猫のひとりごと・私って、野良猫のメグちゃんなの?

野良猫とこの家の人々との、とても愉快な、でもちょっと寂しい生活物語

チキンの冒険

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チキンの冒険・第3章

十、こんなに恵まれているのに自由はないのか

 ナイフの家族が出て行って暮らしている処は、ジョン達の居る場所から、それ程遠くではありません。その為に、ナイフは時々ジョン達の処に来ては、いろいろな話をしていました。ナイフの態度は、一緒に暮らしている時と余り大きな違いは無かったのですが、ローラは、出て行ったきり一度も戻っては来ませんでした。
そんなローラの処に、ピンクもリリーも行こうとはしませんでした。行けば言い争いになるので、しばらくはそっとしておこうと思っていたのです。

 雄鶏達と雌鶏達とでは、考え方に大きな違いがあったようです。雄鶏達はその内に落ち着いて、元通りの仲良しになると楽観的に思っていたのです。

 子供達は何も無かったかのように暮らしていました。ボビイとメアリーは、遊びに来て相変わらず悪戯をしていました。ピンクとリリーは、ローズを気遣っていましたので、その悪戯を苦々しく思っていましたが、以前のように激しくは叱り付けませんでした。
それを良い事に、悪戯はむしろ激しくなっていました。

 ピンクとリリーは、お互いに言いたい事を言いましょうと約束したけれど、やはりローラとローラの子供達の事では、言いたい事を言わないで我慢していました。自分の気持ちを押さえていました。
ピンクとリリーの間では、以前よりも話し合いが出来ていましたが、お互いにに言って良い事と、言ってはいけない事の区別をしていたようです。

 ジョンは、そのことがあってからは、考えている事が多くなっていました。それはジャックもナイフもビッグも同じでした。

 食べ物探しは、今までのようにナイフも誘い出して、一緒に行っていました。
取った食べ物は、ナイフだけが、取ったその場で自分達が食べる分だけを先に分けて持ち帰っていました。
 この日も、食べ物をナイフに分けていました。
「なあナイフ、こうやってお前達の食べる分だけを先に分けているけれど、今まではこんな事をしないで、仲良く分け合いながら食卓を囲んでいたよなあ。」ジョンが聞くと、
「そうだなあ。」と、曖昧な返事をした。
「お前達は自分の家族だけで食事をしていて楽しいか。」
ジャックがナイフに問い掛けた。
「いや、別に楽しいと言う事はないけれど普通に食べているよ。」
「普通にか。親子で会話をしながらか。」
「そうだよ。特に変わった事はないよ。」
「家族だけでそんなに話す事があるのか。」
「まあ、普通にあるよ。」
「お前、戻って来たいとは思わないのか。」
「思うけれど・・ローラがなあ。」
「ローラは未だ拘っているのか。」
「うん、そうだなあ。」
「そうか、お前もローラの尻に轢かれてしまったなあ。」
「そんな言い方するなよ。でもな、ローラはお前達が考えているよりも良い奴だよ。俺はローラがそうしたいと思っているなら、それで良いと考えているよ。」
「そうか。」

 黙って聞いていたジョンが、「俺は最近考え込んでしまうよ。」と言いました。
「お前を見ていると分かるよ。」
「そうか。分かるか。」
「お前は寂しそうにしているからなあ。」
「そんなふうに見えるのか。」
「見えるよ。丸見えだよ。」
「俺は旅に出てきてから、皆が幸せになるようにと頑張ってきたつもりだけれど、一体今まで何をしていたのかなあ。どうして争い事が無くならないのかと、考えてしまう。」
「そうだなあ。俺達は何でも揃って、何でも出来る様になってきたのに、幸せとはいえないなあ。」
「どうしてだと思うジャック。何の苦労も無くなったから本当は幸せのはずだろう。皆は子供にも恵まれて、その子供は元気に育って、それでなんで争いごとになるのだ。俺はそれが分からない。」
「満足しないということかなあ。どんなに恵まれても、どんなに望みが叶っても、もっとその上を望むということかなあ。俺達にはこれで良いと言う事がなくなってしまったのだよ。叶えば叶うほどもっと欲しい、そうなってしまったのだよ。満足しなくなってしまったのだよ。それはいろいろな事を知ってしまったからだと思うよ。」
「そうかなあ。それならば俺達のこれから先はどうなるのだ。どこまで行けば良い。何を求めたら良いのか。幸せに辿り着くのは何時のことなのか。」ジョンは深い溜息をした。
「それは分からないよ。でも、もう行くところまで行くだけだよ。そんなことは誰にも分からないよ。」ジャックが答えるとナイフも、
「もう元の処に帰ることは出来ないからなあ。俺達は知り過ぎてしまったからなあ。」と、溜息をつきながら答えた。
「小屋の皆は今ごろどうしているのかなあ。」ジャックが遠くを見つめてポツリと言いました。
「なあジョン。お前は我慢をしているのか。」ジャックが再び聞いてきた。
「我慢、特別に我慢はしていないよ。」
「そうか、ナイフお前はどうだ。」こんどはナイフに聞いた。
「我慢がどのことをいうのか分からないけれど、ローラには気を使っているよ。本当は、皆と一緒の方が良いと思っているけれど、言わないようにしているよ。」
「そうか。それが我慢だよ。俺も、最近は言いたい事と、言う事を区別しているように思う。その方が良いと思う事が増えてきたよ。」
「どうしてそれが増えてきたのか。」ジョンが聞くと、
「それぞれの考え方が違ってきたからではないのかなあ。」
「そんなに違っているのか。俺はそんなに違っているとは思わないのだが。」
「違ってきているよ。違ってきているからピンク達が言い争いになったのだろう。」
「そうなのか。」
「そうだよ。俺達は一緒に暮らすためには、我慢をするということも必要になって来たのだ。何でも自由に言えば良いということではなくなってきた。それが俺達の共同生活だよ。」
「自由に言えない共同生活か。それでは自由とはいえない。そんな自由は無いよ。」
「そうでもないだろう。自由に出来ない自由というものがあるのだよ、ジョン。」
ジョンは再び考え込んでしまった。

