」 「そうよ。だから今日も何か有るのでしょう。」 「そうかなあ。俺、真面目そうに誘い出したかなあ。」 「そうよ。でもそんな事はどうでも良いのよ。何か話したい事があるのなら話したら。」 「ああ、その事か。」 「それで、何なの。」 「ああ、ピンクも今は幸せか。」 ピンクは何を聞いてくるのかと思っていたが、幸せかと聞かれて暫くジョンの顔を見つめてしまいました。そして笑ってしまいました。 「何を言っているのよ急に。幸せに決まっているでしょう。貴方、一体どうしたのよ。」 「いや、お前が幸せかなあと思ったから聞いたのだけれど。」 「そう、幸せよ。とても幸せよ。」 「そうか良かった。」 「貴方はどうなの。幸せではないの。」 「幸せだよ。」 「それならば良いじゃないの。幸せがどうかしたとでも言いたいの、貴方は。」 ピンクは、尚も笑っていました。 『ジョンは一体どうしたのかしら。何を言いたいのかしら。』 笑いながらも、ジョンの顔の変化を読み取ろうとしていました。 ジョンは暫く考え込んでいるような表情をしていました。遠くを見つめて何かを考えているのです。 「ジョン、貴方何を言いたいのか分からないけれど、言いたい事は言って御覧なさい。」 「ああ。」 「・・・・。」 「実はなピンク、俺は考えていたのだよ。」 ピンクはじれったいなあと思った。ジョンが考え込んでいたのは、その表情を見れば分かっていることです。 「だから何を考えていたの。」 「うん、俺達は今とても幸せだよな。」 「そうよ幸せよ。それはさっきも言ったでしょう。同じ事ばかり言っていないで、何を考えているのか早く言いなさいよ。」 「うん、それでな。その幸せだけど・・その幸せが何時までも続くのなら良いが・・今までも幸せを感じていた時は何度か有ったよなあ・・でもその幸せは永くは続かなかった。」 ピンクはジョンの考えている事が分かりました。その事が分かるまでにこんなに時間がかかるのかと思うと少しイライラとしましたが、これがジョンの良いところでも有り、それを分かった上で、ジョンが好きなのだからと自分を納得させていました。 ジョンの顔を見ていましたが、ジョンの考えが分かりましたので、 「そうね、幸せが続くと、直ぐに苦労していた時の事を忘れてしまうものね。忘れるだけなら良いけれど、その内にわがままな考えも出てくるのよね。そして自分勝手になったりして。」 「良く分かっているじゃないか、ピンクは。」 ジョンが言いたい事をピンクが全部言ってしまいました。 「当たり前よジョン、貴方と暮らし始めてどの位の月日が経ったと思うの。貴方の言いたいことくらいは分かるわよ。」 「そうか、それなら話は早いよ。今回もな、この幸せが続けば良いが、きっとその内に誰かの事が問題となり、いざこざが起こるだろうなあ。」 「起こるかもしれないわね。でもそれも仕方が無いことよ。そうなったら、その時に解決方法を考えれば良いのよ。」 「そうか、お前は良いなあ。」 「何が良いの。」 「うん、そうなったらその時には解決方法を考えれば良いが。でもなピンク、俺達はどうして幸せを続ける事が出来ないのかなあ。どうして幸せが続くと我がままで自分勝手になってしまうのかなあ。」 「それは、もっともっと幸せが欲しいからよ。」 「どうしてそこで満足しないの。」 「貴方達は、幸せが欲しいからこうやって外に出てきたのでしょう。その幸せって何だと思っていたの。幸せって、何が幸せなのか未だ良く分かっていないのよね。それは私もそうよ。私達は欲しい物を殆ど手に入れたような気がするわ。でもそれはそういう気がするだけよね。本当に手に入れているのか、まだ何かがあるのか、それが分かっていないのよね。だからもっともっと幸せが欲しいと思うのよ。」 「そうか、幸せがどのくらいであれば満足できるのかが分からなくなっているのか。」 「そうよ。それが分からないからもっと欲しいと求めるのよ。」 「そうか。それでは、一体それはどれほどの物を持ったら満足するのか。」 「それは誰にも分からないわよ。」 「そう・・・。」 「そうよ。行くとこまで行ってみないと分からないわよ。」 「そう・・・。」 「貴方は、皆をそんな処迄連れてきてしまったのよ。だからこれからも行ける所まで行くのよ。」 