大陸にて

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 いま辺見庸の『死と滅亡のパンセ』186頁を読み終わったばかりだ。
 今日書店に届くことはわかっていた。金がなかった。ヘルパーに3000円。予備2700円。本は1315円することを聞いて矢も盾もたまらず書店に走ったのが午前10時。買ってきて読み始めた。すぐに狂と怒りと嘆きと呻きと失語と阿鼻叫喚と静謐と正義と不正義とそのほかありとあらゆる言葉に身を持っていかれた。昼食をはさんで読み続けた。居ても立っても居られない気持ちに巻きまれつつ読書は続いた。辺見庸氏はちょっぴり狂っていた。正気のままで。怒りがあった。特に言葉に対する怒りがあった。これほどまでに下落した言葉のこの国での価値に、怒り狂っていた。半ばあきらめているほかないという結論さえ聞いた。
 大震災を扱った本である。
 その後の我が国の体たらくを告発した激越な書である。
 私は飲みこまれ、翻弄され、同意し、同意し、納得し、わが意を得たりと快哉を叫び、新しい見方に興奮し、文字通り、10時半から昼食をはさんで4時半まで、荒波の中を突き抜けた。
 後数章というときに郵便物が落ちる音がした。
 私は目を青空にやって休めようと思った。
 外に出て空を眺めた。雲ひとつない青空であった。
 私は歩き、掲示板に行き、掲示物を読んだ。警察が呼び掛けていた。みんなで心を合わせ、犯罪の無い、安心した地域を守りましょう。子供を守りましょう。
 泉町はいつもの通りの景観を保っていた。洗濯物の翻り、車が1台通り過ぎる。中学生が喋りながら自転車で通り過ぎていった。
 私は青空を再び見た。何か異変を見たかったのかもしれない。しかし泉町の景観も青空もどこまでも同じで、いつもの通りで、空は抜けるように青いばかりであったのだ。
 引き返して来るときに逆光に不思議な老女が歩いてくるのを見た。
 足を引きずって、何となく頼りない。なにか異物を視るかのように私の興味を引いた。私は家に向かい、振り返り道を歩く老女を待った。
 ピンクのカーディガン、黒いショール、黒いズボン、頼りなげであるが、普通の老女であった。
 私は書斎に戻り水を一杯飲んでまた読書を始めた。
 初出誌の年代を知らないから本を読み進めるばかりである。
 幸いに最後の数章は、もはやあの荒れ狂う辺見庸氏は居ず、静謐なしかし痛切な文が続いた。
 私は読み上げ、冷蔵庫から冷たい水を持ってくると、一杯飲んだ。
 それからこのブログを始めた。
 再読、再再読をしなければならない。
 内容の紹介は先だ。
 ただ震災ごの日本の現状をこれほど鋭く、深く抉り出した書物を私は詠んだことがないと感想を述べ、とにかく読み終わったので、報告します。
 個々の問題はいずれこのブログでも触れると思います。
                                                    (完)

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