猫のひとりごと・私って、野良猫のメグちゃんなの?

野良猫とこの家の人々との、とても愉快な、でもちょっと寂しい生活物語

チキンの冒険

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チキンの冒険

十九、ガンとの仲直り

 ジョンとジャックとナイフが戻ってきました。
戻ってきたジョン達はその惨状を見て、座り込んでしまいました。そこにはガンとビッグのおびただしい数の羽根が散乱していました。あちらこちらの岩には血が飛び散っていました。
それは、戦いの激しさを物語っていたのです。

 既に、ジョン達が到着した処には野犬もガンもビッグも居ませんでした。
『ガンとビッグはこんなに激しく戦ったのか。』
『食べられてしまったのか。』
ナイフもジャックも同じ様に思いました。
「ジョン、遅かったか。」ナイフがいうと、
「済まない。ガン、ビッグ、済まない。」そう言うとジョンは大きな声で泣き出した。
ジャックもナイフも泣きました。
「ガン、ビッグ、もうお前達には会えないのか。」
「ビッグ、お前を何時も馬鹿にしていて済まなかった。」
「ガン、お前の事はもう恨んでいないよ。」ジョンがそう言った時です。
「俺はここに居るよう。」と、ガンが小さな泣き声で答えてきました。
ガンは岩陰で泣いていたのです。
ジョン達が来ても未だ動けませんでした。それ程に激しい攻撃を見て、震えが止まらず足腰が立たなくなってしまっていました。
「ガン、ガン生きていたのか。良かった。」ジョンは喜んでガンの傍に行った。
ガンのその体の、あちらこちらから血が出ていました。全身が怪我だらけです。
怪我だけでは有りません。体から多くの羽根が抜けてしまったようです。羽根が抜けて、体のあちらこちらに赤く染まった地肌が見えていました。
「良かった。良かったよ。生きていてくれて良かったよ。」
ガンが坂の下の方を震えながら指差した。
そこには、殆どの羽根が抜けてしまっている、ビッグの変わり果てた姿が有りました。
「ビッグ。」
そう言うとジョン達は駆け寄った。変わり果てた姿のビッグは動きません。既に死んでいました。
「ビッグ。」
「ビッグ。」
皆が声を掛けましたが何の反応も有りません。
ガンはまだ坂の上の岩影にいました。腰を抜かした様に呆然としていました。

 ジョン達はビッグを葬ると、ガンを連れて戻って行きましたが、その足取りはとても重いものでした。皆は殆ど何も言葉を交わしませんでした。それは敗者の行進でした。

 ピンク達は森の中に隠れていました。何処からも見えないような深い森の中でした。
ジョンはガンを連れて戻って来ました。
ガンは何も言いませんでした。何も言えなかったのです。それはガンの考えていたこととは違い、ビッグが亡くなってしまったからです。

 ピンクは、ジョンからガンの事を聞きました。ガンが皆の家族を守るために残ったと言う事を聞いていたのです。その時から、ピンクのガンに対する考え方が今までとは変わってきていました。
「ガン、ありがとう。貴方のおかげで私達は安全な処まで逃げる事が出来たわ。本当にありがとう。」
「うん、ピンクにそう言ってもらえると嬉しいよ。」
「ビッグはどうしたの。」ビッグが居ないことに気が付いたピンクが、そう聞きました。
「ごめん、守ってやれなかった。」ガンが項垂れて小さく答えました。
「ビッグは俺達を守るために亡くなった。俺達はビッグに感謝しなければならない。何時も仲間外れになっていたビッグが、俺達のために亡くなったのだよ。」
ジョンは皆に向かって言いました。するとジャックも言いました。
「あいつは俺達より度胸がある奴だったのだ。あいつは野犬と戦ったのだ。だから俺達は。」そこまで言うと涙で言葉が出ませんでした。声になりませんでした。
「俺達はあいつのお陰で元気でいられる。あいつのお陰で。」
それを聞いていたガンが、「そうだよ。俺は恐ろしくて戦えなかった。岩陰に隠れていただけだよ。だけどビッグは違っていた。ビッグは俺をも守って戦ってくれた。ビッグは勇敢に戦った、だから奴等が逃げていったよ。」
ガンは嘘を言いました。ビッグが逃げようとしたために殺されてしまったなどとは、この先、生涯言いませんでした。
 ジョンもジャックもナイフも、ガンの気持ちは分かっていました。そんな仲間思いのガンを大切にしようと思っていました。

