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核兵器の問題

核兵器の問題

1、 日本は核兵器の威力を身をもって体験した唯一の核被爆国である。私はこれまで広島、長崎を何度も訪ね、原爆の破壊力、その非人道性を見てきた。広島、長崎への原爆投下は軍事目標ではなく、都市を攻撃したもので、戦争法上、違法であると考えている。
1996年7月に国際司法裁判所は、核兵器の使用および威嚇の合法性に関する勧告的意見(一般的に国際法、特に人道に関する国際法に違反。しかし国家存亡の危機の使用は合法か違法か、結論を出せない)を出しているが、それが今の国際社会の意見であろう。

2、核兵器について広島、長崎で私が考えたことは、日本国民がこういう惨禍に再び見舞われてはならない、それが何よりも重要である、ということである。

3、 日本の戦後の核兵器政策は、国是と言われる非核3原則である。しかしこの政策は、日本が再び核の惨禍に見舞われるのを阻止するのに資する政策かというと、そうではない。核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずというのは、広島、長崎の経験を踏まえた反核感情に沿う政策であるが、国際政治の現実を踏まえた国家安全保障政策として、適切であるのか疑問である。
戦後の日本では、核兵器の問題を安全保障政策上の問題として討議することはタブーになってきた。広島、長崎での原爆の悲惨さが語られることがあっても、何故今も核兵器が引き続き多くの国の安全保障政策の中で重要な位置付けを占めているのかについての真面目な議論はない。これはあたかも戦争の悲惨さを語ることに熱心であるが、戦争がなぜ起こるかを研究しない戦後の日本に支配的な姿勢と軌を一つにしている。
ある時NHKの討論番組で、ある高名な国際政治学者が、日本が核保有することには何のメリットもなく、マイナスばかりであると発言していた。国際政治学者の意見とはとても思えない発言である。
米が1945年にこの兵器を開発した後、1949年にソ連が、1952年に英が、1960年に仏が、1964年に中が、1974年にインドが、1988年にパキスタンが、2006年に北朝鮮が核兵器を実験した。イスラエルと南アも核兵器を保有した。南アは黒人政権成立直前に廃棄した。イラン、リビヤ、シリヤ、イラクも開発しようとした。中華民国(台湾)も開発を試みたが、米の要求を受け入れ、やめたことを2007年に公表した。韓国も朴政権時代に開発しようとした。ブラジルとアルゼンチンも、1990年に共同で核開発停止を発表するまで開発努力を続けた。中立国であるスエーデン、スイスも核兵器開発を行っていたが、スエーデンは1970年に核不拡散条約署名とともに開発計画を放棄し、スイスは1988年に放棄した。
これらの国は、自国の安全保障のために核兵器の保有が必要であると、一時的にではあれ判断した。この国際政治学者の言うように、核兵器保有が何のメリットもなく、マイナスばかりであるのなら、なぜかくも多くの国が核のオプションを考えたのか、説明がつかない。国際政治の議論は現実をよく見て、それに基づきなされなければならない。
核兵器の保有はその国にとり大きな安全保障上のメリットがあると言う考え方は十分に成り立つ。にもかかわらず、それを断念すると言う決断をすることもありうる。それは周辺からの脅威や核保有同盟国の有無など、諸要因を考えて決めるべき問題である。
ドゴールが米と同盟しつつ、何故独自の核保有を必要と判断したのか。毛沢東が「上策は核をすべてなくすこと、中策は他国も持っているから持つこと、下策は他国が持っているのに自分だけ持たないことであるが、中国は中策を選ぶ」とした判断をどう考えるか。英国でトライデント潜水艦更新時に毎回繰り返される、米の核の傘に頼るだけで十分で独自核は要らないのではないかとの論争と、それが毎回独自核保有は必要と言う結論になることをどう考えるか。そういう議論をよく踏まえた上で、かつ周辺の状況もよく見た上で、日本も議論をすべきであると考える。単にタブー視して、議論を避けるのは責任ある態度ではない。

