火山の独り言

時ならめ 風に挑みて 鯉のぼり

「『ダス・ゲマイネ』との再会」

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高校3年の昭和30年10月。筑摩書房から「太宰治全集」が刊行された。全12巻を予約、毎月1冊、箱入り豪華装丁の新刊を読み始めた。我が青春の記念碑。大事業だった。ある作家の全作品を読んだのは太宰治ただ一人。最初の配本の「思い出」に国語教師から太宰が聞いた赤い糸の話があった。私たちの右足の小指には目に見えない赤い糸が結ばれていて長く伸び、もう一端がある女の子の同じ足指に結びつけられている。私たちはその女の子を嫁にもらうことに決まっているという。

今回、五所川原の家内の姉が太宰の生家に案内してくれた。車で20分、金木町が買い取り、今は太宰治記念館「斜陽館」。貴族院議員の父親が明治40年(1907年)に建てた。1階11室、2階8室、泉水を配した庭、敷地680坪の豪邸。小作300人以上を持つ大地主、金融業も営む大金持ちだったのだ。

家内は太宰と同じ津軽の人。案内の姉も太宰に深い愛着と誇りを持っている。太宰の長兄・津島文治は長く青森県知事を務めた。姉は自分の家族のように語る。家内が数年前、太宰の作品を夢中になって読み始めた。妹の伴侶(義弟)の父親が太宰の親友だったからだ。義弟の祖父の屋敷は太宰の生家の対面にあった。今はその一部が記念館の駐車場になっている。大地主で呉服商でもあった。

その義弟が上京する。家内は義弟が両親と過ごした新大久保の旧居の辺りを案内したい。義弟は一人っ子。両親を乳児の頃亡くし、伯母に育てられた。父親の記憶は全くない。幼時の頃のことは何も知らされていないのだ。家内は、そんな義弟(妹の伴侶)のために、太宰の作品から父親の足跡を探そうと思った。半狂乱のように「全集」全12巻を読み始めた。本来、無茶な話だ――。
<つづく>――。この作品、はるか昔に書いたもの。「書庫」に眠っていました。

(2009年8月5日)


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