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アフガン・パキスタン情勢

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アフガン戦争:増派など米の戦略、タリバンの勢力と戦略、カルザイの考え方

I,米の戦略
1、オバマ次期大統領は、テロとの戦いではアフガン戦争が主たる正面である、イラク戦
争は道草であった、と主張してきた。
米国が今後アフガン戦争により多くの兵力を投入するのは既定路線になっている。12月21日付米各紙は、12月20日、カブールでマレン米統合参謀本部議長が夏までにアフガンでの米兵力を6万人まで増大しうると述べたと報じている。
 現在、アフガンにいる米軍は、約3万2千名であるが、これが約6万人になる。
これに加え、NATOやその他の国が約3万5千人を派遣している。米はこれらの国にも増派を要請している。12月21日付ロンドン・サンデイ・タイムズ紙は「米、ブラウン首相の“戦争疲れ”を攻撃」との記事を掲載し、英はヘルマンド州中心に約8千人の兵力を出しているが、ブラウン英首相が議会で300人追加を誓約したことを少なすぎるとゲイツが批判したことを報じている。

2、米は増派により何をしようとしているのか。
(1)アフガンの治安を改善し、2009年秋の大統領選挙、その後の議会選挙をきちんと行うこと、(2)アフガン軍を育成しアフガン戦争の「アフガン化」を進めること、(3)米・NATO軍はタリバンとの戦闘には例外なく勝つが、その後、その地域を保持しえず、タリバンが時日を経た後、戻ってくるとの状況が続いているが、米はイラクで成功した戦略、すなわち地元の部族などとの協力関係を樹立し、タリバンの再台頭を抑えること、(4)道路の安全を保障しタリバンによる交通への妨害を排除することなどを目的にしている。(今ではカブールに近い道路さえ安全が保障されない状況にあるといわれている。)

3、この米軍の戦略が成功するか否かについては、イラクとアフガンの違いから疑問視する人も多い。

II、タリバンの戦略と勢力:
1、 タリバンは、自分の支配地域を広げ、特に南部地方において中央政府と平行した形で
行政機構(知事、市長など)やイスラム法を適用する裁判所などを設置している。
2、 タリバンの勢力がどこまで広がっているかの評価は難しい。12月8日付ウオール・ス
トリート・ジャーナル紙はパリにある「安全保障と開発国際評議会」がタリバンは事実上の統治能力を持っているアフガン南部から西部および北西部やカブール周辺でも定期的な攻撃を出来るようになっている、週に1回タリバンによる攻撃があるところをタリバンが恒久的プレゼンスを持つ地域と勘定して、アフガン全土の72%(前年は54%)にタリバンは存在していると評価していることを報じている。NATOはこの評議会の評価はNATOの攻撃事例をも勘定に入れたものであり、根拠がないと批判している。
3、 タリバンは、パキスタン内のシンパと協力し、米・NATO軍の補給線に対する攻撃を
強めている。軍事について、素人は戦術を論じ、プロは補給を論じるといわれるが、タリバンはまさにそれを実行しているといわれる。
アフガンは内陸国である。アフガンでの米・連合軍への補給ラインはパキスタンのカラチ港から陸路、カイバル峠を越え、アフガンに行く。このルートで約75%の軍事補給物資が運送されているが、これが攻撃対象になっている。増派で兵力が大きくなる中で、補給量も増える。パキスタン内の運送会社がこの輸送を請け負っているが、その安全対策は不十分である。12月19日付ワシントン・ポスト紙は「NATO物資、パキスタンでの脅威:アフガンでの軍への物資へのタリバン攻撃は増大する懸念である」と題する記事を掲載している。この記事の中で、12月18日、パキスタンのペシャワールで数千人のデモが行われ、デモ主催者が、「我々はもはや武器や弾薬がここを通り、アフガンでの米・NATO軍に行くのを許さない。彼らはこの武器を我々の無辜の兄弟、姉妹、子供に使っている」と述べたと報じられている。パキスタン内で米軍の越境攻撃とそれに伴う民間人の死亡への憤慨がそういう形で現れている。ペシャワールの物資集積所は最近、放火、盗難、攻撃にさらされているが、現地警察と運送会社は事件について責任のなすり付け合いを演じている。
米はコーカサス、中央アジア、更に極東からの代替ルートを検討しているとされる。

