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アフガン・パキスタン情勢

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アフガン情勢の悪化と米軍増派論

1、 アフガン情勢の悪化については、6月28日付の記事で取り上げたが、悪化傾向に、歯
止めがかかっていない。米軍など連合軍の死者数はicasualties.orgの勘定で本年5月―24名、6月―45名、7月(26日間)―27名である。イラクでの死者数は5月―21名、6月―31名、7月―11名なので、イラクよりアフガンでの死者数が多くなっている。

2、 この情勢悪化を受け、米国内でアフガンに増派すべきであるとの意見が強くなっている。
・7月23日付ワシントン・ポスト紙は「アフガンからの目覚ましコール」と題し、概要次の通り報じている。
増大する死者数、タリバンの再出現はブッシュ大統領、その後継者候補達からアフガンへの増派発言を引き出している。
最近、ブッシュは3旅団、約1万名を送るつもりだと述べた。マケインも兵力がもっと必要であると言い、オバマは少なくとも2旅団を増派することを前から主張している。
世論もアフガン戦争には慎重な支持を与えている。ワシントン・ポスト紙とABCの世論調査では、51%がテロとの戦いで勝つためにアフガンで勝たなければならないと答えている。
・7月23日付ウオール・ストリート・ジャーナル紙は「イラク撤退についてのコンセンサスが近づいている」と記事のなかで、「転換がまもなく起こりそうである。米軍司令官は、イラクでの治安情勢が改善し、1−2旅団を年末までにイラクから引き上げられそうである、国防省は1旅団のイラク派遣予定を取りやめ、それをアフガンに向けることが可能だろう」としている。
・7月24日付USA Today紙は「ペンタゴン、アフガンへの兵力派遣を急ぐ」との記事を掲載、国防省報道官がアフガンにより多くの兵力を送る方法を検討中である、マレン統幕議長は3旅団(1旅団は3500人)を送る必要があるとしているが、この規模の兵力は来年まで無理だろうと述べたと報じ、また別の国防省高官が「ここ数日中に」ゲイツ国防長官に提案がなされるだろうとしたと書いている。
・7月24日付クリスチャン・サイエンス・モニター紙も「軍部、アフガン計画を再検討」との見出しで、アフガン増派計画について報じている。

規模、時期はまだはっきりしないが、アフガンへの米軍増派は既定路線になっていると思われる。イラク情勢の安定を受け、米軍にそういう余裕が生じてきているということであろう。

3、 日本は自衛隊のアフガン派遣を検討してきた。6月には現地に調査団も送った。しかし政
府は7月18日、国際治安支援部隊(ISA)への自衛隊派遣を見送るとの決定を行った。安全状況に鑑み、やむをえない決定と考えるが、米・NATO諸国は調査団派遣の動きを見て自衛隊の派遣を期待したところがあり、いまはがっかりしている。今度またアフガンに関連した給油問題が国会で揉めると、日本への失望が更に深まる惧れがある。

4、 アフガン情勢の悪化は、パキスタンの部族地域がタリバンなどの聖域になっていることに
よるところが大きい。パキスタンとアフガン間の協力、米・NATOとパキスタンおよびアフガンとの協力がこれに対処するために必要であるが、この協力関係は必ずしもうまく行っていない。特にアフガン・パキスタン関係は、パキスタンの情報機関がカルザイ暗殺に関与したとか、インド大使館攻撃に関与したとか、アフガン側、特にその情報機関が非難し、険悪になっている。情報機関間の対立は厄介な問題につながる。CIAかMI6が間に入って、この険悪さを除去しておくべきではないかと考えられる。もうやっているのかもしれないが。
(文責:茂田 宏)

アフガン情勢の悪化:パキスタンの新政権の政策、米国やアフガンの反応など

1、 アフガン情勢は悪化してきている。9・11テロ後、政権の座を追われたタリバンはその
勢力を再構築してきている。6月13日、タリバンはカンダハルの刑務所を襲い、400名近くのタリバン兵を含む1000名近い収監者を「解放」したが、これはタリバンの力を誇示し、カルザイ政権の統治の脆弱性を示した事件であった。

