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オバマ政権下での米ロ関係の見通し

1、 11月15日、メドヴェージェフ・ロシア大統領はワシントンで外交評議会メンバー
との対談を行った。
この対談について、11月16日付ニューヨーク・タイムズ紙は「ロシア、オバマの勝利が関係を暖かくすることを希望」との見出しで、同日付ワシントン・ポスト紙は「メドヴェージェフ、米ロ関係について希望的」との見出しで報じている。
メドヴェージェフは「今は米ロ間に信頼がない」が、オバマ新政権との間で関係を修復しうると述べた。グルジア問題については、南オセチアとアブハジア承認を取り消すことはないと述べた。(発言全容は外交評議会ホーム・ページに掲載されている。)

2、 米ロ間には、当面の問題として、米のチェコ・ポーランドへのミサイル防衛(以下MD)
配備、ウクライナ・グルジアへのNATO拡大、グルジアなどがある。そのうち、MDとNATO拡大について、オバマ政権がブッシュ政権とは違う対応をする蓋然性が高い。

(1) MDに関しては、メドヴェージェフが11月5日の教書演説で、対抗措置とし
てカリーニングラドへのイスカンダール・ミサイル配備などを行うと述べた。こういう挑戦的な発言は普通米国からの反発を呼ぶが、オバマ移行チームは異なる対応している。
11月8日、オバマはポーランド大統領カジンスキーと電話で会談した。その後、カジンスキー大統領が「オバマがMD計画は継続されると述べた」と発表したのに対し、オバマ移行チームは「そういう約束はしていない。オバマは技術が機能すると証明された時に、MDを支持するという立場である」との否定声明を発出した。
これについて、同盟国への態度としてよくない、ロシアの脅しに弱さを示したとの批判があるが、オバマ・チームは立場を変えていない。
11月20日付ワシントン・ポスト紙は「ポーランドはMDについてオバマに陳情はしない」との見出しで、11月19日、ポーランドのシコルスキー外相が米の大西洋評議会で「ポーランドは友情からブッシュ政権のポーランドへの10基の迎撃ミサイルの配備に同意した。しかし今後,慎重に行動し、新政権が決定を行うまで待つ」と述べたと報じている。
このMDについては、米議会も迎撃ミサイルの実験成功を待つということで予算措置はしていない。この実験は2010年まで行われる予定がない。
こういう状況の中で、メドヴェージェフは米がMD配備をするまで、カリーニングラードへのミサイル配備などは行わないと言い方を変えるとともに、ブッシュ政権とのMDに関する交渉はしないことを明らかにしている。
サルコジ仏大統領がこのMDの必要性に疑念を提起している。オバマは欧州との関係を修復するとしており、サルコジの意見もオバマが決定をするに当たり、考慮されよう。
このMD問題は、米ロ間の緊張を作り出してきたが、当面の問題ではなくなってきている。

(2) NATO拡大問題については、グルジアとウクライナにNATO加盟行動計画
(Membership Action Plan:以下MAP)を適用するか否かを12月のNATO外相会合で決定することとなっている。
 11月11日―12日、エストニアの首都タリンで、非公式高級NATO/ウクライナ協議が行われた。
 この会議では、ウクライナのNATO加盟問題が話し合われたが、ウクライナへのMAP適用については、ドイツなどが反対し、ほぼ12月のMAP適用決定の可能性はなくなったと見られる。
 会議後エストニアの大統領は、ウクライナは将来NATOに加盟するが、MAPの適用はウクライナの早い加盟を意味せず、MAP不適用をロシアは自分の勝利と考えてはいけないと発言している。ここでもブッシュ政権が推進しロシアが反対していたことが実現しなくなってきている。ロシアとしては、歓迎するだろう。

3、 米ロ間には、グルジア問題、ロシアでの人権問題など、まだまだ意見の異なることが
多い。ロシアとベネズエラの関係強化なども、米を刺激する。
しかしMD問題とNATO拡大問題での緊張が低下することは、ブッシュ政権時代と比較すると、オバマ政権のもとでは米ロ関係が緊張要因の少ない方向に向かうことを意味する。1、のメドヴェージェフの期待も理由のあるものと判断される。
(文責:茂田 宏)