III、カルザイ政権と腐敗等への西側の批判
12月19日付シカゴ・トリブーン紙はアフガン情勢についてのカルザイ大統領のインタビューを掲載しているが、カルザイの考えが良くわかる。その抄訳、次のとおり。
問い:オバマはあなたを弱い、防空壕で時間を費やしすぎだと述べたが、どうか。
答え:防空壕?我々も連合軍も塹壕にいるのだ。2002年、我々はアフガンの人民の支持を得て、丘の上にいた。タリバンもアルカイダもアフガン南部で敗北した。我々は振り返って、何故今塹壕の中にいるのか、理解しなければならない。何千人のタリバンがうちに帰り、正常な生活を始めた。しかし連合軍は悪いやつを雇い始め、一緒に部族長などのところに行き、彼らを脅かし、アフガンから逃げ出させた。自分は子供や家族が爆撃され、粉々にされた人々がまだ大統領としての私のところにくることに驚いている。
問い:より多くの兵力がアフガンでの問題をどう解決するのか。
答え:アフガンの町や村により多くの兵力を送るのは何の問題も解決しない。国境を管理するためにより多くの兵力を送るのは意味がある。アフガン人が元の領土、タリバンに失った領土を取り返すことに,
より多くの兵力を送るのは意味がある。私が助けを必要とするのはそこだ。
問い:あなたはアフガンからの外国軍隊の撤退に期限(Deadline)をつけたいか。
答え:我々はDeadlineではなく、成功の期限(Success Line)を欲する。我々は使命の達成のための時間を欲する。達成すべき使命はテロの敗北と繁栄する、平和的、民主的アフガンである。
問い:タリバンと交渉するとの提案は今どうなっているのか。
答え:私は非常に彼らと交渉したいと考えている。当初から私はこれについての意見を持っていた。しかし彼らの宛先を自分は持っていない。どこで見つければいいのか、私は知らない。
問い:あなたの隣国、パキスタンはテロ戦争について真剣であると信じているか。
答え:ザルダリ大統領が真剣なのに疑問は無い。私は彼と彼の政府が成功することを希望している。彼はテロで個人的にも大きな損害(注:ブット暗殺のこと)を蒙った。だから私は彼が正しいことをすると確信する。
問い:パキスタンでの武装員訓練キャンプと聖域の根絶を意味しているのか。
答え:何年も私はテロとの戦争はアフガンにおいてはない、それはパキスタン内の訓練キャンプと聖域にあるといい続けてきた。連合軍はそこに行く代わりにアフガンの村に行き、人々の家に突入し、わが国で非合法な殺害をした。
問い:武装勢力と関係のある軍や情報機関を統制するパキスタン文民政府の能力はどうか。
答え:それは別の問題だ。ザルダリ大統領の意図は良い。能力は我々すべて支援するべきことだ。
(注:カルザイと米との関係はカルザイが米の軍事作戦、特にアフガン民間人に犠牲者が出る作戦に批判的になっているのに対し、米はカルザイ政権の腐敗、非効率、麻薬対策などに不満を示している)

IV,アフガン戦争は対テロ戦争なのか、アフガンの国づくりのための戦争なのか。
米国内でもカルザイ同様、テロリストはパキスタンにいるので、アフガン戦争はテロリストに対するものではなくなってきており、中央政府と麻薬生産者・宗教原理主義者・軍閥・部族等との勢力争いになってきており、アフガンの国づくりのためのものになってきている、この戦争の目的がぼやけてきている、との声が少しづつ出てきている。
(文責:茂田 宏)

