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「わが国における年金制度ははじめから国民のためのものではなかった。同制度を導入した厚生省の初代年金課長の花澤武夫氏は『労働者年金保険はドイツ社会保険の実例に鑑み、勤労力の増強と浮動購買力を吸収してその巨大なる資金を国家的に動員することを目標とし、之が目的達成の手段として、社会保険の制度の活用を企画した。(中略)即ち新しい日本的年金保険は敢て社会保険たるを要しない』と自著(1944年刊)の中で語っている」(「文芸春秋」7月号・106頁)。資金集めが目的。福祉政策ではないというのだ。げっ!
岩瀬達哉「年金消滅の主犯を暴く」(「文芸春秋」7月号・106頁)も書く。「横領、癒着、怠業……もはや国家的詐欺行為だ」。岩瀬達哉はいい加減なジャーナリストではない。
「文芸春秋」が2004年5月に企画した「<年金食いつぶし>官僚弾劾裁判」で堺屋太一(作家・元経企庁長官)や金子勝(慶大教授)と討議した堂々たる論客。その堺屋太一も岩瀬論文と同じ7月号に「団塊世代の一票が日本を変える」を寄稿している。
「参院選の争点は年金問題だとマスコミは報じ、与野党双方が激しい応酬を繰り広げていますが、この問題の本質は日本の官僚がいかに無能、無責任、無駄遣いであるかを国民に分りやすい形で露呈させたことです。官僚は年金データの記録と管理という極めて単純な作業さえできないほど無能です。そして記録漏れという事故に対して、呆れるほど無責任です。その上、莫大な年金運用資金を大規模保養施設『グリーンピア』をはじめとする無駄な投資に使ってきました」(95頁)。まさに胸のすく鋭い<指摘>だ。
「<記録漏れ>が5095万件!<未入力データ>が1430万件!」―――。これでは堺屋太一でなくても「無能、無責任、無駄の官僚を駆逐せよ」と絶叫したくなる。
悪名が日本中に轟いた社保庁<年金オンライン>システム。導入が計画されたのは1974年(昭和49年)田中角栄首相の時だ。厚生大臣は福永健司。年金掛け金をコンピュータ経費に流用するという<覚書>が社保庁長官と職員組合トップ、自治労トップの3者<密約>で交わされた時の首相は大平正芳、厚生大臣は野呂恭一。以降、掛け金の流用は青天井。
この時点から堺屋太一のいう<無駄>が<青天井>―――。加えて岩瀬達哉のいう<癒着、怠業>も始まる。システム設計を担当したNTTデータには1兆418億円が見積書もなく支払われる。<言いなり契約>!まさに癒着。毎年10人前後の高級官僚が天下る。
加えて職員組合は凄い<怠業>を勝ち取る。「オンライン端末の1人1日の操作時間は平均200分以内とし、最高300分」「職業病予防の観点から45分操作15分休憩」―――。
「せっかくのオンライン化投資も、これではまったく有効活用できない。むしろ、組合側は<死蔵>させることに一生懸命だったことになる。『実際、自治労国費評議会の勢力の強かった関西方面の社会保険事務所では、オンライン化されたあとも、窓口端末機を使わせないために風呂敷をかけていた』(社保庁幹部職員)」(7月号・112頁)。
当時、職員組合(国費評議会)も上部団体(自治労)も<合理化反対>闘争に熱心だった。合理化反対というと正当な組合活動のように聞こえるが、彼らが勝ち取った<密約>の中身は<年金掛け金の流用>と<面倒な仕事をしない>(怠業)の二つだ。以降、<流用>され、<消滅>した年金は総額9兆3684億9089万3909円(岩瀬達哉「年金大崩壊」講談社・244頁)―――。国会審議も閣議決定もない。社保庁長官と職員組合トップ、自治労トップが<勝手>に<密約>した。厚生省の年金局長、事務次官は知っていたのだろうか。
厚生大臣の野呂恭一にしても、首相の大平正芳にしても「知らなかった」ではすまない。
掛け金<流用>と<合理化反対>に名を借りた<怠業>!この<密約>こそ諸悪の根源だ。
1997年に導入された<年金基礎番号>。こればかりが<槍玉>に上る。企画時の厚生大臣は<菅直人>。実施時の厚生大臣は<小泉純一郎>なんてのはピンボケもいいところだ。
「コンピュータ投資は一般財源で賄うべきで<掛け金>を<流用>するのは筋違いではないか」(108頁)。岩瀬は辻哲夫・厚労省年金局長(現・事務次官)に質したことがある。
「年金加入者に受給資格があるかどうかを裁定する作業なども裁定のスピードアップが一種の福祉サービスという考え方で福祉施設費(掛け金)が投入されているコンピュータを使っている」(109頁)と辻局長。要するに<受益者>負担。掛け金で払って当然だという。
だが記録漏れだけでも5095万件。何がスピードアップか。またNTTデータに払った1兆418億円という法外な費用。社保庁運営部の十菱龍企画課長(現・年金積立金管理運用独立行政法人理事)に質したこともあったという。
「NTTデータのシステムはごく初期の段階から2001年のシステム変更までDIPSという大型コンピュータを使っていた。これは80年代に開発されたもので、骨董品とまで揶揄された代物だ。日進月歩のコンピュータの世界で、20年も前の思想で造られたハードを01年まで使っていたのである。これは単にNTTデータに言われるがまま、われわれの掛け金で大盤振る舞いを続けてきたということであろう。当時、十菱課長は困惑の表情を浮かべながらもこう強弁した」(110頁)。
「年金というのは大事な国民資産ですから、運営に少しでも誤りがあってはなりません。われわれとしては安全性、信頼性を何より重視せざるを得ない。その意味でNTTデータさんが提供してくれるシステムを評価します」(110頁)―――。ズサンな混乱が赤裸々に
った今、大ウソもいいところ。<無能、無責任、無駄>なんて甘いものではない。
(平成19年7月24日
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