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アフガン・パキスタン情勢

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アフガニスタンへの米兵増派の決定

1、 1月15日、米国防省は次のとおり発表した。(・・部分は省略)
2008年春、アフガニスタンに追加的な部隊を配備することを国防長官が勧告し、大統領が承認した。この通常でない一回だけの配備は、約3200名の兵士を巻き込むものであり、アフガンにいる司令官が・・アフガン国家治安部隊(ANSF)の訓練の強化・・とNATO主導の国際治安支援部隊(ISAF)の成果を拡大することを可能にするだろう。
 第24海兵派遣部隊がISAF司令部のもと、・・約2200名の兵士を展開する。この展開は約7ヶ月続き、南部アフガンでの作戦部隊についてのISAFの要請を一時的に満たす。
 追加的に海兵大隊は不朽の自由作戦のもと、アフガン国家治安部隊の訓練と発展を支援するために約1000名を展開する。
 これらの追加的な兵力はアフガン国軍とアフガン国家警察の能力の強化・・を可能にする。アフガンの部隊は引き続き能力を発展させ、治安作戦で主導的な役割をますます果たすようになる。
 この一時的な米軍配備はアフガンの治安とアフガン国家治安部隊の発展に対する米の引き続くコミットメントを反映する。NATO同盟の一員として、米はアフガン人とNATOにより過去6年間に蓄積された・・成果が不可逆的になることを確保するために必要な兵力をISAFが確保できるように自分の役割を果たす。
NATOの4月2日−4日のブカレスト首脳会議に向け、国防省は・・ISAFの要請のすべてが満たされ、米やその他の同盟国・パートナーによる通常ではない配備の必要が将来、最小化されるように、同盟国やパートナーと集中的に作業していくだろう。・・・

2、 米はISAF司令官の要請に応じて、米以外のNATO諸国がアフガンへの兵力を増派するように求めてきた。しかしNATO諸国がこの米の求めに応じないため、米が一時的な増派に踏み切ったということである。
 タリバンの春攻勢への備えの意味がある。国防省の報道官は現地情勢が悪化したためではないと説明している。
 このアフガン増派は民主党も主張していたことであり、米国内では反対はない。
 米軍はこれまでイラク対応で手が一杯であるとしていたが、イラク情勢の改善に伴い、米軍をイラクからアフガンに振り向ける余裕が出てきたということであろう。

3、 この増派決定後、ゲイツ国防長官は米軍主導のアフガン東部地域では治安が回復してきているのに、NATO軍主体の南部地域では治安の改善が認められない、これはNATO軍の反乱鎮圧作戦が上手でなく、冷戦時代のような作戦行動を行い、空爆を多用しているからであると批判したと報じられた。欧州側はこの報道に反発、ゲイツ長官がNATO軍は良くやっているとの追加コメントを出した。

4、 なお、icasualties.orgによると、これまでアフガンで戦死した兵士は全部で760名である。10名以上の戦死者をだしている国は、米480名、英86名、カナダ77名、ドイツ25名、スペイン23名、蘭14名、仏12名、伊11名である。
(文責:茂田宏)