アフガン情勢:米の増派、現地情勢、日本との関係

1、 11月22日付ワシントン・ポスト紙は「ゲイツ、アフガンでの米軍部隊の増強支持:推
定では今後18ヶ月に2万以上」との記事を、同日付ボストン・グロブ紙は「ゲイツ、(アフガン)選挙前にアフガンにより多くの部隊をと呼びかけ」との記事を、同日付ファイナンシャル・タイムズ紙は「ペンタゴン、アフガン増派を計画」との記事を掲載している。
 現在、アフガンには、米軍は約32000名、米以外のNATO諸国その他の軍が約35000名いる。
 ゲイツ国防長官はカナダのコーンウオリスでアフガン南部に派兵している8カ国(米、英、加、豪、蘭、エストニア、デンマーク、ルーマニア)の国防相会議に出席したが、その際の同行記者への発言、会議後の記者会見でのゲイツ発言がこれらの記事のベースになっている。
 各紙で引用されているゲイツ発言を総合すると、その概要次のとおり。
「暴力が増加している。この治安問題と取り組むためにより多くの部隊の必要があることは明らかである。自分はアフガンの米軍司令官からの4個戦闘旅団、1個の航空旅団、数千の支援部隊の増派の要請に応えるつもりである。(注:モレル国防相報道官はこれは2万をずっと超える兵力を意味すると解説している)
選挙前に兵力を増派することが重要である。南部地域司令部のような地域に増派兵力の焦点を当て、選挙のため登録や投票が行われることを確保すべきである。アフガン選挙を確保することが2009年の我々の最重要な目標である。
アフガンで事態が管理不可能で、我々が大惨事に向かっているというのは悲観的に過ぎる。アフガンでタリバンは何の領域も支配せず、NATO軍とタリバンが戦闘した場合、必ずNATO軍が勝っている。
我々はこれが自由に選挙されたアフガン政府への脅威に対するアフガンの戦争であることを思い出すことが重要である。長期的にはアフガン治安部隊の成長と能力向上を加速させることが主要な目標である。これには国際社会が数十億ドルを投入する必要がある。これは我々の戦争では必ずしもない。」

2、 オバマ次期大統領は、テロとの戦いの主戦場はアフガンである、ブッシュがイラク戦争を
始めたのは誤りであるとし、アフガンへの増派を主張してきた。イラクでの治安改善などで、イラクからの撤退が視野に入る中で、米がアフガンに注力する方向が明確になってきている。

3、 ゲイツ長官が言及している選挙はアフガンでの大統領選挙と下院選挙である。
大統領選挙については、現在のカルザイ大統領は2004年10月の選挙で選ばれ、同年12月に就任した。任期は5年である。従って2009年秋には、大統領選挙をする必要がある。カルザイ大統領は再選を目指すとしている。治安が悪化する中で、南部・東部で選挙が行いうるかが問題である。南部・東部で選挙が出来ないと、選ばれる大統領の正統性がなくなる可能性がある。
下院選挙は2005年9月に行われた。下院議員の任期は5年である。
政府は費用節約の観点から大統領の任期を半年延長、下院議員の任期を半年短縮し、両選挙を同時に行うことを提案したが、憲法に反するということでこれは却下になった。
下院選挙の日程は未定であるが、大統領選挙は来年秋には行わざるを得ない。ただ前回の選挙も何回か延期された上で行われた経緯がある。
ゲイツ長官が言うように、この選挙が順調に行いうるか否かは大きな意味を持つ。

4、 ゲイツ長官は長期的課題としてアフガン治安部隊の強化(注:134000名にするとさ
れている)を強調している。これはアフガン戦争の「アフガン化」を主張したものであり、かつその費用負担を国際社会に求めている。
 米はNATO諸国にアフガンへの追加派兵を求めてきている。今回の会議後も、記者はカナダの国防相にその点を質問した。カナダの国防相はアフガン南部に派兵している国は不均衡な負担をしてきた、オバマは別のNATO諸国にそういう要請をすべきであろうと述べた。

