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アフガン・パキスタン情勢

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オバマ政権のアフガン・パキスタン戦略

1、オバマ政権はイラク戦争を終結させる一方、アフガンに注力するとしている。対アフガン戦略は今月末をメドに作成するとされている。
この新戦略はまだ作成途上であるが、徐々に明らかになりつつある概略、次のとおり。
 第1:アフガン戦争の目的を明確化する。対アルカイダ戦を中心としてテロとの戦いを中心とする。
当然、パキスタン領内の過激派への無人機による攻撃は続行する。
 第2:アフガンとパキスタンを一体として捉える。これはホルブルックをアフガニスタン・パキスタン特使に任命したことなどに表れている。アルカイダとそれと結託するタリバンは、パキスタンの部族地域などを聖域としており、パシュトゥン族を中心にパキスタン内のタリバンもあわせて対処しないと、アフガンの安定もパキスタンの安定もない。
 第3:米その他の連合軍を増派する。アフガンの治安状況の改善は急務である。米は17000名の増派を決めたが、NATO諸国からの増派も求める。
 増派した軍の使い方について、ぺトレイアス中央軍司令官はイラクで成功した戦略、すなわち現地のアルカイダやタリバンに反対する勢力に武器を与え、米軍などとともに自衛に立ち上がらせることを主張している。他方、アフガンとイラクは違うので、「イラクの息子達」の様な戦略は有効ではないのではないかとの意見もあり、決着していない。
 第4:アフガンとパキスタンの安定化のために近隣諸国の協力を獲得する外交を展開するとともに、経済開発など多様な手段を組み合わせていく。アフガン支援会議の開催、それへのイランの参加慫慂、パキスタンへの経済支援強化などが構想されている。
 第5:アフガン政府、パキスタン政府にテロ組織その他への対応の強化を求める。軍・警察の強化を行い、治安責任を徐々に現地側に移していく。甘えは許さない。

2、 アフガン現地の状況は楽観を許さないものになっている。次の表はアフガン戦争
開始以来の連合軍の戦死者数である。第1段2001年から順次第9段2009年まで。

1月、2月、3月、4月、5月、6月、7月、8月、9月、10月、11月、12月 計
0  0  0  0  0  0  0  0  0  3   5   4  12
10 12 14 10 1  3  0  3  1  6   1   8  69
4  7  12  2 2  7  2  4  2  6  8    1  57
11 2  3   3 9  5  2  3  4  8  7   1   58
2  2  6  19 4  29 2  33 12 10 7  4   130
1 17 13  5  17 22 19 29 38 17 9  4   191
2 18 10  20 25 24 29 34 24 15 22 9   232
14 7 19  14 23 46 30 46 37 19 12 27  294
24 24 4  0  0 ・・

 この表で注目すべきであるのは戦闘が激しくなるのが天候の関係で3月から11月 であり、12月、1月、2月はそれほど死傷者が出ていない傾向があった。しかし昨年12月には前年同期比3倍の27名の戦死者がでているほか、今年1月は24名(前年14名)、2月は24名(前年7名)になっている。(出典:icasualties.org)

3、 現在、オバマ政権が打ち出そうとしている戦略はアフガン情勢が軍事力だけで解
決できないことを認め、幅広い戦略により対応しようとするもので、それなりに合理的である。しかしその前途には諸問題がある。
 