 ピンクは、何も聞かなくてもガンが嘘を言っていると分かりました。それはガンの体の傷を見れば誰でも分かることです。それでもガンは、ビッグだけが戦って、自分は何もしなかったと言いながら泣いていました。

 ピンクはガンの肩を優しく抱いてやりました。
「ガン、ありがとう。貴方のおかげで皆が助かったわ。ありがとうガン。もう貴方の事を恨んでいないわよ。」
「ピンク。」
ガンがピンクに抱かれて泣いていました。

 ピンクはガンを抱きながら考えていました。
『私は間違っていたようね。ガン、貴方は、本当は優しい心を持っていたのね。私、それに気が付かなかったわ。貴方の本当の姿を知ろうともしなかったのよ。ごめんなさいガン。私、今までの事は全て忘れるわ。だから、私の今までの事も許してね、ガン。』
そう思うとガンが可愛くなりました。
自分に抱かれて震えて泣いているガンが可愛くなりました。

                            つづく

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チキンの冒険・第3章

十八、襲来

 残ったのは雄鶏の親達とサニーだけです。
ジョンはサニーが残っていたので驚きました。
「サニー、何故お前は一緒に行かないのか。」ジョンがサニーを叱ったように言うと、
「僕は戦うよ。」
「誰も戦おうとはしていないぞ。子供達を少しでも遠くに逃げさせるために、あいつらをここで少し足止めするだけだ。」
「それでも僕はお父さんさん達とここに居る。」
「だめだサニー、これから起こるかもしれない事は、お前に出来る事では無いぞ。」
「嫌だ。」
「行け、サニー。」
「嫌だ、僕はここに居る。」サニーは言う事を聞きませんでした。

その事を聞いていたガンが言いました。
「ジョン、ジャック、ナイフ、お前達は先に行け。子供達が心配だから子供達と行け。サニーお前も行くのだ。」
「何を言っているガン、俺達は何時も一緒にやってきた。今度も一緒だぞ。」
「それは違うジョン。お前には家族が居る。子供も居る。それを守るのがお前の仕事だ。ジャックもナイフも同じだ。俺とビッグには守る者が何も無い。だから良いのだ。」
ガンは、自分は家族が居ないから残っても良いと言ったのです。しかし、ジョンには『そうですか、はい分かりました。』と、簡単に返事をする訳にはいきませんでした。
「ガン、お前の気持ちは分かった。分かったがここは全員で守ろう。」そう言ったが、
「分からないのかジョン。」と言うなりジョンの顔を殴りました。
ジョンは、不意を打たれて倒れてしまいました。
「俺の気持ちが分からないのかジョン、良く聞け、急いで子供達を遠く迄連れて行かないと、危険なのだぞ。お前はそれでも良いのか。ジョン良く考えてみよ。もしもここでお前に何かが有ったら、残ったピンクやアンはどうなる、どれほど悲しむと思う。お前はそれでも良いのか。ジャック、ナイフお前達も同じだ。」
ジョンはガンを見ていました。
「ガン、お前とビッグだけで防げるのか。」
「やってやるよ。俺はこう見えても頭が良いのだ。あいつらとはまともには戦わないよ。お前達が逃げる為の時間稼ぎ位は出来るさ。」任せろと胸を叩いた。
「ガン。」
「行け、ジョン。」
「分かったガン。子供達を安全な処に隠したらお前を迎えに来る。それまで頑張ってくれ。無理はするな。」
「ごちゃごちゃ言わずに早く行け。」その形相はとても険しく、ジョンはガンの勢いに負けた形で頷くと、
「分かった。ジャック、ナイフ、サニー行くぞ。ガン直ぐに戻ってくるからな。」
そう言うと、子供達の逃げて行った方向に急いで走って行きました。


 それがぎりぎりのタイミングでした。ジョン達が逃げてから直ぐに、野犬の群れが、暮らしていた穴にやって来ました。
「来たぞビッグ。慌てるなよ。」
「ああ、慌ててなんかいないよ。」
実は、ビッグもジョン達と一緒に逃げて行きたかったのですが、事の成り行きでそれは出来なくなってしまいました。
『ガンが自分勝手な事を言うから誰も居なくなってしまった。』と、ガンを恨んでいました。
けれども、もう戦うしかありませんでした。
「ビッグ良く聞け。あいつらとはまともには戦えない。戦ったら負けるだろう。」
「それでどうするの。」
「俺達は何もしない。何もしないであいつらのしたいようにさせる。」
ビッグは『何を言っているのか。』と思いました。『何もしないで食べられてしまうのか、そんな事は嫌だ。』、ガンの作戦には賛成できません。ガンの考えていることは全く理解できませんでした。
「何もしないでどうするの。あいつらに食べられてしまうよ。」
「心配するな。俺の言う通りにしろ。あいつらには絶対に刃向かうな。」
「怖いなあ。」
「頭を隠して、足も曲げて、小さくなっていろ。あいつらが近づいても動くな、体を触っても動くな。何をされても動くな。」