 ナイフは、ローラとピンクの言い争いが、自由な言葉から起こってしまったのか、そしてそれは我慢しなければならなかったことなのかと考えていた。その時の事は、我慢をしなかったから争いになってしまったけれど、それでも我慢をしないほうが良かったのではないのかと、考えていたのです。
「俺は・・自由に出来ない自由なんて無いと思う。ローラとピンクが自由に自分の気持ちを話して言い争いになってしまったけれど、それでもそれはそれで良かったのではないかと思う。」
「ナイフは人の気持ちを考えずに言ってしまうことが良いというのか。それが自由だというのか。」
「そういうことを言っているのではないよ。言わなければ分からない事も有るという事だ。」
「我慢などしなくて、皆で自分の気持ちを話し合って楽しく暮らせたら良いのに。」ジョンがそう言うと、
「それは、きれい事だよ。協力しあいながら暮らすということは、自分を押さえる事も必要だということだよ。そうしなければ仲良くなんかやっていけないよ。」
「分からない。分からないよ。俺達は自由を求めてやってきたのに、自由を抑えなければならないなんて・・分からないよ。」

 この後は誰も口を開こうとはしませんでした。
ジョン達は、それぞれの家族のもとに帰って行きました。

 鶏達は物質的には何の不満も無く生活していたが、心の中は何か大きな物が不足していました。そんなもやもやとした気持ちがありましたが、表向きには平静を装っていました。
今はそうすることでしか平穏を保てないと考えていたのです。
 そして幾日かの生活が静かに続いていきました。

                          つづく

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チキンの冒険・第3章

九、正直に生きるとは、どういうことなの

 朝になりましたが、何時もの様に明るい声の挨拶は、誰からもありませんでした。皆は昨晩の事が気になっていたので、気持ち良く挨拶をするような雰囲気にはなれなかったのです。

 静かに起きて、それぞれが自分の、身の回りの事を行っていました。
 誰も言葉を発しませんでしたが、ローラがピンクにポツリと言いました。
「ピンク、私、ここを出て行くわ。」ローラは、その事をナイフにも相談していませんでした。
 ナイフも、ローラのその言葉には驚きました。
 ピンクもとても驚いた。それはリリーも他の鶏達も同じでした。
驚いたけれど、ピンク達には直ぐに言葉が出ませんでした。
「ローラ、お前出て行くと言って、一体何処へ行くというのか。」ナイフは驚いてローラに聞きました。
「ナイフ、私達がここに居ると、ピンクやリリーが困るのよ。ピンクやリリーは、私達が居ないほうが良いと思っているのよ。」
「何を言っているローラ、ピンク達はそんなふうには思っていないよ。」ナイフは慌てて否定しましたが。
「ここに居るとね。ボビイとメアリーが皆に迷惑をかけるのよ。皆がそれを嫌がっているの。私は、皆が私の子供達と一緒に暮らせないと言うのなら、一緒に暮らさなくて良いと思うのよ。その方がボビイもメアリーも幸せなのよ。そう思わないナイフ。だから出て行きましょう・・ね。」

 驚いて、黙って聞いていたピンクが、
「ローラ、私はそんなことを思っていないわよ。一度も思った事はないわ。考えてもいないわ。」と、慌てて言いました。
「ローラ、貴女、なんてこというのよ。誰もそんなこと言っていないでしょう。」リリーもそう言いました。
「いいえ、貴女達はそう言っているのよ。口では優しい事を言っているけれど、本当の気持ちは違うのよ。心の中は違う、本当の気持ちは私達が居ない方が良いと思っているのよ。」
「違うわ。違うわよローラ。私は皆で仲良くやって行きたいから、貴女に少し強い事を言ったかもしれないけれど、貴女が出て行けば良いなどと考えた事は一度も無いわよ。」
「そうよローラ、そうよ。それは貴女の考えすぎよ。」リリーもそう言いました。
けれども、ローラはもう決めていました。
「貴女達は、私が子育てを一緒懸命に手伝ってあげたのに・・それなのに私の子供が少し悪戯をしただけでもそばに居る事を嫌がるのよ。私の子供には優しくしようと思わないのよ。そうでしょうピンク、リリー。貴女達は冷たいのよ。そんな貴女達とはもう一緒に暮らせないわ。そう思わないピンク。」
「ローラ、貴女の子供の世話をしなかったのは悪かったと思うわ。それについてはごめんなさいと謝ります。でもねローラ、私もアンが生まれて忙しかったのよ。それにねローラ、貴女は私の子供の世話をしていたから、子育ては出来ると思っていたのよ。でも、そう思っていた私が悪かったと思っているわ。だから出て行くなんて言わないで、お願いだからローラ。」
「嫌よ。もう良いのピンク。私は、私の家族だけで暮らすと決めたの。心配しないで、もう決めたのだから。」
「ローラ、考え直して、お願い。」
「お願い、出て行くなんて言わないで。」ピンクは泣き始めていました。リリーも同じでした。
「もう決めたことよ。ナイフ、行くわよ。」そう言うと、ローラはさっさと席を立ってしまいました。

