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ロシアについての雑感
1、 ロシアのメドヴェージェフ・プーチン政権は、最近、欧米諸国に対決姿勢を明確にし、旧
ソ連諸国に対し脅すような言辞を使っている。ロシアは先祖帰りの場所(帝政ロシアの版図も、ソ連の版図も)がないのに、先祖帰りしたがっている。暴走気味である。
その背景には、経済の面では石油価格の上昇で経済が良くなり自信をつけたこと、国内政治上、プーチンを中心とする国家安全保障委員会(KGB)出身者などいわゆるシロビキが政権の中枢を牛耳り、他の政治勢力(地方、マスコミ、与党以外の政党、財界、NGOなど)を抑え込むことに成功したこと、対外面では、米欧側がロシアの利益を考慮しない政策を展開しているとの被害者意識を強めるとともに、特に米の力がイラクその他の問題を抱え落ちていると考えていること、旧ソ連時代の大国としての役割へのノスタルジアがあることなどがある。
ロシアの現政権は自己を大国と認識し、自己の「勢力圏」の尊重を求め、ロシア外に居住するロシア人の利益擁護のため軍事介入も辞さないとの路線をとっている。「新冷戦」の危機が言われているが、どう考えればいいのか、次の点を考慮する必要がある。
2、 第1:ロシア経済はロシアが自信をもっているほど強くない。
IMFの統計によって、露、西(スペイン)、韓国のGDPを比較すると、2005年;露ー約7660億ドル、西ー約1兆410億ドル,韓国―約7930億ドル、2006年;露ー約9000億ドル、西ー1兆1564億ドル,韓国―約8920億ドル、2007年;露ー約1兆467億ドル、西ー1兆2299億ドル,韓国―約9487億ドルである。
ロシアの経済は成長しているが、その規模は韓国や西と同程度の規模である。
ロシア経済の好調は石油などエネルギー資源などの高価格(今は下降中)の賜物であり、それ以外の部門で国際競争力のある企業はあまり育っていない。
クリントン政権時代のNATO大使で現在ランド研究所の上級顧問のハンターは、「私はロシアが再び強国になったとは思わない。ロシアは木の生えているサウジアラビアである。軍事的にも二流国である」と述べている。(9月12日付マイアミ・ヘラルド紙)
私はロシアの教育水準、技術水準を考えると、ロシアをサウジと同一視するのは間違いであると思うが、ロシアが「資源の呪い」(資源国は資源に頼りすぎ、製造業などを発展させられない現象)に陥っている面があると考えている。
更に最近のロシアでは、戦略的産業への国の関与が強まり、政治が経済に介入しすぎて、多くの問題が起こっている。経済効率面ではマイナスである。
グルジア侵攻の8月7日以降、ロシアの株式は下落し、約2900億ドル減価し、ルーブルも下落し、中央銀行はルーブル買い支えのために約100億ドルの介入をした。
ゴールドマンサックスの報告では、グルジア侵攻で210億ドルの外国投資が引き上げられたとされている。(9月5日付ファイナンシャル・タイムズ紙)
メドヴェージェフは株式の下落はサブプライム問題などの影響で、グルジア紛争のためではないとしているが、ロシア経済が世界経済に組み込まれて、欧米と関係を悪化させるわけには行かないとの事情を反映している。
なおエネルギーに関しては、売り手と買い手のどちらの立場が強いかは一概には言えない。
3、 第2:ロシアは力を振り回す姿勢を示しているが、今のロシアの通常軍はそれほど強くな
い。ただし核戦力は対米パリティを維持している。
(1)9月12日付マイアミ・ヘラルド紙は「グルジア戦争、ロシアの軍事的弱さを目立たせる」と題し、次の通り報じている。(・・部分省略)
ロシア軍は弱点の穴だらけである。装備は旧式で、その技術は西側に数十年遅れている。戦場での通信や情報収集能力は酷い。・・ロシアは21世紀の世界で20世紀中頃から終わりごろの軍を保有している。・・小さなグルジア軍を蹴散らしたが、米国のような国の戦闘力のレベルには痛ましいほど届いていない。・・グルジアでの戦闘中、戦場のロシア士官は携帯電話や古い無線機にしばしば頼り、前線近くに戦術司令センターを作ることが出来なかった。空軍と陸軍は連絡が取れておらず、兵隊は記者に、ここ数日何も食べていないと不平を述べた。
