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駐イラク米軍残留問題
1、 駐イラク米軍は2011年末までに完全に撤退することになっている。しかしマリキ首相はイラク軍の訓練、イラク国境の保全、イラクの空域防衛などのために、来年も米軍の駐留を必要とするとの意見であり、米側もイラクからの要請があれば、適切な規模の米軍の駐留を継続する用意があるとしている。
しかしながらマリキ政権は未だ米軍の駐留継続を要請していない。それで駐イラク米軍(現在4万6千名)は昨年9月に発表された「新しい夜明け作戦」に従い、撤退を継続している。
2、 この件についての報道2件、次の通り。
(1) 7月22日付ワシントン・ポスト紙:「高官の話では、イラクは米の部隊についての決定の期限を逸しそうである」との記事の概要、次の通り。
タラバニ大統領はマリキ首相その他に7月23日までにイラクが必要とする米軍駐留について合意を達成するように求めたが、マリキと彼の対抗者はこの件で分裂している。
レオン・パネッタ国防長官は先週、イラクの指導者は決定をすべきであると述べたが、米への正式要請はまだ来ないと見込まれている。
現地の米軍は3月に要請があれば、米はイラクとの永続的なパートナー関係にコミットしただろうと述べると共に、未だ米軍がいて、インフラもあるうちにイラクは要請をすべし、遅れれば遅れるほど、ロジ面で難しくなるとしている。
米側は3千から1万5千くらいの兵力を残しうるが、合意には米軍の特権・免除を規定することが不可欠であるとしている。しかしイラクの政治家の多くはこれに反対であり、マリキ首相は反米のモクタダ・サドル派の協力も得て政権を維持していることもあり、議会にこの問題を提起することを躊躇している。
イラクの政治家には、訓練と対テロ作戦に関しては、マリキが議会に諮らずに国防大臣と内務大臣〔注:現在マリキが兼任〕が米軍と合意を結べばよいとする人がいる一方、サドル派議員の中には、米軍は完全撤退すべしとする人がいる。
(2) 7月23日付ナショナル・ジャーナル紙:「ヌリ(注:マリキの名前)のディレンマ;イラクの首相は国内に米軍を残さざるを得ないかもしれない。しかし彼はまだその要請をしておらず、時間切れになりつつある」との記事の概要、次の通り。
マリキは米軍の駐留を継続させると、シーア派、特にサドル派の支持を失う危険がある。他方マリキはイラク軍がイラクの防衛に不十分であると知っている。先週、テレビでマリキは『議会の同意なしに』訓練のために米軍を駐留させうる、決定は速やかに行うと述べたが、時間切れになりつつある。
米は既に117万の軍の装備品を引き上げ、イラクに残っているのは108万しかなく、基地の数も500から53になっている。軍関係者は大使館警備のために、数百から千名の兵士を残すことはありうると述べている。
イランは南イラクに武器を供給しており、南イラクでは米軍への攻撃が引き続き行われている。イランは米軍を追い出したと主張する構えを見せている。
マリキが未だに決定をしない理由は内務大臣も国防大臣も任命せずに自分で兼任しているからであるとする人もいる。イラクの政治家のなかには、マリキへの権力集中を心配し、早く内務大臣と国防大臣を任命すべしと言う人もいるが、マリキはこの両省で自分の勢力を築くことに熱心で、他の人を任命することを急いでいない。ある専門家は「マリキは民族主義者で反イランであるとのイメージは時代遅れで、彼はいまや自分自身の利益を考えており、イラクの安全保障を犠牲にしている」と指摘している。
3、 この問題は米の中東政策全般および中東でのイランの挑戦に米がどう取り組むかという大きな問題の一部である。
米・イラク関係をしっかりとしたものにすることが米の中東での影響力保持のためにきわめて重要であり、イラクにおける米のプレゼンスはサウジなども歓迎するであろう。
イラク戦争はブッシュの増派で成功裏にここまで持ってこられたと言う評価が一般的であるが、最後の段階で、イラクにおける米軍のプレゼンスがゼロになり、イランのイラクでの影響力が強くなると、何のための戦争であったかということになりかねない。
戦場で勝つだけでは戦争の成果にはならない。戦争の終わり方というか、戦後の秩序の形成の仕方がより重要である一つの例である。
(文責:茂田 宏)
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