メドヴェージェフ・ロシア大統領の年次教書

11月5日、メドヴェージェフ大統領は連邦会議で「年次教書」演説をした。相当長文である。その内容の紹介と私の感想、次のとおり。ご参考まで。

1、この教書では、1993年憲法(これは自由主義的な憲法である)が今後のロシアの発展のために重要であり、そこに盛り込まれた経済活動の自由や言論の自由、法の支配など、民主主義的制度を更に発展させるべきであると強調されている。
ロシアが権威主義に傾いてきているなかで、少し奇異な感じを受けるが、歓迎される。官僚がメディアや経済に介入することもきつく戒めている。「強い国家」と「全権力を持つ官僚」とは同じではないと、官僚批判を展開している。
この憲法強調を単なるレトリックと退ける考え方もあろうが、こういう発言はそれ自体で国民の考えに影響を与える。今回の憲法重視は憲法規定を国民が援用することに繋がる。
ソ連崩壊の過程で、構成共和国がソ連邦より離脱する権利を持つというソ連憲法上の規定が突然重大な意味をもった事例もある。

2、1993年憲法の改革ではなく調整であるとして、大統領の任期を現在の4年から6年に延長し、議会議員の任期も4年から5年にすることを提案している。安定的な政治が必要であるとの理由であるが、唐突な提案である。(昔、プーチンが言ったことがある)
自分の任期の延長には適用せず、次の大統領選挙から適用されるということである。メドヴェージェフの任期は2012年までであるが、メドヴェージェフの後には、一期休んで、今首相をしているプーチンが出馬するとされている。2012年から6年2期、12年間のプーチン大統領を念頭に置いた提案であると考えられる。