ガンは、野犬に何をされても動くなと言ったのです。されるがままにしていろと言うのです。
「そんな事ができるの。」
「やるのだ。そうすれば生き延びられるかも知れない。」
「どうして、どうして生き延びられるの。」
「あいつらの河原での行動を見ただろう。あいつらは遊びたいだけだ。遊びたいのなら遊ばせてやれ。」
「そんな・・。」『そんなことはできないよう。』と言いたかったのです。

 野犬の群れが、穴の入り口から入って来ました。
「おう、居たぞ。やはりここに居たのか。面白い、遊ぼうぜ。」
野犬達はガンの考えた通りでした。直ぐに襲い掛かると言う事はなかったのです。
野犬のボスらしき者が、ガンとビッグの体の臭いを、鼻を押し付けて嗅いでいました。
「美味そうな臭いだな。」そう言うと、前足でガンの体をグイグイと押しました。
ガンはビッグに指示してように、ゴムまりの様に体を丸くしていました。押されても、突かれても何の反応もしませんでした。
「くそう、触るな。」そう言いたかったのですが、されるがままにしていました。

 ガンも、とても怖かったのです。戦った事もない恐ろしい相手が自分の体を触っているのですから当然です。触っているだけならば我慢もできるのですが、この後に、突然噛み付いて来るかも知れません。そうなったらどうすることも出来ません。戦わずして野犬達の食料にされてしまうのです。それでもガンは抵抗するな、動くなというのです。
ガンは決意していたのです。『俺は、ジョン達にどれほどの迷惑や苦労をかけてきたのか、それを思うとここで死んでも良い。』
ビッグは、そんなガンの考えに、道連れにされてしまったのですから気のどくです。

「なんだこいつは遊んでやろうとしたのに動かないぞ。」野犬はそう言うと、ガンの体を思いっきり蹴飛ばしました。ガンはゴムまりのようにコロコロと外に転がって行きました。
それでもガンは体を丸めたままでした。

 ビッグは震えていました。怖くて怖くて、どうにも体の震えが止まらなかったのです。
「こいつの方が面白そうだな。」そう言うとビッグの体を触ったり転がしたりしたのです。
ビッグは必死に我慢していました。我慢していましたが転がされる度に、「あっ」とか「いっ」とか「うっ」とか小さな声を出していたのです。
「こいつは面白いぞ。蹴飛ばすと鳴くぞ。」と言いながら更に何度も蹴飛ばしました。
ビッグは、怖くて怖くてどうにもなりませんでしたが、必死に我慢をしていました。
ビッグの体は、ガンよりも大きくて柔らかいので良く転びました。
「アハハハハ。」
「アハハハハ。」そのあそび道具に、野犬達は大喜びです。
ガンは、反応が無くて面白くないので、それ程相手にされませんでしたが、ビッグは集中的に遊ばれていました。
「あいつは駄目だなあ。あれほど何も言うなと言ったのに。黙っていれば飽きられてなにもされずに済むかもしれないのに。」ガンはビッグを心配していましたが、どうする事も出来ませんでした。

 野犬達はビッグの体をゴムまりのようにして遊んでいました。ビッグの体は蹴飛ばされて穴の外に転がってきました。既にビッグの体から抜けて飛び散った多くの羽根が、穴のあちらこちらに散らばっていました。ビッグはそれでもガンの指示通りに体を丸くしていました。しかし、ビッグの我慢も限界になっていたのかも知れません。

 穴の外では、ビッグの体もガンの体も遊びの道具でしかありませんでした。遊びは益々エスカレートしていきました。蹴飛ばされたり、振り回されたりしていました。
ガンもビッグも、体のあちらこちらを岩にぶつけて、相当な怪我をしていました。ところどころから血が出ていました。噛み付かれて振り回された為に、骨まで痛みを感じるほどです。
『痛い、どこをやられたのだろうか。』
それでもガンはゴムまりのままの姿勢でいましたが、ビッグにはもうそれは無理になっていました。
ビッグは逃げようと考えていたのです。