5、 アフガン情勢は今どうなっているのか。
(1) icasualties.orgという独立した組織の統計によると、連合軍の戦死者数は2004年5
8名(内米軍52名)、2005年130名(内米軍99名)、2006年191名(内米軍98名)、2007年232名(内米軍117名)、2008年(11月22日まで)265名(内米軍154名)である。かなり情勢は悪化している。
(2) タリバンが勢力を盛り返している。
11月20日付ウオール・ストリート・ジャーナル紙は「タリバン、アフガニスタンで権力と影響力を再獲得:南部地域で裁判所、地方政府を樹立」との見出しで概要次のとおり報じている。
「タリバンは南アフガンで裁判所や地方政府を樹立している。米軍高官によると、タリバンは24くらいの裁判所を設置し、イスラム法の原理的解釈で財産権、放牧権、相続権を裁いている。またタリバンは知事や市長を任命し、カブール政府の任命した知事、市長と平行して権力行使をしようとしている。またタリバンは税金と称して運輸業者や商人から一地方から他地方への移動についてお金を徴収している。
駐米アフガン大使は“アフガン戦争開始7年後、9月11日前の状況に戻りつつあるのを見るのは不名誉なことである”と述べている。」
状況は深刻であるといわざるを得ない。
(3) カルザイ大統領はタリバンの指導者オマールに対話を呼びかけ、恩赦を約束し、タリバ
ン・メンバーの政府への参加まで許容するとしているが、オマール側は外国軍撤退が前提であるとして対話に応じていない。
(4) カルザイ政権の腐敗、非効率に改善は見られない。
(5)アフガン・パキスタン国境地帯がタリバンとアルカイダの聖域であるとの事情に特段の変化はない。
パキスタンとの関係では、NATO軍への補給物資の約75%はカラチ港に陸揚げし、陸路でアフガンに運ばれているが、これが輸送途中にイスラム過激派に襲われるケースが増えている。米軍の車両や武器がそれで奪われている。
米軍は欧州からコーカサス又は中央アジアの経路で陸路補給をすることを検討しているとされている。(11月19日付ワシントン・ポスト紙が「米、アフガンへの新しい補給ルートを探求」との見出しで報じている)

6、 アフガン情勢の悪化は米から日本への協力要請につながるであろう。
米は日本にはヘリ部隊の派遣や地域復興チームの警護などを希望している。日本はそれに応じ得ないと思われるが、そうなれば、アフガン治安部隊の建設に対する巨額の資金拠出要請が出てくると思われる。これは日米同盟関係に影響を与えかねない難しい問題になろう。
テロ特措法による給油だけでは、日本が十分に責任を果たしていると見なされない状況が出てきている。
(文責:茂田 宏)

アフガン情勢の悪化とその余波:対話、NATOと日本の役割

1、 アフガン情勢はタリバンが再台頭し、アフガン政府や駐留外国軍への攻勢を強めてい
る。情勢は悪化している。
アフガンでの外国兵士の戦死者数は2005年―130名、2006年―191名、2007年―232名、2008年1−9月−236名になっている。