3、国際問題は14ページの演説中、3ページ位を占めるに過ぎないが、その部分の抄訳(・・部分省略)、次のとおり。

「私は既に南オセチアの悲劇的事件に言及した。・・平和的解決などを拒否してグルジアの指導部は最もおそろしいシナリオに乗り出した。
私は再度強調する。侵略者に和平を強制するとの決定とわが軍の作戦はグルジアやグルジア人民に対するものではなく、これらの共和国の人民とロシアの平和維持要員を救うためであった。・・私はこの紛争自体を超えていくつかの結論を引き出したい。
第1・・の結論。実際に質的に新しい地政的情況が作り出された。・・我々はグルジアの今の政府を支援しているものに対しても我々がわが市民を保護しうることを本当に証明した。・・我々が・・わが国益を守りうることを証明した。
第2の結論。わが軍は相当程度まで戦闘能力を回復した。しかし軍指導者は成功とともに失敗をも調べる必要がある。それらから最も深刻な教訓を得るべきである。陸軍、海軍を新しい近代的装備で再装備することについては、私は既に関連する決定・・を行い、内閣に命令を出した。・・
私は最近、我々が直面せざるを得なかったことについて付け加えたい。これは何か。これは世界的なミサイル防衛システムの建設、ロシアの周りでの軍事基地の設置、抑制なきNATOの拡大、それらに似たロシアへの「贈り物」であった。我々は彼らが我々の強さを試めしていると考えるあらゆる理由がある。
もちろん我々は軍拡競争に引きずり込まれない。しかしこれを軍事費において考慮せざるを得ない。そして我々は引き続きロシア市民の安全を保護・・し続ける。
従って私は今後取られる措置のいくつかを今発表する。特に欧州に世界的なミサイル防衛システムの一部を設置する現米政権の執拗で一貫した試みに効果的に対応する措置である。例えば、我々はコゼルスクのミサイル師団の3連隊を戦闘準備体制から解除し、師団を2010年までに解散させる計画であったが、私はそういう計画を実施しないことにした。・・加えて、必要があればミサイル防衛システムを無害化しうるために、カリーニングラード地方にイスカンダール・ミサイル・システムを配備する。もちろん、わが海軍力も同じ目的のために使われる。最後に米のミサイル防衛システムの新設備の電子的妨害を・・カリーニングラードより行う。
・・我々はパートナーに肯定的な協力をしたいと・・述べた。・・しかし不幸にも彼らは我々に耳を傾けなかった。
第3点.我々は連合国家(注:ロシアと白ロシアの連合)内およびユーラシア経済共同体内の統合を始めた。集団安保条約機構での軍事・政治分野での協力の量と幅を増加させる。・・
第4:8月8日の事件とロシアの南オセチアとアブハジア承認への反応は、我々が二重基準の世界に生きていることを再度示した。・・最近、セルビアよりのコソボの分離を達成するために国際法を曲げるためにあらゆる努力をした我々のパートナーは・・明らかに偏向している。・・
第5:最近の国際情勢はいくつかの否定的な傾向で特徴付けられている。新しい脅威への対応は集団的な対応でしか行い得ない。我々が国連の役割・・を高めるためによく考えられた・・国連改革を支持するのはその理由からである。・・我々は国際軍備管理制度を発展させる措置を取る必要もある。この面で米・露協力の進展は重要な役割を果たす。多くの国が・・露米関係における風向きを見るというのは秘密ではない。今日、この関係は最善ではない。ロシアでは、・・多くの疑問が提起されている。しかし私は、我々が米国民と問題を抱えているわけではなく、我々には固有の反米主義はないことを強調したい。我々は我々のパートナー、米の新政権がロシアとの発展した関係の方を選択するように希望する。
・・私は欧州の安全保障についての条約締結を提唱している。・・これは明確で包括的な行動規則を作るだろう。・・
ついでに言うと、南オセチア危機の解決は、欧州とは解決を見出すことが可能だということを示した。我々は安全保障分野で欧州との関係を深める。ここには良い未来があると確信している。
実際上の仕事でどこに力を入れるべきと私が考えているか。
第1に我々は国際関係の法的基盤を引き続き強化する必要がある。普遍的に認められた規範と国際法の原則が国際問題でのゲームのルールを決めるべきである。・・
第2に、多極的な国際システムの創造が以前にも増して妥当になっている。・・関心ある国と共に、一国が諸分野で支配することを許さない国際関係の真に民主的なモデルを作り上げる。
一般的に、傲慢と力に基づく議論は以前のように・・効果的ではない。世界はひとつの首都から運営されえない。これを理解することを拒む者は、自分自身にも他人にも新しい問題を作り出すだけである。・・
第3の仕事は危機的状況を解決する普遍的な外交的方法を作ることである。・・「問題国家」は孤立させられるのではなく、対話に巻き込むべきである。・・
第4:我々は出来るだけ早く世界的な金融アーキテクチャーの新しいルールを形成するためにパートナーとの継続的な対話に関与する必要がある。この分野での独占は単に・・不十分であるばかりでなく、すべての関係者にとり危険でさえある。・・
第5:今年の末までに、ロシアを世界の主要な金融センターにする(注:これは困難だろう)ための基礎を作る一連の法律を採択しなければならない。・・我々は資源輸出、特に石油とガス輸出でルーブル決済に移行する必要がある。・・
第6の仕事は対外経済での活動に関する。我々自身に閉じこもることは袋小路である。世界経済への統合プロセスを継続する。・・
最後に、我々はすべての国との・・互恵協力を進める用意がある。・・」

なお、この部分とは別に演説の最初でメドヴェージェフは、コーカサスでの紛争の裏には米の思い付きがあった、この紛争は黒海にNATO艦船をいれる口実とされ、ミサイル防衛の欧州への押し付けを早くした、金融危機についても通貨バブルを放置し他国の声に耳を傾けなかったなど、対米非難を行っている。
オバマ当選後の演説であるが、オバマの名前は全く出てこない。
今度のロシアの対抗措置の実際的効果は軍事専門家に評価してもらう必要がある。電子妨害はともかくポーランドやチェコにミサイルを打ち込むなど、ロシアの選択肢にあるとは思えない。