 ビッグの体は大きく蹴飛ばされてころころと坂を下の方に転がって行きました。
タイミング良く坂になった処に体が落ちたのです。それで坂の下の方に転がって行ったのです。
『転がれ転がれ、遠く迄転がれ。』ビッグは少しでも遠くに転がれと祈りました。そしてその願いが叶えられかなり遠く迄転がる事ができたのです。でも、それが悪かった、ビッグの判断の迷いを誘ったのです。
『今だ、逃げよう。』と考えると、ガンの言い付けを破りました。ゴムまりの姿勢を解きました。首を上げて辺りを見回すと、坂を転がって行ったために野犬が近くに居ません。
立ち上がると、必死に走って逃げ始めました。
でも、直ぐに野犬に見つかってしまいました。
「逃げようとしているぞ。追いかけろ。」野犬の群れが一斉に追いかけました。
全ての野犬が、ビッグを追いかけて行ったのです。
その為に、ガンの近くには一頭の野犬も居なくなりました。

 ガンは何があったのかと思い、ゴムまりの姿勢を解いて辺りを見ました。すると、坂の下の方で、野犬達がビッグを追いかけているのが見えました。
「馬鹿な奴、ビッグは姿勢を解いて逃げ出したのか。あれほどされるがままにしていろと言ったのに。」
しかし、それはもうどうにもならないことでした。逃げ出したビッグに、野犬が襲いかかりました。猛烈な攻撃がビッグに加わったのです。ビッグの体から羽根の多くがが飛び散るほどです。その攻撃は数分続きました。そして、ビッグは動かなくなってしまいました。
息絶えてしまったのです。それは、あっと言う間の出来事でした。

 野犬達はそれで満足したのか、暫くするとその場から立ち去って行きました。
ガンは、岩影からその猛烈な攻撃を見ていました。震えていました。動けませんでした。言葉が出ませんでした。恐ろしくて何も出来ませんでした。その光景は地獄を見るようでした。

 野犬達が立ち去った後も動けません。動かないビッグを岩陰から恐ろしそうに見ていました。
『ビッグ、どうして逃げようとしたのか、あれほど動くなと言ったのにどうして逃げようとした。』
ガンは心の中で語り掛けていましたが、ビッグからは何も反応はありません。それは、ビッグがあの世に旅立って行ってしまっていたのですから。

 そして、静かになりました。
野犬は遠くに行ってしまったようです。
野犬の声はもう聞こえません。
ガンは寂しくなってきました、そしてその時気付いたのです。『ビッグを自分の勝手な考えで死なせてしまった』と、
『ビッグ、済まなかった。お前をこんな目に合わせてしまって済まなかった。』
『俺は、俺は、お前になんて事をさせてしまったのか。』
悔んでももう遅かった。
悲しくて悲しくて、涙が止まりませんでした。

                        つづく

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チキンの冒険・第3章

十七、決断の遅れ

 翌日は、ジョンとナイフが監視に行く事にしました。
ジョンとナイフは河原に来ていました。そこにはあの獰猛な野犬の群れが居ました。その群れは戯れて遊んでいましたが、その動きは速くてとても素早いものでした。戦えば鶏達には勝ち目は有りません。ジョン達は、最初に遭遇した時と同じ様に、足がすくんでしまいました。恐ろしさで足が震えました。
「帰ろうナイフ。」
「うん、そうしよう。」
そう言うと戻って行きました。

 戻ったジョンは皆に言いました。
「やはり居たよ。群れで遊んでいた。」
「あいつらに見つかると大変な事になる。やはり見つかる前にここを離れたほうが良いと思うのだけれど。」ナイフがここから離れようと言いましたが、
「未だここに来るという訳でも無いのに、そんなに急いでここから出て行かなくても良いでしょう。」
「ローラ、そういうけれど奴達が来てからでは遅いぞ。」
「遅い、遅いって何よ貴方は。もっと落ち着いてよ。」ローラはナイフを叱るように言いました。
 ジョンも言いました。
「まだ、あいつらがここに来ると決まった訳ではないけれど、俺もここを出て行った方が良いと思う。来てしまってからではどうにもならない。」
「ジョン、本当に来ると思うの。」ピンクが聞きました。
「それは分からないが、その時では遅すぎる。」
「でも、昨日も今日もこちらには向かっていないのでしょう。それならばもう少しだけ様子を見たらどうなの。」
「ピンク、お前もそう言うのか。いつもなら慎重なお前が今回はどうしたのか。」
「今は家族も多くなったのよ。こんなに小さな子供も居るのよ。できるだけここから離れたくないわ。」
ジョンは困ってしまいました。ピンクがここから離れたくないと言うならば、そうしてやりたいとも考えるのです。
「そうか皆もここに居たいのか。」ジョンは皆に聞きました。
皆が、それぞれにここに居たいと言いましたので、ジョンはその意見に従うことにしましたが、その決断がこの後大変な事になってしまうのです。