 ナイフはローラの堂々とした態度に、どうしたら良いのか分からなくなっていました。
「ナイフ、何しているの。行くわよ。」
「あ、ああ。」ナイフも、ローラに急かされて立ち上がりました。
「それでは皆さん元気でね。」
ローラが、ボビイとメアリーを連れて外に向かってさっさと歩き始めました。ナイフも後ろを付いて行きました。
ピンクもリリーもジョン達も、ローラの思い切った行動にどうすることも出来ませんでした。
「ローラ、止めて。行くのは止めて。」そう言うのが精一杯のことでした。
ピンクは泣きながら、ローラにお願いするように言いましたが、ローラは振り向こうともしませんでした。
「ローラ。」大きな声で叫ぶように言いましたが、それでも振り向きません。その叫びは空しく穴の中を響き渡っていました。

 ピンクは泣き崩れてしまいました。こんな結果になるとは考えてもいませんでした。皆で仲良く暮らしたい、皆で仲良く暮らすためには少しの我慢や協調が必要、そのためにローラにも、ローラの子供達にも少しばかりの事は言いました。でもそれは、ピンクの優しい気持ちだったのです。ローラの家族が、皆と仲良くやっていけるようにと思うからこそ言った言葉だったのです。それが、こんな結果になるとは・・考えていたことと全く逆の結果になるとは・・。

 他の鶏達も同じでした。何故こんな結果になったのか、何故、何故、考えても考えても分かりませんでした。

 どうにもならない重い空気に包まれました。
ピンクだけが大きな声で泣いています。他の鶏達は呆然としていました。
時間が重く通り過ぎて行きます。とても重く・・。
今までに悲しい出来事は沢山有りました。多くの涙を流しました。でも、今回のように重く苦しい出来事は始めての事です。今までに、この様な経験は有りませんでした。気持ちや、考え方の違いで、このような事になるとは、仲間が去っていく事になるとは考えてもいませんでした。


 この日は、誰も夕食を取ろうとは言いませんでした。
そんな気持ちにはとてもなりませんでした。
ピンクは未だ泣いていました。そんなピンクを、ジョンは優しく肩に手を当てて様子を見ていました。そうするしかなかったのです。
何時までも、何時までも悲しく泣いていました。

 リリーが、静かに話し始めた。
「どうしてこうなってしまったの、どうして・・。」
「うん・・・。」
ジョンはうんと言ったものの、それ以上には答えられませんでした。
「私は、皆が仲良くやって行きたいからボビイやメアリーを叱ったのよ。ローラにも、そんな思いがあったので、少しきつい事を言ったかもしれないわ。でもそれはローラの為になると思うから言ったのよ。」ピンクは泣きながら自分の気持ちを語った。
「ピンク分かっているよ。お前は間違っていないよ。お前がローラの家族の為に言ったということは分かっているよ。でもその気持ちはローラ達には通じなかったのだよ。」ジョンは慰めるように言いました。
「どうして分かってくれないのかしら。私は、こんなことになるなんて思ってもいなかったわ。ローラが出て行くなんて。」
 リリーがまた静かに言いました。「私達はローラの気持ちを知らなかったわ。ローラが、私達にもっと優しくしてほしいと思っているなんて知らなかったわ。だってローラは何も言わなかったもの。」
「そうよ、ローラは何も言わなかったのよ。でもどうして言わなかったのかしら。そんな気持ちを持っているのならば言ってくれても良かったのに・・・だから知らなかったのよ、ローラの気持ちを知らなかったのよ・・・ボビイとメアリーの世話を余りしなかったのは、ローラには出来る事と思っていたからなのよ。」
「ローラは我慢していたのかしら。言いたくても言えなかったのかしら。」
「言ってくれれば良かったのに。」
「そうね。でも私達は言いたいと思っても言わないようにしていたのよ。それはきっとローラも同じよ。私もボビイとメアリーのわがままには困っていたわ。でも貴女が言ってくれたから私は黙っていたのよ。皆で言ってしまえば気まずいことになると思ったから私は言わない方が良いと考えたの。」
「貴女は、私がボビイを叱っていても黙っていたのはそういうことだったのね。でも、だからローラは、貴女を憎まないで私だけを憎んでしまったのよ。」
「そうね。ごめんなさいピンク。でも私達は自分の気持ちを、自分の考えを余り出さないということでこの幸せを保っていたのではないの。皆が自分勝手な事を言い出したら生活はできなくなってしまうのではないの。」
「自分勝手な事を言うのと、自分の気持ちを言うのは違うと思うわ。言ってくれなくては分からない事もあるのよ。」
「そうかしら。でもピンクもローラも、自分の気持ちを言ってしまったからこうなったのではないの。」
「でも言ってくれなくては・・。」
「貴女は優しいからローラの為にいろいろと言ったのよね。それは分かるわ。でも、ローラにはそれが優しさには思えなかったのよ。貴女の自分勝手に思えたのよ。ローラが、サニーが生まれた時に世話を一生懸命にしたのに、貴女は何もしない、煩い事を言うだけ、そんなふうに思えていたのよ。だから言いたい事を言うという事が、自分勝手な事を言っているのか、優しさで言っているのかなんて誰にも良く分からないのよ。」
「そんな、それならばどうしたら良いのよ。ボビイ達のわがままを黙ってみていれば良いというの。魚のことでも、何も言わない方が良いというの。アンの気持ちはどうなるの、取られても我慢しなさいというの・・。」
「そうではないわ。魚の事ではボビイを叱って当然よ。」
「そうでしょう。だから私は叱ったのよ。そうしたらこんな事になってしまったのよ。私は、私は自分のしたことが間違っているとは思わないわ。」
「そうね。貴女のしたことは間違ってはいないけれど・・。」リリーも分からなくなってきました。
「私達って、そんなに我慢して暮らして来たのかしら。そんなに言いたい事も言わなくて暮らして来たのかしら。ジョン、私達は自由を求めて出てきたのではないの。それなのに私達には言いたいことさえも言えない様な・・こんなことの為に旅に出てきたの。こんなに、言いたい事もいえないような自由の無い生活のために。」

