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中距離核ミサイル(INF)全廃条約廃棄論とその意味合い
1、 8月15日付ウオール・ストリート・ジャーナル紙は、ジョン・ボルトン元国連大使とパウラ・デサター元国務次官補〔条約検証など担当〕連名の、「我々に害を与える冷戦時代のミサイル条約:米ソINF条約はイランからの脅威を扱わない」との論説を掲載している。
右論説の概要、次の通り。
半世紀前、ドゴール将軍は、「条約は女の子やバラのようなものだ。それはもつ期間もつ。」と述べた。1988年署名された米ソINF条約についてもこれは当てはまる。INF条約は今のままではその有用性を過ぎてしまっているので、変更されるか、廃棄されるべきである。
1988年にあった冷戦の戦略的現実は歴史になった。今日の脅威、中国、イラン、北朝鮮はこの条約の枠外にあるのに、米とロシアはこの条約で制約され続けている。
INF条約は500KM−5500KM射程に地上発射弾道ミサイルと巡航ミサイルの保有を米ソ〔今はロシア〕に禁止しており、1991年までに米ロの2500基以上のミサイルは廃棄された。レーガン大統領がソ連に対抗して中距離弾道ミサイルと巡航ミサイルの欧州配備を決断した結果である。
しかし1991年以降、この条約の枠外の国は着実にミサイル能力、特に中距離ミサイル能力を増やしてきた。中国は特に急速にそうして、台湾、西太平洋における米軍基地や海軍力に脅威を与えている。
核開発をしているイランや北朝鮮も弾道ミサイルを開発している。その射程は不可避にINFの射程に至る。これは直ちに米本土への脅威にはならないが、わが兵力や同盟国などに脅威になる。
我々はINF条約の加盟国を拡大するか、我々が抑止力を再建するためにこの条約を完全に廃棄しなければならない。ロシアは中国と北朝鮮と国境を接しており、イランにも近いので、この問題を我々以上に深刻に考えている。
核廃絶を望んでいるオバマ政権は加盟国拡大を好むと思われるが、中国、イラン、北朝鮮がこの条約に参加する見込みはない。
モスクワはINF条約拡大がない場合、その遵守を停止すると思われる。その場合、米はロシアの条約侵犯を無視せず、米による遵守を停止するか、あるいはそのほうが良いが、完全にこの条約から脱退すべきである。そしてINFミサイル能力をどう再建するか、考え始めるべきである。
2、 2008年4月11日付のこのブログの記事で、プーチンがINF条約存続について疑義を提出していることを書いた。いま米のなかにもINF条約廃棄論が出てきたことに我々は注目すべきである。この論はそれなりの論理を持っている。
ソ連が1980年代初め、SS−20という中距離ミサイルをソ連の欧州部と極東部に配備した。当時のドイツのシュミット首相が、ソ連がこのミサイルで欧州の諸都市を攻撃した場合、米はニューヨークやワシントンを犠牲にする覚悟で、米本土からソ連の諸都市を攻撃してくれるのかとの問題提起をして、このSS−20の配備で米と欧州の安全保障がデカプリング(切り離し)されると主張した。
日本はデカプリング論はしなかったが、ソ連極東部へのSS−20には異議を唱えた。
米国は西ドイツの主張などを踏まえ、結局核搭載パーシングーIIと巡航ミサイルの欧州配備に踏み切った。それを梃子にSS−20の廃棄をソ連に要求した。紆余曲折があったが、中距離核ミサイルをグローバルに全廃することで米ソは合意した。このSS−20問題は日本の安全保障についても大きな意味のあることであり、当時中曽根総理が力を入れた問題であった。 グローバル・ゼロ合意に私は少し関与したこともあり、当時もろ手を挙げて歓迎した。しかしこの条約は今の勢いでは廃棄と言うことになる可能性がかなり高いと判断している。
ロシアが中距離核ミサイルを持つことが日本を含む周辺諸国に与える脅威と、中国などが中距離ミサイルを展開している現状への対応策をどうバランスして考えていくのか、国際情勢判断としても政策問題としても難しい問題であり、真剣に取り組むべき問題である。
非核3原則の問題も新たな角度から考えることが必要になる問題である。
(文責:茂田 宏)
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