2、 6月26日付ウオール・ストリート・ジャーナル紙は「ゲイツ:パキスタンはアフガン国
境で武装勢力を止めるのに失敗している。」との見出しで、概要次の通り報じている。
ゲイツ米国防長官が、同日、東部アフガンでの攻撃が今年の1−5月にかけて、40%増大したことに関連し、「これは本当に懸念すべきことである。一つの理由はパキスタンの国境地帯からより多くの戦闘員がアフガンに入ってきていることで、パキスタンが彼らに圧力が加えていないからである」と述べた。ゲイツ長官は同時に、6月25日にパキスタンのギラニ首相が問題を認め、北西国境地帯での支配と権威を再確立すると声明したことを歓迎し、それが実行されることへの期待を表明した。

パキスタンの新政権は、武装勢力との休戦や対話によって事態を改善することを目指してきた。米は、そんな宥和策は効果を生まないとしてきた。この米・パキスタン間の論争は今後、ますます厳しいものになっていき、米・パキスタン関係が緊張すると思われる。

3、6月26日付ニューヨーク・タイムズ紙は、「アフガンはカルザイ暗殺計画にパキスタンの役割を指摘」との記事を掲載している。この記事の概要、次の通り。
6月25日アフガン政府は、パキスタンの情報機関が4月のカブールでのパレードでのカルザイ暗殺計画を組織したと公に非難した。
アフガン情報機関の報道官アンサリは、「事件の捜査と発見された文書、16名の容疑者の自白、携帯電話通信記録は、4月27日の暗殺未遂事件の本当の組織者がパキスタンの情報機関ISIとその仲間であることを示している。彼らは許しがたい犯罪を行った。我々はISIの関与について推測をしているのではない。我々は正確にそれをいっている」と述べた。
なおカルザイは先週、パキスタン国境地帯にアフガン軍を侵攻させ、武装勢力を攻撃することもありうると脅している。
(注:パキスタンはISIの暗殺事件への関与を否定している。)
パキスタン・アフガン関係も緊張が強まってきている。

4、 アフガンにおける連合軍の死者数は、icasualties.orgによると、2001年―12名、2
002年―69名、2003年―57名、2004年―58名、2005年―130名、2006年―191名、2007年―232名、2008年―117名(6ヶ月)である。情勢が改善ではなく、悪化の方向にある。
死者数を多い順に国別でいうと、米―536名、英―108名、カナダー85名、独―25名、西―23名、オランダー16名、デンマークー14名、仏・伊各12名などである。
米はNATO諸国に増派を要請し、仏が近く700名を送る。
欧州諸国は全体として戦死者の増大に米より過敏である。アフガン情勢が更に悪化し、戦死者が増えると、NATO諸国中、特にアフガン戦争への国内での支持が弱い国が脱落していく可能性がある。

5、 米・パキスタン、アフガン・パキスタンの協力関係を再構築し、出てきつつある悪循環を
断ち切る必要がアフガンでの成功のためには必要であると思われる。

6、 なお、自衛隊のアフガンへの派遣が検討されているとの報道があるが、空自はともかく陸
自のアフガン派遣は情勢に鑑み相当な覚悟をもって決断すべきである。
(文責:茂田 宏)

テロとの戦い:テロ報告書、パキスタン新政権の対話路線、米国の懸念

1、 4月30日、米国務省は恒例のCountry Reports on Terrorism(以下「テロ報告書」)を発
表した。
 この報告書は、冒頭で、「アルカイダと連携ネットワークは2007年において、米とそのパートナーに対する最大のテロ脅威であり続けた。それはパキスタンの連邦直轄部族地域(FATA)の利用、逮捕・殺害された作戦幹部の代りの補充、アイマン・ザワヒリを含む最高指導部による中央からの統制の再建を通じ、9・11以前の作戦能力をある程度再構築した。・・アフガンとパキスタンの治安部隊の努力に拘わらず、パキスタン・アフガン国境での不安定は2007年前半のイスラマバードの仲介による停戦合意とあいまって、アルカイダ指導部に訓練や作戦計画を行う、より大きな移動性と能力を与えたように見える」と述べている。また「アフガニスタンはタリバンとその他の反乱グループ、犯罪集団により、引き続き脅威を受けている。・・タリバンは地方指導者を殺害し、パキスタンのFATAにおけるパキスタン政府の駐屯所を攻撃した」としている。
テロとの戦いにおけるパキスタン・アフガン国境地帯、特にFATAの重要性とそこでのアルカイダ・タリバンを抑え込む重要性を指摘したものである。ムシャラフによる停戦合意を否定的に評価している。

