大陸にて

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パラダイス・シャッフル

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ホロウは作業室の机に両足を挙げ、ウィスキィを飲んでいた。
 あの三人からは何の便りもなかった。無理ないことだが。今頃男と女と子供の母親とでもいっしょに暮らしているだろう。助けてくれたお礼をしたかったが、あの男が拒否するだろう。
 議員はとうとう正気には戻らなかった。組織は潜った。いやもともと潜っているのだ。我々“狼”のように。
 月にはこれから異星人がやってくるだろう。ヒィ=シィが死んだことを聞いて。もっと巧妙に。現に対策室が立ち上げられた。彼はその一員だ。巻き込まされる予感がする。
 彼女の葬式には幾多の人が詰めかけた。ホロウは片隅で大きく拡大された彼女の顔を見て、その薄く引き締まった唇と、優しい目のバランスをただじっと眺め、式が終わるころになっても一人残り続けた。
 彼女と再会した時、パーティ中破れたワード・バルーンは実はホロウの制作したものだった。倒れた男は酒を飲み、どこかへ行くと浮浪者に言う。皆は知っているが口を出さない。もちろん階段の途中とは天国への階段の途中だ。
 今頃彼女はどうしているだろう?
 ホロウは「天国への階段」をフル・ヴォリュームで聞いていた。ウィスキーを流し込んだばかりに。
 付記
 レッド・ツェツペリン・「天国への階段」訳詞
 
輝くものすべてが黄金であると信じている女性がいる
 彼女は天国への階段を上りたくてそのチケットを買おうとしている
 売り場に着いたら
 全部閉まっていても一声かければ
 目当てのものは手に入ると知っている
 そう
 彼女は天国への階段のチケットを買おうとしている

 壁には貼紙がしてある
 でも彼女ははっきりさせたい
 言葉には時々裏の意味もあるから

 そうだろ?
 小川のそばに木があって
 そこで鳥がさえずる
 おれたちの思いなんてみんな疑わしい 
まったく、不思議だ

まったく、不思議だ
西の方を見やるといつも何かを感じる
おれの心はここじゃないどこかへ行ってしまいたいと泣き叫んでいる
思いの中で
木の間に煙の輪を見た
そして
立ち尽くして見ている人の声を聞いたことも

まったく、不思議だ

まったく、不思議だぜ
ささやきが聞こえる
おれたちがあの調べを歌えば
笛吹きがおれたちを連れていってくれて
理性にもどれるって
立ち尽くして見てるだけの人たちにも日が昇り新しい日がやってくるって
そうしたら森は笑い声で満ちるだろうなって

きみん家の生け垣の茂みにガサガサ音がしたってびっくりなんかしない方がいい
メイクイーンのために水まきをやってるだけなんだから
引き返すにはたしかに二つの道があるさ
長い道中
いま進んでる道を変える時間はまだあるんだ
それも、まったく、不思議だな

君の頭の中はぶんぶんいってうまく働かない

わかんないかもしれないから
笛吹きが一緒に行こうって呼んでるのさ
ねえ、ご婦人、風の音が聞こえます?
それに知ってました?
天国への階段はささやき吹く風の上に乗っかってるんです

そして
曲がりくねった道を進んでいって
影がおれたちの魂より大きくなったとき
おれたちみなが知っているあの女が歩いているのに出くわす

白い光をまばゆく輝かす
その示すものを見たらいい
そこにあるものすべてが黄金に変わる様子を
もし心を込めて聞くなら
調べが悟りとなる
すべてのものが一つであり一つのものがすべてであると
揺るがないそのままが自然だってことが

彼女は天国への階段のチケットを買っている        

5
極度に圧縮された言葉が方向性を持って室内の強化ガラスにぶつかった。ひとたまりもなくガラスは粉々に砕け、その夥しい破片がヒィ=シィの背中を針鼠にした。マルはさっと立ちあがり、最後ともいえる力をタメにして体をヒィ=シィに叩きつけた。よろめいた。足が机の端にぶつかり、スローモーションのように、ヒィ=シィはホロウの破った窓から身体を波打たせながら倒れこんだ。
 「マウスを!」
 ホロウは叫んだ。マルは窓を超え、ホロウの戒めを切り離した。
 「殺せ! 殺せるものなら殺せ!」
 すっかり目の据わったコナカはギラギラと輝く目で、マルが革の紐を切り離す間も叫んでいた。
 ヒィ=シィが立ちあがり始めた。
 「マウスを!」
 マルはナイフを深々と首に差し、ヒィ=シィの手に握られたマウスを取ろうとした。羽根の一撃がマルを打とうとしたが、今度は逸れた。マルはナイフでマウスを握った右手を切り離した。
 緑色の血がどっと噴き出た。
 ホロウの後、議員は叫びながら部屋を出された。
 ヒィ=シィは立ち上がり、雄叫びを上げた。
 男は鋭い爪の間からマウスを取った。
 スイッチを押した。
 虹色の美しいレーザーが交錯し、黄と紅と緑と紫と白と黒と藍との光が溢れた。
 一瞬だった。
 ヒィ=シィはレーザーに無数の穴をうがたれてしばらく形をとどめていたが、やがて細かくばらばらになって部屋に崩折れた。