「行ける処迄。」 「そうよ。頑張ってねジョン。」 「ああ。」ジョンはハッキリしない返事をしました。 ピンクは、何時かもジョンとこんな話をしたように思っていました。そして又、時々こんな話を繰り返すのかなあとも考えていました。繰り返しても答えの無い会話だと分かっていました。 ピンクは、ジョンが何の考えも無く、ただ単純に外に出て行ってみたいと思いつき、それが元でこうなったという事も分かっていましたが、今はジョンを励まして、進むところ迄進んで行くしかないと心の中で決めていたのです。 『ジョン、ご苦労様ですが、皆の為にも頑張って下さい。』そして『体には気を付けて下さい。余り無理をしないように。』そう心の中で祈っていました。 「さあジョン、戻りましょう。アンや皆が待っているから戻りましょう。」 「ああ、戻るか。」ジョンは、ピンクにもっと話を聞いて欲しかったのですが、ピンクが戻ると言うので、仕方が無く戻る事にしました。 皆の処に戻ると、皆は幸せそうに話し合ったり、じゃれ合ったりしていました。ピンクもジョンも、そんな楽しそうな姿を優しく見つめていました。
ジョンもピンクも同じ事を思っていました。 『幸せが何時までも続くと良いなあ。』 つづく |
チキンの冒険
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1.成長した子供 「サニー、夕食を一緒に食べましょう。」ピンクがサニーに呼びかけましたが、 「ああ、先に食べていて良いよ、未だ明るいからもう少しここに居るよ。」サニーは見張り台の上で、辺りの様子を窺っていたのです。この日の見張りの番はサニーでした。 「サニー、もう大丈夫よ。戻って来なさいよ。」 「うん、もう少しここにいるから、皆で先に食べていてよ。残して置いておいてくれれば良いよ。」 「そう、分かったわ。余り無理をしないでね。」 「分かっているよ。大丈夫だよ。」 ピンクは、この頃のサニーには、頼もしさを感じていました。 『あの子はもう大人になったのね。立派な大人になったわ。』とても嬉しく感じていました。嬉しかったのですが、同時に少しばかりの寂しさもありました。それは、生長と共に自分の手の届かない処に行ってしまう様な、そんな寂しさでした。 でも、それは仕方が無いこと、何時かはそうなると分かっていた事なのだと、自分に言い聞かせていました。 「ジョン、サニーはもう少し見張り台に居るそうよ。」 「そうか。あいつもしっかりしてきたなあ。分かった。それならば先に、皆で食べようか。」 「そうね、そうしましょう。」 ガンが、ジョンに話し掛けてきた。 「最近のサニーは俺達よりも良く働くよ。ジョン、お前、そうは思わないか。」 「そうかなあ、そんなに働いているかなあ。」 「お前は父親だから、自分の子供には厳しく見ているかもしれないが、あいつはもう立派な大人だよ。」 ピンクは、皆がサニーをその様に評価してくれているのかと思うと嬉しく思っていました。 「いやいや、まだまだだよ。まだまだあいつは子供だよ。」 ジョンも嬉しかったのですが、照れくさくて素直には『そうか』と言えなかったのです。 「厳しいなあ、お前は。それではあいつが可哀相だよ。もう認めてやったらどうか。」 「その時が来たら認めてやるさ。」 ジャックも話し掛けてきた。 「お前は、もしかしたらサニーと張り合っているのではないのか。あいつがあまり完璧に仕事をすると、お前の出る幕が無くなるのを心配したりして。」 「ばかな。何を言っているのかジャックは。冗談は止せよ。」 「そうか。案外ズバリだったりして。」 「何、アハハハハ。」 「アハハハハ。」 「アハハハハ。」 ピンクは、そんな会話をニコニコしながら聞いていました。 「貴方たち、そんな事ばかり言っていないでさっさと食べて、早く食べてサニーの代わりに見張り台へ行ったらどうなの。」 「ああ怖い、ローラは怖いなあ。」ローラが父親達に言いましたので、父親達は食事を始めました。 「誰がサニーの代わりに行くのかなあ。」 「ジョン、お前が父親だから、お前が行けよ。」 「いや、今日は疲れたからジャックが行けばどうかなあ。」 「何で俺なの。疲れたのは俺も同じだよ。