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「朝には鏡を見る折も、誰が影ならむと喜び」―――。自分でも見惚れるほどの美少女。その美しさゆえに、僅か14歳の若さで養父に犯されてしまう。それも男は酒色に溺れる以外に欲望を満たすものがなくなった鎌倉後期の退廃した宮廷の帝王だ。
明け方まで男は漁色、変態の限りを尽くして楽しんだ。美少女を一夜にして<性の傀儡(くぐつ)>に変える。乱れに乱れる美少女を眺めるのも愉悦のうち…。残酷だ。
帝王の情欲はそれでも満たされない。美少女を別の男に抱かせ、「死ぬばかりに哀しき」思いをさせて飽きない。ついに僧形の男に抱かせる。男はかねて二条に思いを寄せていた。恋焦がれ、脅迫状(起請文)まで書く。二条は脅迫状の「生まれ変わったら、そなたとともに悪道で生き続けよう」という文言に震え上がり、鼻血を出して寝込んでしまう。
だがこの悪僧、祈祷前の隙を盗み、美女を護摩壇の脇で抱く。激情の赴く存分のレイプ。
この悪僧、後深草院の異母弟・性助法親王。5歳で出家していたが、院の御所に出入り、美少女・二条に恋情を抱く。長い間、思いを貯めていた。
二条はレイプの翌朝から21日間、自分の方から男の部屋に通う。連夜。「よほど熱情にほだされたのか、それとも<法力>か」―――。JR東海の「NAVIRET」の解説は書く。
宗教学者の山折哲雄氏は言った。性助法親王は密教を極めていた。弘法大師が日本に伝えた密教。曼荼羅など法具も華麗を極めていた。それも法力を高める。
曼荼羅の描く<金剛界>。じつは男が女に没入、性の快楽が絶頂を極める瞬間という。そしてもう一つの<胎蔵界>。女が男を受け入れ、悦楽を極める境地を描いているという。男女一体の<没我>の世界。「エロスが宗教と美を結びつける」―――。それが<曼荼羅>と宗教学者はいう。
性助法親王、曼荼羅を眺め、二条を抱ける日をずっと夢見ていた。その念力が二条を激情に駆り立てる。二条は悪僧を<有明の月>と名付け、「とはずがたり」に登場させている。
不思議なことに激情の<21日>が過ぎると、二条は<有明の月>に<つれない>態度をとりつづけた。それでも院にばれる日が来る。<有明>が二条に言い寄っている現場を見てしまった。だが院、今度も怒らなかった。むしろ有明を唆した。恐るべし。
多くの男を狂わせ、多くの男から<漁色>の対象にされた二条。宗教学者の山折哲雄氏は、二条の似姿をマリリン・モンローに見出したという。
<性のシンボル>と言われた<世紀の美女>―――。マリリン・モンローも数奇な運命を辿った女性だ。最後は<自殺>―――。そう言われているが、実は<謎>だ。ロバート・ケネディが<知りすぎた女>として暗殺させたという風説は消えない。
マリリン・モンローの最初の結婚相手は大リーグの星ジョー・ディマジオ。世界中の話題をさらった。だが離婚。次は有名作家のアーサー・ミラー。これも離婚。
さらにイブ・モンタン。シャンソンの大スター。ケネディ大統領との浮名。最後が彼の弟のロバート司法長官。超有名人ばかり。多くの男が美女の体を通り抜けた。だが彼女は幸福だったろうか。山折哲雄氏は考え込むという。
「とはずがたり」の後半は紀行文。西行を慕っていた二条。旅の空で多くの歌を詠んだ。また遊女に出会うと、自分も<同類>と思い、涙で<袖>を濡らす。
そんな旅の二条が奈良からの旅の帰路、石清水八幡に立ち寄った。ここは源氏の氏神として崇められ、村上源氏の一門に属する二条は在俗のころからよく詣でていた。この時、偶然にも後深草院も来ていて、人混みの社前で二条を見出したという。劇的な<再会>だ。
「忘れざりつる心の色を思ひ知れ」と院は二条に情け深い言葉をかけた。思わず二条は泣いた。お互いに既に<僧形>―――。その姿が感情の角を丸くしたのだろうか。
「近いうちにまた会おう」と院は言った。だが「昔から他の女性より厚遇するということもなかったくせに…」と手記には書いてあるという。「本音を書くあたり、まだ生身の女性を感じさせる」とJR東海の<NAVIRET>。正応4年(1291年)、二条34歳だった。
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不思議な古典ですね 真言とセックスは深い関係がありますよね 立川流とか
2007/10/28(日) 午後 0:32
そうです!宗教学者の山折哲雄が講師を務めて「問はずがたり」を語ったのが面白い。天皇家も凄い古典を温存していた。
2007/10/28(日) 午後 0:39 [ kom*_19*7 ]