のこりの試料を大掃除のときに捨ててしまったので再鑑定できません。
という事件が話題になっている。
一般論として、再鑑定が可能である。ということは、実際に再鑑定して、同じ結果がでるか否かに関わらず、再鑑定しなくても、当該鑑定の証明力を担保するものである。
つまり、再鑑定したいなら、いつでもしてください。
わたしは、痛くも痒くもない。恐くもない。
鑑定結果には絶対の自信を持ってますから。
と宣言しているのと同じだからだ。
ところが、再鑑定用の試料を廃棄してしまう。
再鑑定が不可能になる。
再鑑定で、鑑定結果が覆されることがなくなる。
これは、再鑑定が恐いです。
だって、鑑定結果に自信がないのですから。
と自認しているのと同じだ。
昔担当した事件の話をしよう。
まだ、殺人罪に15年の公訴時効があった時代だ。
事件当時、ある人が捜査線上に浮かび上がった。
重要参考人だ。
状況証拠も揃っている。
ただ、当時のDNA鑑定技術では、その重要参考人を起訴できる結果が得られなかった。
事件は迷宮入りしていた。
15年の時効完成が近づいてきた。
時効完成は、なんとか防ぎたい。
警察は、再度、その重要参考人に白羽の矢を立てた。
DNA鑑定技術も向上している。
今の技術なら、鑑定すれば犯人を特定できるかも知れない。
警察は、15年(近く)昔の試料を再鑑定しようとした。
15年間に、DNA試料は、何度も保管場所が変わり、ときには、保管ルールに違反した杜撰な保管状態に置かれたこともあった。
発見されたDNA試料の容器は、本来なら溶液が入っているはずが、「空(から)」だった。
厳密に言うと、溶液はなかった。液体は入っていなかった。
たった一つしかない大事な大事な証拠品である。
万が一にも壊してはならない。
鑑定不能にしてはならない。
慎重に取り扱うべきことは、科学の素人でも分かる。
なぜ試料の容器が空なのか。
その原因は何か、を究明し
同じ方法で、実験用のDNAを入れた容器を空にして、
いくつかの実験方法で、復元を試みて、一番確実な方法で復元する。それが科学ではないか。
その場合でも、万が一の失敗を恐れて、現物の容器を半分に切断し、片方だけ復元を試みる。
その位の慎重さがあってしかるべきだ。
ところが、警察(科警研)は何をしたかというと、予備実験を何もしないで、容器に水を注入したのである。
そして、DNA溶液が復活したとして、DNA鑑定を行い、被疑者のDNAと一致する、という結論をだした。
鑑定書には、試料残量について「全量消費」と記載され、再鑑定は不可能であった。
なんという杜撰な。
これを科学と言えるのであろうか。
被疑者のDNAサンプルは、実験者の手元にある。
過去の試料に注入する水に、被疑者のDNAを混入させておけば、鑑定結果は一致する。間違いない。
その可能性を排除すべき努力は何もされていない。
安倍総理も言っている李下に冠を正さず。が実践されていない。疑われても、文句は言えない。
実際の判決では、15年前に収集された状況証拠と、今回のDNA鑑定が証拠採用され、DNA鑑定結果をメインに据え、状況証拠を、その結果を支える証拠と位置づけて、殺人罪で有罪判決が下された。
公判では、DNA鑑定書を弾劾すべく弁護側証人に立った某有名大学法医学教授が、鑑定書に添付されているDNAグラフ写真の読み方を間違えた(初歩的な間違い。弁護人全員が、弁護団席で仰け反って驚いた)ハプニングもあり、DNA鑑定書は信頼できるモノとなってしまった。
某教授のチョンボはあったが、やはり、このような異常な経緯を辿った鑑定書には、証拠価値を認めるべきではなかったと思っている。
弁護人からいうのも気が引けるが、他の状況証拠で十分に有罪にできた事案だと思う。
しかし、そうなると、15年前に立件できなかった検察の無能さが浮き彫りになる。
なんとしても、DNA鑑定書という「新証拠」によって有罪認定する必要性があったのであろう。
こういう、裁判所と検察庁の互助関係も、事件の根底には存在していると思う。
今回のニュース、大掃除のときにDNA試料を廃棄。に戻ろう。
今報告した事案では、鑑定終了時に「全量消費」となって、再鑑定が不可能な状態になった。
もともと試料が少なかったから、そういうこともあるのか。
と納得してはならない。
法廷証言では、大きなミスを行った某教授であるが、大切なことを弁護団に教えてくれた。
鑑定が終わったら鑑定試料は、そこで捨てちゃうんだよ。そして、鑑定書には「全量消費」と書くんだ。
これは、実態をよく表していると思う。
大掃除のときまで、廃棄せずに保管していたら、大掃除までの間に再鑑定を求められたら、応じなければならない。
報道に出ている大掃除のときに捨てた。というのは「もっともらしい説明」「目眩まし」に過ぎず、実際には、鑑定が終わったら直ぐに廃棄していると推測している。