モスクワの軍事アナリスト・・は「軍事装備は非常に古い。同時にロシアにはそれを変える資源がない。90年代を通じて,新しい軍事装備を作る金がなかった。下請けの全チェーンが壊された」と述べた。・・
(2)9月12日付モスクワ・タイムズ紙は「防衛、メドヴェージェフの優先事項」と題して、次の通り報じている。(・・部分省略)
9月11日、メドヴェージェフは軍の近代化がグルジア戦争後、最優先事項になったと述べた。軍関係者とのクレムリンでの会合で「軍の再装備に焦点をあわせなければならない、・・この戦争は陸軍の武器と装備の問題を明らかにした、コーカサスは再装備をここ数年の最優先事項の一つにした」と述べた。
9月11日、クドリン財務大臣はソ連後の最高水準にまで防衛費を来年26%伸ばす、2008年の防衛支出は1兆2800億ルーブル(500億ドル)になると述べた。・・
(3)各国の軍事費の比較は何を算入しているかの違いがあり、難しいが、500億ドルというのは米国の軍事費の10分の1以下、英、仏、中の軍事費より少なく、日本の防衛費を少し上回る程度である。
4、 第3:冷戦は共産主義と自由民主主義のイデオロギー闘争の面があった。しかし今のロシ
アに普遍性のあるイデオロギーはない。ナショナリズム、大国としての誇りはあるが、他国でシンパを作りうるイデオロギーは欠如している。
5、 メドヴェージェフは欧米との関係を維持したいとしつつ、強硬な発言を繰り返している。
(1)9月13日付ロンドン・タイムズ紙は「メドヴェージェフがグルジアの攻撃はロシアの9・11であると述べる」との見出しで、外国人学者などに次の諸点を述べたと報じている。
・ グルジアとの先月の戦争はロシアにとり、米での9・11テロ攻撃のようなものである。人類は9・11から教訓を学んだが、コーカサスの事件からも教訓を得て欲しい。
・ 将来、外部世界がグルジアやウクライナのような国にNATOを拡大し、ポーランドにミサイル防衛を配備する決定の前に、ロシアの利益を考慮することを望む。自分は「ロシアの利益圏」でロシアの利益を必要であれば力で守る。
・ もしグルジアが先月NATOの完全な加盟国であったとしても、自分はロシア軍に反撃を命じたであろう。サーカシュビリは病的な狂人で、麻薬中毒者である。
・ どこに居住していようが、ロシア市民の生命と尊厳を守ることはロシア国家の重要な任務であり、主要な目的である。
同紙はまたラブロフ外相がミリバンド英外相との電話会談で、グルジア問題でのやり取りの際、
「私に説教しようとするなど、あなたは何様だ」など暴言を吐いたと英外務省高官が述べた(ロシア側は否定している)と報じている。なおライス米国務長官はラブロフとは話もしたくないとしている由。
(2)メドヴェージェフは別の機会に次のような発言もしている。
・冷戦の再発をロシアは恐れていない。
・G8から追放されることは気にしないが、ロシアなしのG8は意味をもたない。
・NATOとの関係が悪くなることを気にしない。
6、 ロシアが夜郎自大的になっていることは明らかである。その上、指導者が証拠もない言明
をしている。そういう言明のいくつかの例は次の通り。
(1) グルジアは南オセチアでジェノサイドを行った。(注;オセット人はグルジア各地におり、南オセチア以外のオセット人が攻撃されたとのニュースはなく、南オセチアでの死者数も百人程度とされており、これをジェノサイドと言うのは言葉の誤用である。)
(2) 証拠を示さずサーカシュビリは麻薬患者であると言っている。
(3) プーチンは、グルジアの攻撃はマケインの選挙を有利にするためのホワイト・ハウスの陰謀であると述べた。
7、 こういうロシアにどう対応していくべきか。
西側として、売られた喧嘩は買う、新冷戦も恐れないということであろう。ロシアの実力に鑑みれば、マルクスをもじって言うと、最初の冷戦は悲劇として、この新冷戦は喜劇として歴史に残るだろう。
(文責:茂田 宏)
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