2、 しかしパキスタンの新政権は米とは異なる政策を取っている。
4月30日付ワシントン・ポスト紙に、パキスタンの首相ギラニが「パキスタンの時:我々は我々の方法でテロと戦う」という論説を寄せ、新政府のテロ対策を説明している。
その関連部分の抄訳は次のとおり。(・・部分省略)
「・・・世界はテロリズムの脅威を正当に懸念し、その撤去が我が政府の最優先事項であることを期待している。我々は人民の支持を得てテロとの戦いを力強く継続するつもりである。パキスタンはパキスタンのためにテロと戦わなければならない。過去の努力はパキスタンが、ただ国際的な圧力に応じてテロと戦おうとしているとの見解ゆえに害されてきた。
世界規模のテロへの我々の戦略は多面的である。我々はテロリストへの武力行使と宗教的、あるいは民族的考慮から過激派支持になっていた人々との市民的対話を組み合わせる。・・パキスタンはテロリストと交渉しない。しかし反乱している部族員・・とは話し合う。ただし武器を置くことを拒否する者とは話しあわない。
我々の政策は、連邦直轄部族地域と北西辺境地方でテロリストを孤立させることを目的としている。・・これらのその領土はアルカイダとタリバンに譲渡されていた。諸部族との交渉は、世俗的パシュトゥン民族主義者であるアワミ民族党の助けを得て行われている。この党は地域での部族や氏族について深い知識を持つ。・・
我々の新政策と2004年と2006年のパキスタン・アフガン国境での部族武闘主義者との間で結ばれた失敗した取決めとの間で、間違った比較がなされている。これらの合意は武装勢力が戦場でパキスタンの治安部隊を痛めつけた後、署名された。いま我々は強い立場から交渉している。武装勢力は武器を差し出し、明確に暴力を止めるように要請されている。我々は武力を行使する能力を切り捨てず、和平協定の違反に対処する警戒心を低めることもしない。・・我々は彼らが暴力とテロリストの脅迫に黙って従うことを拒否する限り、彼らのイスラム教についての保守的な解釈を尊重しつつ、これらの部族が再度社会に戻ることを歓迎する。」

3、 米側はこのパキスタンの対話路線に懸念を持っている。4月30日付ニューヨーク・タイ
ムズ紙は「パキスタンが計画している武装勢力との合意が米国に強い不安を与えている」と題する記事を掲載している。それによると、ブッシュ政権の高官は、パキスタン政府と部族の武装勢力との交渉が行われる中、部族地域でのパキスタン政府の「反乱鎮圧」活動が急激に落ち込み、パキスタンに拠点を置く武装勢力によるアフガンへの国境を越えた攻撃が、1年前の3月に比較し、今年3月は倍増している、4月にも増えているとされており、また米のテロ対策担当者は新政府が国境地帯にいる12万のパキスタン軍を引き上げるのではないか、CIAによる無人航空機プレデイターの飛行をパキスタンが制限するのではないかと懸念しているとしている。
パキスタン政府と部族地帯の武装勢力との交渉は、ベナジール・ブット暗殺の黒幕とされるバイツーラ・メスードの部族との交渉を含め行われているが、部族地帯からの軍の撤退(政府側が今のところ拒否)・削減、アルカイダとの絶縁、経済支援などが議題となっている。
 米側は3月にネグロポンテ国務副長官がパキスタンを訪問、新政権成立後もテロとの戦いで米と協調することを求めたが、武装勢力との対話路線は2月の選挙の際の公約のようなものであり、パキスタン側は米側要請を政権交代があったことを無視する要請として拒否した模様である。
米としては、とりあえず、パキスタンに政策変更をさせる余地はあまりなく、合意の内容に注文をつける、あるいは合意が遵守されない場合には、治安部隊による作戦を再発動することを求めるくらいしか手がない状況にある。
 米のテロ戦略が重要な部分で穴が開いてきていると判断される。