 再びジャックとサニーとビッグが様子を見に行ったのはその翌日でした。その時、野犬達は、ジョン達が暮らしている穴の方向に向かっていたのです。ジャック達が野犬の偵察に向かって、暫くすると野犬の群れを見つける事が出来た。野犬はゆっくりとしたスピードではありましたが、明らかに鶏達が暮らしている穴の方向に向かっていました。

 サニーはとても驚いていました。今までにこのような恐ろしい動物を見た事がありません。足が震えるどころか、心臓も止まってしまうかと思うくらいに驚いたのです。
言葉が出ませんでした。
「お、お、おじさん、あれが。」そう言うのがやっとの事でした。
「そうだよ。あれが野犬の群れだ。とても戦える相手ではないだろう。」
サニーはコクリと頷いた。
「あいつらは俺達が暮らしている穴の方に向かっているぞ。急ごう。あいつらより早く帰らないと大変な事になる。」
「うん。」
ジャックは急いで戻って行った。
サニーもジャックに従って急いで帰りました。

 穴に戻るとジャックが皆に言いました。その言い方は、焦っていたために何を言っているのか分からない程です。
「た、た、大変だ。奴らがこちらに来る。」
その言葉で、ジョンは危険が近づいているのが分かりました。
「こちらに向かっているのか。」
「そうだ。こちらに。」
「それで、どの位まで来ているのか。」
「急がないと。」
「そうか、分かった。」この時のジョンの決断は早かった、
皆の方に振り向くと、「皆、良く聞け。奴らがこちらに向かっている。急いでここを出るぞ。急げ。」
雌鶏達も危険を察知しましたので慌てました。
食べ物を持っていこうとする者、子供を急かしている者、それぞれが右往左往とした行動をとっていました。パニック状態になっていました。
「何をしているのだ。そんなものはここに置いていけ。」
荷物をいっぱい持とうとしたローラに、ジョンが怒って指示をしました。
「急げ、急ぐのだ。」
「ピンク、アンを頼むぞ。」
「ジョン、貴方はどうするの。」
「俺はお前達が安全なところに逃げる事ができるまでここにいる。お前は早く行け、皆を逸れないように頼むよ。」
「ジョン。」
「心配するな、直ぐに後を追いかけるから。」
「ジョン、無理をしないで。」
「分かっているから早く行け。」
「ジョン。」
そう言うとジョンの手を離した。今、分かれてしまったら、二度と会えないような気がしました。

ジョンは、子供や母親達が少しでも遠くに逃げる事ができるように、ここで囮になって時間を稼ごうと考えたのです。

リリーもローラも、今生の別れになってしまいのではないかと心配をしていました。

「済まない、済まない、皆を危険な目に合わせてしまって済まない。」
「謝るなジョン。それよりもどうやって子供達を遠く迄逃がしてやるかを考えよ。」謝ってばかりのジョンに、これからの戦いを考えよと言いました。
「そうだよジョン。どうするかを考えよう。」
「うん分かった。」
この時の父親達は、今までに無いような強い結束力が湧いていました。この先にどのような危険があろうと、父親として最大の力の限りの事をしようと考えていたのです。たとえ自分の命にかかわる事になろうとも、それをしようとしていました。

                          つづく

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十六、監視

 サニーは張り切っていました。
自分が、親達と同じ仕事をできるという喜びは、とても大きなものでした。それはサニーにとっても、とても大きな自信となる出来事でした。
「ジャックおじさん、僕とおじさんとで行こうよ。」サニーはとても張り切っていたのです。
「やれやれ、サニーは元気が良いなあ。」
親鶏達は、この時は野犬の群れが近づいているということの、危険を忘れかけているかのようでした。危険が迫っている切迫感が薄くなっていました。

 ジョンは『これで良いのかなあ』と思っていましたが、皆の判断が、とりあえず野犬達の行動を監視して、それから自分達の行動を決めても良いという判断になったのだから、それに従うことにしたのです。ジョン自身も、野犬に遭遇したときよりも危機感が薄くなっていました。

