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イランとサウジアラビヤの対立の激化
1、 10月11日、米司法省は駐米サウジ大使アデル・アル・ジュベイルを暗殺しようとしたとして、テキサス州で中古車販売を行っているイラン系米人マンスール・アルバブシアールとイランの革命防衛隊のクッズ部隊に属するシャクリを起訴した。
諸報道を総合すると、次の通り。
アルバブシアールはメキシコの麻薬密売組織に属する殺し屋に150万ドルの謝礼でサウジ大使の暗殺を依頼し、サウジ大使がよく使うワシントン内のレストランで同人を爆殺する計画を策定した。
しかしアルバブシアールがコンタクトした麻薬密売組織の人間が実は米の麻薬取締局が組織に潜入させた情報提供者であった。それで米当局はアルバブシアールの動きを把握していた。
当初米側はクッズ部隊が仮に暗殺を狙ったとしてもそれを下請けに出すことなど考えられないとして懐疑的であったが、この情報提供者が手付金として要求した10万ドルがイランから同人の口座に振り込まれた段階で、これは本物であると言うことになった。それでアルバブシアールの逮捕し、同人からクッズ部隊へのシャクリに電話をさせ、それも録音するなど、証拠固めをして、今回の起訴に至った。
10月13日、オバマ大統領も米高官は「彼がイラン政府内の人と直接的なリンクを持ち、お金を受け取り、指示されていたことを知っている」と述べた。
イランの革命防衛隊はアハマドネジャド大統領の指揮下にはなく、ハメネイ最高指導者の指揮下にある。こういう計画がハメネイの同意なしに行われることは考え難い。しかし同時にこういう露見する怖れのあるやり方はクッズ部隊のやり方としては素人的に過ぎるが、証拠がある。
2、 イランのハメネイはこの起訴発表に対し米国のでっち上げ、陰謀であると否定している。
裁判において本件の詳細が明らかにされていくなかで、我々も判断材料を得ることになるだろう。この奇妙な事件の真相はそれまで待つ必要がある。
3、 真相は別にして、この事件の影響は既に出ている。
米は既に対イラン制裁を強化する決定をしているほか、米議会では、もっと強い措置をイランにとるべしとの声が出ている。
サウジ側はこの事件に憤慨している。10月15日付ファイナンシャル・タイムズ紙は「サウジ、イランに強い対応を警告」との見出しで、ファイサル外相がサウジは「イランの政策を反映する行為に強い反応をするだろう、それはイランが侵犯した国際法の枠内のものになる」と述べたと報じている。
サウジとイランの関係は今大変難しい局面にある。
サウジはバーレーンでのシーア派デモをイランの仕業と非難した。これに対し、イランはサウジがデモ鎮圧のためにバーレーンに軍を派遣したことを強く非難している。
サウジはまたイランがイエーメンなどに介入し、ヒズボラを通じてレバノンに介入するのみならず、サウジ内のシーア派を扇動しているとイランを非難している。
シリヤについては、サウジはイランがデモ隊に対するアサッド政権の実力行使を支援していると非難している。イランのアサッド政権支持はスンニ派諸国のなかで対イラン敵愾心を民衆レベルで強めている。
エジプトとチュニジアが政権の交代に伴い、混乱している中で、サウジはシーア派のイランに対抗し得るのはサウジしか当面ないとの危機意識と使命感を有しているものと思われる。
今回の暗殺未遂事件はサウジ・イラン関係の緊張をさらに強めた。
イラクから米軍は本年末までに基本的に撤退するが、サウジはそれで生じる力の真空をイランが埋めようとする危険があると警戒している。10月17日付ウオール・ストリート・ジャーナル紙は「イランとサウジアラビヤの緊張は代理戦争の恐怖を強める」との見出しの記事で、米軍撤退後のイラクを舞台にサウジとイランの代理戦争が勃発する可能性があると報じている。
(文責:茂田 宏)
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