4、上記1,2に加え、内政問題として強調されているのは、政治への国民参加を促すための政治改革、腐敗との戦いとそれとの関連での司法改革、中央と地方の権限配分など連邦制の改革、移民を含む人材育成、教育改革、医療とその保険、年金問題である。
今のロシアでは、これらへの関心が強い、あるいはこれら分野に問題があるということであろう。
(文責:茂田 宏)

米統合参謀本部マレン議長のセルビア訪問

1、10月20日、マレン米統合参謀本部議長は、セルビアのベオグラードを訪問、参謀長のポノス将軍、スタノバク国防大臣と会談したほか、タジチ・セルビア大統領と夕食を共にした。

2、1999年、NATOがコソボのアルバニア人に対するセルビアの攻撃を阻止するためにセルビアを72日間空爆したが、それに対する憤激がまだセルビア人のなかに残っている。加えて、今年2月、コソボが独立を宣言し、米国はいち早くコソボを承認したが、その直後、在セルビア米大使館がデモ隊に襲われ、その一部が放火された。米政策に対する不満がセルビアにはある。また、10月7日には、ゲイツ国防長官がコソボを訪問し、コソボの領土的一体性の支持を表明した。
そういう背景の中で、マレン議長の訪問が実現したこと自体、ひとつのニュースである。

3、マレン議長とポノス参謀長は会談後、共同記者会見を行った。
ポノス参謀長は「両国の経済関係は進展している。文化関係も引き続き進展している。軍事関係は、最も難しい分野であるが、進展させない理由はない。セルビアは米の軍事装備を購入するプログラムに参加する」と述べた。
マレン議長は「両国はコソボで違う立場であるが、多くの共通の基盤を共有する。軍と軍の交流、支援が将来、違いを生み出す。軍と軍の関係が紙の上でなく実際に成功するということで完全に一致した。我々は多くの分野での協力について話した。それは教育、訓練、装備である」と述べた。

4、10月20日付ニューヨーク・タイムズ紙は「コソボでの分裂に拘わらず、米、セルビアの軍指導者は協力」との見出しの記事を掲載した。同記事の中で、マレン議長がタジチ大統領にEUのコソボでの「法の統治」計画への支援、ラトコ・ムラディッチの逮捕、コソボという狭い問題ではなく、広く地域安全保障を考えることを求めるとの米高官の発言を報じている。

5、ロシアはセルビアをコソボ問題その他で支持してきたし、セルビアとは特別な関係にあるとの意識を持つ。そういう背景を考えると、今回のマレン議長訪問について、ロシアが不快感を持つ恐れがある。

6、なおタジチ大統領とマレン議長はマレンがイタリーのナポリのNATOタスク・フォース司令官時代からの知り合いである由。
(文責:茂田 宏)

米ロ関係の悪化と米国内での対ロ政策議論

1、 ロシアのグルジア侵攻を契機として、米ロ間で厳しいやり取りが行われている。9月18
日、ライス国務長官は概略次のとおりの演説を行った。(・・部分省略)