 雌鶏達はこのままここに居られるということで安心していたようです。
「サニー、気を付けて行って来てね。」
「分かっているよ。大丈夫だよ、お母さん。ジャックおじさんが傍に居てくれるから心配は無いよ。」
「ピンク大丈夫だ。俺が一緒だから心配するな。」
「そう、宜しくね。」
サニーは早く行こうと焦っていました。
「早く行こうよ。」ジャックを急かしました。
「分かった、分かった。」そう言うと出て行ったのです。
ジョンは、少し心配でしたがその成長した姿に嬉しくも有ったのです。

 サニーとジャックとガンが出て行った後は、何時ものような楽しい会話をしていました。
この日からナイフの家族が加わったのですから、会話はこれまで以上に楽しいものとなりました。
ローラもピンクも、心の中では一緒に暮らしたいと考えていたのですから、丁度良い機会だったのです。
ローラは、離れ離れで生活していた事など忘れたかのように喋り続けました。
ピンクも、ローラの話を楽しそうに聞いていました。『ローラが帰ってきてくれて良かった。』そう思っていたのです。
そんな気持ちでしたから、野犬が近づいているという危機感は、殆ど無かったのかもしれません。むしろ、幸せを感じていたのでした。
『これで、元通りに皆で幸せに暮らせるわ。』


 サニーは、ジャックとガンよりも先を歩いていました。とても嬉しくて、自然に足取りが早くなっていたのです。
「ジャックおじさん達は遅いなあ。」
まるで行楽にでも行く気分です。
「サニー、そんなに急ぐな。」ジャックが言うと、
「おじさんが遅いのですよ。」
「急ぐなと言っているのだ。突然あいつらに出会ってしまったら大変だよ。慎重に進め。」
ジャックは、サニーの何も考えない気楽な行動を、心配していました。
「分かったよ。ところでそのあいつらという奴はどんな奴なの。」
「とても大きくて獰猛な奴だから、襲って来るかも知れない。だから慎重に行こうと言っているのだよ。」
サニーを諭すように言いました。
「分かりました。」素直にジャックの言う事を聞くと、そこからはジャックよりも先を歩くことはしませんでした。ジャックの後ろを付いて行きました。

 サニーにとっては、始めての遠出になりました。今までに、これほど遠く迄来たことは無かったのです。ピンクの保護下で育った為に、それ程遠くには行けなかったのです。
「疲れたね、おじさん。」
「もう疲れたのかい。まだほんの少し来ただけなのに。」
「これでほんの少しなの。」
「そうだよ、まだ少し歩いただけだよ。そうかサニーは殆ど外の事を知らないからなあ。」
サニーが生まれ育ってからこの方、殆どこの地区だけのことしか知らないということを、今、知ったように思いました。
「おじさん達が生まれた処はとてもとても遠い所だよ。何日も何日も歩いてきたのだから、サニーには想像も付かないくらいに遠い所だよ。」
「そう、そんなに遠い処から来たのですか。」
「そうだったなあ、お前には分からない話だなあ。これから、お前もいろいろな事を知る事になるよ。」
「いろいろな事ですか。」
「そうだよ。嬉しい事も楽しい事も、そして辛くて悲しい事も。」
「嬉しい事は良いけれど、悲しい事は嫌だなあ。」
「そうもいかないのだよ。生きていく為にはいろいろな事を経験しないとね。」
「そうですか。」

 そんな話をしながら、ジャックとガンとサニーは野犬と遭遇した処までやって来ました。
ジャック達は慎重な足取りになりました。
サニーもジャックの真似をして、そろりそろりと足音を発てないようにして歩きました。
「サニー、そこに隠れていろ。」ジャックがサニーに岩陰に隠れるように言いました。
ジャックはサニーが岩陰に隠れると、自分とガンだけで河原の見える処に行きました。そして、身体を小さくかがんで様子を窺いました。
ゆっくりと慎重に辺りの様子を観察しましたが、野犬が居るような様子はありません。
尚も慎重に、耳を澄まして様子を観察しました。
何の音も聞こえませんでした。
「サニー、出ておいで。」安心したジャックはサニーを呼びました。
「どうやら野犬達は居ないようだな。どこかに行った様だ。」
「居ないのですか。どんな奴か見てみたかったのに。」
どんな奴か興味があったので、それが見られないということで少しがっかりしました。
「お前、がっかりしているようだが、居なくて良かったのだよ。」
「でも見てみたかったなあ。」
「困った奴だ。」ジャックは笑っていました。
ガンはニコニコとしていました。