2、 この状況を受け、いくつかの新しい動きが出てきている。

第1:カルザイ政権がタリバンとの対話、交渉に乗り出している。先月末、サウジのアブダラ国王がメッカでのラマダン明けの食事に、タリバンの元パキスタン大使ザエーフや元外務大臣、アフガン政府要人を招いて話し合いを仲介したとされている。この席にはサウジの元情報長官トゥルキ、パキスタンのナワズ・シャリフ、ヘクマチアール(アフガンの反政府指導者の一人)が出席したとされている。
ただし、ザエーフは和平会談というようなものが行われたわけではないとし、タリバン側はタリバンを代表する人がカルザイ政権と話し合ったことはないとしている。
10月6日、国務省の報道官はこの件につき問われ、アフガン政府が暴力の放棄と憲法の尊重を条件に和解プロセスを進めていると承知しており、これを支持していると述べた。
ゲイツ米国防長官も、10月6日、アフガンの「和解可能な」分子との話し合いは有益であるとカルザイの対話路線に賛成の意向を明らかにしている。ただし同時にゲイツ長官はタリバンの指導者オマールとの和解は可能であるとは考えないとしている。
英外務担当国務大臣も話し合いを支持すると述べた。(10月8日付ロンドン・デイリー・テレグラフ紙)
メッカで何が話し合われたのかよく分からないが、双方の立場に鑑み、この話し合いがうまくいく可能性は低いと思われる。

第2:米国は米軍自身のアフガン派遣兵力を増強する意図を明らかにしている。現在、米は33,000名(NATO指揮下に13,000名、独自に反乱対策とアフガン軍訓練のために20,000名)を派遣しているが、年内に海兵隊を追加派遣し、来年初めに1陸軍大隊、さらに3陸軍大隊を追加派遣するとしている。ゲイツ長官はこの米兵追加派遣はNATO諸国よりの兵力追加を代替するものではないとしている。

第3:米国はアフガンでの兵力は不足しているとし、NATO諸国に追加派兵を求めている。ドイツは10月7日1000名の兵士の追加派遣(全部で4500名にする)を議会の同意を条件に閣議決定した。ただし米が求めた実際に戦闘が起こっているアフガン南部ではなく、北部に展開するとの条件付である。
 ゲイツ米国防長官は10月9-10日のハンガリーのブダペストでのNATO会合でNATO諸国に更なる兵力派遣を求めるとしている。どれくらいの追加派兵が得られるか、上記ドイツは別にして、はっきりしない。
 なお米はヘリコプター部隊が足りないとして、その派遣を求めている。

第4:ゲイツ長官はアフガン情勢の改善のためにはアフガン軍の強化が必要であり、派兵をしない日本およびその他の国はそのためのお金を出すべしとしている。10月9日付ロイターによると、国防省高官は今週、米はアフガン軍を134,000名という目標まで建設するために170億ドルかかると推計され、それを派兵しない日本その他の国が負担するように要請したと述べた由。別の報道では主として日本に200億ドルの拠出を要請するとされている。

第5:英軍司令官カールトン・スミスは、「この戦争は勝てない、目標は武装反乱のレベルを統制可能なところまで下げ、戦略的脅威にならず、アフガン軍が取り扱えるようにすることである」と発言した。(10月5日付サンディ・タイムズ紙)これに対し、ゲイツ長官は10月6日、「敗北主義」であるとコメントした。しかしAFP電によると、10月7日、カナダのハーパー首相も「外国軍として我々がアフガンのすべての地域を平定できると私は信じない」と発言した。

3、 アフガン情勢の悪化を受け、これにどう対応するか、何をアフガンで達成すべき目標とするかについて、米・欧・加間で違いが出てきている。
また米にはNATO諸国の非協力への苛立ちと日本への苛立ちも出て来ている。

4、テロ特措法に基づくインド洋における給油が、民主党が採決容認を打ち出して、一応継続できるようになった。しかし日本にとってはいまや、それを越えた巨額財政支援要請が問題になってきている。今のところ5年間で約2兆円という話であるが、これは唯々諾々と受け入れられる額ではない。日本の防衛費は5兆円くらいであり、経済状況も財政赤字も湾岸戦争時とは比較にならない厳しい状況にある。
米の要求は過大に過ぎる。そういう要求には、世論が反発し、日米関係に悪影響をもたらす可能性が高い。
(文責:茂田 宏)