パキスタン情勢:その後の展開

ブット暗殺に伴うパキスタン情勢の混迷について、12月30日に記事を掲載したが、その後の展開、次の通り。

1、(人民党の後継総裁)
12月30日、人民党は中央執行委員会を開催し、ブット元首相の遺言に従い、ブットの夫アシフ・ザルダニを後継総裁に任命した。アシフはその総裁職を19歳の息子ビラワルに委譲した。ただし息子がオクスフォードでの学業を終わるまで共同総裁として党を指導することになった。ビラワル・ザルダニは今後、ビラワル・ザルダニ・ブットと呼ばれることになった。アシフは「ミスター・10%」と呼ばれているなど、腐敗しているとされていること、人民党はブット家のものと考えられていることがこの背景にある。
ブット元首相は民主主義の旗手のように言われているが、人民党をブット家の物と考えていたことが図らずも暴露されたといえる。
ブット元首相の亡命中人民党を任されていたアミン・ファハミは、選挙での勝利後の人民党の首相候補とされているが、この人はブット家を押しのけて人民党の主導権をとるような人ではないので、ブット元首相が亡命中の指導者に選んだとされている。
2、(選挙の延期とその公正さの確保)
(1)選挙については、当初予定の1月8日から2月18日に延期された。
人民党とムスリム連盟シャリフ派は1月8日の実施を要求、それが守られない場合、街頭行動に出ると脅していた。人民党のアシフ・ザルダニは、ムシャラフ与党を「殺人連盟」と呼んだりしていたが、延期発表の日、「我々は人々に平和的であるように、怒りを投票箱で示すように要請する」と述べ、責任のある態度を見せた。
ムスリム連盟シャリフ派は、米の説得あるいは人民党との共同歩調の必要性からか、従来の主張である選挙のボイコットを撤回した。
この結果、民政移管のための重要な一歩である選挙が2月18日に行われることになった。
(2)選挙の公正さ、または公正であると国の内外でみなされることが重要である。
1月3日付ワシントン・ポスト紙によると、米国はムシャラフ政権に対して活動家の釈放、政党活動や報道への制限の解除、国際的監視団の受け入れ、選挙管理員会の改組、出口調査の許容(政府発表をチェックする手段)などの措置を水面下で要求している。
ムシャラフがかかる要求をどこまで受け入れるかである。
ムシャラフ与党が仮に公正な選挙で勝ったとしても、誰も公正な選挙をしたと評価しないだろうとの意見がある中で、ムシャラフは、選挙後の混乱を避けるためにも選挙の公正の維持に気を配るべきだろう。
ただ現実には、たとえばInternational Republican Institute(IRI)という米の団体は、出口調査が許されない、行動に制限がある、安全が不安だとして、パキスタンの選挙監視から撤退しようとしている。米国務省がIRIに再考を促している。治安情勢が悪いので、他の外国の監視団も参加に消極的になる可能性がある。
3、(ブット暗殺の真相究明)
アシフ・ザルダニは国連安保理がレバノンのハリリ暗殺の場合同様、捜査官を任命、パキスタン高官をも捜査対象とすることを求めている。ヒラリー・クリントン、国際危機グループ(ICG)などもそれを支持している。
しかし、米・英・仏は何の動きもしておらず、中ロはこういう内政干渉的なことにそもそも否定的なので、安保理では何の動きもない。米英仏はダブル・スタンダードではないかとの批判があるが、米国務省はレバノンの場合は政府からの要請があったが、今回パキスタン政府からの要請はないと説明している。
ムシャラフは外国の捜査協力を得る事に否定的であったが、内外の状況に鑑み、英スコットランド・ヤードに捜査協力を求め、1月4日より英の捜査員がパキスタン入りしている。鑑定などでの協力を得るのであって、「Wild Goose Chase」(自由な捜査)ではないとしている。
ブットの死因については、射撃によるものか、あるいは内務省発表のように爆風により車のサンルーフのレバーに頭をぶっつけたものなのか。CIA高官がパキスタン内務省の発表には疑問があると述べたこと、新しいビデオ映像が内務省発表に適合しないことを踏まえてか、ムシャラフは射撃によるのではないかと発言した。
ムシャラフは、現場を事件後すぐに水で清掃したことも悪意によるものではない、ブットが集会の後サンルーフから身を乗り出し支持者に手を振るとの不注意な挙に出たことが事件がおきた理由である、政府がブットにそうしろと言ったわけではない、ブットとともに自分はパキスタンの民主化、テロとの戦いを進めようとしてきたと、政府の関与説に強く反論した。
ムシャラフの説明は国の内外で割に受け入れられていると判断される。
犯人はメスードか否かは別にしてイスラム過激派との意見が米では強い。
4、(米の動き)
(1)ブッシュ大統領はムシャラフを支持する姿勢を崩していない。ブッシュ政権は人民党とムシャラフとの協力を今なお希望し、ザルダニとシャリフがムシャラフに対抗した協力関係を築くことはパキスタンの不安定につながると判断している模様である。
(2)2、で述べたとおり、選挙の公正さ確保のために働きかけをしている。
(3)1月6日付ニューヨーク・タイムズ紙は、1月4日、ホワイト・ハウスにチェイニー副大統領、ライス国務長官などが参集、アルカイダ、タリバンがパキスタンを不安定化しようとしているとの情報報告への対応として、パキスタン内でCIA、特殊部隊に秘密工作活動を行う拡大された権限を付与することを話しあったと報じた。
 パキスタン軍の報道官はこの報道の翌日、米が国内で勝手なことをすることは許さないと言明している。
5、 全般的な情勢判断としては、ブット暗殺後の暴動などは収まり、少なくとも短期的にはムシャラフは危機を乗り越えつつあると判断される。1月6日付ロスアンジェルス・タイムズ紙は、「ムシャラフは明らかに危機を乗り越えつつある」との見出しでパキスタン情勢を報じている。
 選挙の行われ方、その結果、その受け入れられ方、その後の連立の組み方が、情勢の安定化に大きな影響を与えると思われる。
 なおムシャラフの後任になったキヤニ陸軍参謀長への米の信頼は厚い。
(文責:茂田 宏) 