 ジャック達は暫くこの辺りを調べてみる事にした。
河原に降りて、足跡とか草が踏み荒らされていないかどうかを調べました。
明らかにそこに野犬の群れが居たと思われる痕跡が有りました。
「サニー、見てみろ。これが野犬の足跡だ。十頭近くは居るぞ。しかもこの足跡はそんなに前の足跡ではないよ。つい最近までここに居た足跡だよ。」
「そんなことまで分かるの。」
サニーは感心していました。足跡を見ただけで、それ程多くの情報が得られるのかと感心したのです。
「どうして分かるの。」ジャックに聞きました。
ニコニコしてジャックは答えました。
「この足跡の大きさの違いとか、あちらにもこちらにも同じ方向にどれ位の足跡が付いているのかで頭数が分かるのだよ。どれくらい前に居たのかは、足跡の消え具合で分かるよ。」
「へえ、すごいなあ。」
「お前もその内に分かるようになるよ。」
サニーは、神様でも見るようにジャックを見ていました。

 しばらくそこで休んで居ましたが、野犬が居る様子も無いので戻る事にしました。
皆の処迄戻ってきたジャックは野犬が居なかったこと、足跡は有ったので警戒は必要なこと、直ぐには来ないのではないかという自分なりの判断などを話した。

 サニーは野犬の姿を見ることはできなかったが、足跡を見たことで興奮して、得意そうにむしろ大げさとも思える位に話していました。

 そんなサニーを、ピンクは目を細めて見ていました。逞しそうに見えて嬉かったのです。
『この子も立派になったわ。頼もしいわ。』

そんな母親の姿が、サニーにとっては更に嬉かったのです。

 ジョンは少しだけ安心しました。直ぐにでも野犬が襲って来るものと思っていたのですから、それが無いという事が分かっただけでも安心しました。
『このまま襲ってこなければ良いが・・・。』そんなふうに考えていました。
しかし、そんな考えは直ぐに覆されました。
野犬達はジョン達の事に気付いていたのです。
                        つづく

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チキンの冒険・第3章


十五、逃げるべきか戦うべきか

 ジョン達は急いで戻ってきました。
ハアハアと荒い息をしているのを見たピンクが、心配そうに聞きました。慌てたその様子で、ただ事ではないという事が直ぐに分かったのです。
「どうしたの。何があったの。」
「大変だ。今まで俺達が魚を捕っていた場所に、大きな獣の群れが居た。それもとても沢山居たのだ。」
「獣。」
「そうだ。熊よりも小さいが、それに近い大きさだ。」
「そう、それでその獣はどちらに向かっているの。」ピンクは以外にも落ち着いていました。
「川で戯れていたからどちらに向かったのかは分からないが、もしもこちらに向かっていたら大変な事になる。」
「そう、それは心配だわ。」


 ナイフも、ローラの処に顔色を変えて戻りました。
「ローラ、落ち着いて聞いてくれ。」
「私は落ち着いているわよ。それよりも貴方が落ち着いたらどうなの。」
「これが落ち着いていられることか。」
「そんなに大変なことなの。」
「そうだよ。良いか良く聞けよ。川に獣の群れが居た。それもとても沢山の群れだ。あの群れが俺達の処に来たら大変な事になるぞ。」
 ローラは聞いていましたが、
「その群れは何の群れなの。」
「それは分からないけれど、動きがとても素早くて獰猛な奴だよ。」
「困ったわ。どうしたら良いの。」
ナイフの慌てぶりで、相当な危険が近づいているのが良く分かりました。
「ローラ、とりあえずジョン達の処に引っ越そう。俺達だけでここにいるのは危険だよ。もしも、ここにあの獣達が現れたらどうにもならないよ。」
「戦える相手ではないのね。」
「とても戦える相手では無いよ。戦うなんて無謀な考えだよ。」
 ローラは少し考えていましたが、
「分かったわ。戻りましょう。」家族の安全が一番大切と考えたのです。ローラは戻ることも考えていたのですが、戻る切欠が無かったので丁度良いチャンスだったのです。
ナイフは、ローラが以外にも早く戻るという結論を出したので、ホッと胸を撫で下ろしていました。
「そうか、戻ってくれるか。ありがとうローラ。さあボビイ、メアリー、皆の処に戻るぞ。」
「ハーイ。」ボビイとメアリーは喜んでいました。ボビイとメアリーにとっては、遊び相手がある、サニー達の居る処の方が良かったのです。

