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オバマ政権のアフガン・パキスタン戦略
1、オバマ政権はイラク戦争を終結させる一方、アフガンに注力するとしている。対アフガン戦略は今月末をメドに作成するとされている。
この新戦略はまだ作成途上であるが、徐々に明らかになりつつある概略、次のとおり。
第1:アフガン戦争の目的を明確化する。対アルカイダ戦を中心としてテロとの戦いを中心とする。
当然、パキスタン領内の過激派への無人機による攻撃は続行する。
第2:アフガンとパキスタンを一体として捉える。これはホルブルックをアフガニスタン・パキスタン特使に任命したことなどに表れている。アルカイダとそれと結託するタリバンは、パキスタンの部族地域などを聖域としており、パシュトゥン族を中心にパキスタン内のタリバンもあわせて対処しないと、アフガンの安定もパキスタンの安定もない。
第3:米その他の連合軍を増派する。アフガンの治安状況の改善は急務である。米は17000名の増派を決めたが、NATO諸国からの増派も求める。
増派した軍の使い方について、ぺトレイアス中央軍司令官はイラクで成功した戦略、すなわち現地のアルカイダやタリバンに反対する勢力に武器を与え、米軍などとともに自衛に立ち上がらせることを主張している。他方、アフガンとイラクは違うので、「イラクの息子達」の様な戦略は有効ではないのではないかとの意見もあり、決着していない。
第4:アフガンとパキスタンの安定化のために近隣諸国の協力を獲得する外交を展開するとともに、経済開発など多様な手段を組み合わせていく。アフガン支援会議の開催、それへのイランの参加慫慂、パキスタンへの経済支援強化などが構想されている。
第5:アフガン政府、パキスタン政府にテロ組織その他への対応の強化を求める。軍・警察の強化を行い、治安責任を徐々に現地側に移していく。甘えは許さない。
2、 アフガン現地の状況は楽観を許さないものになっている。次の表はアフガン戦争
開始以来の連合軍の戦死者数である。第1段2001年から順次第9段2009年まで。
1月、2月、3月、4月、5月、6月、7月、8月、9月、10月、11月、12月 計
0 0 0 0 0 0 0 0 0 3 5 4 12
10 12 14 10 1 3 0 3 1 6 1 8 69
4 7 12 2 2 7 2 4 2 6 8 1 57
11 2 3 3 9 5 2 3 4 8 7 1 58
2 2 6 19 4 29 2 33 12 10 7 4 130
1 17 13 5 17 22 19 29 38 17 9 4 191
2 18 10 20 25 24 29 34 24 15 22 9 232
14 7 19 14 23 46 30 46 37 19 12 27 294
24 24 4 0 0 ・・
この表で注目すべきであるのは戦闘が激しくなるのが天候の関係で3月から11月 であり、12月、1月、2月はそれほど死傷者が出ていない傾向があった。しかし昨年12月には前年同期比3倍の27名の戦死者がでているほか、今年1月は24名(前年14名)、2月は24名(前年7名)になっている。(出典:icasualties.org)
3、 現在、オバマ政権が打ち出そうとしている戦略はアフガン情勢が軍事力だけで解
決できないことを認め、幅広い戦略により対応しようとするもので、それなりに合理的である。しかしその前途には諸問題がある。
第1:アフガン政府もパキスタン政府も強い政府とは到底いえない。
アフガン政府が支配している領土は国土の3割といわれる。政府機関は腐敗し、国民の信を失ってきている。カルザイの支持率は20%程度と言われる。
タリバンや部族長が麻薬栽培での資金をもとに支配領域を広げている。これを逆転するのは容易でない。
カルザイはその任期が5月21日に切れ、その後選挙まで正統性に疑問が出てくる。(選挙はカルザイの大統領令にかかわらず、当初予定どおり8月20日になりそうであるが、正統性の問題は政治抗争の火種であり続けている。)
カルザイはそういう中でタリバンとの対話や合意を求めているが、タリバン側が拒否している。
パキスタン政府は、連邦直轄部族地域や北西辺境地方での統治を十分に行えていない。パキスタン・タリバンとの戦いでパキスタン軍は勝っているとはいえず、最近ではスワト地方で「シャリア法の適用容認と休戦」の交換で一定のイスラム原理主義勢力との取引に応じている。これに加え、金融・経済危機でザルダリ政府は経済的な危機にあり、かつ司法がナワズ・シャリフの政治参加を禁ずる決定を行い、これが国内政治危機を招いている。
オバマ政権がテロ組織その他へのより強力な対応を求めても、両政府ともそれに応じうる能力があるか、疑問がある。
第2:NATO諸国の増派については、NATO諸国には厭戦気分とアフガン戦争は勝てないとの見方が多く、どれだけの協力が得られるか、疑問である。
第3:近隣諸国の協力については、イランの出方がまだ明確ではない。在アフガン米軍と連合軍への補給は、パキスタン内の補給路の安全がタリバンなどに脅かされているほか、キルギスがマナス基地(主として兵員輸送)の閉鎖を決めた。ウズベキスタン、ロシアを通じる補給路を確保する話が進められているが、ラトビアのリガなどに陸揚げした後、かなり遠い距離を鉄道などで運ぶという話であり、どれほどパキスタンのルートを代替しうるのか、問題がある。
第4:アフガン、パキスタンへの経済支援については、EUや日本は協力するであろうが、その規模が経済危機の最中、どれほどのものになるか、問題がある。
4、日本は吉川大使をアフガン・パキスタン担当大使に任命、JICAの緒方理事長を同じく首相特使に任命した。近くホルブルック大使との協議を行うことになっている。
オバマ政権内には、日本には軍事的な貢献を求めても、大したことは出てこないので、経済支援面で貢献してもらえばよいとの意見がある。米のこの要求はかなりの額になる可能性がある。
(文責:茂田 宏)
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