それならナイフが行けば良い。」 「待て待て、俺は昨日が当番だったよ。それは無いだろう。」 「それならガンだな。ガン、お前行ってやれよ。」 「俺に行けって言うのか。俺にか。」 そんなふうに冗談含みで楽しそうに会話をしながら食べていたら、母親達が怒りました。 母親達にとっては、それは冗談には聞こえなかったようです。 「貴方たち、何を言っているの、そんなこと言っていて恥ずかしくないの。父親としての自覚は、一体何処に行ってしまったのよ。」ローラが大きな声で父親達を叱りました。 「おやおや、又、ローラか。ローラにはかなわないなあ。」 「ローラだけでは無いわよ。私も貴方達の話を聞いていて情けないと思ったわ。貴方達はそれでも父親なの。」ピンクもそう言いました。 「子供に任せて、自分達は良くのんびりしていられるわねえ。」リリーも捻くって言いました。 母親達は皆一様に同じ事を感じていたのです。 「分かった。分かった。そんなに全員で責めて来るなよ。今の俺達の話は本気では無いよ。食べ終わったら俺が行くから大丈夫だよ。」ガンがそう言いましたが、 「それならば、さっさと食べて早く行きなさいよ。」と、母親たちに言われてしまいました。 「怖いなあ。分かったよ。分かったよ。行くよ。」 そう言うと、ガンは少し食べただけでサニーの処に交代に行きました。 サニーの処に来るとガンは言いました。 「サニー、大変だよ。お前が頑張るものから皆が叱られているぞ。」 サニーにはその意味が分かりません。 「えっ、どうして僕が頑張ると皆が叱られるの。」 「お前が頑張りすぎだから叱られるのだよ。」 「頑張り過ぎて・・、良く分からない。どうして頑張ると叱られるの。」 「それはお前が大人になると分かるよ。」 サニーはますます分からなくなり、その答えが不満でしたが帰る事にしました。 「ふうん、分かったよ。帰りますから、叔父さん、後はお願いします。」そう言って帰って行きました。 皆の処に戻ると、 「ねえ、僕が頑張ると叔父さん達が怒られると聞いたけど、どうしてなの。」 「何、ガンがそんな事を言ったのか。」 「そうです。ガン叔父さんが、僕が頑張って仕事をすると、皆に迷惑を掛けるような事を言うのだよ。」 「そうか、そんな事を言ったのか。それはな、ガンのジョークだよ。気にするな。」 「ジョーク。」 「そうだよジョークだよ。お前があんまり頑張るから、ジョークを言ったのだよ。」 「そうジョークなの。でもどうしてそんな事を言うのかなあ。」 「お前ばかりが誉められるからだよ。」 「誰に。」サニーは辺りを見回した。 すると、母親達がニコニコしながらサニーを見ていました。 「叔母さんたちが。」 「そうよサニー。貴方が立派になったと話していたのよ。」 「そうかなあ、僕はそんなには思わないけれど。」そう言ったものの、実はサニーは皆の視線がとても嬉しかったのです。 「食べよう。」そう言うと、照れくさそうに食事を始めた。 そんなサニーを、母親達は尚も頼もしそうに見ていました。 サニーは、母親達の視線を感じながら食事を取りました。その視線はくすぐったいような恥ずかしいような感じを受けましたが、それは、サニーにとって、とても気持ちの良いものでもありました。 この平原に移ってからの生活は、平穏な何の心配も無い楽しい日日となっていました。このような平穏な時が何日も続くと、不思議なもので、鶏達の間には今までの苦労が嘘のような、穏やかな生活となるのです。それは、あたかも、これまでの苦労や悲しみを忘れたかのような振る舞いにもなるのです。
しかし、ジョンは気付いていました。これまで何時もそうであったように、幸せな生活が続くと、その後には必ず苦しみや悲しみがやって来るということを。 ジョンはそれを心配していました。 皆の幸せそうな生活ぶりを見ていると、せっかく楽しそうにしているのに水をさす事になり、何も言わないようにしていましたが、ジョンは不安を感じていました。 ジョンは誰にも言えないでいましたが、ピンクに自分の気持ちを打ち明けることにしました。 朝の軽い食事が終わった後に、ピンクにそっと声を掛けました。 「ピンク、今日は良い天気だから少し散歩をしないか。」 「良いわよジョン。」 ピンクは、ジョンの気持ちが分かっていました。ジョンの様子を見ていればジョンが何を考え、何をしようとしているのかは直ぐに分かるのです。『ああ、又か、ジョンが何かを相談したがっているわ。きっと何か不安な事があるのね。』 「アン、ここで大人しく待っていてね。お父さんとお母さんは少し散歩に行って来るから。」 「うん、良いよ。ゆっくり行って来て。」 「サニー、アンを頼むわね。」 「ああ。」 次ページにつづく |