 第1:アフガン政府もパキスタン政府も強い政府とは到底いえない。
アフガン政府が支配している領土は国土の3割といわれる。政府機関は腐敗し、国民の信を失ってきている。カルザイの支持率は20%程度と言われる。
タリバンや部族長が麻薬栽培での資金をもとに支配領域を広げている。これを逆転するのは容易でない。
カルザイはその任期が5月21日に切れ、その後選挙まで正統性に疑問が出てくる。(選挙はカルザイの大統領令にかかわらず、当初予定どおり8月20日になりそうであるが、正統性の問題は政治抗争の火種であり続けている。)
カルザイはそういう中でタリバンとの対話や合意を求めているが、タリバン側が拒否している。
 パキスタン政府は、連邦直轄部族地域や北西辺境地方での統治を十分に行えていない。パキスタン・タリバンとの戦いでパキスタン軍は勝っているとはいえず、最近ではスワト地方で「シャリア法の適用容認と休戦」の交換で一定のイスラム原理主義勢力との取引に応じている。これに加え、金融・経済危機でザルダリ政府は経済的な危機にあり、かつ司法がナワズ・シャリフの政治参加を禁ずる決定を行い、これが国内政治危機を招いている。
 オバマ政権がテロ組織その他へのより強力な対応を求めても、両政府ともそれに応じうる能力があるか、疑問がある。
 第2:NATO諸国の増派については、NATO諸国には厭戦気分とアフガン戦争は勝てないとの見方が多く、どれだけの協力が得られるか、疑問である。
 第3:近隣諸国の協力については、イランの出方がまだ明確ではない。在アフガン米軍と連合軍への補給は、パキスタン内の補給路の安全がタリバンなどに脅かされているほか、キルギスがマナス基地(主として兵員輸送)の閉鎖を決めた。ウズベキスタン、ロシアを通じる補給路を確保する話が進められているが、ラトビアのリガなどに陸揚げした後、かなり遠い距離を鉄道などで運ぶという話であり、どれほどパキスタンのルートを代替しうるのか、問題がある。
 第4:アフガン、パキスタンへの経済支援については、EUや日本は協力するであろうが、その規模が経済危機の最中、どれほどのものになるか、問題がある。

4、日本は吉川大使をアフガン・パキスタン担当大使に任命、JICAの緒方理事長を同じく首相特使に任命した。近くホルブルック大使との協議を行うことになっている。
 オバマ政権内には、日本には軍事的な貢献を求めても、大したことは出てこないので、経済支援面で貢献してもらえばよいとの意見がある。米のこの要求はかなりの額になる可能性がある。
(文責:茂田 宏)

アフガン大統領選挙をめぐる紛糾

1、 2月27日、アフガンのカルザイ大統領は大統領選挙を2−3ヶ月以内に行なうとの
大統領令を発出した。
3月1日付ニューヨーク・タイムズ紙は「アフガン大統領、8月の選挙を前倒し」との見出しで次の通り報じている。(・・部分省略)
カルザイ大統領は自分の正統性への憲法上の挑戦を避けることを目的としてと思われるが、大統領選挙を数週間前に設定された8月から4月または5月に前倒しすることを指令した。
次期選挙への出馬を表明しているカルザイは・・アフガン憲法の規定では今の5年の任期が切れる5月21日に大統領職を離れなければならない。しかしアフガン選挙管理委員会は1月に天候と悪い治安状況ゆえに8月20日まで大統領選挙と地方選挙を延期せざるを得ないと発表した。これは直ちに5月から8月の3ヶ月間のカルザイの正統性についての問題を提起した。
2−3ヶ月以内の選挙との命令は憲法問題を解決するが、アフガン政府と連合軍に巨大なロジスチックと安全保障の仕事を課すことになる。選管委員長は・・公式な文書を受け取った後、選管は再度会合するとだけ述べた。
国連と西側高官は選挙の延期を支持してきた。彼らはより多くの時間が、より良い選挙実施を可能にし、4月末までに到着する何千もの米の追加兵力が南部アフガン(タリバンが政府や選挙のための役人が接近できないようにしている多くの地域を含む)の治安状況を改善しうるとしている。
しかし野党は延期に抗議し、憲法に従い、5月21日の少なくとも30日前までに選挙を行なうか、あるいはカルザイが任期の終了の日に暫定指導者に権力を渡し、職を離れるべきであるとしてきた。
早い選挙はカルザイに有利かもしれない。対抗グループは多分そんなに短い選挙運動に準備が出来ていない。より早い選挙はまた任期を越えて居残った、正統性のない大統領との非難を受けながら、選挙に臨むことからカルザイを解放する。
主たる野党、国民戦線の報道官は野党指導者は2月25日にも大統領宮殿の会合で・・5月21日以降、カルザイが大統領として留まることを拒否したと述べた。その後、カルザイがこの大統領令を出した。・・国民戦線は大統領の決定を歓迎する、数日中に自分たちの大統領候補を発表すると述べた。・・
多くの人が選挙に出馬すると予想されている。カルザイは2004年には第1ラウンドで・・50%以上の票を得た。彼の人気は世論調査では20%以下に落ちたが、それでも他の誰よりも支持が多い。
予想される立候補者は、アシュラフ・ガニとアンワール・ウルハク・アハディ(両方とも元財務大臣)、元内務大臣アハメド・アリ・ジャラリ、元外相アブドラに加え、国民戦線の候補たりうる現在の第1副大統領アハメド・ジア・マスードである。
3月1日付マイアミ・ヘラルド紙も同様の報道をしている。
同紙の記事では選挙管理委員会が不十分な準備期間、資金、連合軍の規模が選挙結果を正統なものにしない恐れがあると懸念している、カルザイの決定は8月20日の選挙を支持し、追加兵力17000人を安全保障強化のために派遣すると決定した米との関係を緊張させると指摘している。