4、 日本は不幸なことに核兵器保有国に取り囲まれている。同盟国の米に加え、中・露・北朝鮮がある。再び日本が核の惨禍に見舞われないために、これらの国、特に北朝鮮による核兵器攻撃はしっかりと抑止する必要がある。そのためには、今は米の核の傘しか頼るものがない。
米の核の傘については、二つの事例をよく考える必要がある。
第1:1975年にソ連が欧州の都市攻撃が出来る中距離弾道ミサイルSS−20をソ連欧州部に配備した。ドイツの当時のシュミット首相はこの兵器は米と欧州の安全保障をディカプリングする(切り離す)効果があると主張した。シュミットが言ったのは、「米国がベルリンを守るために米国から反撃したら、ソ連はニューヨークやワシントンを攻撃するだろう。しかし米国がベルリンを守るためにニューヨークやワシントンを犠牲にすることはないであろうから、したがって欧州より発射される核ミサイルで反撃するしかない。」ということであった。それで、欧州へのパーシングIIと核弾頭搭載巡航ミサイルの配備をすること、同時にソ連とこのミサイルを撤去する交渉を行うことになった。結局この問題は、1987年に中距離核戦力全廃条約が米ソ間で締結され、パーシングIIと巡航ミサイルおよびSS−20が廃棄されることになった。 極東地域に配備されていたSS−20も廃棄された。日本ではディカプリングの議論は起きなかった。
この事例で注目すべきことは、米国がシュミットの議論を受け入れたことである。米本土が攻撃を受けることを覚悟しベルリン攻撃に反撃するのか否かについて、不確定性があることを米は認めたのか。私は米国の当局者にこの点を何度か質問したことがある。答えは核の使用は状況によるが、シュミットの論を受け入れたわけではない、しかしシュミットは重要同盟国の首脳であるので、彼の懸念には配慮すべしということであった、との説明であった。
中国は核戦力を増強し、米ソが廃棄した中距離核ミサイルを保有するほか、今や米本土攻撃能力を持ってきている。東京への攻撃に反撃するためにロス・アンジェルスやサンフランシスコを犠牲にする用意が米にあるのかが、シュミット式の考えをすれば問題になる。
更に北のミサイルが米本土攻撃能力を持つ日は近付きつつある。
そういう中で、米の核の「持ち込み」を排除する非核3原則の第3原則は大きな問題をはらむ。
現に韓国では、米戦術核の再導入が議論されている。
第2:NATOでは、核共有の制度がある。これにはベルギー、ドイツ、イタリー、オランダなどが入っている。同じようなシステムを日米でも作り、米の核使用について日本も発言権を持っておくべきではないかという問題がある。

日本が再び核攻撃を受けないために、どうすればよいのかを現実を踏まえて考えることが求められている。核不拡散条約のこともあるが、反核感情に配慮するだけでこの問題を済ますわけにはいかない。

5、 戦後の国際政治において、核兵器が果たした役割は大変大きい。この兵器は人間の戦争と平和に対する考え方に大きな影響を与えた。フルシチョフが平和共存政策を打ち出した背景には、核戦争が人類の滅亡につながるとの認識があり、マルクス・レーニン主義の帝国主義勢力との戦争不可避論の転換であった。エジプトのサダトがイスラエルとの戦争はもうできないと考えた背後にはイスラエルの核があった。
米ソの冷戦が熱戦にならなかったのは、米ソ間で核の破壊力への恐怖に基づく戦争抑止があったからである。
この問題は避けて通るには大きすぎる問題であろう。