4、 パキスタンの対話路線は成果を挙げられるか。
私は悲観的である。イラクのアンバールで部族長たちを反アルカイダに動員しえた先例があるという声もあるが、アフガン・パキスタン国境での武装勢力やタリバンとアルカイダの関係はアンバールでの部族長とアルカイダの関係より歴史もあり、緊密である。この停戦交渉やそこで出来る合意は、アルカイダに息継ぎの余裕を与える蓋然性が高いと判断される。
アフガン情勢については、NATOからの増派がまだ不十分だとして、米・NATO間で問題になっているが、タリバンとアルカイダのパキスタンでの聖域が温存されることの影響は無視できない。
なお、4月27日、カブールでカルザイ暗殺未遂事件があったが、4月30日、アフガンのサレー情報長官は犯行グループがパキスタンの部族地域のアルカイダと結びつきがあり、犯行前に電話連絡をしたことを把握したと発表している。

5、パキスタン政府の対テロ新政策は、ムシャラフ時代の対テロ戦略での対米協力とは様変わりしたものである。米はパキスタンに民主化を急いで求めすぎ、結果として協力的であったムシャラフの権力を減少させ、アフガン戦略、テロ戦略で大きな問題を抱えてしまったということであろう。
(文責:茂田 宏)

アフガニスタン情勢:政治・軍事情勢、ケシ栽培、ハリー王子

1、 2月27日、米国家情報長官ミハイル・マッコーネル、国防情報庁長官ミハイル・メイプル中将などが上院軍事委員会でアフガン情勢について証言を行った。
証言のポイントは次のとおり。
(1) アフガン情勢は悪化している。アフガン南部、西部でのタリバン勢力の拡大が見られ、米・NATOは封じ込めに成功していない。復活したタリバンがアフガン国土の約10%で支配権を確立している。カルザイ政権が支配している国土は約30%である。それ以外の地域はその地方の部族の支配下にある。
(2) 2007年は2001年の米の侵攻以来、もっとも死者数が多く、222名の外国人兵士を含め、6500人が反乱関連暴力で死亡した。
(3) アフガン軍・警察は、米の支援にかかわらず、訓練・装備が不十分であり、腐敗と任務放棄が広く見られる。その上、カルザイ政権は、慢性的に、資源及び有能で強い動機を持つ人員の不足に悩んでいる。
(4) パキスタン政府はタリバンとアルカイダの訓練地であり、アフガンへの出撃拠点になっているアフガン国境近くの部族地域を抑えようとしているが、パキスタン軍も国境部隊も訓練、装備が不十分で戦闘できない。この欠点を直すためには、3−5年間かかる。パキスタン軍の作戦はこの地域でのアルカイダの地位に基本的に損害を与えたとはいえない。
(5) アルカイダ主導勢力とその他の反乱勢力の間に、より緊密な協力関係が構築されつつある。
(2月29日付ワシントン・ポスト紙は、アフガン国防省がアフガン政府の支配領域が30%云々の評価について声明を発出、「これは事実から程遠く、我々は完全に否定する」としたと報じている。)

2、 1月にアトランティク・カウンセルは、NATO司令官であったジェイムス・ジョーンズ将軍とピカリング元米国連大使・国務次官連名の報告書を発表、「アフガンが破綻国家になることを防止
するために早急な政策変更が必要である」、「軍事情勢はよく言って膠着状態、カルザイ政府は非効率、米・NATOのカルザイ支援政策は混乱している」と対アフガン政策を批判したが、情報当局もアフガン情勢を深刻に捉えていることが明らかになった。
2月28日付バルティモア・サン紙によると、ホワイト・ハウス高官は「アフガン情勢はいつもレビューしているが、新戦略は差し迫った問題ではない。我々はNATOと国際社会の文脈の中で、この仕事が効果を出すように努めている」と述べた由。

3、 米国務省は2月29日、「国際麻薬取締り戦略報告」を発表した。この報告書は、アフガンでの麻薬生産量は2007年、ケシの栽培が17%増加し、世界のケシ栽培の93%を占め、世界最大
のヘロイン生産国との立場を強化した、タリバンは麻薬生産者・取引者を保護する代わりに、資金と武器を入手している、麻薬生産の70%はパキスタンの国境に近い5地域で行われている、アフガン人の14、3%がケシ栽培(2006年は12,6%)に係っているとしている。米国務省は、この麻薬が腐敗の原因になり、アフガンでの安定した民主主義を確立する努力を掘り崩していると指摘している。
 米は薬剤の空中散布でケシを枯死させることをずっと主張しているが、カルザイは他の人への健康被害などを理由に薬剤散布に反対している。
 なおタリバンは政権の座にあった1997年、2000年にケシ栽培禁止令を出した。その結果、ケシ栽培が大きく減少した。タリバン時代にもアフガンからの麻薬の輸出は大きな問題であったが、カルザイ政権になってから、問題はより大きなものになっている。

