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「<コスト意識>優先のグローバル・スタンダードが<日本の風景>を破壊している。コンビニやマクドナルドがどこの町も<同じ顔>にする」――。NHK「クローズアップ現代」<残したい日本の風景>で立松和平(58)が指摘した。
立松和平は<自然環境>保護に取り組む<行動派>作家。1980年「遠雷」で<野間文芸新人賞>を受賞、1997年、「毒―風聞・田中正造」で毎日文化賞を受賞している。だが彼の意見には賛成できない。
彼のような<思索力>がある人間もコロリと騙される。<自然環境>を破壊しているのは日本の政治なのだ。<農村>の破壊が<日本の風景>を破壊している。<真犯人>は<補助金>を食い者にしている<族議員>と<農協>そして<農水官僚>なのだ。
榊原英資はかつて<ミスター円>といわれた有名人。大蔵省国際金融局長、財務官を歴任、1999年からは慶大教授も勤めた。彼の近著「分権国家への決断」(毎日新聞社)はなかなかの力作。「今、必要なのは、地方からの<革命>である。日本に巣食う<利権構造>を<解体>せよ」。それが「日本再生の突破口」と訴えている。
「(自民)党と官庁、そして利益団体を結ぶ利権構造の中心にあるのが、実は、日本型中央集権システムの特色である中央の財政(地方交付税交付金や国庫支出金)による地方の支配であった。中央が補助金によって地方を縛るというこのシステムが、事業の効率を低下させ、また族議員たちの跋扈を許してきたのである」(25頁)。
「宮城県知事、浅野史郎は『補助金分配は<悪>の根源』と最近の新聞インタビューで次のように語っている。(補助金は国会議員の口利きの温床だ、との問いかけに対して)口利きもそうだし、(政官業)ぐるみ選挙、官官接待、そういうドロドロしたものの温床ですよ。知事選の時、私への批判の中に『知事の役目は補助金とって来ることじゃないか。中央とのパイプがなければいかん』というのがあった。そういう古い政治手法としがらみを断ち切るためにも補助金制度は改革すべきですね」(44頁)。もちろんこれは榊原英資の意見だ。
平成14年度の農林水産省の予算は3兆1905億円、その64.5%の2兆654億円は補助金だ。「小泉政権を揺さぶったスキャンダル、狂牛病・雪印問題も、実は極めて根の深い制度・構造問題である。表層的には論点は雪印食品の詐欺あるいは虚偽表示等の法律違反だが、より深刻な問題は雪印グループを含む食品加工業が農林水産省の強い規制下にあり、規制や補助金を通じて半永久的癒着構造が農水省と業界の間に出来上がってしまっていることである」(45頁)。弊害の一端…マッキンゼー(世界的コンサルタント企業)の試算がある。
「日本の食品加工業の生産性のレベルはアメリカの39%、フランスの41%に過ぎない。低生産性の主要な原因は、関税等の輸入制限と極めて零細で細分化された日本の小売業にある。関税が低い植物油(関税0〜5.3%)は86%と比較的高いが、輸入制限が厳しい牛肉加工業(関税40.4%〜50%)は42%と低いレベルにある」(103頁)――。「輸入と流通にかかわる様々な規制が競争意欲を削ぎ、生産性を低下させている。こうした規制の背景には食品加工業・流通業に対する様々な補助金がある」(同)――。
地方の商店街がシャッターを降ろしたゴーストタウンに化しているのは過去、規制と保護に甘やかされ、国際競争力を失ったから。日本の農業も競争意欲のない<小規模><零細>農家が多い。<集約化>や<意欲と能力>のある<担い手>の<育成>を怠ったからだ。農水省は1995年、ウルグアイ・ラウンド対策で日本農業の<国際競争力>を強化すべく6兆100億円の補助金を獲得。2000年が目標の<満願>年だったが、補助金は田んぼの区画や農道、農業飛行場の建設(ゼネコン向け)につぎ込み、肝心の<担い手>は定義すらできなかった。
農協が<補助金>を通じて農水省、族議員と<癒着>、<既得権益>としてきたからだ。生産性の低い農家は<補助金>獲得の<口実>に使われたに過ぎない。補助金のためには<弱者>が必要。これからも<強者>=能力・意欲ある<担い手>は不要なのだ。日本の小売業にも食品加工業、農業にも<競争>はなかった。<保護><規制>だけがあった。国際競争力が育たなかったのは<育て>なかったのだ。
農業を<守る><関税>は…コメ<778%>、コンニャク<1706%>、落花生<737%>というから仰天。日本の農業はまるで<国際競争力>がない。日本米のコストは10キロ<2500円>。米国産は<660円>というから驚く。4倍近い<コスト>。日本の消費者は<割高>のコメを食べさせられている。WTO(世界貿易機関)と協定を結ぶと『国内農業は打撃を被り、国土の荒廃を招く』と農水省幹部はいう。だが――。上記の実態、歴史的経緯をよく噛みしめてほしい。
榊原英資はかつて野口悠紀雄(早大大学院教授)と日本の<1940年体制>がいかに戦後の日本を支配したか研究した。日本は「資本家が自由かつ恣意的に活動を許す古典的な私的利益追求主義の資本主義ではない」(114頁)と定義する。「日本は、数少ない成功した<社会主義>国家である。日本の資産・所得<格差>は先進資本主義国の中で、北欧のような規模の小さい国々を除けば最も小さい」(113頁)という。<ミスター円>――国際通の榊原英資の言葉だ。
(平成18年5月5日)
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