6、 私はこの夏、「終戦史録」を読み返した。
広島、長崎の人々は原爆の犠牲になることにより、一億玉砕も辞さずという軍の戦争継続論を圧倒し、戦争をやめさせた。我々がいま生きているのはこの尊い犠牲によるということがよくわかった。我々は彼らに感謝しなければならない。
広島や長崎の人々は広島、長崎の被爆の実相を世界に伝えることに努めている。これはこの非人道的な核兵器が人々に対し使われないようにするために役立つことであり、今後も続けるべきであろう。
しかし国際政治の現実をみると、核兵器をなくすのはほぼ不可能である。人間は一度得た知識を忘れ去ることはできないし、核保有国が核を全部廃棄することは近い将来考えられない。我々は核兵器と共存せざるを得ない。核兵器が抑止機能のみを果たし、実際に使われないようにすることが大切である。
(文責:茂田 宏)

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全くその通りです。
従って、その論理によって、北朝鮮<も!>自国の安全保障の為に、<核を放棄する事>は<有り得ない選択>でしょう。
日本が日米同盟を解消し、ウソ偽りなく、正真正銘!<核を持たない!国になる事>は <有り得ない選択>であるのと同様です。

つまり<日米韓の、北への核放棄要求!>は、日本にとっての<日米同盟>を破棄せよ!と<迫る>に等しい <無茶な要求>でしょう。

北朝鮮は<事実!>として! <戦後日本>のように<米国の敗戦国>になった!ワケではなく、法的には<休戦状態>にあるだけ、であり、従って、<米韓の言う事>を<無条件で!>受け入れなければ<ならない><立場>ではない!からです。

また<核不拡散条約>にも加盟しておりません!から、つまりは、法的には<全くの内政干渉状態!>である、のが現状の<日米韓の北への核放棄要求!>である、

と 私は考えますが、貴方はどうお考えですか?

2011/12/23(金) 午前 0:53 [ rompa ]

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質問、ありがとう。
北朝鮮が交渉の道具としてではなく、自国の安全保障のために核保有をしていると私は判断しており、よほどのことがないと、核放棄はしないと私は考えています。
日米韓が核放棄を要求するのはこれまでの経緯(北のNPT加盟、南北非核化宣言など)に鑑み、当然のことであると考えています。ただ見通しとしては、6者協議などで、北が核放棄する見通しは暗いと思っています。
その現実を踏まえて、かつ北はこれまでテロを行うなど、ならず者国家である点を考慮しつつ、我々も考える必要があるということです。

2011/12/24(土) 午前 9:09 [ 茂田 宏 ]

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ご返事ありがとうございます。
>北は交渉の道具としてではなく、自国の安全保障の為に核保有

その通りで、それこそ<自然な認識>だと思います。

日本では真逆で、相手から<見返り>を得る事を<第一目的!>として<脅し>をかけてきているダケの、<瀬戸際外交>の一環として<核開発戦略>がある、のではないか、という<見方>が一般的です。 つまり、北朝鮮にしてみれば!在韓米軍、在日米軍という形で<核の脅威>に晒されており!どこかの国のように大国と同盟関係にあるわけではなく、<すべてを自前で!>防衛力を整備し、国家安全保障してゆかなければならない以上、<自前で!>核保有せざるを得ない!<環境>にある、という事が<想像!>できないバカ、と<言わざるを得ない>と思います。

(つづく)

2011/12/24(土) 午後 9:53 [ rompa ]

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そこで貴方のように、<北朝鮮が核保有する>のは<自国の安全保障の為である>という、当然とも言える<正しい認識>をお持ちのお方が、一方で、NPT、南北非核化宣言、テロなどを理由に、<日米韓の核放棄要求>は<当然である!>と言い切るのは、やや<公正さ>を欠く断定のように思います。

なぜなら、<それら>を「理由」とするなら!米韓も!同時に!<在韓米軍を撤退させる!>など、<半島の非核化>を実現させる<義務>があるはず!だからです。 <自分の義務>は実行しようとはせず、<相手にだけ>一方的に<義務の実行>を迫るのは、<公平な態度> ではない事だけは明らかでしょう。