4、 アフガン情勢はパキスタン情勢と切り離して論じられるものではないが、パキスタン情勢は選挙後、第1党になった人民党がタリバンなどとの対話を主張するとともに、ムシャラフとの協力に後
ろ向きである。これに対し、米、さらに英も新政府にムシャラフとの協力を求め、それにパキスタン内で反発が出ているなど、情勢はまだ混沌としている。

5、 なお、英のハリー王子がアフガンのヘルマンドにおいて軍務に着いていることを2月28日、豪州のドルージ・レポートが「ハリー王子、アフガンの前線で戦う」とウエブサイトで公開した。2
月29日付ニューヨーク・タイムズ紙によると、ハリー王子は12月よりアフガンに行っていたが、政府は英のメディアにハリー王子の軍務の詳細を通報、メディア側に報道しないように要請、英メディアは政府との約束を守って一言も報道していなかったとのことである。ブラウン首相、キャメロン保守党党首はハリー王子を賞賛し、ダナット英参謀長は、この外国のウエブサイトの報道に失望したと述べるとともに、「これは英の文字、放送メディア全体の責任ある態度と対極にあるものだ」との声明を出した。ハリー王子は帰国を命じられ、帰国したが、これは英国について二つのことを明らかにしている。第1:英メディアはこういう対応を今なおするということである。第2:ノブレス・オブリージ(高い地位にあるものの責務)の観念がまだ英にあるということである。英の戦争の戦死者には、ケンブリッジ、オクスフォード卒業生が多いことが指摘されてきたが、恵まれた立場にあるものが戦地に率先して赴く慣習がある。これは戦争末期の「学徒出陣」を悲劇と捉える一部日本の感覚とは対極にある。英がエリートでもった国なら、日本は普通の人で持ってきた国である。
 なおアルカイダはハリー王子がアフガンに居たことを知った後、同王子を今後も狙うとしている。

(文責:茂田宏)

パキスタン総選挙:その結果、今後の注目点、若干の懸念

1、 2月18日、パキスタンで総選挙が行なわれた。選管ホームページ掲載の暫定結果(2月20日18:02)は、次の通り。
 人民党(故ブットの党)−87議席、ムスリム連盟(N)(ナザフ・シャリフの党)−67議席、ムスリム連盟(Q)(ムシャラフ与党)−40議席、無所属―26議席、ムタヒーダ民族運動(ムシャラフ与党系)−19議席、アワミ党―9議席、その他5党―14議席。総計262議席(10議席未定)
 下院の議席数は全部で342議席である。パキスタンの選挙法はすこし特殊であり、342議席の内、60議席は女性に、10議席は非イスラム教徒に割り当てられ、この70議席は一般議席の獲得数に比例配分される形で各党に割り振られる。一般議席は全部で272議席であるが、現在まで262議席が上記のように決まっているということである。
 投票率は全体で44,6%(首都50%、パンジャブ49%、シンド46%、北西辺境
地域34%、バルチスタン33%、連邦直轄部族地域27%)であった。
各紙で報道されている通り、この結果はムシャラフとその与党について極めて厳しいものである。ムスリム連盟(Q)は総裁が落選、現職閣僚数名が落選した。
ムシャラフ与党の敗北の原因としては、ムシャラフの強権政治への反発、ブット暗殺への同情、米の要望に応じた軍によるテロ対策の国内での不人気、食料品の値上がりへの国民の不満などが挙げられている。
選挙結果を政権の側が不当に操作したという声は大きくなく、おおむね公正な選挙が行なわれたと見られる。選挙の不正は今後問題にならないだろう。

