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「外交を喧嘩にした男(小泉外交2000日の真実)」(新潮社・2006年1月26日発行)を読み終わった。
意外、読売新聞政治部は<総力>を挙げて取材した記事で「リスクをとる小泉首相の大胆さと政治的勇気は並の政治家の比ではない」「戦後の日本の外交の中で、首相の個性が目に見える形で対外政策に色濃く反映した政権はない」―――と高く評価している。
その一端はもちろん<拉致>問題。「2009年9月の電撃的な北朝鮮訪問をお膳立てしたのは田中均アジア大洋州局長(当時)だ。首相は田中局長に対し『日本人を拉致した事実を北朝鮮が認めて謝罪し、拉致被害者の情報を明らかにすることが国交正常化交渉の前提だ。絶対に譲歩するな。もう一度同じことを言ってきてくれ』と再三、口を酸っぱく指示した」(10頁)という。
「相手は軍事独裁のテロ国家だ。欧米諸国との首脳会談のように周到なシナリオは準備できない。政府・与党内には、ぶっつけ本番の首相訪問を危ぶむ声が少なくなかった。しかし、首相は『拉致問題が前進する可能性があるなら、尻込みしてはいけない』と決断した」(11頁)ともある。小泉首相らしい一途さだ。
読売新聞政治部は「ぶれない」「リスクを恐れない」が小泉政治を読み解くキーワードと指摘する。火山も賛成。
だが凄いのは、この「ぶれず、迷わず、目的に向かって邁進する愚直さ」(10頁)が外務省のシナリオを大きく書き換えさせた点だ。今までの歴代の外務大臣、ほとんど個性が見えない。川口順子などその最たるもの。ただの操り人形。外務省の言いなりだった。河野洋平にしても、高村正彦にしても歯がゆいほど。
外務大臣がそうだから総理などもっと酷い。外務省のお膳立てに乗って、決められたセリフをいい、決められた文書を読み上げ、署名するだけ。だから「日本の外交は戦略がない」と諸外国からバカにされ、本当は相手にされなかった。政治も戦略も不在なのだ。
だが小泉は違った。火山にとって最も意外だったのはブッシュに対しても小泉が持論をぶつけ、主張すべきことをキチンと主張していることを知ったこと。決して単純な<対米従属>ではなかったのだ。
火山は調査報道の旗手ボブ・ウッドワードがイラク戦争に至るブッシュ政権の内幕を描いた「攻撃計画」を原書で読んだ。一昨年の5月だ。日本語の翻訳が出る4ヶ月前には読み終わっていた。それほどイラク戦争への危機感が強かった。
一番印象深かったのはパウエル国務長官と盟友のアーミテージ副長官とが、イラク開戦に反対していたこと。パウエルは何回もブッシュを諌め、更迭のウワサも出たほど。彼ら二人は、戦争が回避できないなら、せめて国連決議の後、出兵させようとした。ブッシュ以下、ネオコンが専制攻撃を決定した時でも、二人は国連外交に必死になる。アメリカが国際世論から<孤立>するのを恐れた。
火山が驚いたのは小泉首相もパウエル、アーミテージと同じ意見だったこと。小泉は開戦前にニューヨークの最高級ホテル、ウオルドルフ・アストリアでブッシュと会談した。
この時、小泉はいきなり会議室で立ち上がり、相撲の真似をしたという。居並ぶ全員が仰天。ブッシュも「何事か…」と思わず声を失った。
だが小泉は言った。「日本には<横綱>(グランド・チャンピオン)という最高位の力士がいる。『横綱は決して自分から先に仕掛けない』―――。ヤンワリと<先制攻撃>を諌めた。
「自分は歴史が好きで、明治維新もよく読んでいる。ペリーの黒船が来たあの時代、日本の国論は真っ二つに割れ、激論が起こった。幕府と薩長は鋭く対立したが、どちらも朝廷(天皇)を味方にしようと必死に工作した。玉(天皇)を握った方が勝つと知っていた。実際、握った薩長が幕府を倒し、新政府を開いた」とブッシュに語った。もちろん朝廷とは<国連>だ。ブッシュに国連外交を迫った。
読売新聞政治部は今回の取材で秘密のヴェールに包まれた外務省に食い込み、外交の真相に迫ろうと幾多の<壁>と戦った。以上のエピソードも関係者に取材を重ね、重い口裏から情報を総合、ようやく導き出したという。
もっと凄いのがイラク派兵の決定。小泉はブッシュから要請を受けても「日本が<自主的>に決める。言われたから<やる>ではダメ」と頑張ったという。関係者にも固く厳命した。「決めるべき時は自分が判断して決める」。最後まで<ぶれ>なかった。
なぜか―――。従来の外交は<追従一辺倒>…。これでは「独立国ではない」と考えていた。
もっと凄いのは「外交は<貸し>と<借り>とで成立している。アメリカに、ブッシュに<貸し>を作りたい」と考えていた。言われてやっては<貸し>にならない。したたかに計算していた。いかにも小泉らしい。
結果的にはイラクに<派兵>―――与党にも野党にも、国民には強い反対があった。だが小泉は「リスクをとる」「ぶれない」という姿勢を貫いた。<貸し>を作った小泉がブッシュに期待しているもの、それは米軍再編、基地問題の前進という。凄い。期待しませんか。
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