ザルダリのパキスタン大統領就任

1, 9月6日、パキスタンで大統領選挙が行なわれた。パキスタン選挙管理委によると、ブッ
ト元首相の夫、アシフ・アリ・ザルダリ人民党総裁が481票、シディキ元判事(シャリフ派の候補)が153票、フセイン・サイド(ムシャラフ派の候補)が44票を獲得した。
パキスタンの大統領は間接選挙で選ばれる。国民議会、元老院、4つの地方議会の議員が投票権をもつが、地方議会の票は1議員1票ではなく、各地方の持ち点が投票結果で比例配分される。過半数を得た人が当選する。任期は5年である。
9月9日、ザルダリは大統領に就任した。

2、ザルダリはどういう人なのか。
(1) 生年月日:1955年7月26日、カラチで出生、53歳
(2) 家族:
・父親―ハキム・アリ・ザルダリ(政治家、シンド州の旧家の出身)、
・母親―シンド州でイスラム教徒のための最初の学校を作ったアリ・エフェンディの孫
・妻:ベナジール・ブット(元首相、2007年12月27日に暗殺される。1987年結婚)
・子供:ビラワル・ブット・ザルダリ(人民党共同総裁、1988年生)、バクタワル(1990年生)、アセーファ(1993年生)
(3) 学歴・経歴
・カラチで初等教育を受けた後、士官学校へ。その後、ロンドンに留学、経営学を学ぶ。
・1990―93年、1993年―96年、国会議員。妻ブットの政権で環境大臣(93−96年)と投資大臣(95年―96年)を歴任。1997年―1999年、上院議員
・2008年1月、ブット暗殺後、息子ビラワルとともに人民党共同総裁に。
・この間、1990年脅迫の疑いで逮捕されたほか、1997年―2004年、汚職と殺人容疑で収監され、2004年保釈。その後、再逮捕される。合計11年半、刑務所にいたとされる。
(4) ザルダリは、ミスター10%とのあだ名をもつ。妻のブットが首相のときに政府の契約
に関連し、その額の10%の支払いを要求したとされる。
ザルダリとブットが関与を疑われる主要案件は次のとおり。ザルダリとブットは疑惑を否定してきた。
・仏のダッソー社(航空機会社)に空軍の戦闘機の納入への排他的権利を与える代償として5%の手数料をスイスにあるザルダリの会社に支払わせた。
・ドバイの金輸出業者にパキスタンへの輸出の排他的権利を付与する見返りに1000万ドルをドバイのシティ銀行の自分の口座に振り込ませた。
・パキスタンの検察は、ザルダリとブットはスイスの銀行口座に7億4千万ポンドをもち、英国に400万ポンドの価値がある家屋と土地、ノルマンディにザルダリの両親の名義で家屋を保有している、これは汚職による金で入手したと指摘した。
・2003年8月、スイス当局はザルダリとブットを資金洗浄で有罪とし、パキスタン政府に1100万ドルを返還するように命じた。
・ポーランド政府は1997年のトラクター輸出契約に関連し、ザルダリとブットが輸出業者より多額の見返りを受け取ったとの文書をパキスタン政府に手交した。
ムシャラフは米の民政移管要求とブットとの協力慫慂に応じて、ムシャラフ・ブット共同政権を作るための取引で、これらの容疑を免責した。それを受け、スイスも返還命令を取り消した。
ザルダリは、ムシャラフが解任した最高裁長官チョウドリーの再任用をシャリフの強い要求に関わらず拒否し、それがザルダリ・シャリフの連立の崩壊につながった。ザルダリはチョウドリーがムシャラフによる免責を無効とする司法判断を出しかねないと懸念しているからとされている。
(5) ザルダリの健康問題:
ザルダリは英国での不動産についてパキスタン政府より汚職の金で買ったものとの民事訴訟を起こされた。ザルダリは2006年、精神的に不安定で弁護士と相談し得ないとのニューヨークの2名の医師よりの宣誓供述書を裁判所に提出している。この供述書によると、ザルダリは痴呆、強いうつ病、精神的外傷(トラウマ)による障害を患っているとされている。
(6) ザルダリの軍と情報機関への影響力:
7月、ザルダリは内務省とともに情報機関ISIが内務省に報告するように求めたが、軍がすぐ内務省の指令を撤回させるとの事件があった。ザルダリは、妻ブットの暗殺にISIが関与したと非難したことがあり、ザルダリとISIとの間に信頼関係はない。

