火山の独り言

時ならめ 風に挑みて 鯉のぼり

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昨日(1月6日)の火山、夕方16:00からお出かけ…。上野の東京文化会館を目指した。「小澤洋介チェロリサイタル」――。18:30開場。19:00開演…。「J.ブラームス(1833〜1897)。ドイツロマン派の美のただ中を生きた作曲家。19世紀前半にハンブルグに生まれ、世紀末ウィーンで没した。世の中は華やかなオペラやフランスもの、そしてワグナーの音楽がもてはやしたが、彼はひたすら文学を愛し、ロマン派の美を極限にまで高めた作曲家だった」――。チェロ奏者「小澤洋介」自身の筆になるプログラム紹介…。

年の瀬、テレビに登場した<葉加瀬太郎>が言っていた。「なぜかブラームスが一番好き…」。えっ、と思ったが、分かる。あの<彼>にしてブラームス。いや、あの彼だから…かも。どっちにしても<喜寿>を迎えた火山、理解できる。愛妻を残して早世したR.シューマン(1810〜1856)。ブラームスは恩師の妻クララに恋をする。でも内気なシューマン、打ち明けられない。悶々とするだけ。クララの方が「焦れったくて見ていられない」とコボす。

クラシックを聴く姿勢が火山、変化したらしい。「昔の恋人」から誘われ、みなとみらいでコンサートを楽しんだ。「恋人」と言ったが、一度もデートしたことがない。火山も内気。76歳にして初めてのデート。でも家内の手前、最初で最後。つまり、今生のお別れ!

彼女が「ロマン派は…、バロックは…」と口にした時、ハッと気づいた。「最近、何でも聴くようになった。バルトークでも現代物でも…」「それはそうね。私も同じ…」と彼女…。彼女は火山に合わせている。彼女らしい気配り。半世紀を経ても彼女は変化していない。<片想い>だから深い交際はない。でも<気心>は通じてしまう。不思議だ。

「元旦の穏やかな気分を言いあらわして絶妙な文章が、作家の吉田健一にある。おせち、といってもゴボウやサトイモ、コンニャクの煮しめなんぞを肴に、ゆっくりと飲む朝の酒。まあ、何のことはないが『それはほのぼのでも染みじみでもなくてただいいもの』なのだ。
▼『もし一年の計が元旦にあるならばこの気分で一年を通すことを願うのは人間である所以に適っている。その証拠にそうしているうちに又眠くなり、それで又寝るのもいい』(「私の食物誌」)。独特の吉田節だが、これぞ正月というものだ」と「日経」コラム<春秋>…。

「どんな時代でも、けさのこの心持ちがずっと続いてほしいと人は望みをかける」と<春秋>。だが火山のデートは呆気なく終わってしまった。「ずっと続いてほしいと人は望みをかける」とコラム…。やはりフィクションの世界。だが<現世>は無情、厳しい――。

「▼世の中は、けれど現実の世の中はそんなささやかな願望もなかなか叶えてはくれない。景気はどうなる?ニッポンの財政は?少子高齢化著しい社会をどうする?などと考えたらお屠蘇が苦くなるかもしれない。いや、そういう天下国家の問題だけでなく身辺の苦労はあれこれ尽きぬ。平凡に過ごすことが難しいのだ。▼明治のコラムニスト斎藤緑雨が、実は1900年の元日に書いている。『家内安全、商売繁盛、願ひは平凡なるものなり』『平凡なる願ひのために、平凡ならざる闘争をつづけて、人は顧みざる者なり』」と「春秋」…。

「114年たっても人間は変わらない。平凡を求めて七転八倒の図をいとおしみ、こころざしを胸に、さてもう一杯」と「日経」コラムは終わる――。だが「ちょっと待った」!「平凡を求めて七転八倒の図」とは何のことだ。<平凡>でさえも「求めても、求めても、得られない。だから<七転八倒>」といいたいのか。恥ずかしながら火山、<平凡>など求めたことはない。だから<片想い>もする。届かぬ<恋>もする。見果てぬ<夢>も見る。

「天下国家の問題だけでなく、身辺の苦労はあれこれ尽きぬ」と「春秋」…。だが火山が最も気に入らないのは、次――。「家内安全、商売繁盛、願ひは平凡なるものなり。平凡なる願ひのために、平凡ならざる闘争をつづけて、人は顧みざる者なり」(斎藤緑雨)――。どういう意味か…。「平凡」なら「平凡」にやれば済む。なぜ「非凡」な闘争を続けるのか。気づかない人類は<阿呆>と、いいたいのだろうか。「平凡」に「非凡」では<採算>が合わない。これを<不経済>という。<ムダ>という。もっと賢くなれ、ということか。

「この国民にして、この政府あり」(福沢諭吉「学問のすすめ」)――。明治5年(1872)初版。ベストセラーとなり、日本の<老若男女>10人に1人が読んだ。それから141年。国民は変わったのか。政府は変わったのか。小泉純一郎元首相が「原発ゼロ」といっても「政府」は動かない。「国民」も動かない。非凡な努力はゼロ…。さてブラームス――。

「ブラームスは2曲のチェロソナタを作曲しているが、このソナタは番外編。バイオリンソナタをチェロ用に作曲者自身が書き換えたもの。とても個性的で器楽のためと言うより歌曲のような内面性の音楽である。ただでさえ繊細な曲をバイオリンでなくチェロで弾く。しかもト長調をニ長調に下げるので、オリジナルのバイオリンのそれに比べピアノパートがぐんと低いのでたじろぐ」と、チェロ奏者の小澤洋介が「解説」に書く――。

「しかし、このソナタはブラームス自身が望んで編曲したもの。クララ・シューマンが愛した歌曲『雨の歌』を題材にしたこのソナタ、ブラームスにとっても特別なものだったに違いない」と続く。ブラームスは愛するクララのために<非凡>な目標を見つけ<非凡>な努力を払ったのでは、ないか。報われぬ<愛>には、何か「非凡」なものがある――。「ゆっくりと飲む朝の酒。まあ、何のことはないが『それはほのぼのでも染みじみでもなくてただいいもの』なのだ」(「春秋」・元旦)――。だが火山、糖尿の疑いで酒も飲めない。
(平成26年1月7日)

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