 ピンクがジョンに聞きましたが、ジョンは答えられなかった。実はジョンは、自由を求めて出て来たというような、大それた考えは無かったのです。外に、ほんの少し好奇心を持ったから行ってみたいなと思っただけで、それ以外に何の考えも無かったのです。外に出たら楽しい事やいろいろな事があったりして、それでここまで来てしまった、そんな考えのほうが強かったのです。
でも、ジョンは答えました。
「そうだね。皆もそうだと思うが、小屋の中の退屈な生活には飽きて、外に出て自由に暮らしたいと考えたからだと思うよ。」
「そうでしょう。だから皆は貴方に付いて来たのよ。私もそうよ。貴方に付いていけば何かが有ると思ったから来たのよ。それなのに自分の気持ちを言える自由も無いなんて。私達の旅ってこんなことだったの、ジョン。」
ジョンは考え込んでしまった。それはジャックも皆も同じでした。
自由とは何だろうか。自分の気持ちを正直に言う事とは何だろうか。我慢と正直の境とは何処なのか。考えても分かるはずがありません。このような経験は初めてですから、答えが出るはずがありませんでした。


 沈黙が続きました。
「私は正直に生きて行きたいわ。それが私達の為だと思うもの。」
ピンクの言葉にリリーも、「そうね。その方が良いかもしれないわね。これからは私もそうするわ。今まで貴女ばかりに辛い事を言わせてしまってごめんなさい。」ピンクに謝りました。
「リリー、私と貴女とは何でも話し合えるようにしましょう。」
「ええ、そうしましょう。その方がお互いの気持ちが良く分かるからそうしましょう。」
ピンクとリリーは、まだ目に涙を浮かべていました。

                          つづく

チキンの冒険・第3章

前ページよりつづく

 ピンクにとっては、珍しく勝ち誇ったようしていました。それくらいに冷静さを欠いていたのです。それは可愛い子供の食べ物の事だったので、余計にそうなったのかもしれませんが。
ボビイが食べたと言う事が分かったので、少し落ち着きを取り戻して話始めた。
「ローラ、これで貴女も分かったでしょう。貴女の子供は人の物まで取って食べてしまう子供なのよ。それは、貴女の育て方が悪いからこうなったのよ。これは貴女の責任なのよ。母親として、もっとしっかりとしなければいけないのよ。私はね、この事を言っているのよ。これで良く分かったでしょう。」落ち着いて話しただけに、よけいにきつく聞こえました。

 ローラは黙ってうつむいていました。ボビイが食べたということのショックと、母親としての自分を否定されたショックが重なっていました。
ナイフは、ローラの事を思うと黙っては居られなくなりました。
「ピンク、お前それを言うのは言いすぎだぞ。ローラの子育ての何処が悪いと言うのか。」
「これを見たら分かるでしょう。人の物を取るのが悪いことではないというの。」
「ピンク、そこまで言うのなら俺も言わせて貰う。」ナイフも争いに参加してきた。と、言うよりナイフも、自分の子供と愛するローラの批判をここまでされると、我慢ができなくなったのです。
「良く考えてくれ。良く考えてくれピンク。俺はこれを言うつもりは無かったけれど、お前達は、ローラの気持ちなど何にも考えていない。」
「ローラのどんな気持ちよ。」
「リリーも同じだよ。お前達が子育てをしているときにローラはどれだけ手伝ったと思う。どれだけ手伝ったと思うのだ。それなのにお前達は、ローラが始めての子育てをしているというのに何をした。何を手伝った。何もしないではないか。何故だ。手伝ってもらえば、そのお返しをするのが当たり前なのではないのか。お前達は子育ての先輩ではないのか。ローラが手伝って貰えなくてどんなに寂しく思っていたのか、お前達は分かっていたのか。いいかピンク、ローラは二人も同時に育てているのだぞ。一度に二人を育てる忙しさ、それをお前は分かっているのか。ローラに偉そうに言うなと言うのはそう言うことだ。お前達は手伝ってもらっておきながらも、そのお返しの手伝いもしない。ローラが言っているのはそう言う事なのだ。それがお前には分からないのか。ローラの気持ちのどこを分かっているというのか。偉そうに言わないでくれ。これではローラがあまりにも可哀相だよ。」
ナイフは怒っていました。それはピンクに怒っていただけではなく、皆にも怒っていました。
ローラは、ナイフの胸で泣いていました。