・・グルジアとその分離地域、アブハジアと南オセチアの紛争は複雑であるが、・・重要な事実は明確である。
 8月7日、グルジア人村落への砲撃を含む南オセチアでの停戦の侵害が繰り返された後、グルジア政府はツヒンバリ・・に大きな軍事作戦を行った。遺憾なことに、幾人かのロシアの平和維持要員が戦闘で殺された。
 ・・しかしロシアの指導者がグルジアの主権と領土的一体性を侵害し、国際的に承認された国境を越えて大規模な侵攻を行った時、状況は更に悪化した。・・何千人がその家を失い、ロシアの指導者はグルジア領深く軍事占領を樹立した。彼らはEU議長・仏大統領サルコジによって交渉された停戦合意に違反した。
この間のロシアの行為―グルジア軍による「ジェノサイド」との・・非難、米の行動についての根拠のない声明、アブハジアと南オセチアを承認して主権国家を解体する試み、独立した隣国の取り扱いについて「特権的利害」をもつとの主張、・・アブハジアと南オセチアへの国際監視員やNGOの派遣の拒否―は懸念を呼び起こす。
しかしロシアの行動についてもっと気がかりなのは、これらがここ数年の悪化しつつある行動パターンに合致するということである。・・隣国への威嚇、石油・ガスの政治的武器としての使用、CFE条約の一方的な停止、平和的な国を核兵器の目標とするとの威嚇、国際安全保障を脅かす国やグループへの武器の売却、ロシアのジャーナリストや反体制派の迫害など。
この行動パターンから出てくるのは国内で、権威主義、対外的に侵略的なロシアである。
・・グルジアへの攻撃は・・ロシアと世界を分岐点に持ってきた。分岐点であるが、まだ決定的なものではない。
ロシアの指導者は不幸な選択をしている。しかし彼らはまだ違う選択をなしうる。・・
どうしてこんなことになったのか。・・ロシアの最近の行動の責任を他のものに帰する試みがなされた。
しかしロシアの行動はたとえばグルジアのような隣国に帰することは出来ない。
グルジアの指導者は南オセチアでの先月の出来事にもっと良い対応をなしえた。・・我々はロシアが餌を蒔いていること、この餌に食いつくことはモスクワの手に乗せられるだけだとグルジアの友人に警告した。
しかしロシアの指導者は・・前もって計画された侵攻を行うためにこれを口実として使った。ロシアの指導者は・・数ヶ月前から準備をしてきた。グルジアの分離主義者に旅券を配り、その民兵を武装させ、それからグルジア国境を越える軍事行動を自衛措置として正当化した。
ロシアの行動はNATO拡大にその責を帰すことも出来ない。・・NATOは一貫してロシアを・・欧州のパートナーにするように努力してきた。・・ロシアは・・NATO首脳会議に出席した。したがってこの同盟がロシアに向けられたものと主張することは最近の歴史を無視するものである。・・
ロシアの行動を米のせいにする・・のも妥当ではない。冷戦の終結後、・・米は強く、繁栄し、責任感あるロシアの出現を奨励しようと努めてきた。我々はロシアを敗北した敵としてではなく、出現しつつあるパートナーとして取り扱ってきた。・・そしてロシアを・・強国として尊敬してきた。・・出来る限りロシアの利害や考えを取り入れようと努力してきた。・・
彼らの最近の行動は「新しい冷戦」になったのかとの質問を提起させている。否、そうではない。しかし・・どうしてロシアがこうなったのか・・との質問を提起する。
1990年代はロシアにとり本当の希望と約束の時であった。・・しかし多くのロシア人は1990年代の出来事を別の形で、不名誉な時期として思い出している。・・
そしてロシア国家を再建しようという正統な目標が・・自由の巻き戻し、法の恣意的な執行、・・腐敗の蔓延、偏執的で攻撃的な衝動、・・グルジア、ウクライナなどでのいわゆる「カラー革命」を・・ロシアの利益への脅威と見ることなど、悪い方向(dark turn)に向かった。
ロシアの路線がどうであれ、今日のロシアはその領土の規模、その力の及ぶ範囲、その目標、その政権の性格において、ソ連ではない。ロシアの指導者は普遍性あるイデオロギー上の主張はしていないし、民主的な資本主義に対抗するビジョンもないし、衛星国家や対抗制度を作る能力もない。ソ連の力の基盤はなくなった。・・
我々の戦略目標はロシアの指導者に彼らの選択が自己孤立化への・・道であると明確にすることである。・・このためには米・欧の決意と団結がいる。・・ロシアの指導者の一部は、もし自由諸国に圧力を加え、・・脅せば、・・自由諸国は引き下がり、忘れ、譲歩すると考えているようだが、我々はそんな考えに妥当性を与えない。・・米・欧はロシアの侵略がいかなる利益も生まないようにすべきである。グルジアでもどこでも。・・
米・欧はロシアの隣国の独立と領土保全を引き続き支持する。古い「勢力圏」に彼らを入れようとする・・試みに抵抗する。・・欧・大西洋共同体の将来についてロシアが拒否権を使うことを許さない。・・米・欧はロシアが國際規範、市場、制度から利益を一方で得ながら、その基本に挑戦するようなことを許さない。19世紀のロシアと21世紀のロシアは同時に存在し得ない。・・今、ロシアの国際的な立場は1991年以来最悪であり、そのコストは高い。WTO参加は怪しくなっている。OECD参加もそうである。・・
米とロシアはテロや暴力的な過激主義、朝鮮半島の非核化、イランの核阻止など、諸分野で利害を共有する。・・我々はロシアと共通の懸念分野での協力を必要性ゆえに追求する。しかし最上の関係が利益の共有よりも目標、願望、価値、夢の共有であるなかで、我々の関係がそれ以上のものでなくなることは残念である。・・ロシアの指導者がノスタルジアを克服し、21世紀的な力のあり方に満足するか、まだ判らない。その決定は・・ロシアのみがなしうる。・・我々はロシアの指導者が・・正しい選択をするように希望しなければならない。

