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1月13日の「日本経済新聞」<社説>―――。「企業業績の好調が続く中、今年の賃金交渉は例年になく注目されている。経営側と労働組合側を代表する日本経団連と連合の両首脳は、11日の経団連・労使フォーラムでそれぞれ基本方針を表明し、15日には首脳懇談会を開いて意見を戦わせ2007年春季交渉の口火を切る。労使に求められるのは、経済の拡大基調をいかに持続するかというマクロ的な視点である」と始まる。
「<労使>に求められるのは<経済>の<拡大基調>をいかに<持続>するか」―――。火山が待ちに待っていた<テーマ>だ。飛びついて読んだ。
何しろ火山、今を去る47年前、入社試験の社長面接で「景気を良くするにはどうしたらよいか」と問われ、即座に「<賃上げ>が一番です」と大真面目で答えたのだ。
火山、マルクス経済のゼミに所属していた。「資本論」を読み「労働者の窮乏化法則」に凝っていた。簡単にいえば資本主義が<独占資本>段階に入ると<貧富の格差>が極大化、窮乏化した労働者が耐えがたくなって<革命>を起こすというもの―――。
ケインズも読んでいた。<有効需要>の法則。資本主義の発展には<有効需要>が決め手。
消費者が買物すれば景気が良くなる。実際、1940年、大蔵大臣補佐官になったケインズは国民に「不況だから買物一杯をしてください。景気が良くなる」とラジオで呼びかけた。
マルクスに聞いてもケインズに聞いても<賃上げ>しかない。火山は<熱弁>を振るった。だが社長は<首を傾げた>―――。火山はますます頑張った。同席していた人事課長はハラハラしたに違いない。何しろ一次で合格にしたのは人事課長だから。責任重大だ。
頑張れば頑張るほど社長は首を傾げた。でも火山は気がつかない。社長が言った。「それじゃあ、景気は良くならない…」。それは<経済学>ではない。「理論的には正しい」―――。
火山は大真面目だったが、相手が<経営者>であることを忘れていたのだ。
社長面接が終わった途端、人事課長が飛んできた。「一つだけ確認したい。君、思想は大丈夫か」―――。実は入社したら労働運動をやるつもりだった。充分<危険>だった。でもそれを言ったら終わり。今まで受けた各社で全部落とされた。見破られていたのだ。
火山、とっさに<大丈夫です>と答えた。<採用>―――。でも人事課長も考えた。配属は<人事課>。労働組合に入れない。今も考える。どう答えれば良かったのだろう。
今回は天下の「日本経済新聞」。火山の<正論>を支持してくれる。そう思った。だが…。
「少子高齢化が急ピッチで進む今、働く人たちの意欲を維持する分配は同であるべきか。生活と調和する働き方をいかに実現するか。社会全体を視野に入れた交渉は、企業の長期的な成長を可能にするはずである」と<社説>は続いていた。
「賃金は高いほど、働く者は<意欲>が高くなる」という主張だ。だが労務管理、人事管理の専門書にはそんなことは書いていない。研究の成果はまったく違うのだ。マズローの<欲求5段階>説というのがある。人は何によって働くのか。労働<意欲>を掻き立てられるものは何か。インセンティブ(動機づけ)となる要因は何か。
人間が行動を起こす。働くのは自分の<欲求>を満たしたいから。第一は<命>を保つ。健康に生きたい。<衣食住>の欲求。これが最低限満たされないとダメ。だか第一段階の欲求は(1)生理的欲求。―――最も基本的なもの。
これが満たされると次の段階(レベル)を求める。―――(2)安全の欲求。治安や平和がほしい。危険に常にさらされては困る。安心、安定したいのだ。
これが満たされると次が(3)社会的欲求。<家族>や<仲間>がほしい。グループや集団に所属したい。そして自分の<居場所>がほしい―――。
更に高い次元の欲求が(4)自我の欲求。自分の存在を確かめたい。認めてもらいたい。最後の<最高の欲求>は(5)自己実現の欲求。才能や力を生かし、家族やグループ、職場や企業、国家に貢献したい。生きがいを得たい。「人はパンのみにて生くるにあらず」。高い報酬や賃金は必ずしも<自己実現>の欲求を満たさない。ここを間違えてはダメ。
「経団連はグローバル競争への対応を重視して臨んでいる。御手洗富士夫会長は11日の講演で『依然、わが国は世界的にトップクラスの賃金水準、高コスト体質という構造的問題を抱えている』との認識を示し、『賃金水準を一律に引き上げる余地はない』と言明した。
さらに『企業労使共通の課題は労働分配率の分母である付加価値の増大だ』と、労働分配率の引き上げには否定的だ」と続く。だがここに解決すべき大きな<問題>がある。
日本は<内需>が少ない。国内の市場は小さい。勢い海外に<市場>を求める。米国はじめ世界中で<貿易摩擦>を起こしてきた。米国はずっと<内需拡大><市場開放>を求めてきた。ほとんど世界中からの<外圧>だ。<国内需要>が少ないから<不況>に悩む。対策が<公共事業>。結果、GDP<2倍>の借金を国と地方で抱えてしまった。大問題だ。
「連合の高木剛会長は『生産性向上を唱導するのは大賛成だが、成果はステークホルダー(利害関係者)に公正に分配すると労使で約束したはずなのに、経団連ビジョン<希望の国、日本>には書かれていない』と反発した」―――。この指摘は正しい。しかし、実は<約束>の問題ではない。<総資本><総経営>として<国内市場>拡大を目指す時だ。
これこそ<マクロ>の視点。<意欲>とか<約束>の問題ではない。<経済><景気>の問題として経団連は真剣に考えてほしい。これは<個別資本>の論理では解決できない。
(平成19年1月13日)
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