 ピンクは言葉を無くしてしまいました。確かにローラは子育てを献身的に手伝ってくれました。それに引き換え、ピンクとリリーは手伝っていませんでした。
ピンクには、アンが生まれたのでローラの子育てと、自分の子育てとは同じだと考えていたのです。そして自分達の子供の育児を手伝ってくれていたので、ローラにはそれを手伝わなくてもできる事だと勝手に判断していたのです。

 リリーは違っていました。チッチは既に大きくなっていましたが、ローラの子育ての手伝いはしていませんでした。

 ピンクは暫く考えて、ローラに言いました。
「ローラ、御免なさい。確かに貴女のお手伝いはしなかったわ、ごめんなさい。」ピンクは謝りました。ローラの気持ちに気付かなかったことを謝りました。
けれども、ローラの子育ての仕方には、問題が有るという思いは変わりませんでした。
「貴女達は私のことなど何も分かっていないのよ。」と言うと。ローラはナイフの胸の中で泣き崩れていました。 

 その夜は、とても気まずい空気の中で、一夜が明けました。

                            つづく

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チキンの冒険・第8章

八、ローラの子育て

 ピンクの気持ちは曇ったままでしたが、鶏達の生活は、何事も無かったかのように過ぎて行きました。

 相変わらずボビイとメアリーはわがままでした。そしてそんなわがままな子供達を、ローラは注意することも、叱る事もしませんでした。

 リリーも自分の事で精一杯でした。というよりピンクとローラの間には入りたくない。面倒なことには近づきたく無いという態度が見え見えでした。

 仲の良かった雌鶏達は、お互いを干渉しないということで、ガラスのような割れそうな空気の中で、平穏を保っていました。ピンクはそんな平穏には、寂しさを感じていましたが、言い争いをするよりも良いと考えて、リリーと同じ様にしていました。

 ジョンは、ローラの子育ては間違っていると考えていたが、でも、それを言うのはナイフの仕事と考えていた。ナイフが、父親の責任としてローラに言うべきことだと考えていたのです。

 ジョンも、雄鶏達だけでも仲良くしていたい。
何かを言ってしまえば、ピンク達母鶏のように気持ちの通じない寂しい関係になってしまうと考えていたから、自分達だけでもそうしない様にと考えた。
この壊れそうな空気の中で、たとえ正しいことでも、それが素直に理解されず、本当に全員がバラバラな関係なってしまうと思い、それだけはいけないと考えていた。

 ナイフは全く違うことを考えていた。
ピンクやリリーが、ローラに対して理解が無いと思っていた。ローラは、ボビイとメアリーを一度に育てている。だから、ピンクやリリーの子育てよりも、とても忙しくて大変なのです。それに、ピンクとリリーの子育ての時には、それが大変だと考えていたから、ローラがどれほど一生懸命に手伝ったというのか、それによってピンクやリリーはどれほど楽になっていたのか。それを考えたら、もっとローラの気持ちを考えるべきだと思っていました。ナイフ、ローラ夫婦と、ピンクとリリーとは考え方に大きな違いがありました。

 ジャックはジョンに近い考え方をしていましたが、多くを語ろうとはしませんでした。それはビッグも同じでした。

 そんな心が通じ合えていない共同生活が続いていましたが、ガラスの上に乗っているような壊れやすい共同生活なので、平穏が何時までも続くはずがありません。それは、ほんの小さな出来事から再び言い争いが始まってしまったのです。

 この日の夕食には、ジョン達が魚を捕って来ていたのです。その魚が食卓に出されましたが、全員が食べられるだけの数はありませんでした。
 親鶏達は数がありませんでしたのでそれを食べませんでした。親鶏達は、他の食べ物でお腹を膨らまそうとしていましたが、そうしても子供達全員が食べられるだけの数は足りません。
ジョンは、一番年上のサニーには魚を渡しませんでした。それはチッチとボビイとメアリーとアンに渡されました。魚は、子供が大きければ大きい魚を、小さければ小さい魚を渡したのです。その為に一番大きな魚はチッチが食べ、一番小さな魚がアンに渡されました。

 アンは、出された魚を直ぐには食べずに、最後に食べようとしていました。アンの食事はまだ幼かったので、とてもゆっくりとしたものでした。チッチやボビイやメアリーが食べ終わった後も、アンの前には魚が残されていました。アンはそんな魚を見つめながら、ゆっくりと食事を取っていたのです。
 アンは、楽しそうにお喋りをしながら食べていました。そしてアンがよそ見をしていたときに、自分の前に有ったはずの魚が消えてしまっていたのです。それは一瞬の出来事でした。
アンは、自分の周りをキョロキョロと探していましたが、親鶏達はまだその事に気付いていませんでした。
「アン、どうしたの早く食べなさいね。」
ピンクは、アンがキョロキョロとよそ見ばかりをしているので、食事を早くするようにと世話をやいたのです。
「うん。」
それでもアンは、自分の周りを気にしている様子でした。
「どうしたのアン、よそ見ばかりをして。」
「うん。お魚が・・。」
「お魚がどうしたの。」
「無いの。」
「無いって。アン、食べたのではないの。」
「食べていないの。ここに居たのに、居なくなったの。」
「居なくなった・・食べていないの。」
「うん。」
それを聞いていたサニーが、「本当に食べていないよ。さっきまでアンの前に置いてあったよ。」と言いましたので、
「あら、おかしいわね。アン、少しどいてみて。」ピンクは、アンを少し移動させて、アンの座っていた辺りを探しましたが、魚は見つかりませんでした。
「無いわねえ。おかしいわねえ。」そう言っていると、リリーが「どうしたのよ。」と聞いてきたので、
「アンが食べようとしていた魚が無くなってしまったのよ。」と言ったのですが、すぐに続けて「アン、もう食べてしまったのではないの。」と、アンを覗き込むようにもう一度優しく聞きました。
「私・・食べていないの・・。」アンは小さな声で返事をしました。