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チッキンの冒険 |
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二十一、皆で幸せになりたい もうあの穴には戻れません。戻れば、又、何時野犬の群れが襲ってくるか分からないのです。ジョン達は眼が覚めると、空腹も押して出発しなければなりませんでした。 「お腹が空いた。」と、子供達が言いましたが、それよりも出来るだけ遠くに行く事が最優先でした。 「出発するよ。その途中で食べられる物があれば食べようよ。」そう言うと鶏達は歩いて行きました。斜面を下へ下へと下がって行きました。 食べ物を確保する事はできました。鶏達には、それが出来る能力が備わっていたのです。逃避行の途中で食べられる物を食べたので、お腹の空腹は直ぐに解消されました。 鶏達の逃避行は何日も続きました。何日も何日も進んでいきました。随分山を下がったように感じました。 その逃避行は、小さな子供達が居ましたので大変な苦労な事もありました。子供達の足では超えられない様な川や谷なども有りましたが、全員が協力する事によって、どうにか越えて行く事が出来ました。 どの位歩いたのか分かりませんが、遠く迄来たことだけは確かです。やって来たところは、今まで暮らしていたところとは全く違う草原でした。 ところどころに、何が暮らしていたのか分かりませんが、土を掘った穴が幾つも開いていました。土手に開いていた大きな穴を見つけました。草原ですから風当たりも強いのですが、土手が風を遮っていますので、その穴の中は暖かでした。今までの穴のように広くは無いのですが、体を寄せ合って暮らすのには十分の大きさでした。 「ここで暫く生活しよう。ここならば見通しが利くから、敵が近づいて来ても良く分かる。」 「それは敵からも分かると言う事だぞ。」 「敵が現れたら違う穴に移れば良い。穴はいくらでも有る。少しずつ分かれて逃げ込んでも良い。」 「そういうことか。誰かが襲われている内に、他の者は逃げられるという事だな。」 「そういう事ではないけれど。それから、これからは見張りを付ける。あの土で高くなっている処で、誰かが必ず見張っているようにする。危険が近づいたら大声で連絡する。それでどうだ。」ジョンの指示は的確でした。 「分かった。そうしよう。」 「子供達だが、サニーを除いては余り遠くには行くな。いつもここに逃げ帰ってこられるところまでしか行くな。そして逃げ込める穴が何処に有るのかを常に調べておけ。もしもここまで逃げて来るだけの時間が無かったらそこに逃げ込め。」 「分かりました。」子供達は素直でした。 「さて、そこでこれからの食べ物探しのことだ。これからは単独での行動は止める。必ず誰かと一緒に行動するようにする。そして出掛ける前に、何処へ行くかを誰かに伝えてから出て行く事にする。食べ物探しにはサニーも参加する。それでどうか。」 「分かった、そうするよ。」誰も反対する者は居ませんでした。的確なジョンの指示には、反対する理由など何処にも有りませんでした。 「今日はもう休もう。明日からやろう。」そう言うとジョン達は穴の中に入って行きました。 草原のその穴は、土の中でしたから温かでしたが。今までの所と違い風が強かったので、寝ていても何時も風の音がしていました。 「ビュービュー、ゴーゴー。」そして「ザワザワ、サラサラ。」風の音と草木の揺れる音が絶え間なく聞こえていました。 「怖いよう。」アンがピンクの体にしがみついて来ました。 「大丈夫よアン。風の音だから大丈夫よ。」 「うん。でも怖い。」 そう言っていましたが、何時の間にか皆は眠りに付きました。 