火山の独り言

時ならめ 風に挑みて 鯉のぼり

悲劇の大津皇子

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うつそみの 人にあるわれや 明日よりは 二上山を 弟世(いろせ)と我が見む(大伯皇女・巻2−165)

「いかにも大和を大和らしくしている山が二上山だといっていいだろうか。二上山を見ないと大和へきたという気がしない」(中西進「万葉を旅する」ウエッジ・192頁)。だから二上山を見ていると「大和に抱かれているという安らぎ」を感じるという。

大和にいると、太陽は二上山を目がけて沈む。古代人は太陽が入っていく門を想像していた。だから二上山は<落日の門>でもあった。大和の旅の果てに、そんな夕景を眺めるのも、神話に満ちた古代への思いを深くする。

二上山は、そうして眺めると二つの頭が並んでいる。だから見る人々に大津皇子と大伯皇女の姉弟を連想させる。二人は幼くして母(大田皇女)を亡くした孤児。義理の母(讃良皇女=母の妹、後の持統女帝)から迫害されたあげくころされてしまったのだから、これ以上の演出効果はない。しかも弟は容姿端麗、文武に秀でていた。姉はまた神に仕える聖女(斎宮)でことのはか弟思いだった。心惹かれる日本人が多くて当然だ。

姉は「幽明堺を異にした今、山を弟と思おう」と詠う。自然と人間が一体だった古代。自然信仰が働いていた。しかも二上山は<妹背>(いもせ)の山が合体している。雌岳を自分、大津の墓のある雄岳を「いとしい弟と思おう」となる。

大津と大伯の母大田皇女と、大津のライバルだった草壁皇子の母・讃良皇女はともに天智天皇は娘。二人とも天智の弟・大海人(後の天武)の后となった。大田皇女は姉で天武の第一の后だった。だが早く世を去ったため妹・讃良の子<草壁>が1歳年長だったこともあり、天武天皇の10年(681年)に<皇太子>の座を得た。

だが草壁は病弱だった。才能豊かで人望のあった大津皇子を天武は愛していた。草壁<立太子>の2年後、天武は大津を太政大臣待遇で<朝政>に参与させる。これが皇后(讃良。後の持統女帝)の憎悪を生んだ。
天武天皇の14年(685年)9月、天武が病臥すると、皇位の問題は切実となった。翌年、天武の病状はさらに悪化した。7月15日、天武は「天下のこと、大小を問わずことごとに皇后と皇太子に申すように」との<詔>を下した。

「この詔がどのような経緯によってなされたかは分からないが、鵜野(讃良皇女の別称)・草壁合作のはかりごとであったかも知れない。とにかくこれによって大津皇子は朝政参与の場を失ったことになる。皇子は窮地に陥ったわけである」(木俣修「万葉集・時代と作品」78頁)。

天武天皇は9月9日に崩御。それからわずか22日後の10月2日、大津の<謀反>が発覚、翌3日には死を賜るという事態が生まれた。
占いをよくした新羅の帰化僧・行心という怪しい僧が謀反を唆した。川島皇子(天智の遺児)が<誣告>したとの説もある。だが天武死後、「愛する我が子・草壁即位の<邪魔者>と大津を見ていた」のは皇后(後の持統女帝)だ。
皇后は天武崩御と同時に自らを正式に<皇后>と<称制>、天皇権力を引き継いだ。そして天武死後わずか<23日>で大津皇子を処断してしまったのだ。

大津は風雲急を告げる中、ひそかに伊勢に下って、伊勢神宮の斎宮となっていた姉・大伯皇女に会っている。斎宮の任を解かれた大伯皇女が大和へ戻った時、大津は既にこの世の人ではなかった。それが頭書の歌を生んだのだ。

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