ザルダリ大統領が汚職まみれの人とのイメージを持たれていること、軍と情報機関との信頼関係が今はないこと、パキスタン経済が石油や食料の価格上昇で困難な状況にあることなどに鑑み、十分な指導力を発揮できるか否か、疑問がある。他方ザルダリは、議会解散権や軍司令官任命権などムシャラフが強化した大統領職の権限を引き継ぐという面もある。

3、米国は、ナワズ・シャリフよりずっと世俗的であること、米とテロとのたたかいで協力する姿勢を示していることで、ザルダリの大統領就任を歓迎している。当選後、ブッシュ大統領はザルダリに電話し、祝意を述べると共に、今後の協力を約束している。それ以外の方策はないということであろう。米のパキスタン民主化政策の結果がこれである。
なおシンガポールの元首相リー・クワン・ユーは、回想録のなかでザルダリを「人好きのするならず者」と書いている由。

4、パキスタンの核兵器は、国家指揮当局(National Command Authority)のもとにある。ここには大統領のもとに10名のメンバーがおり、核兵器施設は厳格な審査を通った1万名の兵士が守っているとされている。
 9月2日のグローバル・セキュリティ・ニューズワイヤはマレン米統合参謀議長が、パキスタンの核は引き続き安全に確保されていることに自信を持っていると述べたと報じている。
 ザルダリが精神的に不安定であれば心配があるが、マレン議長がこう言う以上、安全であるのであろう。またそうでないと困る。
(文責:茂田 宏)

米軍特殊部隊:パキスタン領内で初めての地上作戦を実施

1、 アフガンで、アルカイダ・タリバン勢力が再台頭し、アフガンの治安情勢は改善して
いない。その背景として、アフガン・パキスタン国境地帯でアルカイダ・タリバンが聖域を持ち、パキスタン政府・軍がその国境地域を十分に支配できていない状況がある。
米はパキスタンにこれらアルカイダ・タリバン勢力の掃討に取り組むように迫ってきた。しかしパキスタン政府・軍の掃討作戦はうまくいっていない。
その中で米には、パキスタン領内で自ら掃討作戦をすべきであるとの根強い意見がある。たとえばゲイツ国防長官がそう主張してきた。
しかし、パキスタン主権は尊重されるべきであるその他の理由で、米はパキスタン領内での地上軍の作戦を差し控えてきた。

