火山の独り言

時ならめ 風に挑みて 鯉のぼり

万葉を旅する

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鴨山の 岩根し枕(ま)ける われをかも 知らにと妹(いも)が 待ちつつあらむ

「万葉集」の巻2にある人麿の歌。詞書には「柿本朝臣人麿、石見国に在りて臨死(みまか)らむとする時、自ら傷みて作る歌一首」とある。

「人麿が石見国で死のうとする時つくった、いわば辞世の歌である。彼は鴨山で死のうとしているのである。一首の意味は『鴨山で岩を抱いて寝ている私の運命も知らずに、妻が私を待っているだろう』という意味だろう。
辞世の歌を詠むためには、自分の死をあらかじめ知らなければならない。どうして人麿は、自分の死をあらかじめしることができたのだろう」(小学館「人物日本の歴史」第一巻「飛鳥の悲歌」246頁)―――。梅原猛は従来の<人麿像>を根底から覆す<新説>を提起した。

「急死なら辞世の歌は詠めない。病気がだんだん悪くなる場合でも人はなかなか死を覚悟できない。歴史的にみても辞世の歌を残すのは死を命ぜられた場合が最も多い。『万葉集』に<自ら傷みて>と詞書があるのは死を命ぜられた有間皇子だけ」―――。梅原は続ける。

「人麿は<身分の高い>宮廷詩人。持統女帝から寵愛されたが、女帝の死後、藤原不比等に憎まれ石見国へ流刑、殺された。彼の遺体は<水底>に沈められた。その<怨霊>を鎮めるため死後<神>に祭られた」―――。「水底の歌―柿本人麿論」(岩波書店)の主張だ。
梅原猛は<法隆寺伝承>や<日本神話>の考察など<古代史>の<碩学>。だが目下、梅原の<卓説>を支持するものは歴史学者にも万葉学者にも皆無だ。

前回ご紹介した北山茂夫。「万葉集とその世紀」(新潮社)で「人麿は官位が低く病死と」説く。北山は<古代史>専門の歴史学者だが「万葉集」の研究をライフワークしている。
「偉人には<そうした>伝承がすこぶる多い。それらを<断じて>史実と考えてはならない。人麻呂の伝記資料からは全体として取り除くべきである。世間の人は他愛ない伝承に興味を持つ。<好奇の者>は伝承を種にしてロマンティックな読み物をつくりがちである」(同・343頁)とこきおろす。これが<梅原猛>批判であることは明白だ。

「柿本人麿という歌人の名前を知らない日本人は、ほとんどいないであろう。柿本人麿は「万葉集」第一の歌人、持統・文武両朝に使えた宮廷詩人、多数の名歌を「万葉集」に残し、その歌は雄渾・壮大、後世の歌人の及ぶところではない」(「飛鳥の悲歌」233頁)。

不思議なことに「万葉集」最大の歌人<人麿>の名は正史、即ち「日本書紀」や「続日本紀」には登場しない。徳川時代の国学者、僧契仲や賀茂真淵は「人麿は<六位以下の微官>だったから」と説明。以後、これが<定説>となり、誰も疑わなくなった。

真淵が<低い身分>と断定したのは「万葉集」の巻2の2ヶ所に<人麿死す>と書かれていたから。もし<五位>以上なら「正史」に現れる。<三位>以上なら「大宝律令」の規定で<薨>、<四位・五位>なら<卒>。<六位>以下のみが<死>と書かれる。

だが梅原はこれに疑問を持った。「古今和歌集」(905年)の<仮名序>に人麿は「おほきみつのくらゐ」即ち<正三位>と書かれていたからだ。また<真名序>にも<柿本太夫>とあり、<五位>以上の扱いを受けている。
「古今和歌集」は人麿が死んで200年後のもの。まだ人麿の記憶が新しく、その伝承が人々の間に生きていたに違いない。真淵の18世紀は人麿の死から1000年も離れている。

だが真淵の「人麿は<六位>以下」という<説>は、その後も充分な考察を経ないまま、次々と人麿<定説>を生み出していく。たとえば人麿に近江(滋賀県)、讃岐(香川県)、石見(島根県)の歌が多いのは「<地方官>だったから。位は<掾>(じょう・三等官)か<目>(さかん・四等官)だ」というのだ。
宮廷詩人で活躍した頃の人麿は「草壁皇子の舎人」というのも根強い見解。そこから死の年齢は<50歳>以下と導かれた。舎人には年齢制限があるからだ。

だが梅原猛は以上のような<定説>は「江戸期の契仲や真淵らの<誤解>が生み出した<虚像>で人麿の<実像>を伝えていない。<誤謬>だ」と断定した。
梅原の<新説>は「万葉集」の理解を根本的に変える<驚天動地>のものだ―――。

今日今日と わが待つ君は 石川の 貝に交じりて ありといわずや(妻依羅娘子)
荒波に 寄り来る玉を 枕に置き  われここにありと 誰か告げなむ(丹比真人)

人麿の<水死>は<妻>の上記の歌を読めば分かる。「今日は帰って来るか、来るだろうかとおもっているあなたは、石川の貝に混じっているというではありませんか」―――。歌意はこうとしか読めない。
人麿は既に死んでいる。遺体が貝に混じっているというのは海か川の底に沈んでいるのだ。

次の<荒波に>もおかしい。丹比真人は人麿の親友だろう。人麿に代わって歌っている。
「荒波が打ち寄せられる玉(石)を枕に、私は海の底に沈んでいる。『私はここにいる』と妻に言いたいが、死んでいるのでいえない。誰か妻に知らせてくれる人はいないだろうか」という意味だろう。

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