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パキスタン・タリバン指導者バイトゥーラ・メスードの死亡?
1、8月8日付米各紙は、8月5日米CIAの無人航空機からの爆撃で、パキスタン・タリバンの指導者バイトゥーラ・メスードが、南ワジリスタンで死亡したと見られる旨、報じた。CIA、パキスタンの情報機関はともに、バイトゥーラ・メスードの死亡はほぼ確実であるとするとともに、100%確実ではないとして、公式に死亡は確認していない。
2、米は、バイトゥーラ・メスードに500万ドルの懸賞金をかけていた。パキスタンは、エネミー・ナンバー・ワンと称していた。バイトゥーラはベナジール・ブットの暗殺、マリオット・ホテル爆弾事件など、多くのテロ行為の黒幕とされていた。
彼が実際に殺害されたとすると、パキスタン・タリバン運動はその指導者を失うという打撃を受けることになる。その打撃の度合いについては、バイトゥーラ・メスードがパキスタン・タリバン運動で果たしてきた役割をどう認識するかによる。論者の中には、パキスタン・タリバン運動はイデオロギー運動であり、別の指導者が現われてくる、自爆テロ犯を育成・送り出していたインフラは残るので、テロは引き続くとの評価と、パキスタン・タリバン運動はバイトゥーラ・メスードがいたからまとまっていたのであり、彼なしにはばらばらになるとの評価がある。パキスタン・タリバンの内部事情は良く判らないので、どちらとも判断できない。今後の展開を待つ必要がある。イラクで「メソポタミアのアルカイダ」指導者ザルカウイが殺害された後もテロは続いたとの先例に鑑みれば、前者の評価が正しいことになる可能性が大である。
3、各紙の報道を総合すると、バイトゥーラ・メスードの殺害の状況、次のとおり。
8月5日、バイトゥーラ・メスードはCIAの無人機による攻撃を受けた。彼は南ワジリスタンのザンガラ村の義父の家の屋上で、第2夫人に伴われ、医師である義父の兄弟から点滴を受けている時に攻撃された。この攻撃でメスード、妻、義父、義母、身元不明の司令官など、12名が死亡した。
4、メスードが殺害されたと米・パキスタン情報機関が考えている根拠はいくつかある。
第1:この無人航空機の攻撃ビデオをみたパキスタン諜報機関が、攻撃対象がバイトゥーラ・メスードであるとしている。
CIAの無人航空機は、パキスタン・アフガン領内から運用されているが、その指揮統制は米国ネヴァダ州より行われている。この画像情報の鮮明度については、私はみたことがなく知らないが、それほど鮮明ではなく、対象を間違えることもあるということである。
第2:傍聴されたタリバンの戦闘員間の会話で、メスードは亡くなったと言っている。
第3:バイトゥーラ・メスードの後継者争いが行われている兆候がある。その過程で、有力なメスードの後継者候補、ハキムラー・メスードとワリウル・レーマンの間で抗争があり、前者が殺害された可能性があるとパキスタンの内務大臣が記者に述べた。
なお、8月11日付ニューヨーク・タイムズ紙は、ハキムラー・メスードと称する人がロイターとAP通信に電話し、パキスタン内務大臣の発言は真実ではない、自分は生きているし、バイトゥーラ・メスードも健在であると述べた、これに対しパキスタンの内務大臣は声だけでは誰だかわからない、彼らは何故ビデオを発表しないのかと述べた、ことを報じている。
5、状況は混沌としており、バイトゥーラ・メスードが死亡したのかどうか、確認できない。しかしバイトゥーラ・メスード死亡のニュースがここまで広がっている中で、本人が姿を見せないことは不思議であり、多分殺害されたと考えてよいのではないかと思われる。
その後の継者騒動でハキムラー・メスードが殺害されたというニュースは、パキスタン内務大臣の発言はあるが、ロイターの通信員が確かにハキムラー・メスードの声であったとしているので、それほど信頼性があるとは思われない。
6、仮にバイトゥーラ・メスードが死亡していた場合、彼を拘束・殺害することも目的に準備されていた南ワジリスタンへのパキスタン地上軍の侵攻(現在は空爆をしている)がどうなるのか、取りやめになるのかあるいはタリバン側の混乱を狙って早められるのかは、まだ明確ではない。
パキスタン・タリバン側の出方がどうなるのかも良く判らない。心理的な打撃を受け、活動が鈍るとの説と、パキスタン・タリバンの存在を誇示するために一時的に活動が活発化するとの説が出ている。両方の可能性ありとしかいえない。
7、なお、8月11日CIAは、無人航空機により再度、南ワジリスタンのカニ・グラム市を攻撃した。8月12日付ニューヨーク・タイムズ紙によると、バイトゥーラ・メスードの後継者選びのために会合していたタリバンの司令官たちを狙ったものとされている。オバマ政権になってから、無人航空機によるパキスタン領内での過激派攻撃は引き続き行われているのみならず、強化されている。8月10日付ウオール・ストリート・ジャーナル紙はそういうオバマ政権のやり方を支持する社説を掲載している。
(文責:茂田 宏)
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