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中東情勢

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パレスチナの国連加盟申請

1、 9月23日、パレスチナ国大統領、パレスチナ解放機構執行委員会議長の肩書きでアッバスはパレスチナの国連加盟申請を国連事務総長に行った。申請書は次の通り。
 閣下、
 本官はパレスチナ人民に代わり国連加盟国としての地位の承認のためのパレスチナ国家の申請書を提出する深い光栄を有する。
 加盟のためのこの申請書はパレスチナ人民の自然的、法的、歴史的権利、1947年11月29日の国連総会決議181号(II)、1988年11月15日のパレスチナ国家の独立宣言と1988年12月15日の決議43・177号による総会によるその宣言の承認に基づき、提出されている。
 この関連で、パレスチナ国家は国連安保理及び総会と国際社会全体で承認されている、隣り合って平和と安全保障のうちに生きる2国家のビジョンに基づき、かつ国際法とすべての関連国連決議に基づき、イスラエル・パレスチナ紛争の公正で、永続する、包括的な解決の達成に対するコミットメントを確認する。
加盟申請のために安保理の手続きの暫定規則58項及び総会の手続き規則134項に従い行われた宣言はこの書簡に添付されている。
貴官がこの申請書の書簡と宣言を出来るだけ早く安保理議長と総会議長に転達されるならば、本官はそれに感謝する。
〔注:決議181(II)号はパレスチナ分割決議で、アラブ側が拒否して、第1次中東戦争になった)

2、 国連加盟のためには、安保理がまず申請を審議し、安保理が加盟を勧告した後、総会で3分の2多数で承認される必要がある。
 パレスチナが加盟のために総会で3分の2の多数を獲得できると思われるが、安保理では、米国が必要があれば、拒否権を行使するとしているので、安保理の加盟勧告がなされる可能性はない。
 この申請について、9月26日より安保理は非公式協議を始めたが、常任理事国の意見が一致していないので、非公式協議は長引くと思われ、採決にかけられるには、数週間の時間がかかると見込まれている。

3、 オバマ大統領はアッバスに対しパレスチナ国家の樹立は当事者間の交渉によるべし、米は加盟には拒否権を行使するとして、アッバスに加盟申請を思いとどまらせようとしたが、成功しなかった。
9月23日、アッバスは国連総会でこの申請などについて演説をした。この演説は何回も拍手が起きるなど、好感を持って受け止められた。パレスチナでもアッバス演説は中継され、パレスチナ人は熱狂的に歓迎した。9月26日、アッバスは帰国したが、英雄の帰還のごとく迎えられた。 イスラエルのネタニヤフもアッバスに続き、演説したが、総会議場での受け取りは冷えたものであった。
中東和平を進めているカルテット(米・露・EU・国連)は9月23日、声明を出した。和平交渉を1ヶ月以内に再開し、3ヶ月以内に領土と安全保障に関する包括的な提案をまとめ、6ヶ月以内に実質的進展を行い、2012年末までに結論を出すように促した。

4、 イスラエル・パレスチナ間の交渉については、イスラエルが西岸での入植活動を止めない限
り、パレスチナ側としては交渉に応じないとしてきた。
入植活動はジュネーブ条約違反であり、国際法に反するほか、樹立されるべきパレスチナ国家の領土を寸断する効果を持つ。パレスチナ側の姿勢は当然のことである。
 パレスチナ国家樹立は直接交渉の結果たるべしとイスラエル・米は主張しているが、その直接交渉を駄目にしているのはイスラエルの入植地に対する理不尽な姿勢にあるといわざるを得ない。オバマはイスラエルに入植モラトリアム延長を求めたが、ネタニヤフに拒否された経緯がある。
更に言うと、交渉が妥結しなければ国家を樹立してはならないというのは、実質的にパレスチナの自決権行使に対する拒否権を主張するようなことであり、こういう米・イスラエルの主張は国際法的に正当化することは難しい。交渉で国家樹立にいたるのが望ましいとは言える。
米はイスラエルに入植地建設を止めさせられず、他方でアッバスの国連加盟申請も止めさせられなかった。中東和平の仲介者としての立場を失いつつある。
イスラエル寄りに過ぎる米の姿勢は、アラブの春で変動している中東での米の影響力にかなり大きなマイナスになると思われる。