 ボビイとメアリーが走って来ました。その後をナイフとローラが追いかけて来ました。
「今日から僕達もここに居るよ。」ボビイが嬉しそうに言いながら穴の中に入って来た。
直ぐにナイフとローラも入って来ました。
「ここに居る事にするからよろしく頼む。」ナイフはそう言うとジョンの横に座った。ローらもチョコンと軽く頭を下げたが、何も言わずにピンクの横に座った。
 ピンクは、ローラの顔を少し見ただけで話を続けた。ピンクは帰ってきたローラには、何も言わない方が良いと考えたのです。今までも一緒にここに居たというような振る舞いをしようと考えました。
「それでどうしようというの。」ピンクがジョンに聞きました。
「俺達にはこんなに小さな子供が居る。この子達を守る事が第一と考えるべきだと思う。」
ジョンがそう言うとジャックとナイフが、
「それは戦うと言う事なのか。」と聞いてきた。
「戦える相手ならば戦うが、お前達はどう思うのだ。」
ジャックもナイフも考えていた。直ぐには返事をしません。
「どうなのナイフ。」ローラがナイフに返事を催促した。
「もしもあいつらがここに来たら、俺達ではとても戦えないだろう。戦える相手では無いよ。戦ったら怪我をする位では済まないと覚悟すべきだよ。」
ジョンもジャックも黙って考え込んでいました。
「そんなに危険な相手なのね。」ピンクが言うと、
「そうだ。勝ち目は無いな。」ジョンが答えた。
「それではどうするの。」
「ここを出て行くか。」ジョンは迷った後に、出て行こうと提案した。
「出て行くといっても何処に行くのよ。」ピンクが聞くと、黙っていたリリーが始めて喋った。
「せっかく良いところを探して暮らしているのに・・ここなら食べ物も、何でも有るのに・・、どうにかならないの。ここ以上に生活し易い処が何処にあるの。おそらく出て行っても見つからないでしょう。皆でなんとかしてここに残る事を考えましょうよ。」と、ここに残りたいと言ったのです。
 話を聞いていたサニーが突然話し始めました。
「お父さん達は逃げようとしている。戦わないで逃げようとしている。それがどんな相手か知らないけれど、戦わないで逃げるのはどうかと思う。まずは戦ってから考えたらどうですか。」
初めて、大人らしい言い方で親達の会話の中に入ってきたのですが、それはジョンにとって嬉しい事ではあるが、今は何も知らないサニーの無謀な発言に聞こえました。
サニーは、今までに危険な思いをした事がありません。勿論、他の動物と戦うことがどういう事かなど、考える知恵も経験も有りませんでした。
サニーばかりでなくボビイまでが戦おうと言いました。
「サニー兄さん格好良い。僕も戦うぞ。」ボビイは戦う気が満々です。
 ジョンは笑っていました。
「サニー、お前には未だ分からないことだよ。戦うという事がお前達にはどういうことか分からないだろう。」
「分からないけれど、僕は何もしないで逃げる事はないと思うよ。何かをしてからでも良いのではないかと思う。」
「サニーの言う事にも一理はあるぞ。まだあいつらがここに来ると決まっているわけでは無い。あいつらの様子を見てからでも良いのではないか。」
ジャックが、サニーの意見を聞き入れた言葉を発したので、サニーは得意になってしまいました。
「そうだよ。ジャックおじさんの言う通りだよ。直ぐに逃げなくても良いよ。」大人として認められたような自信が湧いてきました。認められたという嬉しさが有りました。

 ジョンも、そんなサニーの気持ちが直ぐに分かりました。サニーの成長を頼もしく思いました。
「そうだな。まだあいつ達がここに来ると決まった訳ではないな。分かった。それではそうしよう。これからは交代で、あいつ達の行動を監視することにするぞ。」
「僕もその監視をしても良いの。」サニーは認められた事が嬉しくて聞いてきました。
「良いだろう。お前も大人と一緒に監視に出ろ。」
ジョンが良いと言ったので益々嬉しくなった。
「僕も行く。」ボビイも行くと言ったが、それにはナイフが駄目だと言いました。ボビイはがっかりして渋々と従いました。

 ピンクは、サニーの監視役には不安を持ちましたが、そろそろ大人として認めてやる時期が来たのかと諦めていました。
『この子も随分大きくなったわ。もう私のものだけでは無いのね。』そう感じていたのです。
それは嬉しいことでもありました。
サニーは、この事がきっかけで親離れをしたようです。

                          つづく

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