ベナジール・ブット暗殺:パキスタン情勢の混迷と今後の見通し

1、 12月27日、ベナジール・ブットは政治集会の後、ラワルピンジで暗殺された。パキスタンで最も人気のある政治家であり、民政移管の中で大きな役割を果たすことが期待されたブットの暗殺は、国の内外に大きな衝撃を与えた。パキスタン内では、各地で抗議デモや暴動が発生している。ムシャラフ大統領はテロリストの犯行だとして国民に冷静さを求め、3日間の喪に服すことを宣言した。

2、 犯行は誰によって行われたのか。
12月28日、パキスタン内務省のチーマ報道官は、(1)ブットは射撃されてなくなったのではなく、自爆の爆風で車のサンルーフのレバーに頭を打ち付け、頭蓋骨を骨折したことで死亡したと述べ、(2)南ワジリスタンの過激派指導者バイトゥーラ・メスードがブット殺害に祝意を述べたとして、メスードの電話盗聴記録を公開した。
メスードは「パキスタン・タリバン運動」の司令官である。南ワジリスタンに本拠をおいている。メスードは側近を通じて関与を否定している。
昨年9月、オサマ・ビンラーデンはパキスタン政府に対するジハードを宣言したビデオを公開した。メスードとオサマは協力関係にある。12月29日付ウオール・ストリート・ジャーナル紙はルービンの論説を掲載、オサマたちはパキスタンにアフガンで失った聖域を再建する、そのためにパキスタン情勢を不安定化することに力を入れている、と論じている。また同日付ニューヨーク・ポスト紙は「テロの新しい戦場」との記事を掲載、テロリストがイラクからパキスタンに「戦場」を移している、ジニ将軍(元米中央軍司令官)は「彼ら(テロリスト)はパキスタンを混沌に陥れ、原理主義的で過激な政府を作ろうとしていると言ったと報じている。
イスラム過激派のテロリストが犯行に及んだと考えるのが妥当であろう。ただしイタリアの報道機関にアルカイダを名乗る人から犯行声明が寄せられたというのは信用できない。アルカイダは通常犯行声明は出さないからである。
人民党側はこのチーマ報道官の発表を信用できない、ムシャラフとその政府に責任があるのではないかとしている。
この暗殺の真相解明がパキスタン情勢の安定化のためにまず重要であろう。政府の関与、政府のブット護衛のあり方、ブット自身の護衛措置への反応(行動の自由を要求)、過激派の関与などの諸点について、パキスタン政府だけの調査では国民が納得することは考えがたい。FBIなど、第3者を入れた真相の解明を行うことが必要であろう。米国ではヒラリー・クリントンが、レバノンのハリリ暗殺事件の場合同様の調査を主張している。国際的な調査への要求が国内外で盛り上がることが予想される。
ムシャラフがそういうことを受け入れるかどうかである。ムシャラフは国際的な信頼性のある調査によって自分への嫌疑や政府の措置への不満を解消するのが得策と思われる。
3、 選挙:予定通りの実施か延期か
 パキスタンの選挙は1月8日に行われる予定である。12月29日、ソームロ暫定首相は今のところ予定通りとしている。米国も予定通りの選挙を希望している。
しかし治安の状況と各政党の状況に鑑み、延期の可能性が高くなっている。
人民党はブットという指導者が暗殺され、その後継者を決める必要がある。ブットの夫アシフ・アリ・ザルダニ(ブット内閣で閣僚になった、汚職で逮捕、収監されたことあり)、息子ビラワル(まだ19歳で若すぎる)、人民党副党首のアミン・ファハミ、アイザズ・アーサン弁護士が後継候補に挙げられている。人民党は40日間喪に服すとしており、新体制がいつまでにできるかわからない。