2、 9月19日、ロシア外務省はこの演説について強く反論するコメントを発表した。
このコメントはライスが事実を歪曲し、歴史を間違って解釈しており反論の必要もないとしつつ、ロシアの今回の行動はグルジアの侵略への反応で、一度限りの行動である、ロシアを「罰する」試みやWTOやOECD参加問題を政治化する試みは逆効果になる、米ロ協力は選択的に都合のいい分野だけで進められるものではないなどと述べている。
(関心のある向きはロシア外務省のホーム・ページにあるコメント全文をご参照願いたい)

3、 米政権内では、今後の対ロ政策についてチェイニー副大統領を中心とするグループが対ロ
強硬路線を主張し、ロシアとの接触や共同行為を凍結することを主張している。これに対し、ゲイツ国防長官やマレン統合参謀本部議長などがロシアとの関与を主張している。
(1)9月22日付ロスアンジェルス・タイムズ紙は「米とロシアとの関係凍結にリスクあり」との見出しで、ロシアに報復するかどうかで政権内に意見の相違があると報じている。
この記事のなかでブッシュ大統領が非公式指示で、「この実にひどいロシアの行動にはコストを支払わせるべきである」として米ロ関係を見直すことを求めたとされている。
(2)9月23日付ロスアンジェルス・タイムズ紙は「統合参謀本部議長、ロシアとの話し合いを主張」との記事を掲載している。
(3)9月23日付ウオール・ストリート・ジャーナル紙は「緊張の中、重要問題について米ロは協力」との記事を掲載している。

(軍関係者や国務省の軍備管理担当者は戦略兵器削減条約(START)の改定、不拡散問題など、ロシアと取引せざるを得ない問題があるということだろう。)

4、9月24日付ニューヨーク・タイムズ紙は「ロシア、イラン核計画について米との会談拒否」との記事を掲載、ロシアが9月23日、イラン核問題でのP5+1協議に参加しないと通告してきたと報じている。また9月23日付ワシントン・ポスト紙は、「べネゼラに向け、艦隊出航」との見出しで、ロシアの原子力巡洋艦ピーター・グレイトが北海艦隊の基地を出て、共同演習のためべネゼラに向かったと報じている。

5、このようなロシアの出方は、米の政権内での対ロ政策議論(どういう関係を求めていくか、よりきめ細かい議論になる)に影響を与えていくだろう。
米ロ関係が深刻に悪化するとの前提で物事を考える必要がある。
(文責:茂田 宏)