2、 米国務省は2月28日、次の通りの声明を出した。
米は、独立選挙委員会に憲法の関連条項と関連法律に合致した選挙のやり方を考えるように、かつ選挙過程が自由で公正で透明で開放的であるように國際治安支援部隊と国際社会の支援を得て確保するように呼びかけたカルザイ大統領令を読んだ。
米はカルザイ大統領が明確にした原則を支持するが、選挙委員会が提案した8月の選挙がアフガン人すべてが安全な環境のなかで政治的な選択を表明できることを確実にする最善策であるとの見解を繰り返す。
アフガニスタンは選挙期間中も政治的な安定を維持するために、政府の継続性を確実にする秩序だった、オープンな民主的過程を必要とする。米はすべての当事者が、米が支持するこれらの目標のために共に作業するように勧める。この過程で、米は如何なる個人的な候補者も支持しないし、反対もしない。

3、3月2日付ウオール・ストリート・ジャーナル紙は「米、アフガン人、早期選挙呼びかけを批判」との記事を掲載、その中で有力候補のガニが「信頼性のある選挙を駄目にし、タリバンの攻勢を皆が予想している3月に、議論やデモや政治的不確実性に我々を投げ込むものだ」と批判したと報じている。

4、アフガン各地の有権者ができるだけ多く参加できる選挙を優先するか、憲法上の大統領任期規定の遵守を優先するかの問題であるが、カルザイが一旦大統領を辞職し、暫定指導者に国政をまかせ、8月に選挙を行うのがもっとも良い解決ではないかと考えられる。カルザイは現職の強みを生かした選挙を望んでいようが、状況から見て、早期選挙を準備できるか否か、疑問がある。
なお米国は民主主義を推進するとしているが、民主主義の重要な要素は法の支配である。憲法上の大統領任期を守らないで、法の支配を確立することは出来ない。米はパレスチナでも任期の切れたアッバス議長を正統化している。アフガンでも一時的ではあるが、同じようなことをしようとしている。ご都合主義との非難を免れないと思われる。
(文責:茂田 宏)

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アフガン戦争:オバマの姿勢、兵站問題、カルザイと米の関係

1、 オバマ大統領は、選挙期間中、対テロ戦争の正面はアフガンであると主張し、アフガンへの増派を行うと予想されていた。しかし現在オバマはもっと慎重な姿勢を見せていると思われる。
2月8日付ロンドン・サンデイ・タイムズ紙は「オバマ、アフガン増派にブレーキ」との見出しで次のとおり報じている。(・・省略)

オバマ大統領は米の防衛首脳に兵力増派を実施する前にアフガンでの戦略を見直すことを要求した。
古参民主党員は軍が首尾一貫した計画や出口戦略なしに3万までの兵力を送ろうと準備していることへの懸念がある。
 ペンタゴンは先週17000の兵士、海兵隊員の配備を発表する予定であったが、ゲイツ国防長官はオバマよりの問題提起の後、決定を延期した。
大統領は先月のペンタゴンでのゲイツと統合参謀本部との・・最初の会合で戦略の欠如を懸念した。大統領は「終わり方はどうなっているのか」と質問し、納得のいく回答を得なかった。
アメリカの進歩のためのセンターの防衛専門家・・は「オバマは正しい。3万の軍を送ることに同意する前に、彼はその役目と終わり方は何かを知りたいとした」と述べた。
オバマは選挙中7000-1万の兵力を約束したが、軍が要求を増やした。指導的な民主党員はアフガンがオバマの「ベトナムの泥沼」になりうると恐れている。
増派が行われる場合、軍はタリバンとアルカイダとの戦いに役割を限定し、民主主義建設と復興をNATO諸国と国務省その他の文民に委ねることを意図している。
米は英に数千の追加兵力を送るように迫っているが、長期的な目的について英の防衛関係者間でも意見の相違と混乱がある。・・