ジョンは穴の外に出てきました。風は強かったが、空には星が一杯に輝いていました。 「星を見るのも久しぶりだなあ。チッチごめんよ。お父さんは忘れていたわけではないのだよ。余りにもいろいろな事があって、チッチの処に来られなかったのだよ。これからは毎日お前を見に来るよ。皆もチッチを守ってくれよな。」チッチの周りで輝いている星たちにお願いをしました。 ピンクが出てきました。 「寒いわねジョン。」 「ピンク、来たのか。」 「どうしたの。」 「暫くチッチに会いに来なかったので。チッチを見ているのだよ。奇麗に輝いているよ、チッチは。」 「そうね、チッチは奇麗に輝いているわね。」 「皆も奇麗に輝いているよ。」 「守ってくれているのね。」 「そうだよ。」 「チッチは幸せかもね。」 「そうだね。」 「私、チッチの事は忘れるようにするわ。」 「えっ。」意外なピンクの言葉でした。 「どうして。」予想もつかないピンクの言葉に動揺しました。 「私だって悲しいのよ。だから何時もチッチのことを思い出していたいのよ。でも今は、皆と仲良くやっていかなければいけないの。ガンともよ。分かるジョン。私達が何時もこうしていてはいけないのよ。ガンの気持ちにもならないと。」 「そうか・・そう言う事か。」 「そうよ。チッチは皆に守られているから大丈夫よ。」 「そうか・・」ジョンは割り切れない気持ちでいましたが、ピンクはさばさばした感じでいるように見えました。 勿論、ピンクの言っている言葉と、ピンクの本当の気持ちが違っている事は分かっていました。ピンクは、チッチの事を忘れる事など有りませんでした。 「戻りましょうジョン。」 「うん。」 ジョンは、ピンクの瞳から、一筋の涙が流れたのを見逃しませんでした。 ピンクの本当の気持ちは、誰よりも分かっているのです。 『済まないピンク。苦労をかけて済まない。』 『お前を、家族を、皆を幸せにしなければ。』 ジョンはそんな事を考えながら穴の中に戻って行きました。 そしてピンクの体を抱いたまま、深い眠りに付きました。 ジョンは夢を見ていました。 それはピンクとチッチとサニーとアンとで、草原を駆けている夢でした。 ピンクと、三人の子供達はとても元気にはしゃぎ回っているのです。 サニーがチッチに甘えるようにしていました。 「お姉さん、アンとばっかり遊ばないで、僕とも同じ様にしてよう。」 「サニー、貴方は男の子でしょう。」 「でも、僕にも。」 「アハハハ、甘えん坊ねえ。」 チッチは、とても優しいお姉さんでした。 太陽の光を一杯に受けた草原は暖かでした。 草原には花が一杯に咲いていました。 花の周りには蝶々が飛んでいました。 子供達は手を取り合って飛び回っていました。 笑い声が聞こえました。 嬉しくて、楽しくて、とても明るい、 「アハハハハ。」 「アハハハハ。」 ジョンとピンクは、その様子を優しく見守っているのです。 第三章 完
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チキンの冒険・第3章 二十、敗北も一つの選択 その日の夜は、逃走と戦いに疲れた事と、ビッグが居なくなった寂しさと、突然の襲撃を受けて何も食べていない空腹とで、皆は何も言えませんでした。何かを話す気力が無かったのです。 子供達は、疲れていたのか直ぐに深い眠りに入って行きました。雌鶏達はグッタリと座り込み、呆然としたままです。大切な住処を無くして、これからどうして暮らしたら良いのかを考えると、途方にくれていたのです。 ジョンも考えていました。 今回のこの結果は良かったのだろうか。ビッグが亡くなってしまったこの結果が、これで良かったのか。良くなかったとしたならば、何処に原因があるのか。そんな事を考えていたのです。それは、ジャックもナイフも同じでした。ジョン達の間には重い空気が漂っていました。 永い間沈黙が続きましたが、ジョンが話し始めました。 「ジャック、ナイフ、これで良かったのかなあ。」 「ううん。」 「そうだなあ。」 「ビッグが亡くなってしまったけれど、そうならない方法が無かったのか。俺は今そんな事を考えていた。」 「あの場になってしまったからには、仕方が無かったのではないか。」 