ロシア・グルジア戦争の開始の経緯

1、 グルジア戦争について、ロシアは、8月7日遅くグルジアが南オセチアのツヒンバリを攻
撃したのに対しロシアが反撃したとし、グルジア側はロシア軍が先に軍を南オセチアに侵攻したので防衛的に行動したと主張している。
西側やグルジアでも、サーカシュビリが先に攻撃するとの愚を冒したとする意見(The Economist誌、米国務省見解についてのワシントン・ポスト紙報道など)がある。
EU諸国の外相はこの戦争の経過についての国際的な調査を行うことを提唱し、独外相はその結果に応じて、対ロシア、対グルジアの今後の政策を考えるべしとしている。

2、 この問題につき、9月16日付ニューヨーク・タイムズ紙が「戦争の開始についてグルジ
アが新証拠を提示」との見出しで、トビリシ、ワシントン、モスクワの記者連名の記事を掲載している。その記事は次のとおり。(・・部分省略)
・ ・グルジアはロシア軍の一部が、グルジア軍が8月7日遅くツヒンバリを攻撃するほぼ
1日前に南オセチアに侵攻したことを示す電話傍聴記録を発表した。グルジアは南オセチアでの対立が・・戦争になったのはグルジアがツヒンバリを攻撃したからであるとの非難に対抗しようとしている。・・
 グルジアは先週、米と仏の情報機関に傍聴記録を手交したが、・・本紙にも傍聴の音声テープを提供した。・・
 ロシア軍は、クレムリンが設定したインタビューで、この傍聴記録の意義を低めようとした。ロシア軍は戦争勃発前の南オセチアへの部隊移動は平和維持軍の通常の交替と補給のためであったと述べた。しかし少なくともこの傍聴された会話は、・・以前に認められていたよりも早くグルジア領内へのロシア軍の移動があったことを示唆する。・・
グルジアは、・・情報機関が秘密裏に記録した会話の二つが、ロシアの戦車や戦闘車両がロシアと南オセチアを結ぶロキ・トンネルを8月7日の早朝に通過しつつあったことを示すと主張している。ロシアは8月7日夜、11時半、サーカシュビリがツヒンバリのロシア軍への攻撃を命令した時に戦争は始まり、その後にロシアの戦闘部隊が南オセチアへ国境を越えたとしてきた。
ロシアは、オセチアの国境警備員によるグルジアの民間携帯電話網を使ってなされたとみられる電話の会話の真実性は争っていない。「良く聞け。装甲車は来たか。どうだ。」と南オセチアの国境警備本部の幹部がトンネルにいるガシエフと言う名前の警備員に聞いている。それが傍聴されたのは・・8月7日午前3時52分である。警備員は「装甲車と人員」と答え、通過したのかと聞かれ、警備員は「ハイ。20分前。自分が電話した時に、彼らは既に到着していた」と述べている。
 グルジア内務省の情報分析チームの長は「この戦争は誰が始めたのかの議論がある。・・これらの傍聴された会話記録はロシアが先に動いたこと、我々は自分を防衛したことを示している」と述べた。
しかし記録は装甲車の量やロシア軍がそのとき戦闘に従事していたかを明らかにしない。
・・ロシアのウヴァロフ中将は、・・グルジアの攻撃がロシアを驚かせ、指導者はロシアの平和維持部隊が攻撃されている中で対応を急いだと主張し、メドヴェージェフ大統領はボルガ川のクルーズに乗っており、プーチンはオリンピックで北京にいた、国防相も黒海のどこかで休暇中であった、攻撃があるとは予期していなかった、と述べた。8月7日早く、ロシア軍が南オセチアに入ったとの主張について、ウヴァロフは、ロシアの平和維持部隊への補給のため、軍は定期的に南オセチアに出入りしている、・・しかし戦闘をするための部隊ではない、大きな援軍があれば、15名もの平和維持要員を失うことはないと付け加えた。
グルジア側は、・・2004年の平和維持の文書では、ロシア平和維持部隊の交替は昼間に、かつ1ヶ月の事前通告の後、行われることになっているが、そんな通告はなかった、ロキ・トンネルの警備員は明らかに驚いているが、通常の部隊交替ならば、何故驚いたのか、としている。・・