 ローラがそこに入って来て、「アン、嘘を言っては駄目よ。本当の事を言わないと駄目よ。」と、強く叱るように言ってきたのです。
「ローラ、貴女なんという言い方をするの、アンは嘘を言うような子では無いわよ。」その言葉を聞いたピンクはローラに言い返した。
「私はアンに確かめたかっただけよ。そんなふうに言わなくても良いでしょう。」と、さらにローラが言い返した。
「貴女の言い方は良くないわよ。貴女は時々そういう言い方をするけど、私は貴女のそういう言い方は好きじゃないわよ。」
「何よ、私の言い方の何処が良くないと言うのよ。」
「貴女は人の気持ちを考えないで喋るのよ。気をつけた方が良いと思うわ。」
「私が誰の気持ちを考えていないというの。私はね、アンが食べたのではないかと思ったので、アンに聞いてみただけなのよ。それのどこがいけないと言うの。」
「貴女は聞いただけではないでしょう。アンに嘘を言っては駄目と言ったでしょう。」

 一気に激しい言い合いになってしまった。
ピンクの声がだんだんと激しく大きくなってきました。
ローラも負けないように声が大きくなってきた。
「食べたのに食べていないと言ったらそれは嘘じゃないの。だから私は聞いたのよ。そのどこがいけないと言うのよ。」
「貴女は分からないの。こんな小さな子が嘘を言うと思うの。良く考えてみなさいよ。」
「何を言っているの、貴女だって、さっきこの子に食べたのではないのかと聞いたじゃないの。自分は聞いたのに、私が同じ事を聞いて何が悪いのよ。貴女ね、ジョンがここのリーダーのようにしているからって、貴女までリーダーじゃないわよ。貴女こそ、貴女こそ何か勘違いをしているのじゃないの。言いますけどね、貴女はね、私達に偉そうにしすぎよ。何で貴女が私達のことまでとやかく言うのよ。貴女にどんな資格があると言うのよ。」
「ローラ、私が何時偉そうにしたというのよ。私はね、皆が仲良く一緒に暮らしたいから
そうしましょうと言っただけよ。それも貴女達には気を使ってほんの少し言っただけなの。」話終わらない内に、
「何が少しよ。あれだけ言えば言いすぎよ。」
「どうして、どうして分からないのよ。貴女は、以前はこんなじゃなかったわよ。どうしてこんなになってしまったのよ。」
「ピンク、それが貴女の言い過ぎと言う事なのよ。分かっていないのは貴女自身よ、貴女は、自分が偉そうにしているのが分からないのよ。それにね、私の何処が今までと違うと言うの、私は何も変わっていないわ。変わっていないわよ。変わったのは貴女なのよ、貴女が人の気持ちを分からないようになってしまったのよ。」ピンクとローラの心のすれ違いは、止まらない処迄達してしまっていました。

 ナイフは、この言い争いにはどうしたものか右往左往していました。それくらいにローラの気迫が凄かったのです。止めに入れませんでした。
この頃のローラとナイフの関係は、力関係が完全に逆転していました。最初の内はローラがナイフに甘えてばかりでしたが、子供が生まれてからは、ローラの力が上になっていました。夫婦の事は、全てをローラが決めていたと言っても言い過ぎではないくらいになっていました。ナイフは、ローラに頭が上がらなくなっていたのです。

 ジョンとジャックが止めに入って来ました。ジョンとジャックも、ピンクとローラの、こんなに激しい争いは今までには見た事も無いことで、どうしたら良いのかと考えていましたが、ここ迄激しくなると割って入るしかなかったのです。
「ピンク、ローラ、もう止めてくれ。頼むから止めてくれ。子供達が驚いて居るから止めてくれよ。」ジョンはそう言うのが精一杯でした。
「ジョン、ローラは私が間違っていると言うのよ。私が・・・。」ピンクの瞳に涙のような物が見えました。
「ナイフ、貴方は黙っていないで何とか言ってよ。」ローラは、強い言葉でナイフを呼び寄せた。
「ああ。うん。」のナイフは困っていました。
「ピンク、ピンクの気持ちは良く分かっているよ。でもここはもう少し冷静に、な。」ジョンが優しく言うと、
「私が、私が、私の何処が、何処がいけないと言うのよ。」
「お前は間違ってはいないよ。間違ってはいないよ。」
「そうでしょう。私は。」そう言うとピンクの頬に大きな涙が流れました。