5、 パレスチナの申請が認められることは予見されないが、この申請で熱狂しているパレスチ
ナ人が申請拒否に直面して、どういう反応をするか、心配がある。暴力の再燃もありうる。その場合、エジプトなど、アラブ諸国は対イスラエル関係の見直しを打ち出すこともありうる。
中東情勢は混迷し、イスラエルの孤立は深まることになろう。
なおパレスチナ国家を樹立させ、中東和平交渉を二つの国家間の交渉にするとのアプローチもありうるアプローチである。
〔文責:茂田 宏〕

アルカイダのイデオロギー面での衰退(雑感)

1、 9月11日、米国では9・11テロ事件10周年を記念する行事が行われた。
 この事件を起こしたオサマ・ビンラーデンを指導者とするアルカイダは今なおパキスタン・アフガニスタン国境地帯に存在し、活動している。
本年5月、オサマはパキスタン潜伏中、米軍特殊部隊により殺害されたが、アルカイダはザワヒリの指導のもと、活動し続けている。
 更にアルカイダのイデオロギーに触発された組織や個人がテロを行う事例も増えてきた。
 組織としては、イエーメンを本拠とする「アラビヤ半島におけるアルカイダ」(AQAP)、「イラクにおけるアルカイダ」(AQI)、「イスラム・マグレブの土地におけるアルカイダ」(AQIM)が生まれてきた。
 アルカイダと密接な関係を持つ組織としては、ソマリヤにおけるシャバーブ、アフガンにおけるタリバン、パキスタンにおけるラシュカール・タイバ(LT)もいる。
個人としては、アルカイダに共感し、テロを行う人もいる。
 従ってアルカイダとその連携者は今なお大きな脅威である。

2、 しかしアルカイダのアラブ諸国での訴求力は最近急速に落ちてきていると考えられる。
オサマとザワヒリの考え方は、主として次のような要素よりなっている。
(1) イスラム共同体がユダヤ・十字軍の侵略を受けている。それへの反撃は防衛ジハードであり、イスラム教徒は個人的義務としてそれを実施しなければならない。これがアッラーの求めることである。
(2) アラブ諸国の諸政権はイスラムの教えに反しているが、これを転覆させるためには、武力闘争が必要である。ただこれらの政権を支えているのは、ユダヤ・十字軍連合体であり、この連合体を攻撃し、この支えを出来なくすれば、これらの政権は倒れる。最も重要なのは対米攻撃を中心とする国際的ジハードである。
(3) イスラム共同体は精神的には強いが、物的・技術的には弱体であり、戦術としては、ゲリラ戦によらざるを得ない。その戦いにおいて、税金を納めるなどで、ユダヤ・十字軍を支援している米国市民などを攻撃目標とすることは構わない。
 この考え方はイスラエルのパレスチナ攻撃、米によるアフガン戦争やイラク戦争、エジプト、チュニジア、サウジなどの政権と米との緊密な関係などの現実に照らして、アラブ人にそれなりの訴求力を持ってきた。
 このアルカイダのイデオロギーに「アラブの春」は打撃を与えたと思われる。
 第1に、総じて平和的なデモにより、エジプトのムバラク政権は倒れ、チュニジアの政権も倒れた。そのなかで、米は事態の進展に伴い、反政府派を支持し、ムバラクやベンアリを見捨てることになった。リビヤにおいては、NATOは武力を行使して、反政府派を支援した。
 オサマが生きていれば、この事態をどう説明したのか、わからないが、説明に窮したのではないかと思われる。
 第2に、米・NATO軍はイラクからも、アフガンからも、引き上げようとしている。アルカイダはそれが自らのジハードの成果と誇りうるかというと、かなり疑問である。もし仮に誇ったとした場合、防衛ジハードはその役割を果たしたことになり、用済みになる。
 パレスチナ和平問題は残るが、これは古くからある問題であり、アルカイダが特にオリジナリティを持って語れることではない。
 その結果、オサマの説いたイデオロギーは今ではその意味を失ってきている。

3、 オサマが死んでも、そのイデオロギーが生き残ると厄介である。しかしあまり心配することもない。今後、暫くテロは起ころうし、警戒は必要であるが、イデオロギーの魅力がなくなった運動は徐々に弱まっていくのが通例である。
 米をはじめとする西洋とアルカイダの戦いは「文明の衝突」の様相をも帯びたものであり、長く続くおそれがあった。しかしアルカイダのイデオロギーの訴求力は「アラブの春」で弱まり、歴史の上では、アルカイダ運動は一つのエピソードのような位置しか占めないのではないかと思われる。
(文責:茂田 宏)