グルジアの内務大臣メラビシュビリは、この会話が記録された数時間後にその報告を受けた、サーカシュビリに伝達され、彼はロシアの侵攻の徴であると見たと述べた。・・
本紙は米政府と情報機関の何人かの高官にこの傍聴記録を見せたが、・・彼らは会話の全体を見ないとなんともいえない、・・まだ誰が最初に撃ったのか、決めかねると述べた。
・・グルジアは主要な証拠として8月7日のガシエフと本部の上司との二つの会話を挙げている。
最初の午前3時41分に記録された会話で、ガシエフは上司に・・「司令官、大佐が来て、車を検査してくれ」と言った、軍事装甲車やその他の車が派遣され、そこで渋滞しているが、君らが検査をすべきだと言った、知らないといったら、帰った、と言っている。
午前3時52分、ガシエフは上司に装甲車両がカザチェンコ大佐の指揮で、トンネルを出たと通報している。・・別のロシアの報道で、アンドレイ・カザチェンコ大佐は135機甲化ライフル部隊に勤務しており、この部隊は南オセチアに平和維持要員を出し、ツヒンバリで戦闘したことが知られている。・・
グルジアのロシア軍の動きについての主張は部分的には最近明らかになった情報と合致しているように見える。・・米高官によると、西側の情報機関は135部隊が8月7日の夜、または8月8日の早朝、トンネルを通って南オセチアに移動したと判定した。・・
9月3日、ロシア国防省の機関紙、赤星は、135部隊のシドリツキー大尉の記事を掲載したが、そこで大尉は彼の部隊が8月7日に演習を止め、ツヒンバリに移動するように命じられたと書いている。本紙がこれについて質問した後、赤星は9月12日、ツヒンバリへの前進の正しい日時は8月8日であったとシドリツキー大尉がいったとの記事を掲載した。
国務省の次官補代理マシウ・ブライザは・・記録された会話の内容は、・・戦争の直前、8月7日にグルジア側が信じていたと思われることと合致している、・・彼らはロシアの装甲車両がロキ・トンネルに入り、ロキ・トンネルを出たと・・信じていた、訓令により、私は、米国はこれらのロシア軍と直接戦闘しないように求めると述べた、8月7日夜、サーカシュビリが攻撃命令を出す直前、・・グルジアの外相と話したが、外相はこの状況では我々の村を守らざるを得ないと言った、と述べた。
ロシアのウヴァロフ将軍は、グルジアは自分の情報の明瞭な理解なしに軽率に行動した、ロシアは南オセチアに500名の平和維持軍を維持できるし、緊急事態には100名の予備平和維持員を展開できる、・・135部隊の100名の予備平和維持軍は警戒状況に置かれ、トンネルの近くに展開された、8月8日早朝に、トンネルを通ってツヒンバリの部隊を支援するように命じられた、最初のロシアの戦闘部隊はグルジア軍がツヒンバリを砲撃した後、14時間経った8月8日午後2時半までロキ・トンネルを通過しなかった、ツヒンバリに到着したのは、グルジアの抵抗があり、その翌日の夕方であった、と述べた。
グルジア側はトンネル近くで8月8日の夜明け前に激しい戦闘があったとして、ロシアの説明に反論している。・・

3、 今般のロシア・グルジア戦争の経緯については、諸説があるが、この記事は良く調べて書
かれており、参考になる。1990年代の平和維持合意文書、その後の慣行などを調べないと正確な判断は出来ないが、ロシアの説明にごまかしや不十分な点がある可能性がある。

4、 こういう紛争が生じた際、いずれの側も自らが犠牲者で、相手が悪いと主張する。より説
得力を持って、世界の世論に訴えられる方が外交面で優位に立つ。ボスニア戦争について、高木徹氏の書いた「戦争広告代理店」という本があるが、そういう事情を良く書いている。
これは広報の問題であるが、同時に情報を広報に活用する問題である。私は日本も対外情報機関をもつべしと主張して来たが、情報をもつことはこういう場合にも役立つ。情報なしに広報も上手くできないことをこの事例は示している。
(文責:茂田 宏)


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