 ローラも同じでした。少し涙を浮かべていました。
「ナイフ、貴方は黙っているけどどう考えているのよ。しっかりしてよ。」再び叱るように言いました。
「お前の気持ちは俺が一番分かっているから。」ナイフはそう言うのが精一杯でした。

「ピンク、アンの魚はどうなったの。アンの魚を探すのが先だろう。」
ジョンは話題を少しでも変えたかったのです。
もともと、魚が居なくなったことから、こんなに言い争いになってしまったのですから、魚がどうなったのかの結論を出すのが良いと考えたのです。
「私のお魚・・・。」親達の争いで小さくなっていたアンが、弱々しい声で言いました。
「そうよ。魚よ。魚を誰が食べたのよ。ここに居たのはアンとボビイとメアリーとチッチでしょう。貴方達の誰かがが食べてしまったのではないの。」ピンクはボビイとメアリーを睨み付けた。
それには、さすがに子供達も怖くなってしまいました。

 小さな声でボビイが、「ごめんなさい。」と、言ったのです。ボビイはピンクが怖かったのです。
その途端にピンクが怒りをあらわにした。それはローラの子供が犯人だと分かったからかも知れません。それ位に冷静さを欠いていたのです。
「ボビイ、貴方は魚を横取りしたの。横取りしたのね。」
「ごめんなさい。」
「ボビイ、貴方には自分の食べる魚はあったじゃないの。それなのにアンの物まで食べてしまったのね。」
「ごめんなさい。」益々ボビイの言葉は小さくなった。そしてピンクの怒った顔の怖さで震えていました。

 ローラはこの展開を予想していませんでした。まさか自分の子供が、人の物まで食べてしまうとは考えもしませんでした。
「ボビイ、アンの魚を本当に食べてしまったの。」ボビイに聞きました。答えは『違う』と言ってほしかったのですが、ボビイは「うん。」と、小さく返事をしました。
それを聞いていたピンクは、
「ローラ、これで良く分かったでしょう。貴女の、貴女の、このボビイが食べたのよ。アンの物まで食べてしまったのよ。」
「ねえボビイ、本当に食べたの。」ローラは尚も聞き直しました、嘘だと言って欲しかったのです。
ボビイは正直に「ごめんなさい。美味しかったので食べた・・。」と、済まなさそうに言いました。
「・・・・・。」ローラは暫く何も言えませんでした。
                        次ページにつづく

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チキンの冒険・第3章
七、幸せのはずなのに

 この日は、朝からピンクが何時もの様に、元気が有りませんでした。

 ジョンはそんなピンクを気にしながらも、仕事をしていました。ジョンの仕事とは子供達の世話と、その日の行動を、ジャック達と打ち合わせをすることでした。
 勿論この日も、待っている子供達の為に、美味しい食事の材料を探して来るのが、第一の仕事でした。ジョン達父親の仕事は、食事材料を探すのが一番重要な仕事だったのです。
「ジョン、今日は何処に行こうか。」
何時の間にかジョンは、リーダーとしての風格が備わっていました。ジャックもナイフもそんなジョンに良く従っていました。
ジョンは、ナイフに、何処に行こうかと相談をされたのです。
「そうだなあ。今日は笹竹のある処迄行って見ようよ。もう竹の子が出ているかも知れないから。」
「そうだ。竹の子だよ。俺とジョンが何ヶ月か振りに会う事が出来たあの場所だよ。」
「そうだよ。お前と偶然に会った所だよ。そこに行けば美味しい竹の子が取れるぞ。」
「竹の子か。美味いだろうなあ。ボビイ、メアリー今日は特別に美味しい物を取って来るぞ。それにしてもあの時は嬉しかったなあ、まさかジョンに会えるとは思ってもいなかったからなあ。」
「それは、俺も同じだよ。あの時は驚いたよ。」
「そうだなあ。」それはわずか半年と少し前のことですが、ジョンとナイフは懐かしそうに話していました。
「よし、行こうか。」ジョンがそう言ったその時です。
「ねえ、ジョン。」突然、ピンクがジョンに、小さな声で話し掛けて来ました。
 その様子は、何かを思いつめているようでした。
そんな小さな変化を。ジョンは敏感にキャッチしました。ジョンは、何時も、ピンクの事ばかりを考えて生活していたのですから、ピンクの気持ちの小さな変化も、敏感にキャッチする事が出来たのです。
「どうしたピンク。」
「うん、今日は私も付いて行くわ。」
「付いて行くって。何処まで。」
「竹の子取りに・・。」
「子供達はどうするの。」
「連れて行くわ。」
「・・・・・。」ジョンは暫く考えていましたが、
「ジャック、ナイフ、悪いが今日は行って来てくれないか。俺はピンクと行くよ。」と、ジャック達に、お前達だけで行ってほしいと言いました。
ジャックもナイフも勿論ビッグも、ピンクの様子が何時もと違う事が直ぐに分かりましたので、素直に了承しました。
「悪いなあ、頼むよ。」
「良いよ良いよ。ピンクの話を聞いてやれよ。」
そう言うと、ジャック達は竹の子取りに出掛けて行きました。
ジョンはピンクに振り向くと、
「ピンク、何処かに散歩に行こうか。サニー、アンも来るかい。」
サニーは留守番をしていると言いましたが、アンは付いて行くと言いましたので三羽で出掛けて行きました。行ったところは丘の上です。そこで腰を降ろすと、暫くの間は辺りを静かに見ていました。
この日も、とても気持ちの良い、良く晴れた日でした。

