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イェーメン情勢とアラビア半島のアルカイダ(AQAP)について

1、 米国にとってのテロ脅威としては、アフガン・パキスタン国境にいるアルカイダとイ
ェーメン、ソマリアのアルカイダ系組織に差はないとの議論は正しいと昨年11月7日のこのブログで書いた。12月25日ナイジェリア人ウマール・ファルーク・アブドルムタラブ(23歳、男性)がアムステルダム発デトロイト行きノースウエスト航空253便を機内でPENT(pentaerythritol:プラスチック爆弾の一種)を爆発させ、墜落させようとした。乗客と乗組員が発火の時点で取り押さえ、未遂に終わったが、間一髪であった。同人は下着のなか、睾丸のところにこの爆発物を隠し持っていて、それが発火したのでそこを火傷して、病院に入っている。その後の調査で、「AQAPが彼を訓練し、この爆発物で装備し、この航空機を攻撃するよう指示した」(1月2日付オバマ大統領発言)ことが判明した。AQAPも犯行声明を出している。

2、 オサマ・ビンラーデンの祖父はイェーメンよりサウジにきて巨万の富を築いた人であ
るが、イェーメンには以前からアルカイダに同情的な人々やアルカイダ組織があった。2000年10月12日、アデン港で米軍艦コール号が停泊中爆弾を積んだ高速艇に体当たりされ、大破、17名の米軍人がなくなった。その後、米とイェーメンは特に9・11テロ以降、対テロ対策で協力してきた。
しかし2002年11月、米の無人航空機が東部イェーメンでアルカイダ組織の長アブ・アリ・アルハリシ(米はコール事件の犯人の一人としていた)を殺害した。イェーメンがこれに同意を与えたことは国内政治上問題になるので米にこの件を発表しないように求めたが、米は発表した。これで、米・イェーメン間の信頼関係がなくなり、協力関係もうまくいかず、米の対イェーメン政府援助も減少した。
その後、2006年コール事件の犯人を含む23名がイェーメンの牢獄から脱獄するとの事件が起こった。この中の一人ナセル・アル・ウハイシ(昨12月24日、米無人機攻撃で死亡したとされる)が中心となり、アルカイダ組織の再建、AQAP(イェーメンのアルカイダとサウジのアルカイダの合同したもの)の結成が進められた。これに米のグアンタナモ基地で拘束されていたが釈放されサウジやイェーメンに送還された者、イラクでの戦闘から帰国した者が合流して、今のAQAPが成り立っているとされている。
 正式なメンバーは約200名くらいではないかとされているが、その周りには部族長でアルカイダのイスラム擁護論に賛成のシンパがかなりいると推定されている。200名をどう評価するかであるが、アルカイダ本体も2001年の9・11テロのころ数百名と推定されていた。
今回の爆薬は靴爆弾テロ犯リードが使用しようとしたもの、サウジのリハビリプロジェクトでナイフ王子が反省したアルカイダ員と握手する際にそのアルカイダ員そのものが爆発した際に用いられた爆薬(犯人の肛門に仕掛けられていた)と同じものである。
ウハイシ亡きあとは、多分グアンタナモよりの帰還組のサウジ人サイド・アリ・アルシフリが指導者の地位に就く可能性が高い。

3、 イェーメンのサレー大統領にとり、最大の問題は北部の反乱勢力、フーシー族を抑え
込むことである。フーシー族はシーア派でイランが支援している疑いがある。サウジ領に攻撃を仕掛けるので、サウジが爆撃をしたりしている。次に南部の分離主義者を抑え込むことである。アルカイダとの戦いはこの両者に比較し、優先事項ではない。米は対イェーメン援助の増額を行い、イェーメンが対アルカイダ掃討に力を入れるように求めている。イェーメンがどこまで協力するか、よくわからない。イェーメンは最貧困国で、経済、社会問題は山積し、破綻国家と言っても差し支えない。
イェーメンのアルカイダはアフガン・パキスタン国境のアルカイダより安全な状況にあり、訓練基地を設け、比較的自由に活動出来ているとされている。

4、 米の中には、イェーメンのアルカイダを攻撃すべしとの声が強い。イェーメン政府と
協議した上での無人航空機攻撃、ミサイル攻撃をアルカイダに行うとともに、イェーメン政府にアルカイダ訓練場所についての情報を提供するなどは良いが、それ以上に介入すると反発が生じるだろう。アルカイダは米の攻撃をイスラムへの攻撃と宣伝し、要員獲得などに利用する。挑発に乗らない慎重さも必要である。
サウジが地理的近接性ゆえにイェーメンのアルカイダの脅威をまともに受けること、サウジはイェーメン人のメンタリティをよく理解できることに鑑み、サウジと協議しながら対イェーメン政策を展開することが望ましいと思われる。
なおソマリアとイェーメンも地理的に近く、イェーメンには数万人のソマリア難民がいる。ソマリアのアルカイダ組織とAQAPが協力する可能性がある。

5、 テロについては、撲滅はできない、脅威レベルを下げられればよしとしなければなら
ない面もある。その観点から国土安全保障措置は重要である。
今回のナイジェリア人のケースでは、米は8月にイェーメンでナイジェリア人が攻撃のために仕込まれているとの会話を傍受したこと、ウハイシが10月末にインターネットで空港、航空機、住宅街、地下鉄攻撃を呼びかけたこと、さらに重要なことにこのナイジェリア人アブドルムタラブの父親(ナイジェリアで銀行の頭取や閣僚を務めた人物)が11月19日、在ナイジェリア米大使館を訪問、息子が過激思想に染まり、行動に出ないか懸念していると伝えたことがある。
情報機関はアブドルムタラブを55万人が掲載されている警戒リストに入れたが、搭乗拒否リストや空港での厳格な身体検査を要するリストには掲載していなかった。これは今後是正されることになるだろう。
国務省が同人に2年有効の査証を発給、父親の訪問にも拘わらず、その査証を取り消していなかったことが強く批判されている。査証発給権限が国務省から国土安全保障省に移される可能性は高い。
こういう事件が起こると情報の失敗とよく言われるが、後知恵のケースも多い。しかし米ではそういう批判を受け、すぐ調査が開始される。これは日本としても見習うべき姿勢である。
(文責:茂田 宏)


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