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「ハープでもムリなく奏ける曲。音楽に深いものがある。途中で出てくる短調には心を打たれます。シンプルだが美しいメロディー。最後に再び長調になる。6分位の短い曲だが、いろいろ場面が変わって新しい風景がぱっと出てくる。様々な感情が表現されている」―――。本日のゲストはハープ奏者の吉野直子。
本日の一曲は「幻想曲」ニ短調(K397)―――。即興演奏のように自由に構成され、憂いを秘めた美しい旋律。現存する楽譜は97小節までがモーツアルト。「以降の10小節は偽作」と西川尚生「モーツアルト」(音楽之友社)はいう。
1783年夏。モーツアルトは貴族の子女のピアノ教師を務め落ち着いた暮らしを立てていた。
長男もスクスクと育っていた。モーツアルトは愛する妻や息子を父レオポルトと姉ナンネルに引き合わせたいと考えるようになった。初めての里帰りだ。
だがモーツアルトには大きな不安があった。3年前、激しい衝突をした大司教コロレド。昔の君主から厳しい咎めを受けるのではないか。それを恐れていた。ウィーンの友人たちも皆、モーツアルトに忠告をしたという。
「愛するお父さん、そしてお姉さん。最愛のお二人がいらっしゃるのでザルツブルグへの帰郷を考えています。もしお二人がいなければ、わざわざ旅をしようとは思いません。多くの人たちがボクを不安に陥れています。あの大司教が何をしでかすか…」(1783年7月5日の父への手紙)―――。
父親からは帰郷を促す返事が来た。モーツアルトはそれでも不安だった。「妻は美人ではないので、お父さんに気に入ってもらえないのではないかと心配しています。どうか外面ではなく美しい内面を見てやってください」―――。
コンスタンツェもモーツアルトの姉ナンネルに手紙を書いた。「尊敬するお姉さま。―――あなたの<忠実な義妹>コンスタンツェ・モーツアルト」(1783年7月19日)。
モーツアルトの最愛の妻コンスタンツェ。彼女が初めてモーツアルトの姓を名乗った手紙という。―――久々の帰郷。父と姉との再会が迫ってきた。
「モーツアルト生誕250年」の昨年、3月から10ヶ月書き溜めた「毎日モーツアルト」(BS)。今となっては貴重な記録。同名の書庫に195編が眠っています。
(平成18年6月9日)
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