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国連総会での死刑執行猶予決議の採択
I,12月18日、国連総会は「死刑罰の使用に関するモラトリアム」決議を賛成104
カ国、反対54カ国、棄権29カ国で採択した。総会決議であるから、法的拘束力はなく、勧告的効力を持つだけである。しかし国際社会の多数意見として、死刑は猶予されるべきであるとの勧告が採択されたことは意味がある。1994年、1999年に同じ趣旨の決議案が出されたが、採択には至らなかったことを考えると、死刑についての考え方が変化してきていることを示している。
II、この決議の全文を参考まで掲載する。
総会は、
国連憲章に書かれている目的と原則によって導かれ、
世界人権宣言、市民的・政治的権利に関する国際規約、および子供の権利条約を想起し、人権委員会により、過去10年の間、そのすべての会合で採択された死刑罰の問題に関する決議および同委員会が死刑罰を今なお維持している国にそれを完全に廃止するように、かつそれまでの間、その執行にモラトリアムを行なうように求めた決議2005・59号を想起し、
死刑罰の問題に関して前の人権委員会が達成した重要な成果を想起し、人権理事会がこの問題についての作業を継続することを予想し、
死刑罰の使用は人間の尊厳を掘り崩すことに鑑み、また死刑罰の使用のモラトリアムが人権の向上と進歩的な発展に寄与すること、死刑罰の抑止としての価値に関して決定的な証拠がないこと、死刑罰の実施における司法の誤りや失敗は不可逆的で取り返しのつかないものであること、を確信し、
増加する数の国によって多くの場合、死刑罰の廃止につながる執行のモラトリアムの適用の決定が採択されていることを歓迎し、
1、 死刑罰の適用の継続に深い懸念を表明する。
2、 死刑罰を維持しているすべての国に対して、次のことを呼びかける。
(a)死刑罰に直面している人々の権利の保護を保障する保護措置を規定する国際的な基準、特に1984年の経済社会理事会決議1984・50号の付属にある最低限の基準を尊重すること
(b)事務総長に死刑罰の使用について、また死刑罰に直面している人々の権利の保護を保障する保護措置の尊重についての情報を提供すること
(c)死刑罰の使用を漸進的に制限し、死刑罰が課される犯罪の数を減少させること
(d)死刑罰の撤廃を念頭に、その執行にモラトリアムを導入すること
3、 死刑罰を撤廃した国にその再導入をしないように呼びかける。
4、 事務総長にこの決議の実施について総会の第63回会期に報告するように要請する。
5、 同じ議題の下で第63回会期にこの問題の検討を継続すると決定する。
III,この決議について、注目すべき点、次のとおり。
第1:日本、米国は、中国、イラン、シリアなどとともに反対した。英など、EU諸国は他の諸国とともにこの決議を共同提案した。賛否の分かれ方が特異であった。なお、ヴァチカンはこの決議の採択を歓迎した。
第2:国連憲章第2条7項は「この憲章のいかなる規定も、本質上いずれかの国の国内管轄権内にある事項に干渉する権限を国際連合に与えるものではなく、・・・」としている。死刑制度を存続するか否かは国内管轄事項ではないかとの考え方があるが、この決議が採択されたことは死刑の問題は国内管轄事項に当らないとの考えの表明でもある。
第3:刑罰は応報を原則とすべきで、殺人には死刑で対処することが被害者の感情に答えるためにも必要な場合もあるというのは、筋道の通った話である。しかし死刑については、乱用を防げばよいとの考えは、国連の議論では、多数派を構成しておらず、死刑そのものが良くないのだとの考えが多数である。
第4:ローマにある「カインから手を引け」というNGOによると、昨年、世界では5628人が死刑に処せられた、処刑数で一番多いのは中国で5000人、2番はイランで215人ということである。汚職事件への死刑適用は応報の原理から言っても、とても正当化できない。死刑の廃止を国際的に広めていくことで、政治犯の処刑を含め、理不尽な死刑の適用を抑えられれば、多大のメリットがある。このメリットが応報の原理の不貫徹のデメリットを上回るとの考え方もあり得るだろう。
(文責:茂田 宏)
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