2、 今後の注目点は次のとおり。
 (1)どういう連立政権ができるか。
人民党とムスリム連盟(N)の大連立ができるかどうか。人民党のザルダリは第2党になったムスリム連盟(N)のナワズ・シャリフとの連立政権のための話し合いをする、ムシャラフ政権に参加していた人と協力することはないとしている。
他方、ナワズ・シャリフはムシャラフ大統領の弾劾とムシャラフが解任したチョウドリー最高裁長官・判事その他の職務復帰を連立の条件だとしている。ザルダリは大統領弾劾を明言していない。またザルダリは、自身の汚職疑惑の追及をムシャラフの赦免により逃れているが、その赦免の取り消しにつながりかねないチョウドリーなどの復帰には慎重である。これが大連立交渉の最大の問題と言う人もいる。
この大連立が成立しない場合、人民党は他の連立相手を探すことになる。その形は現段階では予測がつかない。
なおザルダリもシャリフも議席を持っておらず、首相になる資格はない。
(2)ムシャラフはどうするのか。大統領にとどまりうるのか。
ムシャラフ大統領は各政党に選挙結果の受け入れを慫慂すると共に、今後形成される政府と協力する、大統領の地位にとどまりパキスタンの民主主義への移行を指導する、としている。
ナワズ・シャリフは「ムシャラフは以前国民が不信任を表明すれば、離職するといったが、国民は自らの決定を明らかにした」とムシャラフに辞任を促している。
ムシャラフは自らが追放したチョウドリー最高裁長官とその仲間の判事が復職した場合、大統領に出馬する資格がなかったとされるおそれ(それを阻止するのが11月の非常事態宣言の目的であった)がある。また、議会で弾劾される可能性がある。弾劾のためには、今度改選された下院と100名からなる上院の合同会議で3分の2以上の票が必要である。人民党とムスリム連盟(N)だけでは票が足りないが、無所属票その他の動きによっては、可能性がある。(1)で述べた連立の組み方、そのための合意如何が、ムシャラフの今後に影響する。
いずれにせよ、今回の選挙で、ムシャラフの政治的力は大きく失われたと言える。ムシャラフはチェック・アンド・バランスの必要を強調し、「首相が政府を運営する、大統領はその地位を保持するが、政府を運営する権威はない、新政権と協力する」としている。
(3)テロとの戦いはどうなるのか。
2月20日付ニューヨーク・タイムズ紙は「パキスタンの勝者は武装勢力との対話を望む」と題して、ザルダリ人民党共同総裁がムシャラフのテロ対策を批判し、アフガンとの国境の部族地帯の武装勢力との対話を行う、反乱への対処は軍ではなく警察がすべきであると述べたこと、シャリフはもともとイスラム過激派に融和的であることを報じている。
なお、ザルダリが汚職で逮捕されたのはナワズ・シャリフ政権時代である。ムシャラフは1999年その搭乗機のカラチ空港着陸をシャリフに阻止され、燃料切れで墜落する直前にからくも着陸に成功し、クーデタを起こした。シャリフはムシャラフのクーデタで首相の座を追われ、更に国外に追放された。これほどお互いに怨念をもつ3人がいまのパキスタン政治の立役者である。

3、米国の反応と政策
(1)米国国務省ケーシー報道官は選挙結果の大勢が判明した2月19日、「結局、ムシャラフ大統領はまだパキスタンの大統領であり、我々は誰が首相になろうとも、新政府を動かすのが誰になろうとも、その人がムシャラフと一緒に働くことが出来ることを希望している」と述べた。
米国はムシャラフをテロとの戦いでの重要な同盟者としてきたが、それを変えていないことを示している。しかしムシャラフの立場が弱体化した中で、この姿勢は今後変えざるを得ないと思われる。
(2)米国はムシャラフに、テロとの戦いへの参加と民政移管を迫ってきた。ムシャラフ・ブット共同政権ができ、民主的なマンデートを持った政権がテロとの戦いに参加することを望んできた。しかしブット暗殺のような突発事件があったせいもあるが、ムシャラフと言う同盟者の権力の弱体化とテロ対策の弱体化を結果として招いてしまった嫌いがある。

4、上記以外の懸念事項、次のとおり。
(1)核兵器管理:昨年12月30日付記事で述べたように、パキスタンの核兵器(この記事で核弾頭60-65発と書いたが、エルバラダイは30-35発と発言している)は国家指揮局(National Command Authority )が管理している。ムシャラフが指揮権を持っているが、ムシャラフが退陣する場合、これを誰に委譲するのかと言う問題がある。一番、頼りになるのはキヤニ陸軍参謀長ではないかと思われる。
(2)米国の情報機関は、アルカイダとタリバンがイラクでの戦闘に失敗したあと、その攻撃対象をアフガニスタンとパキスタンに向けてきていると分析している。この分析は多分正しい。そういう危険が増大する中で、米・パキスタン間で対テロ戦略での不整合が起きる危険が出てきている。
(文責:茂田 宏)


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