2、 然るに9月3日、アフガン駐留米軍は、パキスタンに地上軍での越境攻撃を初めて行
なった。米政府は公式にはこの攻撃についてコメントを拒否しているが、攻撃があったことは確実と判断される。
これまでアフガンでの武装勢力攻撃の継続として、パキスタン領内に侵攻する追跡権としての越境攻撃、武装勢力への空爆や砲撃がパキスタン国境を越えて行われることはあったが、今回の攻撃は追跡権の実施ではなく、かつ地上軍による攻撃と言う点で新しい。
米の各紙はこれを大きく報じている。
(1)9月4日付ニューヨーク・タイムズ紙は「米軍、パキスタン領で武装勢力攻撃」との見出しで、概要次の通り報じている。
ヘリコプター搭乗の米特殊作戦部隊が水曜日朝、国境近くのパキスタンの村でアルカイダ武装勢力を攻撃した、これは初めてのパキスタン領内での地上攻撃である。
これまでアフガンでの連合軍は、時折空爆や砲撃をパキスタンの国境地域に行なったし、武装勢力の追跡として国境を越えて追跡する裁量を有していた。
しかしこの特殊部隊による攻撃は、米高官によると、ゲイツ国防長官が何ヶ月も主張してきたパキスタン領内でのタリバン・アルカイダに対する幅広い攻撃の最初の一発でありうると言う。米高官は、今後同じようなことがもっとありうる、と述べた。
パキスタン軍報道官アッバス将軍は、攻撃の後、米政府に対し「強い抗議」を行い、「自衛と報復」の権利を留保すると述べた。彼は、民間人の殺害により、国境地帯で部族が蜂起する危険がある、「こういう行動は全く非生産的で大きな損害につながる、これは部族員にパキスタン軍に反抗する理由を与える」と述べた。
なお北西国境地帯の知事は、この攻撃は午前3時におき、20名が死亡したと述べた。
(2)9月4日付ワシントン・ポスト紙は、「パキスタン、米軍が国境を越えたと発言。攻撃で20名死亡との報道」との見出しで、同様な報道をしている。
(3)9月4日付ワシントン・タイムズ紙は、「米地上軍、アルカイダの標的を攻撃:ブッシュはビンラーデンを捕まえることを狙っている」との見出しで、この攻撃を報じている。
そのなかで、匿名を条件に、国防省高官が、「捜索が行われていることを自分は知っている。彼らは大統領が職を去る前にビンラーデンを見つけようとしており、大統領選挙中にアルカイダが米を攻撃しないことを確実にしようとしている」と述べたと報じている。
またパキスタン外務省が、攻撃を「深刻な挑発」で、「パキスタン領土の侵害」であるとし、「こういう行動は非生産的で、テロに対する共通の努力の助けにならない。逆にこれは協力の基盤を崩す」と述べたと報じている。
(4)9月5日付ロスアンジェルス・タイムズ紙は、「米はパキスタン内での攻撃を強化するかもしれない。攻撃に対しパキスタンで抗議の声が強まっているが、ペンタゴン高官の多くは、パキスタンに基地を持つ武装勢力による攻撃に対抗するためにより攻撃的なアプローチに賛成している」と報じている。

3、 パキスタンでは、米軍の攻撃に対する抗議が広まっている。9月4日、パキスタン議
会は9月3日の米軍作戦を非難する決議を採択した。
駐米パキスタン大使はFoxニュースで、「パキスタン人は怒っている。パキスタンは米とアフガニスタンのパートナーであり、敵国の領土のように取り扱われてはならない」と述べ、パキスタン外相は同じ番組で、「我々は主権の侵害については妥協しない、領土的一体性を守るという決意をしており、そのためのコンセンサスがある」と述べた。

4、 今後、米軍がパキスタンの抗議にかかわらずこういう作戦を続けるのかは良く判らな
い。アフガン・パキスタン国境地帯の制圧がアフガン情勢にとってもつ意味を考えると、米軍が時宜を見て同じような作戦を今後も行う可能性がある。
しかし、米としても、米・パキスタン関係に及ぼす影響への配慮がいる。
こういう作戦は、少なくともパキスタンの暗黙の同意を得た上で、あるいは事後的に得られるとの見込みの上で行わないと、パキスタンの反発により逆効果になりかねない。
先週、マレン統合参謀議長は空母アブラハム・リンカーン上でキヤ二・パキスタン軍司令官と会談したが、そこではこの攻撃は話し合われなかったとされている。
今回の攻撃ではアルカイダ幹部の殺害・捕捉というような成果はなかったようで、民間人の死傷者がでたことだけが報じられている。ビンラーデンやザワヒリなどアルカイダの有力幹部を殺害・捕捉する可能性が高い良い情報なしにこういう作戦を行うことは、適切ではない。逆に成果が出れば、事後的に了解される可能性もあろう。

5、 なおオバマが民主党大統領候補指名争いの途中、パキスタンの同意なくとも、パキス
タン内のアルカイダを攻撃すると述べ、ヒラリーより、思慮に欠けると批判されたことがある。このオバマと同じことを今回ブッシュ政権が行ったことになる。
(文責:茂田 宏)


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