2、 アフガン戦争の補給について問題が生じている。米紙報道を総合すると次のとおり。

 第1:2月3日、タリバンとアルカイダがカイバル峠の陸橋を爆破し、2月4日にはアフガンからパキスタンに向かうトラック10台を炎上させた。
在アフガン米・NATO軍への補給物資の約75%がパキスタンのカラチ港に陸揚げ後、陸路アフガンに運ばれているが、この補給線がタリバンなどの攻撃対象になっている。
パキスタン軍がこの補給路周辺の掃討作戦を行っているが、一時的にタリバンを駆逐しても軍を引くとまたすぐタリバンが戻ってくる状況になっている。昨年中に燃やされたトラックは100台以上になる由。
 第2:米は中央アジアを通じる補給を強化しようとしているが、2月3日、キルギスタンのバキエフ大統領はアフガン戦争のための同国内基地、マナス基地を閉鎖すると発表した。米に適切な使用料を要求したが、認められなかったからとしている。
マナス基地を通じ、1月当たり、1万5千の兵士と500トンの貨物がアフガンに送られているとのことであり、この閉鎖はアフガン戦争の兵站に影響を与える。
ロシアがキルギスに20億ドルの借款と15百万ドルの財政支援を約束した直後に、マナス基地の閉鎖が発表されており、ロシアが中央アジアからの米軍基地排除を慫慂したと見られている。ロシアはこれを否定し、アフガン戦争には協力するとしている。
 第3:米は以上の進展を受け、アラブ首長国を通じる補給やウズベキスタンを通じる補給、キルギスタンのマナス基地維持(閉鎖通告後、180日は使用可能)を交渉せざるを得ない状況になっている。

3、 アフガンのカルザイ大統領とオバマ政権の関係が緊張してきている。
2月8日付ニューヨーク・タイムズ紙は「アフガンの指導者はもう英雄ではない」との見出しで、カルザイ大統領への批判が米でもアフガン国内でも高まっていることを報じている。そのなかでオバマ大統領がカルザイを信頼できず、効果的ではないとみなしていること、クリントン国務長官がカルザイは「麻薬国家」を統治していると述べたことに言及している。
2月9日付ニューヨーク・タイムズ紙は「ホルブルックはアフガン戦争は“イラクより困難であると述べる」との記事を掲載、ミュンヘンでの安保会議でカルザイが自分の統治の成果を述べたアフガン情勢説明と米の認識が異なることを報じている。同日付ワシントン・ポスト紙も「国家安全保障チーム、アフガン戦争の厳しい評価を表明」との見出しで、ミュンヘン会議での米側関係者のアフガン悲観論を報じている。

4、 これらの報道をみると、アフガン戦争が泥沼に陥る危険を相当多くの人が意識してい
ると判断され、米のアフガン戦略はまだ形成途上にあると思われる。
(文責:茂田 宏)

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オバマ大統領のアフガン政策:泥沼化の危険

1、オバマ大統領は、就任後、精力的に活動し、米国民の高い支持を得ている。就任演説でも国民に現状の厳しさを訴え、大統領として国民に結束して危機に対応するように訴える等、適切に対応している。

2、このオバマ政権が、今後躓くとすれば、アフガン戦争であろう。
オバマはブッシュ政権がテロの主戦場であるアフガンに注意を向けず、米をイラク戦争に引き込んでしまったことを厳しく批判し、当選後は、アフガンに注力することを公約してきた。イラク戦争が、ブッシュの増派戦略が成果を上げ顕著に改善した中で、米軍をアフガン戦線に向ける余裕が出てきている。従ってオバマ政権はアフガンへの増派を今後行っていくことになることは確実である。
しかしアフガンの安定化は、イラク以上に困難であると思われる。
(1)タリバンが勢力を復活してきている。(2)カルザイ政府は腐敗している。(3)タリバンの資金源になっている麻薬栽培は増大している。(4)(イラクはサダム・フセインが独裁で駄目にするまで、中産階級もそれなりにある国であったが)アフガンは部族社会で、ほとんどの国民は文盲である。(5)タリバンとアルカイダはアフガンとパキスタンの両国にまたがって存在している(聖域を持つゲリラほど、難しい相手はいない)。
英もソ連もアフガンでは失敗した歴史がある。アフガンを近代的な国家にするなど至難の業である。
 ゲイツ国防長官は、1月27日の米議会証言で、アフガン戦争の目標を下げ、アフガンに民主主義的な国を作ることではなく、アルカイダが再度アフガンを米や同盟国へのテロの基地として利用することを阻止することにおくべきであると述べた。アフガン戦争の目的をどこに置くのか、よく考える必要がある。そうでないと、泥沼に入ることになる危険がある。