人民党以外の有力野党、ムスリム連盟シャリフ派は、ムシャラフ大統領の下で公正な選挙はできないとして、選挙ボイコットを主張してきた。人民党が選挙に参加するとしたので、それに付き合って選挙参加を決めたが、ブット暗殺後、選挙をボイコットするとナワズ・シャリフ元首相は明言している。
ムシャラフ与党のムスリム連盟カーイデ・アーザム派の幹事長は「個人的に言えば、選挙を行うムード、意欲はない」としている。
選挙については、予定通り行われる可能性も残っているが、たぶん延期されるだろう。ただ、民政に移行していく過程で、選挙実施は必要であり、これは時期はともかく実施されることになる。
なお、今選挙をすれば、同情票もあり、人民党が大勝するとされている。
4、 米国はどうしようとしているのか。
米国は選挙でブットが勝ち、ムシャラフ大統領とブット首相という形の共同政権ができることを期待し、そのために努力してきた。しかしブット暗殺により、この構想は頓挫することになった。
米国は戦略の練り直しを迫られている。ブッシュ大統領は、12月28日、クロフォードで、チェイニー副大統領、ライス、ゲーツ両長官、ハイデンCIA長官、ハドリー安保補佐官、パターソン大使などとテレビ会議を行った。この会議後、ホワイト・ハウス報道官スタンゼルは「大統領はパキスタンにおける民主主義を支持し、過激主義・テロに反対する闘争でパキスタンを助ける必要がある」と指示したと発表した。
とにかく選挙を実施させ、民政移管を行い、ムシャラフと人民党の連立を作る、そしてテロとの戦いを進めるということであろう。
なお国務省の報道官はシャリフ本人ではなく、ムスリム連盟・シャリフ派の有力者に選挙参加の働きかけをしていることを認めている。
米としても、それ以外の戦略はありえないだろう。しかしシャリフ説得だけをとっても、それが効果をあげるかどうか、定かではない
5、 パキスタンの核はどうなっているのか。
米がパキスタン情勢の不安定化のなかで強い懸念をもっているのがパキスタンの核兵器がイスラム過激派の手に落ちないことである。12月29日付ロンドン・デイリー・テレグラフ紙は核兵器の状況についてラフル・ベディの「誰がパキスタンの核兵器をコントロールしているのか」との記事を掲載している。これによると、パキスタンには60−65弾頭があり、正確な場所は不明であるが、イスラマバードの近くにあり、弾頭とミサイルは別々に保管されている、国家指揮局(National Command Authority)が核兵器管理のため2000年にでき、今はムシャラフが指揮権を持っている、しかし軍と諜報が管理しており,そこには過激派もいる、と指摘している。
6、 パキスタン情勢の混迷はアフガン情勢を困難にし、アルカイダに勢力拡大のチャンスを与える。世俗的勢力が大同団結する必要があるが、それがなかなかできない。アルカイダとそのシンパが戦略的にパキスタンを狙ってきていることを認識する必要がある。
(文責:茂田 宏)



 

ムシャラフ大統領の就任と今後のパキスタン情勢

1、 パキスタンのムシャラフ大統領は、11月28日、陸軍参謀長を辞任、軍籍を離れた。翌11月29日、ムシャラフは文民として大統領(任期5年)に就任した。就任式の際の宣誓全文を参考まで掲載する。