トルコ・イスラエル関係の悪化

1、 9月6日、エルドアン首相は記者団に、トルコはイスラエルとの防衛関係を中断する、防衛関連貿易、軍間の関係、防衛産業間の関係の凍結がこれに含まれる、さらにこれとは別の制裁措置も今後行われると述べるとともに、記者の質問に答え、東地中海でのトルコ艦艇のプレゼンスは大きくなると述べた。
 このトルコ・イスラエルの関係悪化は昨年5月に発生したマヴィ・マルマラ号事件(封鎖下のガザに人道支援物資を届けようとした船をイスラエル軍が急襲し、トルコ人8名とトルコ系米国人1名が死亡した事件)に関し、イスラエルが自己の行動の正統性を主張し、謝罪を拒否していること、それにトルコ側が怒っていることを直接の背景としている。
この事件について国連は調査を行い、ガザ封鎖は正当な理由があるが、イスラル軍は過剰な武力行使を行ったとしている。
米国は中東での重要な同盟国であるトルコとイスラエルの間の危機を緩和するために種々の仲介を行っているようであるが、成果が出ていない。9月6日、国務省ヌーランド報道官は、「我々は関係の状況を懸念している。両国関係を強化・改善するために我々は同盟国トルコと同盟国イスラエルと何カ月間も一緒に働いて来た。我々はいまでも両国間のよいパートナー関係がそれぞれの国の利益であると信じており、その目標のために両国と引き続き仕事をしていく」と述べている。

2、 トルコは最近中東イスラム諸国での影響力を強めて行くことを政策目標としている。
その目標を達成する上で、対イスラエル強硬姿勢は有効である。サウジをはじめとするアラブ諸国はトルコの対イスラエル強硬姿勢を歓迎しているところがある。トルコのアラブ諸国での信頼の向上にこれは役立っている。そのことを考えると、このトルコの姿勢は簡単に変わりそうもないと見られる。
 イスラエルは今回のエルドアン声明にもコメントを控え、トルコとの論争を避けようとしている。

3、 「アラブの春」の動乱の中で、トルコはアサッド後のシリヤでのありうべき影響力などアラブ諸国での影響力を増加させている。トルコは、またイラクやイランとの関係での影響力も増加させている。米としても、そういうトルコを重視せざるを得ない状況がある。米はイスラエルのためにトルコに強い圧力を加えることに躊躇している。
更に9月4日には、米の対イラン・ミサイル防衛のためのレーダーのトルコ領内設置をトルコは正式に認めたと発表されている。米のトルコ関係はイスラエルとの関係のよってのみ左右出来るようなものではなくなっている。

4、 私は中東情勢をみる際に、トルコ、アラブ、ペルシャ、ユダヤの4民族の確執として見る視点が必要であると考えてきたが、そういう視点は今後更に重要になる。
(文責:茂田 宏)

アッラー・アクバルについて(雑感)

1、 1979年のイラン革命の際、テヘランではアッラー・アクバル、神は偉大なりの叫び声が町中にあふれた。ホメイニが帰国し、イランでのイスラム革命が起こった。それでこのアッラー・アクバルのスローガンとイスラム原理主義の台頭を結びつける人が多い。
 しかし今回の「アラブの春」でも各地でアッラー・アクバルは叫ばれている。リビヤでもシリヤでもエジプトでもそうである。他方、イスラム原理主義が「アラブの春」を主導している勢力であるとはとても言えない。なぜ、「アラブの春」でもこのスローガンが叫ばれているのか。
私の考え方をいうと、このスローガンは独裁者に対してあなた方は絶対的な権力者である資格を何らもたない、絶対的なのは神しかいない、独裁者も単なる人間にすぎないということを言っているのであって、それゆえにこのスローガンは革命のスローガンになるのだということである。
このスローガンはイスラム原理主義にもつながるが、人間の平等や人間の運営する政府は制約された権限しか持ちえないとの考え方にもつながる。
 後者の考え方は民主主義に親和的なものであると考えてよい。
 欧米のキリスト教徒はこのスローガンの中にイスラム原理主義の危険をみがちであるが、これはキリスト教がイスラムに対して持つ偏見の現れではないかと考えられる。