「ガンが俺達に、行けと言ったのは良かったと思うよ。もしもガンが言わなかったら俺達は残った。そして戦いになっただろう。そうしたら、もっと多くの仲間が死んだり怪我したりしたよ。ガンには悪いが、ガンが残ってくれたお陰で、俺達は子供も安全な処迄連れて行く事が出来たのだよ。」 「それはそうだが。」 「ビッグには悪い事をしたなあ。でもビッグも俺達を恨んではいないよ。」 「そうかなあ。」 ジョンは納得していませんでした。 「確かにガンが言ってくれなかったら戦いになっていただろう。戦いになっていたら、俺達は戻れなかっただろうなあ。俺達全員がこうして生きてはいられないよ。それは分かるが、そうなる前に何か方法が無かったのかなあ。」 ジャックもナイフも、ジョンを見ていました。 「お前の考えが分かったよ。もっと早く逃げたら良かったということだろう。」 「・・・・。」 「勿論そうだよ。逃げていればこんな事にはならなかった。けれど、それは皆で決めたことだろう。だから仕方だないのだよ。」 「決めた事だから仕方が無いか。それならば、何故そう決めたのか。何故、逃げると決めなかったのか。」 「それは皆の意見だろう。」 「そうだよ。皆が、逃げない、様子を見ると決めたからそうなったのだよ。だから、何故そう決めたのかと言う事だよ。俺は、あいつらに会ったときから、戦える相手では無いと分かっていた、それなのに、何故そう決めてしまったのかと悔んでいる。」 「お前が決めたわけではないから悔むなよ。」 「俺は、もっと強く、逃げようと言うべきだったよ。それが言えなかった。」 「それは俺だって言えなかったよ。」 「言うべきだった。皆が反対しても言うべきだった。」 「皆が反対してもか。」 「俺達は皆で話し合って決めてきた。賛成意見が多い方に決めてきた。それが一番良い方法と思っていた。でも今回のような時には、意見など聞かないで決めることも必要ということなのか。」 「そういうことなのかなあ。」 「分からない。分からないよ。」 再びジョン達は静かになりました。 ジョン達の会話を黙って聞いていたピンクが、ジョンの近くに来て座りました。 ジョンは、ピンクが傍に来ても黙っていました。 「ねえジョン、私達がいけなかったのよね。私達がもう少し様子を見ようと言ったから、貴方は自分の意見を言わなくなったのよね。」 「・・・・。」ジョンは黙って聞いていました。 「それが貴方の優しさなのよね。でもその優しさがこの結果になったのよ。ガンが怪我をして、ビッグが亡くなってしまったのよね。」 「・・・・。」 「貴方はもっと自分の意見を主張するべきよ。それが正しいと思ったならば、誰が反対してもそうするべきよ。反対した私が言える立場では無いけれど、貴方はそうするべきよ。そうする事によって皆の信頼を得る事ができるのよ。」 「そうか。分かったよ。でも難しい事だなあ。皆の意見を聞いて決める事が良い事と思ってやって来たが、時にはその意見を無視してでも、やる事を決めなければならないという事なのか。その事は、ロック達がやったような自分勝手な行動と、どのように区別できるのか、少し間違えると同じ事になりかねないのではないのか。」 「それは、誰がやるかによるのかも知れないわ。貴方なら大丈夫よ、出きるわよ。」 『自分が反対しておきながら良く言うなあ』と、ジョンは感心していました。 他の鶏達は少しあきれ返っていましたが、ピンクの言う事が正しいのかなとも思っていました。 「結局は、危ないと思ったら早く逃げることよ。私はそう思ったわ。」 「ピンク。」 「私も、もっと強くなるわ。今までのように貴方達にだけに苦労を掛けないで、私も率先してやるようにするわ。」 ジョンは『やらなくても良いよ。』と言いたかったのですが、言いませんでした。 「ガン、ありがとうね。ガンが頑張ってくれたから私達がこうしていられるのよ。ビッグのことは、何時までも忘れないでいましょう。ビッグには感謝しましょう。」 「そうだな。」ジョンもジャックもそう言いました。 朝方になってから、眠気がさしてきました。そして、暫くは死んだように眠りに付きました。 つづく
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