私、パーヴェズ・ムシャラフは、厳粛に次のことを誓う。
私はイスラム教徒であり、全能のアラーの単一性とひとつなること、聖なるコーランがその最後であるアラーの聖典、最後の預言者としてのムハンマドの預言者たることと彼の後に預言者はいないこと、最後の審判、そして聖なるコーランとスンナのすべての要請と教えを信じる。
私はパキスタンに真の信仰と忠誠をささげる。
私はパキスタンの大統領として、忠実にパキスタン・イスラム共和国の憲法と法に従い、常にパキスタンの主権、一体性、団結、福利、繁栄の利益のために、正直に、自分の能力の限りを尽くし、自分の義務と役割を果たす。
私はパキスタンの基礎であるイスラムのイデオロギーを保存するように努める。
私は自分の個人的な利害が自分の公的な行動や決定に影響を与えることを許さない。
私はパキスタン・イスラム共和国の憲法を保存し、保護し、守る。
私は法に従い、恐怖もえこひいきも、愛情も悪意も持たず、すべての人に正しく接する。私は自分の考慮のために提出された事案やパキスタンの大統領としての自分に知られるにいたったことについて、大統領としての職務の適切な遂行のために必要とされる場合を除き、いかなる人にも直接、間接を問わず、伝達したり、明かしたりしない。
全能のアラー、私を助け、導いてください。(アーメン)

この宣誓文は憲法の42条に規定されている。パキスタンでは、憲法上、イスラム教徒でないと大統領にはなれない。現在、ムシャラフは非常事態宣言で憲法を停止しているので、憲法を守るとの宣誓は空虚に響く。

2、 11月29日、ムシャラフは国民向け演説を行い、11月3日の非常事態宣言を12月16日に解除する意図を表明した。非常事態宣言の狙いは、最高裁がムシャラフには陸軍参謀長のままで大統領選挙に出る資格はないとの判断を出そうとしていたのに、先手を打つことにあった。非常事態宣言後、最高裁の判事を入れ替え、この最高裁は11月22日、ムシャラフの大統領選挙出馬への異議申し立てをすべて却下、ムシャラフの大統領就任が確定した。非常事態宣言は当初の目的を達成したといえる。

3、   総選挙が来年1月8日に実施される。
(1) パキスタンの主要政党は、ムシャラフ与党(ムスリム教徒連盟アーザム派など)、ベナジール・ブット率いる人民党(PPP)、ナワズ・シャリフ率いるイスラム教徒連盟シャリフ派、宗教政党である統一行動評議会(MMA)である。選挙制度は小選挙区制である。小政党は特定地域で勝つことがあるだけである。
(2) ムシャラフは11月29日、ブット、シャリフを名指しして、選挙への参加を呼びかけた。野党側では、シャリフがボイコットを主張しているが、ブットは与党に楽勝させることはないと参加を主張している。非常事態も解除されるので、野党も参加した選挙になる公算のほうが大きい。シャリフのボイコット論は反ムシャラフを際立たせるための戦術との見方がある。
(3) 選挙が公正に行われるか、その結果はどうなるかは今に時点ではわからない。
(4) 選挙結果は誰が首相になるかに影響がある。憲法91条は、大統領は議会の多数の信頼を得ると思う人を首相に任命するとしている。

3、 今回の件への各国の対応は略述すると次のとおり。
(1) 米国:
・ 非常事態宣言前にムシャラフに思いとどまるように説得、ムシャラフに拒否された。(司法当局が司法の謙抑を弁えなかった結果、パキスタンは大統領のいない国になるところであった。米がそれを許容できると考えた理由がよくわからない。)
・ その後、軍籍離脱、選挙実施、非常事態解除を求め、ムシャラフは応じた。
・ 11月30日、ブッシュはムシャラフ再選に祝意を述べる電話をした。
・ 議会、メディアでのムシャラフ批判も沈静化しつつある。
・ 米国はムシャラフ・ブット共同政権を希望してきたが、その成否は選挙結果による。但し今回の件でブットが対決姿勢をとりすぎるとの幻滅が米内部で出ている。
(2) 中国:
・11月22日、胡錦祷がムシャラフにメッセージを送付、ムシャラフ支持を表明。
(3) サウジ:
・ 11月20日、ナワズ・シャリフの帰国をムシャラフに認めさせた。(11月20日のアブドラ国王・ムシャラフ会談、シャリフは11月26日、帰国)
(4)日本:
・ 報道官談話で非常事態宣言に憂慮を表明。