2、 人間はすべて平等であるとの思想は、ユダヤ教にはじめてあらわれたのではないか。要するに神の前で人間は平等であるとの思想がユダヤ教にはある。
 儒教では、いわゆる5倫が説かれる。君臣、父子、夫婦、長幼、朋友の5関係である。このうち、平等なのは朋友関係だけである。人間平等の思想はここにはない。
 ヒンズー教やその変種ともいうべき仏教にも、徹底した人間平等思想はない。ヒンズー教のカースト制度を見れば、明らかである。
 さらにこれもユダヤ教から来るが、ダビッドであれ、ソロモンであれ、神の教えに背く場合には、その統治の正統性はなくなるのみならず、神に対する冒涜はユダヤ民族全体に災禍をもたらす可能性があることになっている。
 神との関係で救済を得るべき民衆はその救済を得るがために、施政者の神の教えに背く行動を止めさせなければならないし、そうする権限があるとの思想がある。これは人間による政府の権限を厳しく制約する思想である。
 イスラムはこのユダヤ教の考え方を受け継いでいる。従って個人崇拝に近いような独裁がイスラム圏で成立してきたこと自体、イスラムの教えからの逸脱であったとも考えられる。
 アッラー・アクバルの叫びが個人崇拝や独裁の否定につながる革命のスローガンになるのは、そういう意味で自然なのではないかと思われる。

3、 私の上記の考え方は最近考えていることである。神学とその政治への影響についての私の知識は極めて限定的であるが、一つの問題提起として受け取っていただければと考えている。
(文責:茂田 宏)

シリヤの大量破壊兵器

シリヤの大量破壊兵器

1、 8月29日付ワシントン・ポスト紙は「アサッドの化学兵器庫が恐怖を呼び起こす。
政治的混乱が致死的在庫についての新たな懸念に火をつける」との見出しで、概要次の通り報じている。
2008年、国務省の秘密の公電はテロを支援するある中東の国の化学兵器について警告をしたが、この国はリビヤではなく、シリヤであった。
シリヤ政府の突然の崩壊はこの兵器についての統制が壊れることを意味しかねないと米高官は述べた。リビヤの化学兵器庫は第1次大戦で使われたマスタード・ガスが取り扱いにくい缶に入ったものであるが、シリヤは致死的化学剤を保有しており、それが数千の大砲の砲弾や弾頭の形になっている。シリヤはマスタード・ガスではなく、サリンを持っている。東京地下鉄でのテロで使われたもので、水や食料を汚染するためにも使いうる。分析者はアサッドがテロリストに意図的に化学爆弾を渡すか、疑問であるとしている。しかしシリヤの治安機関が反乱の混乱の中で壊れる際に、治安機関が確保しているこれらの兵器が行方不明になる怖れがあるとされている。
シリヤは1970年代にイスラエルへの戦略的抑止力として化学兵器をロシアの技術を使って開発してきた。化学兵器禁止条約への署名を拒否してきた。CIAはシリヤがサリン弾頭を持っており、VX弾も開発していたと評価している。
2000年代初め、専門家はシリヤの化学兵器庫が多分世界で最大であり、数十トンに上るほか、スカッドミサイルやより小さいミサイル、ロケット砲、小爆弾などの運搬手段を保有していると見ていた。
中東諸国の中には、多くの通常兵器を持つ国がある。また研究用原子炉をもつ国もある。この原子炉の燃料はいわゆる「汚ない爆弾」の材料になる。
リビヤについては、その化学剤は安全に確保されたようで、8月26日、米国務省はその旨の声明を出した。リビヤでは、肩に担いで発射し得る対空ミサイル(MANPAD)を含む通常兵器がより大きな問題である。いままで米が破壊しえたMANPADは5発に過ぎない。

2、 シリヤの混乱が深まる中、欧米ではシリヤの化学兵器が不適切な集団の手に落ちない
ようにとの問題が大きな問題として認識されてきている。CIAをはじめとする情報機関はいざという時にこの化学兵器をどう確保すべきか、頭を悩ましている。
 リビヤでも同じ問題があるが、シリヤの問題は化学兵器の量も多く、より深刻である。なおシリヤの化学兵器はソ連で核兵器をKGBが管理していたように、軍というよりも
情報機関が管理しているのではないかと思われるが、実態はよくわからない。

3、 アラブ諸国はアサッドの弾圧について強い懸念を表明している。その結果、アサッド
を支援しているイランの評判がアラブ諸国の民衆の間でつるべ落としと言ってよいほど、低下してきている。これは今後、イランの支援を受けるハマスやヒズボラの評価の低下につながる可能性がある。
(文責:茂田 宏)


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