3、この関連で、パキスタンでのタリバンについての中東報道研究所(MEMRI)の1月27日の記事、次の通り。ご参考まで。アフガンでも似たようなことが起こっている。

―パキスタン紙の報道するタリバンの猛威―
 国際社会がガザ紛争に注目している頃、タリバンがパキスタンの北西国境州(NWFP)のスワト盆地で、イスラム教のシャリーアを強制施行した。タリバンは、2009年1月15日からスワト地区女性の教育を完全に禁止した。スワト地方といえば、スイスにも比肩する風光明媚な盆地であるが、このところ強制的イスラム化が進行中である。昨年武装集団との取引で、パキスタン政府がイスラミスト指導者ムハンマド(Maulana Sufi Muhammad)を釈放。以来強制的イスラム化が一段と進んでいる、この地域のタリバンは、このムハンマドと義理の息子ファズルラ(Maulana Fazlullah)に率いられている。
 これまで約400の私立学校が閉鎖され、女子生徒約4万が勉学の機会を奪われた。更に公立学校に就学中の女子生徒約8万4000人は、パキスタン政府が2009年3月1日からの学校再開を公約しているが、授業をうけられそうにはない※1。タリバンは2009年1月15日を期限として閉鎖を強要し、それ以降少なくとも10校の女子学校が再開しようとして、学校施設を武装集団に爆破された。スワトの郡都ミンゴラでの出来事である※2。タリバンは、帽子着用と髭剃り禁止を男性に義務づけた。2009年1月25日からである※3。
 タリバンは、北西国境州の一部で、既にシャリーア法廷を運用している。パキスタンは麻痺状態にあり、国際社会がガザの問題に没頭するなかで、パキスタン北西国境州ではタリバン支配が着々と進んでいる。パキスタン日刊紙The Newsは、パキスタンの宗教団体、政治団体そして市民団体が連日大挙して反イスラエル街頭デモを繰りひろげているのに、スワト地区の住民については一顧だにしない、と報じた。
 次に紹介するのはThe Newsの報道内容である※4。
 *政治−宗教団体、市民団体はガザの抗議デモを展開するが、自国スワト住民の窮状には知らん顔
 火曜(1月20日)付の各紙には、二つの写真が掲載された。ひとつはガザで破壊されたビルと瓦礫の山、もうひとつがスワトで、爆破された学校と瓦礫の山、写真説明がなければ区別がつかない。
 170を越える学校が政府所有の建物諸共爆破され、盆地にはこの写真のような光景が随所にみられる。軍事作戦やテロで沢山の人が殺され、その犠牲者数はガザを上廻るが、不幸なことに、政府はもとより、政治・宗教団体や市民団体は全然注目せず、パレスチナ人殺害の抗議デモに明け暮れている。
 ミンゴラ市の中心部で月曜(1月19日)に学校が5校も爆破された。州政府と連邦政府は盆地そして特にミンゴラ所在学校の安全を約束していたが、その公約が嘘であることが、これで証明された。この爆破事件は学校防護が脆いことを物語る。住民と女子生徒の不安は増すばかりである。
 これまで州政府は、武装集団による学校攻撃には万全の対策を以て臨み、必ず守ると主張してきた。北西国境州情報相フサイン(Mian Iftikhar Hussain)は、「教育は全住民の基本的権利であり、政府はそれを保証する。我々は学校の安全を守る。武装集団は脅すだけで実行できず、政府を脅迫するためプロパガンダをまき散らしているだけだ」と言った。連邦政府の情報相ラーマン(Sherry Rahman)も同じような決意を述べたことがある。
 しかしながら、2人の約束は虚しかった。不安を抱く住民特にスワチ(スワト地方住民)に、偽りの慰めを与えただけである。学校に特別の安全対策がとられているわけではない。治安状態が全体的に改善されない限り、学校を守ることなど不可能である。政府は指示書を以て学校その他の施設の安全を保証する筈だが、目下のところそのようなものはない、と或る行政官が語っている…。
面白いことに、武装集団による学校破壊を阻止できないのに、フサイン情報相は3月1日から学校を再開すると言い張っている。武装集団は破壊すると威嚇しているのである。情報相は「破壊された学校の再建と授業再開のため寄付者達に資金援助をお願いした」と述べ、いつものように「武装集団と真正面から対決する」とつけ加えた。
*精鋭警察部隊は抗命事件を起し、軍隊は治安対策に苦慮
精鋭警察部隊の隊員600〜800名が、武装集団の群がる盆地で勤務につくことを拒否した。この抗命事件の後、軍隊も学校の防護に苦慮していることが判明した。盆地の女子生徒には、暗い将来が待ちうけているようである。
ファズルラ指揮の武装集団は全ての学校長に対し、1月15日を以て女子生徒の教育を中止せよ、と要求した。従わなければ学校を爆破するという。そのため、私立学校400校が、女子クラスの閉鎖を発表した。盆地では120校を越える女子学校が爆破されている。政府は、武装集団を押さえることができず、女子教育を保証できず、激しい非難を浴びている。私立学校は政府と治安部隊を信用しておらず、治安の完全回復か、或いは武装集団の保障がなければ、学校を再開しないとしている。
北西国境州政府の或る閣僚は、名前を公表しないことを条件に、事態を深刻にうけとめていると語った。政府は学校防護のみならず、盆地全域の治安回復に真剣に取組むという。
 作戦の強化、推進について、この閣僚は政府が盆地の作戦成果に満足しており、軍の作戦を効果的にする決議を通したと述べたが、「民主的政府はこの手続きを踏んで行動する。しかし不幸なことに議会の決議ではどうにもならない…」と語った。
※1 2009年1月16日付The News(パキスタン)
※2 2009年1月22日付The News
※3 同上
※4 同上
(文責:茂田 宏)

