火山の独り言

時ならめ 風に挑みて 鯉のぼり

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梅原猛は藤原時代の書「栄華物語」の天平勝宝5年「橘卿諸卿太夫等集いて『万葉集』を撰んだ」という記事を検証、従来誤りとされたこの説は<史実>と考えた。
そして自著「水底の歌」の人麿<研究>も踏まえ、<国家犯罪者>とされた人麿を巻2の<相聞>と<挽歌>のいずれにも中心的役割で登場させたのは「彼を死に至らしめた<藤原不比等>への批判」。即ち<反藤原>と断定した。少し詳しく検討してみたい。

梅原猛は「われわれは『万葉集』の歌を考える時、単に柿本人麿・山部赤人・山上憶良・大伴旅人の歌と考えてはならない。『万葉集』には決してそのように書かれていない。柿本朝臣人麿・山部宿禰赤人・筑前守山上臣憶良・太宰師大伴宿禰旅人と、そこに記されているはずである」(「人物日本の歴史」第2巻「天平の明暗」小学館・235頁)と指摘する。

徳川時代の国文学者、契仲・真淵は柿本人麿を低い身分と考えていたが、これは誤り。
<朝臣>は朝廷第二位の身分。<宿禰>は第三位。憶良の<臣>は第六位の低い身分。また役職にも意味があるという。国学者たちの<芸術至上>主義的な見方では歌の真意を見過ごすと指摘しているのだ。

「7世紀から8世紀にかけてのこの時代は、はなはだ政治的な時代だと思う。政治的な時代において、あらゆるもの、文化的事業・宗教的事業といえども、なんらかの政治的意味をもたざるをえない」(237頁)。

この連載では「<藤>か<橘>か」と家持が越中に赴任中、幸福を呼ぶホトトギス(時鳥)を意識、盛んに歌に読んだ意味を両氏の<政争>を紹介しながら語ってきた。
天武天皇が遺した<皇親>政治は藤原一族の<律令>制定過程で骨抜きにされ、皇親系の<長屋王>や<橘>氏が抹殺されていく。まさに高度の政治的時代だったのだ。

「万葉集」巻2の<挽歌>には「有間皇子の歌に始まり十市皇女、大津皇子、高市皇子、弓削皇子など、殺されたり、自然の死でも突然の死を遂げた皇子たちの挽歌があり、ついで、人麿の周囲の人々の死を嘆いた人麿の歌が続き、人麿自身の死をめぐる歌がそのフィナーレを飾る」(269頁)。

徳川時代の「万葉集」研究を経て「人麿は舎人として持統・文武帝につかえ、のちに地方官として、近江(滋賀県)、讃岐(香川県)などに赴任、最後に石見で死んだが、その位は六位以下であると考えられているが、この考えは契仲・真淵によってつくられた考えに過ぎず、古来から人麿は三位以上の高官と考えられ、高貴な女性を犯したため流罪になったのだと伝えられてきた」(269頁)。

つまり<人麿>伝承を徳川期の国学者が歪めたのだ。「万葉集」に<朝臣>と記載されている以上、身分が低いというのは誤り。しかも「人麿は死後すぐ神に祭られるが、日本で神に祭られるのは、なにか特別な力をもった人物であると同時に、その人が殺されたり、流されたりして、不幸な死に方を遂げることが必要だった」(269頁)。

「人麿は持統4年(690)から文武4年(700)まで、持統帝に寵愛され、身分高き宮廷歌人として活躍したが、大宝元年(701)、藤原不比等政権の成立とともに追放流罪され、和銅初め、石見国で殺された」(270頁)。
梅原はこの人麿像は古くから伝えられてきたものを自分が復興したに過ぎないという。

人麿<復興>は不比等政権への<批判>。また人麿が親しかった<高市>皇子の復興。さらに<不比等>批判は現在の<仲麻呂>権力への批判であり、高市皇子の復興は<橘>氏が密かに<帝位>の座を予定していた高市皇子の孫<黄文王>の名誉ともなる。
「天平勝宝5年(753)に撰せられたと思われる原万葉集は、このような複雑な政治的ねらいをもっているように思われる」(270頁)―――。

「万葉集」は<大仏開眼>の翌年に撰せられた。これは<重要>と梅原は説く。
諸兄は自分の<井手>別邸の近くの恭仁(くに)京への遷都を図って失敗。東大寺建立による仏教支配を図って失敗した。平城京をつくった不比等に対抗できなかった。東大寺も仲麻呂に功を奪われる。
「万葉集」は<仲麻呂>勢力に対する「文化的戦い、イデオロギーの戦い」と梅原はいう。

東大寺の失敗とは何か。青木和夫「奈良の都」(中央公論社「日本の歴史」第3巻)で<大仏開眼>の盛儀について「『続日本紀』は『仏法東に帰してより、斎会の儀、いまだかつてかくのごとく盛んなることあらざるなり』と記している。孝謙女帝はその夜、12歳年長の従母兄大納言仲麻呂の邸に招かれて泊まった」(365頁)とあっさり書く。

女帝は34歳、仲麻呂は46歳。梅原はこれを<大人の関係>と見る。仲麻呂は女帝から歌をもらっても返歌しない。極めて親しいから。「女が男のところへ泊まる。もちろん男女の関係がないはずがない。そういうことを女帝は公然としたもうのである」(265頁)。
「これはすべて仲麻呂の謀略だと思う。噂されている関係を、もう公然とだれの目にもはっきりさせる。しかもこの盛大なる歴史的儀式の日に。女帝は(自分の)恋人だ」―――。
家持はもちろん盛儀に列席した。だが歌は残されていない。不思議だ。この謎は次回!

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