火山の独り言

時ならめ 風に挑みて 鯉のぼり

ピアノの歴史

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「1830年にパリで起きた7月革命は音楽史的にも非常に重要な意味を持っていた。<革命>とはいっても7月革命は決してギロチンなどといった血なまぐさいものではなく、上流ブルジョワによる無血革命。つまり金持ちの商人や法律家や銀行家――いずれもサロン文化の担い手だった成金たちである――が、反動的なシャルル10世を追放して、自分たちの言いなりになるルイ=フィリップを国王に据え、金持ちによる傀儡政権を樹立した革命だった」(伊東信宏編「ピアノはいつからピアノになったのか」大阪大学出版会・184頁)。

1830年から次の革命の起こる1848年までの時代が<7月王政>の時代。実質的な支配者は国王ルイ=フィリップではなく、「尊大で悪趣味でブランド好きの成金たちであり、一種のバブル時代が始まったのである。音楽史的には7月王政はグランド・オペラの隆盛とヴィルトゥオーソの黄金時代の到来を意味していたのである」(185頁)―――。困ったことに、これが火山の趣味。まさに火山が好きなショパンの世界なのだ。

1831年3月9日、ヴィルトゥオーソ・ピアノ音楽にとって<衝撃>の出来事が起こる。「悪魔に魂を売って魔術のような技巧を手に入れた」と噂された稀代のヴァイオリニスト<パガニーニ>のリサイタルがパリで開かれ、それを<リスト>が聴いたのだ。
この時、パガニーニ48歳、リスト19歳。若いリストは<人間離れ>したパガニーニの超絶技巧に驚嘆。パガニーニが見せた<ヴァイオリン>のテクニックを<ピアノ>に移植しようと試みた。翌年、リストが書いたのが<ラ・カンパネッラによる幻想曲>だ。

「リスト以外の誰が鍵盤楽器からあのような効果を引き出すことを考えだろうか。<ラ・カンパネッラ>の技巧がなかったら、それ以後のピアノ音楽のレパートリーは存在しただろうか。ピアノ演奏技巧の歴史にまったく新しいページを開いた作品であった」(185頁)。リストのピアノ(作品と演奏)がヴィルトゥオーソであったことは紛れもない。

だが1831年9月、もう一人のヴィルトゥオーソがパリにやってくる。ショパン21歳だ。
「ショパンとリストという二人の天才――彼らがいなければ<ヴィルトゥオーソの時代>は永遠に到来しなかったことだろう――が開花するのが1830年代のパリである」(184頁)。だが重要なのは<ヴィルトゥオーソ>が、いつの時代にもあったのではないということ。

「それは歴史的な現象、極めて19世紀的な現象であって、舞踏会とワルツと馬車が象徴する古き良きベル・エポックの時代の申し子」(175頁)だったのだ。しかも「そこに集う紳士淑女は決して<本物の>貴族ではなかった。フランス革命のどさくさに紛れて一代で財産を築き、金で貴族の称号を買ったような成金たちこそ、サロンの主役」(176頁)だった。

「金と権力」「豪奢」「金メッキ」「シャンデリア」「ろうそくのきらめきと火花」「恋と冒険」―――。この<成金的性格>こそ「サロン/ヴィルトゥオーソ音楽」の本質だった。「ショパンの感傷と気取りと慇懃。リストの軽薄と誇張と華麗」(178頁)―――。
何から何まで貴族の真似をしたがる成金たち。そして彼らの妻や愛人や娘たち。彼らは皆、何かしら自分を<ハイソ>な気分にしてくれる音楽を求めた。

7月王政時代のパリ社交界最大の事件が1836年のマイヤーベーア(1791〜1864)のオペラ<ユグノー教徒>初演だった。マイヤーベーアは忘れかけられてはいるが、19世紀で最も人気のあったオペラ作曲家。甘ったるいメロディと豪華絢爛たる彼のグランド・オペラは今で言えば豪華なハリウッド映画。ブルジョワたちはこぞってそれに群がった。

1831年、パリにやってきたショパンも11月21日に初演されたマイヤーベーア<悪魔ロベール>の初演を見て、その感激を家族に手紙で知らせている。
こうした時代の雰囲気に最も<敏感>に反応したのが、意外にもベートーヴェンの弟子カール・チェルニー(1791〜1857)。ピアノ<教則本>で有名な、あのチェルニーだ!彼は「細かい音階や分散和音を至る所にちりばめ華やかな跳躍パッセージやスタッカートを縦横無尽に駆使する<真珠のパッセージ>を10代の弟子リストに徹底的に叩き込む。

「われわれが相手にしている聴衆は玉石混合であって、その大半は感銘を与えるよりもアッといわせる方が容易な連中だ」(183頁)。
チェルニーの薫陶を受けたリストは1923年、12歳の若さでヨーロッパの中心だったパリへ旅立つ。そのリストが<パガニーニ>のヴァイオリンを聴いて驚愕。<人間離れ>した超絶技巧に<悪魔の魂>を見た。それをピアノに移し替えたのが<ラ・カンパネラ>だ。

リストはやがてマリー・ダグー伯爵夫人と恋に落ち、スイスへ駆け落ちする。リストから<当代随一のピアニスト>の座を奪ったのが、ジギスムント・タールベルク(1812〜1871)。「ダイヤモンドのカフスボタンをつけて弾くので有名な伊達者ピアニストの売り物は<タールベルクのハープ>という技巧。両手を駆使、低音から高音までハープのようなアルペジオを縦横無尽に奏でる。右手と左手でもって交互に中音域のメロディを弾く<曲芸>のようなワザ」(188頁)。まるで3本の手で弾いているように聴こえ、大評判になった。

タールベルクの評判を聞きつけたリストは<ナンバー・ワン>ピアニストの座を奪われてなるものかと、すぐパリへ引き返す。かくて1737年3月31日、イタリア貴族クリスティーナ・ベルジョイオーソ侯爵夫人のサロンで行われたのが音楽史上に名高い二人の<決闘>だった。二人の間に飛び散った強烈な<ライバル意識>の<火花>はまた次回!!
(平成19年9月6日)

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まるで映画を見ているようで、続きが楽しみです。

2009/5/31(日) 午前 10:45 chacha

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<ボンジョルノ>の<ひろりん>さん、ボンジョルノ(ようこそ)!

すっかり続編を書くのを忘れていました。失礼しました。もう一度、当時の情熱を思い起こし、続編に挑戦します。少々お時間をください。

2009/5/31(日) 午後 1:07 [ kom*_19*7 ]


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