パキスタン情勢:雑情報2つ

1、 12月30日付ロイターは、「パキスタン、武装勢力との戦いに伴いNATO軍への補給を停止」との記事を掲載している。その概要、次の通り。
 
 パキスタン政府高官は、カイバル峠地域での武装勢力に治安部隊が攻撃を開始したことに伴い、12月30日、アフガンでの外国軍への補給を停止した。カラチ港より北東パキスタンを通って内陸国アフガンでの外国軍への補給物資を運ぶトラックに、最近武装勢力が一連の攻撃をしてきた。
カイバル地区の行政の長、タリク・ハヤトは記者に次のとおり述べた。
“外出禁止令が出され、アフガン国境への主要道路は閉鎖された。我々が、統制の利かない武装勢力と無法者を排除するまで、NATO軍への補給は停止される。治安部隊は、ヘリ、大砲、戦車の支援を受け、12月30日攻撃を開始した。標的は具体的に特定されており、民間人への被害は避けるように最善を尽くす。”
カイバル峠はペシャワールと国境の町トルハムをつないでおり、約6万5千人の西側兵力への重要な補給線である。米軍はパキスタンを通じ40%の燃料を含め、75%の補給物資をパキスタン経由で送っている。増派に伴い、補給線はより重要になる。
ムンバイのテロ後、インドとの緊張が高まる中で、この攻勢は行われた。インドとの緊張に鑑み、パキスタン軍がその西部国境から兵員を移動させたなかで行われた。
先月には数百のトラックが破壊され、数人の運転手が殺され、多くの運送会社がこのルートでの輸送を止めた。この補給線の脆弱性はNATOに、中央アジア経由を含む代替ルートの検討を強いている。カラチ港からアフガンへのルートはカイバル峠越えとチャマンからカンダハールに向かう二つのルートがある。
ハヤトは、「武装勢力をかくまう者も容赦しない。我々は彼らを追い出す、今回は真剣である」と述べた。

(注:カイバル峠を越えるNATOの補給線については、パキスタン国内でその停止を求めるデモが発生している。しかしこの記事は、現地官憲と軍がこの補給線を守る行動に出たことを示している。首尾よく行くかどうか、この停止が長引くかどうか判らないが、基本的にはNATOにとり朗報であろう。現地の運送業者にとり、この輸送はお金儲けの種である。今回の攻撃の背景には、運送業者の圧力、米の圧力、それを受けたパキスタン軍の動きなどが考えられる。)

