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紀伊国屋殺人事件があって、1カ月が過ぎようとしていた。 |

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紀伊国屋殺人事件があって、1カ月が過ぎようとしていた。 |
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いつもの朝に目覚めるのは神耳涼子(きじりょうこ)にとって一番の楽しみだ。時折り、自分が階段の下にうずくまったり、押し入れの中に眠っているのに気づくことがあるからだ。 |
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多賀錠は景山誠の腿に手をそっとやり、肩を軽く叩いた。誠は茶色のタウンシューズを車から降ろし、そのまま振り返らずに歩いて行った。淀川を右に、十三大橋を過ぎ、すべてを無視していた。 |
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女は眼鏡をかけ、色白の顔をヘルメットで覆い、赤いセーターを長く洗い晒しのGパンの上に垂らしていた。セーターの下にはTシャツで、ノーブラだった。
大阪市西成区の下宿を出て、――小さく狭い部屋だった――岸の里の駅を天下茶屋に向かう南海電車の線路に向かっていた。 夏は本当によかった。暑くて、何もかも忘れ去ることができた。Tシャツの下がノーブラであっても、誰もそんなことに構わなかった。女も男も。 大学時代の頃を思い出していた。海のことや、あれらの日々の炎や、煙。 ヘルメットは意思表示だ。 月はちょうどハーフ・ムーン。 白い街灯は通りを夢の町のように、どこにもない、例えば、地図にすら載っていない町、夢の中にいるようだった。 雑貨店、牛乳屋、パン屋。すべてが海の上に建てられた彼女だけに作り出された町の中の店。海の上の娘。彼女は何度死のうとしたことか。だが、海は彼女を永久に生かし続ける。船乗りは気をつけなければ。 なぜなら、彼女は船乗りの夢の中の娘、遭難して海の中に沈んだいたいけな娘たちを哀惜する船員の想像の中で作り出された娘なのだ。 いつか気づいてくれますように。 それはある特別な船乗りのためでもあり、さらにまた、すべての船乗りのための意志表示なのだ。 このぼんやりした、身体の浮き上がるような感じ。これは多分、本当に私が海の上の少女であるからかもしれない。 ただ、狭い道の、軒の低い商店街の向こうのハーフ・ムーンとだけ彼女は追っかけっこしている。 あれらの日々。あの時はさしづめ太陽、月。 心はもう何処かへ彷徨い、ただ浮き上がり、そして海の泡に翻弄される。 路地をいくつも抜けた。少しずつ、自分のスニーカーの音が気になる狭い家並み、軒の低い人家の路地にさまよいこみ始めた。 月は私を見ている。 血は騒がない。ちょうど月の蒼ざめた光のように冷静だ。 神耳夏江は向こうから聞こえてくる南海電車の音をようやく聞いて、ヘルメットをもう一度押さえた。 運転士は赤いヘルメットをかいま見た。しかし、もう遅かった。ガツンという音に彼は手、足、頭が四散し、血がべシャッと窓ガラスにうちつけられて、一面の視野が真っ赤になるのを感じた。 1968年1月18日、南海電鉄天下茶屋駅構内で、春木発難波行き臨時急行電車が、天下茶屋発堺東行き回送電車と、午後5時15分正面衝突した。乗務員、乗客、約千人が重軽傷を負った。 彼女はそこに含まれていた。
(続く)
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