4、 パキスタンは核保有国であり、テロとの戦いの最前線にある。民主主義原理論で対応しうるような状況ではない。また、ムシャラフ、ブット、シャリフが争う中で、イスラム過激派が「漁夫の利」を得る可能性がある。
(文責:茂田 宏)

パキスタン情勢(その2):ムシャラフと米国、テロ戦争と民主化、そして核

11月3日、ムシャラフ大統領は非常事態宣言を行い、憲法を停止した。それに対する抗議運動と政権側の抗議運動の弾圧が続いており、今後の情勢がどう発展するかは見通し困難である。現時点での私の情勢判断は次のとおり。
1、(今次非常事態宣言発出の背景)
パキスタン最高裁判所は、ムシャラフには陸軍参謀長のまま大統領選挙に出る資格がないとの決定を出そうとしていた。これに対して、ムシャラフが先手を打ってそういう決定が出ないようにしたと判断される。
非常事態宣言のなかで、司法府が行政、立法権限を接収しようとしたとムシャラフは非難しているほか、11月5日付ワシントン・ポスト紙によると、パキスタン・イスラム連盟(与党)のチョウドリ・シュジャート・フセイン総裁が、先週、最高裁の判事の一人が最高裁は大統領にとどまろうというムシャラフに反対する裁決をするということをひそかに政府に知らせてきた後、最終的な決定がなされたと述べたとされている。
ムシャラフ大統領の任期は11月15日までである。ムシャラフは10月6日の大統領選挙で再選されたが、最高裁判所が陸軍参謀長のままでは立候補資格がないとの訴えを受理し、審議していた。資格なしという裁決が出れば、大統領選挙のやり直しになるが、時間もなく、パキスタンは大統領がいない状況になる危険があった。
2、(この非常事態宣言の前に、ムシャラフと米、英との間で、いかなるやり取りがあったのか、米英は暗黙の同意を与えたのか)
11月5日付ワシントン・ポスト紙は、つぎのとおり報じている。
「ムシャラフの補佐官が4日、大統領のインナー・サークルは、米英は、以前は反対だったが、非常事態宣言の発出前に、不満を持ちつつも、非常事態の考えを受け入れたと信じた。ムシャラフに対する西側の行動はないだろう。“われわれがごく短期間のものだ”と彼らを説得したら、彼らは“OK”と言ったと述べた。・・・これについて、匿名を条件に、一外交官は“米・英・・・はムシャラフがこれをやらないように説得するためにあらゆる努力をした。ライスはムシャラフへのいくつかの電話でこれ以上強い調子はない言い方をした”と述べた。」
私は、いくつかの情報を総合して、ライス国務長官、ファロン米中央軍司令官が非常事態宣言の発出を思いとどまるように何回か説得したが、ムシャラフが米の制止を振り切って、非常事態を宣言したと判断している。ムシャラフは、最高裁判所がムシャラフに大統領立候補の資格なしと判断した場合に生じる混乱のほうが、非常事態宣言で生じる混乱より大きいと判断したのだろう。米国が、かかる決定が出た場合に、ムシャラフ大統領の地位が揺るがされ、パキスタンの安定が脅かされることをどう考えていたのか、良くわからない。このような状況で、民主化の道から外れるなどの原則論をいっても、ムシャラフへの説得力はないだろう。ムシャラフの判断が正解であるかどうかは、今後のパキスタン情勢の展開によるが、正解であった可能性がある。
4、(ムシャラフは今後もつのか)
 ムシャラフは、パキスタン国内で、一方で民主勢力、他方で、イスラム過激派から攻撃され、人気がない。批判の理由は、独裁政権だということと米の手先としてイスラムへの攻撃をしているということである。米の勧めもあり、この人気のなさをベナジール・ブットとの連立で、補おうとしている。これがうまくいくかどうかはブットの出方にもよる。非常事態宣言は両者の協力を難しくしているが、まだ協力の可能性は残っている。
ムシャラフが今後、もつのかは、今後の情勢によるとしか、いえない。
5、(米国は今後、どう対処していくのか)
(1)(米は援助の見直しなど、非常事態宣言に対して懲罰的な措置をとるかどうか)
ブッシュ、ライスはムシャラフの今次措置を批判している。援助の見直し論も出ているが、ブッシュも、ライスも、ゲイツも、対テロ戦争でムシャラフと協力していくとしている。アフガンでの過激派対策の最前線であるパキスタンとの関係、ムシャラフとの関係を悪くする政策、ミシャラフを見限る政策を選択する余裕はブッシュ政権にはないのではないかと思われる。口先だけの批判と象徴的な援助削減くらいしか、予想されない。
ただし財布のひもを握っている米議会は、民主党支配下にあり、かつ民主主義推進派が多く、ムシャラフの非常事態に反発しているので、パキスタンへの援助(月当たり1,5億ドル)の議会での承認が困難になる可能性がある。ブッシュ政権は対パキスタン政策のあり方をめぐり、議会との関係で苦労することが予想される。
(2)(米の今後の政策の方向はどうなるか)
従ってブッシュ政権は、今後、非常事態宣言下の弾圧をできるだけ緩和する方向に誘導する(弾圧の過程で、多くの死者が出る、あるいはテレビなどでその模様が大きく報道されるなどの事態になると、米の世論でムシャラフ批判が強くなる)、非常事態の期間をできるだけ短くする、選挙を早くして文民統治に移行する、これまでの政策であるブット・ムシャラフ共同政権を作るように働きかけていくという、いわば未来志向の政策をとっていくと思われる。
1で述べたように、ムシャラフの非常事態宣言は、自分の大統領就任を確実にするという目的を持ったものであり、最高裁判所の問題を片付ければ、非常事態を短期間で、解消するなど、柔軟性を発揮する余裕が出てくる。
憲法上、非常事態宣言は議会の両院で同意を得ない限り、発出後、2ヶ月で失効する。選挙については、非常事態宣言がなされているときには、議会の任期を1年間延長できるとの規定が憲法にあるが、これはそうできるということであり、延長しなければならないということではない。