2、 12月29日付クリスチャン・サイエンス・モニター紙は、インドとパキスタンの緊張について「パキスタンが軍を移動し、緊張増大:中国とロシアも瀬戸際を避ける呼びかけに参加」との記事を掲載している。その概要、次の通り。

ムンバイのテロ後1ヶ月、インドとパキスタンは建設的な話し合いの方法を見出せず、瀬戸際政策に出ている。
 両政府とも、戦争を回避したいと言っているが、双方ともに相手への強い国民の偏見で制約を受けている。国内政治上、双方ともに自分が相手に降伏したと見られることを嫌っている。インドでは来年選挙があるし、パキスタンの文民政府は軍を気にせざるを得ない。
双方の挑発的な行動の報道が、国際社会に印・パ間の行き詰まり打開の努力を強いている。ロシアと中国も関与してきている。
ムンバイ・テロ後、両国は融和的な発言と脅しを交互に相手にして来た。
パキスタンのギラニ首相は、12月27日、パキスタンは冒険的なことはしない、インドを最初に攻撃しないと言ったが、その前日に、パキスタン軍が最高の警戒態勢をとり兵士の休暇を取り消したこと、アフガン戦線から対インド側に兵力が移動していることを、現地および国際メディアは報じている。パキスタン高官は、「最小限の防衛措置」と述べ、再展開は小さなものであるとしている。米はインドにではなくアフガン国境に兵力を集中して欲しいとしている。
パキスタン人専門家は、パキスタンもインドも相手にオリーブの枝を差し出すだけの政治的な安定を有していない、弱い政府は弱いと思われることを心配する、結果として、双方ともに手を差し伸べるのに失敗しているとしている。
インドもパキスタンもテロ直後の立場、インドはテロ容疑者とされる者に対してパキスタンが措置をとるように要求し、パキスタンはインドが彼らの罪を証明する証拠を出していないとしている―は変わっていない。外交上の動きがない中、緊張は徐々に高まっている。インドが12月13日にパキスタン領空を侵犯したと報じられ、その後、パキスタン軍がインド国境への再展開を開始した。インドが軍事行動の可能性を排除しない中、パキスタンはこれを「戦争ヒステリー」の奨励としており、これにインドが反発するなど、悪循環が見られる。
国際社会はこの悪循環を断ち切ろうとしている。パキスタンのザ・ニュース紙は、英米がムンバイのテロリストをパキスタンに結びつける証拠をパキスタンに提供したと報じた。(パキスタンは法廷で認められるような証拠ではないとしている。)
中国の楊外相は、先週末、インドとパキスタン外相に電話し、「適切な対処」を要請した。サウジ外相は、この週末ニュー・デリーで、パキスタン人がムンバイのテロに関与したとのインドの主張のブリーフを受けた。インドのシン首相は12月27日イランのアハマドネジャド大統領に電話し、パキスタンに圧力をかけるように要請した。
12月27日ロシアは、印パ緊張を「非常に懸念している」との声明を発出した。
パキスタン内でも、ダワ紙は社説で「荒れている西部を放置して、東部国境に大兵力を再展開するような余裕はない」と論じている。

12月29日付ニューヨーク・タイムズ紙は「パキスタンの兵力移動に対し、インドには簡単な対応なし」との記事を掲載している。
西部よりインド国境に移動したパキスタン軍の数を数千とするとともに、問題はパキスタンがその領域内で起こることを十分に統制できないことにあり、インドとして軍事的にとりうる効果的な策がないことを紹介している。
(注:ムンバイのテロ後、インドとパキスタンの関係は、双方ともに衝突を避けたいとしているが、双方の国内政治の力学の結果、緊張が徐々に高まってきている。パキスタン軍のキヤニ参謀長は、インドとの衝突は避けたいと声明しつつ、インド国境に兵力を移動している。インドが、テロリスト訓練所などを空爆する可能性があると考え、これを抑止する意図に出たもののようであるが、このパキスタンの動きは緊張を強める方向に作用している。印パ戦争になる前に、双方に自制が働くと思われるが、印パ関係は険悪になってきている。)
(文責:茂田 宏)


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