火山の独り言

時ならめ 風に挑みて 鯉のぼり

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「何が女たちを狂わせたのか。彼が脱ぎ捨てた手袋を奪い合い、花束の代わりに宝石が投げ込まれ、舞台に花吹雪を降らせるために、街中の公園から花がむしりとられた。ある街では、彼とその子孫を王族とする国までも創られようとした。すべて、たったひとりの人物のために、である。その人物とは、フランツ・リスト」(新潮新書・3頁)――。

「過去から未来における、すべてのピアニストを凌駕し、その頂点に君臨する史上最強のピアニスト…」(同・3頁)――。フランツ・リスト(1811〜1886)は「ハンガリーのピアニスト・作曲家。ベルリオーズを継承して標題付交響詩の形式を確立、また、ピアノ演奏技術を改革してその表現能力を拡大。作『ハンガリー狂詩曲』など」(新村出編「広辞苑」岩波書店・2313頁)――。引用しながら火山、いささか、ビックリしている。なぜか?

「交響詩『前奏曲』」…。「『ピアノ協奏曲』第1番・変ホ長調」…。「ハンガリアン・ラプソディ」…。「愛の夢」…。「ラ・カンパネラ」…。いずれも若き火山を<熱狂>させてきた<名曲>ばかり――。ショパン、ベートーヴェン、モーツアルト、シューベルト、ブラームスと並ぶクラシックの<巨星>!お馴染み過ぎて、改めて<語る>必要もない。そう思っていた。もう、優に<半世紀>!いや<60年>を超えるお付き合い――。だが…。

「とにかく、モテた。肖像画をみれば、それもうなずける。端正な顔立ち。引き締まった口元。強い意志を感じさせる眼差し。深く、吸い込まれるような瞳。ただのイケメンではない。ピアノに向かえば、圧倒的な超絶技巧と、夢見るような甘い旋律に誰もが息をのみ、聴衆の心をわしずかみにした。ヨーロッパ中の女性たちが、ひとりの男の足元にひれ伏した。彼の演奏に涙し、胸をかきむしられ、失神した」(同・3頁)――。知っていることばかり、とも言えるが、改めて<話せ>と迫られると、ちょっと困る。

中学時代、<カッサン>というアダ名の「音楽教師」がいた。「リストには卓越した<天才>と、どうしようもない<低俗>とが同居している」と話していた。不思議なことを言う。そう思っていたが、リストを聴けば聴くほど、これは<至言>だ。カッサンも天才かも…と思い始めた。カッサンからはマージャンの手ほどきを受けた。親友に誘われるまま、夜、宿直のカッサンを訪ね、<カマス>というアダ名のイケメン<体育教師>と彼、火山の4人で一夜、マージャンに興じた。彼<古川凱章>は早大卒業後、<プロ雀士>になった。

「1970年に阿佐田哲也・小島武夫と『麻雀新撰組』を結成」と「ウィキペディア」――。彼<凱章>も、天才だったのかもしれない。火山はショパンやベルリオーズの方が好きになった。ベルリオーズの「幻想交響曲」の手ほどきを受けたのは、バロックの大家として若き日から有名だった<皆川達夫>――。<慶応高校>の音楽教師だった。今は<左手のピアニスト>になった<館野泉>は<慶應高校>の1年先輩。皆川達夫のお蔭で火山、まだ<無名>だった館野泉が弾く「展覧会の絵」を聴いた。忘れ得ぬ<思い出>だ。

「少年リストの、ウィーンでのデビューコンサートは、空前の大成功だった。『われわれのなかに神あり』という賛辞で締めくくられた演奏会評…。11歳の天才少年のニュースは遠く離れたポーランドの都ワルシャワにも伝えられた。天才少年として活躍していた12歳のショパンの演奏会評に、ウィーンを揺るがしたリストが登場する」(新潮文庫・25頁)――。

「1827年8月28日、少年リストの人生を揺るがす大事件が起こる。父アダムの急死である。15歳の少年が、見知らぬ土地で、父親という巨大な存在を失うことが、どのようなことか。ただ、ここからの彼の行動は、少年とは思えないほど迅速で的確、男性的だった。一人で父の葬儀を済ませ、演奏会の収益金を整理、父の借金を返済、アパートを借り、姉の家に身を寄せていた母親を呼び寄せ、ピアノ教師として身を立てる」(同・33頁)――。

多忙な日々の中から、淡い初恋が生まれた。生徒の一人サン=クリック伯爵令嬢カロリーヌとの恋愛。だが母親の伯爵夫人がなくなると父・伯爵は二人の交流を絶ち切ってしまう。若い二人には身を引き裂かれる痛み…。後年、恋愛遍歴に明け暮れたリストだが、この恋は忘れられなかった。49歳の1860年に書いた遺言書には「お守りがはめ込まれた指輪を、カロリーヌに遺す」(同・35頁)と記されていた。父の死と、淡い初恋の終わり――。

だが「彼は猛烈な読書に耽っていた。聖書、モンテーニュ、パスカル、ラ・ロシュフーコー、カントなどの古典、哲学から、ピエール・シモン・バランシュ、フェリシテ・ドゥ・ラムネー、シャルル=オーギュスタン・サント=ヴーヴ、ヴィクトル・ユーゴーなどの宗教思想・文学まで、それは実に広範にわたっている」(同・37頁)――。

「1830年、19歳。パリ7月革命起こる。革命をきっかけに(リストは)立ち直る。12月、ベルリオーズの『幻想交響曲』を聴く。1832年、21歳。2月、ショパンのパリ・デビュー公演を聴く。4月、パガニーニを聴き、圧倒的なヴァイオリン奏法に衝撃を受ける。超絶技巧への目覚め。12月、マリー・ダグー伯爵夫人との運命的な出会い」(同・205頁)。

「サロンに颯爽と登場したリストは、ただの美青年ではない。いざピアノに向かえば、凄まじい集中力から発せられる響きの洪水に社交界の名士たち、とりわけ淑女たちは圧倒された。『彼がサロンに入ってくると、まるで電気ショックが走ったようだった。婦人たちは、ほぼ全員が立ち上がり、どの顔にも陽が射しているようだった』――。『マッチ売りの少女』などの童話や『即興詩人』で有名なデンマークの作家アンデルセン」(54頁)の言葉だ。
(平成26年6月30日)

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