6、(パキスタン最高裁判所の評価)
パキスタン最高裁判所については、人権擁護機関としての役割を果たしてきたが、その結果として、テロリストの活動を容易にしてきた面がある。人権の尊重とテロ対策の必要(安全の確保)と二つの価値をどう、バランスさせるかは、どこの国でも大きな問題であるが、パキスタン最高裁判所は、人権擁護に重点を置きすぎた嫌いがある。
憲法上、大統領は他の公職と兼務できないことになっている(今のムシャラフは特別法でそれが許されている)が、ムシャラフは大統領になれば、陸軍参謀長は辞めると約束していた。ムシャラフに陸軍参謀長である限り、大統領立候資格もないとするのは、行き過ぎではなかったかと思われる。
統治行為についての司法の謙抑がなかったと思われる。
5、(テロ戦争と民主化推進の関係)
 イスラム過激派との戦いと民主化推進は、別の政策目標であり、両立しない場合もある。パキスタンで、この二つの政策目標の矛盾が鮮明にでてきたということである。シリアやサダム・フセイン下のイラクの例のように、軍事政権や独裁政権のほうが、有効なテロ対策を取れるという面がある。重点をどちらにおくかは状況、すなわち脅威の度合いによる。
 6、(核問題)
パキスタンは核兵器保有国である。この国が、イスラム過激派に乗っ取られると、大変な事態になる。民主的な選挙で、イスラム過激派が勝っても、大きな問題を提起する。世俗的な軍政のほうが、民主的に選ばれたイスラム原理主義政権より望ましいとの判断さえ、状況によっては、ありうる。米国で、ミヤンマーへの対処とパキスタンへの対処が違いすぎるとの議論があるが、パキスタンが核兵器保有国であるということは考慮に入れざるをえないことである。
(文責:茂田 宏)

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