 何も言わないピンクに、ジョンが問い掛けました。
「ピンク、何か話が有ったのではないの。」
「うん、そうだけど。」
「何、何の話。」
「うん・・・・。」ピンクは、ボンヤリと遠くを見つめたままでした。
「どうしたのピンク。心配事でもあるのか。」
「そうではないけど・・・。」
「話してよ。何か話があるのだろう。」
ピンクは、ゆっくりと静かに話し始めました。
「ねえジョン。私達はサニーとアンを授かったわ。リリーもローラもそうよ子供を授かったの。」
「そうだね、皆家族が増えて良かったね。」
「そうね、家族は増えたわね。」
「ピンク、何を考えているの。家族が増えた事に何か問題でもあるのかい。」
「幸せよ。サニーとアンを見ていると、とても幸せを感じるわ。」
「そうだろう。僕もそうだよ。家族とは良いものだなあと思うよ。」
「そうね。・・・・でも・・・・何かが少しずつ違ってきているように思うのだけど・・・。」
「少しずつ違ってきているって、何が違うの。」
「私達は家族が出来て幸せになったはずなのよ。それなのに皆の心が少しずつ離れて行くような気がするの。」
「そんなことは無いよ。」
「有るわよ。貴方はローラの事をどう思っているの。」
「ローラ。」ジョンも、昨日のピンクとローラの言い争いの事は、あれからずっと考えていました。
「ローラはもっと考えるべきだよ。」
「そうでしょう。ローラは自分の子供たちには甘いのよ。自分の子供さえ良ければ良いと考えているのではないの。」
「そうだなあ。少しそういう処が有るなあ。」
「少しではなくて、随分ひどいわよ。ビッグがあんなに子供たちと遊んでくれたのに、お礼の一言も言わない。それに、子供たちが、デブとひどい事を言ったのに叱りもしない。」
「そうだな。」
「私の知っているローラは、あんなじゃなかったわよ。ローラはもっと違っていた。もっともっと優しかった。周りに対しても気遣いをして皆に好かれる、そんなローラだったのよ。それが、どうしてあんなに変わってしまうの。」
「う、うん。」ジョンは答えられなかった。

 デブと言う言葉は、ナイフが喋った言葉だけれど、その言葉が出てきた原因は、ジョンの言葉からでした。だから、直ぐには答えられなかったのです。
「それは・・・。昨日は、俺が、ビッグは魚が捕れないので他の物を取ってくるようにと言ったからそうなってしまったけれど・・。」
「ジョン、貴方は悪くは無いわよ。貴方は、ビッグにはビッグの取り易い物を取ってくれば良いと考えたからそう言ったのでしょう。」
「そうだよ。ビッグにはその方が良いと思ったからそう言ったのだよ。」
「そうね。それは貴方の優しさよね。」
「うん、そうだけど。」
「それなのにナイフはそれを、ビッグは太っているからだとか、動きが鈍いからだとか言ったのよ。ナイフは貴方の気持ちを考えていないのよ。」
「そうだなあ。」
「どうしてそんなことを言うのかしら。人の気持ちを考えないで何故あんな事を言うのよ。ナイフもローラもどうしてあんなになってしまったのかしら。」
「・・・・。」
「私達は子供を授かり、幸せ一杯で暮らしているのに、どうしてあんなに他人の気持ちが分からなくなってしまったのかしら。ナイフとローラがそうだから、ボビイもメアリーもあんなに悪い子に育ってしまうのよ。」
「・・・・。」
「私達は、今の幸せで満足しなければいけないのに、今の幸せを、皆で守らなければいけないのに、ローラ達は自分達だけが良ければいいと考えているのよ。」
「・・・・。」
「勝手なのよ。自分勝手なのよ。でもどうしてそうなってしまうの。」
「・・・・。」
「私、悲しいわ。リリーもそうよ。ボビイやメアリーが何をしようと知らん振りをしている。ローラには何も言わないわ。チッチばかりを可愛がっているわ。自分達のことばかりをしているわ。今のリリーは、周りの誰かが悲しんでいても知らん振りをしているでしょう。だから、リリーもローラも同じよ。周りの事なんかどうでも良いのよ。自分達だけ良ければそれで良いのよ。」
そこまで言うと目に涙を浮かべた。
「ピンク、そんなに考え込むなよ。リリーもローラも一生懸命にやっているだけだよ。」
「それは違うわよ、ジョン。一生懸命にやるのは自分の為だけではなくて、皆の為にもやるものよ。私達はそうして今までやってきたのではないの、ジョン。助け合ってやって来たのではないの。」
「・・・そうだったね。」
「私達は少しずつ間違った方向に向かっているように思うの。こんなに何でも揃って、何も不自由が無い生活が出来ているのに、少しずつ気持ちが離れて行くの。少しずつ違う方向に向かっているような感じがするのよ。・・・リリーもローラもあんなでは無かったのに・・・。」
一筋の涙がピンクの頬を伝った。
「・・・・。」
「・・・・。」
ジョンもピンクも黙ってしまいました。
随分永い間沈黙が続いた。
答えは見つかりませんでした。
「ピンク、そんなに考え込むなよ・・、もう帰ろう。皆が待っているから・・帰ろう。」
「うん・・。」
何の結論も出ません。
ジョンとピンクとアンは、黙ったまま帰って行きました。

                           つづく

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