従って論理的には、<在韓、在日米軍を撤退させる事>による、真の意味の<周辺国の非核化>を実現させ、<米朝平和条約>を締結する、という形で<朝鮮戦争>を<法的に終結>させる、という<日米韓側の義務実行>が無い限り、<北が核廃棄する事>も<無い!>状態にある、と断定できるでしょう。

2011/12/24(土) 午後 11:25 [ rompa ]

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つまり、<最も簡単、単純に>言えば、韓国、日本が、<米軍を駐留させる>という<形>で、<核を放棄>せず!<核武装>している限り、北朝鮮<も!> <核放棄>せず!<核武装>続けざるを得ない<状態>になっている、ダケです。

従って日本、韓国が、本当に!<北に核を放棄してもらいたい!>と言うなら! 自らの<米軍による核の傘>も!<放棄!>しなければならない! という<当たり前な道理!>がそこに有るダケ!なのだ、 と私は思います。

2011/12/25(日) 午前 3:16 [ rompa ]

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あなたは北朝鮮労働党の党員かシンパですか。北朝鮮の核問題の経緯をもっと勉強してきちんと論を立てないとコメントに値しないと思います。核の傘と核武装を混同するなど、話になりません。

2011/12/25(日) 午後 8:08 [ 茂田 宏 ]

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私は北朝鮮とは何の関係も無い!人間です。

ただ、<現状の核放棄要求>は、<原理的に!不可能な要求>になっているのではないか! という事です。
つまり、現状の<一方的要求!>では!「じゃー放棄してやるから」と、北にしてみれば<有り得ないウソ!>を言われているにもかかわらず、それを<真に受けて!>「見返り」を貢がされるダケの <バカ外交>になっているではないか? という事です。

<核保有>と<核の傘>を混同している、ということですが、その程度の事、混同するわけないではないですか。

<核の傘>も、<核による安全保障>が成立している、という点で、<実質的には!>核保有状態と変わらない、という<私の意見>なのです。

私としては、北朝鮮にもそういう<核の傘>による<日本方式>を見習わせる事を<要求>すべきだと思います。 (つづく)

2011/12/26(月) 午前 1:19 [ rompa ]

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(これで最後にします)
<日本方式>即ち、<自国自身は核保有せぬが、国連が認めた核保有国と軍事同盟を結ぶ事で、その国の核の傘に入る>という <やり方>で、<自国核を放棄!>させた方が(中国にも協力要求することになりますが)、

事実上!<完全にお互い様状態>で、北も韓国、日本と同様に<核非保有国>になる! と同時に<核による安全保障>も!<成立!>していますから、

北にとっては、<現状の一方的な!放棄要求>よりかは遥かに!
現実的に<受け入れ可能な要求>になっている、と思います。

いづれにしても<一般的な話>として、相手にとって!<受け付け不可能!な要求>を どんなに執拗に!<繰り返し>ても、それは原理的に

<見返り>を要求されては<裏切られる!>ダケの<バカげた要求> でしかない、と思います。 ご返事は結構です。長々失礼しました。 (終わり)

2011/12/26(月) 午前 4:55 [ rompa ]

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本年も残り僅かになりました。厚かましいお願いだと思いますが、インテリジェンスについて茂田さんの考え方を書いていただきたいのです。
巷ではインテリジェンスはともすれば、スパイに代表されるように秘密のベールに包まれたおどろおどろしいものという風に語られがちですが、インテリジェンスがこれに限られないことは明らかです。
ぜひ、国家としてインテリジェンスの問題をどう考えたらよいか、茂田さんの考え方をお聞かせください。
最後になりますが、国際情勢をみるための様々な情報をありがとうございました。

2011/12/28(水) 午後 3:21 [ ttt ]

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有難うございました。わかりました、書く努力をします。

2011/12/28(水) 午後 10:10 [ 茂田 宏 ]


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