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ソフト・パワー論とその限界
1、 ハーバード大学教授ジョセフ・ナイが国際政治におけるソフト・パワーの重要性を強調した後、軍事力や経済力というハード・パワーを国際情勢の決定的な要因とする見方に対して、ソフト・パワーを重視すべきであるとの論が出てきている。文化や制度の魅力が国際情勢に与える影響を無視すべきではないことは当然である。しかしそれを過大に評価すると、逆の間違った判断に陥る危険がある。
2、 ある国の文化や制度に興味を持った場合、人はその国の言語を学ぼうとすることが多い。言葉を理解しないで、文化を理解することは(音楽や絵画は別だが)一般的にいって難しい。文化のなかで言語の占める位置はかなり重要なのではないかと思われる。その意味で、ある文化の魅力とその文化の言語への関心はある程度連動している。
3、 しかし現在、英語が世界的に広まっていることは英語圏文化が他の文化に比して魅力的であるからであると考えるのは間違っているように思われる。私はソフト・パワーとハード・パワーには切り離せない関係があり、どちらかというと、ハード・パワーが先にあり、それにソフト・パワーが付随してくると考えている。英語が広まっているのは、英米その他の英語国の軍事力と経済力が強いからであって、その逆ではない。このことはソ連邦の崩壊とその後のロシア語学習者の激減を見ればよく分かる。フィンランドでも東欧諸国でも中央アジアでもさらに中国、モンゴル、ラオス、ベトナムでもロシア語学習者は激減し、代わりに英語学習者が増えている。私は英語とロシア語を勉強した。言語としてどちらが優れているかはなかなか言いがたいが、文字言語と話し言語の間の規則性や文法上の規則性ではどう見てもロシア語のほうが上である。
なにかソフト・パワーという独立したものがあるように考えるのはそういう意味で正しくない。国際情勢を決めるのは軍事力や経済力というハード・パワーが中心であり、ソフト・パワーは補助的なものに過ぎないように思われる。
4、 なおこの関連で米国人がどんな外国語を勉強しているのかを調べてみた。米国の「近代言語協会」(Modern Language Association)という権威ある団体が4年制大学と大学院での外国語学習者数を2006年について集計したものである。その順位、次のとおり。
第1:スペイン語―598,241人、第2:フランス語―174,712人、第3:ドイツ語―82,143人、第4:イタリー語―65,362人、第5:日本語―50,894人、第6:中国語―42,909人、第7:ロシア語―22,470人、第8:アラビア語―19,590人、第9:ポルトガル語―9,487人、第10:韓国語―5,924人(なおラテン語、古典ギリシャ語、古典・現代ヘブライ語は除外)
案外、日本語が頑張っている。ただし2002年の調査から日本語の伸びは27,5%であるのに対し、中国語は51,0%、アラビア語は126,5%、韓国語は37,1%伸びている。欧州語では、イタリー語は22、6%伸びているが、フランス語は2,2%、ドイツ語は3,5%、ロシア語は3,9%しか伸びていない。
(文責:茂田 宏)
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