 「ありがとう。助けてくれて」
ホロウはマルに言った。
 マダムの声が悲しげに聞こえて来た。
 「リト、死んじゃったわ」
 マルはリトの方に行った。
 「でもリトのままよ。鳥でなく。母親の血を引いたのね」
 マルはリトの身体を抱き上げ
 「行こう」とマダムに言った。「お母さんのところに持っていく。もうすぐ警察が来る」リトを抱き上げ三人は部屋の外に向かった。倒れていたホロウが声を掛けた。
 「あんたの名は?」
 「必要ない。ワードバルーンの塵芥屋だ」
 「あんたひょっとしたら」
 「何だ?」
 「OASじゃないのか?」
 「何故そう思う」
 「その銃」
 「趣味だ。OASなんかじゃない。行くぞ」
 「分かった。ありがとう。警察はまかしておいてくれ」
 二人、いや三人が出ていく。ホロウは苦痛に耐えながら、コナカの方へ歩いていった。彼はぶつぶつと何か呟いていた。いずれ正気に戻るときはあるのだろうか。戻っても彼のたくらみは厳罰に当たるだろう。
 ホロウは議員を見下ろしていた。
 大勢の人の足音が迫ってくる。
                             (完・エピローグに続く)
 

4
「母は貴方の帰りを待ち続けた。あなたが必ず帰るから、という約束をしたからだ。僕は母のために農園を出る決心をした。農園でヒィ=シィが玩具の形で流行し始めたという噂を補給員から聞いて、あなたがその背後にいるのを知ったからだ。僕は補給員に尾いてゆき夜の闇の中に潜り込んだ。何かの機会を掴めるとW・Cで職を得た。詳しいことは話さないよ。着いてほどなく僕はあなたがこの闇と光の月の世界のずっと上にいることに気付いた。何故なら僕は知っていたからだ。ヒィ=シィ=は人類より数次上の存在であるし、やみ難く忌まわしいs征服欲を居座らせているのを自分の中に認めたから」
 ホロウはペンの頭部を加えた。ちょうどその時、目の前のぐったり崩おれている議員と同じ存在がいつのまにか大きな鳥の姿を取っているのに気づいた。一方より一回り大きい。
 「息子か。ああ、かけがえのない私の後継者だ。私の触れる女性はすべて石女になると思っていたのに・・・・」
 ヒィ=シィは一歩足を進めた。
 「すべてが良し、だ。これでこの宇宙を何のためらいもなく支配できる。私とお前で」
 「あなたは残忍だ。母を捨てたのもあなただ。人間だって自分たちで殺し合いはしたにしろ少なくとも自分たちの力で歴史を作ってきた。あなたはワード・バルーンという逃避の手段で人々を混乱させ、殺し合いを利用して他人の歴史をそのまま利用するつもりだ」
 ホロウはどこからともなく送られてきた方程式の書かれた一枚の書式を思い出した。その方程式を解くとワード・バルーンが出来た。
 その機能を極限に推し進めたワード・バルーンの操作機に口の端が触れた。
 「そんなに人間の肩を持ちたいなら私はこのパラダイス・シャッフルの一万本の鞭を使う。部屋の二人は死ぬ。それでも…」
 突然銃声が炸裂した。ヒィ=シィの羽に吸収され、彼は静かに立っていた。手に持った闇をひそめたマウスもそのままだ。
 マルは一瞬のたじろぎを利用したかったのだ。飛び上がりヒィ=シィの首にナイフを突き立てた。同時に足を払った。
 ヒィ=シィの首から緑色の血液が噴き出た。軽く羽を払った。
 マルは壁に叩きつけられた。マダムはそれを見て首に向かって、出力を最大限に上げたレーザー銃を放った。レーザーは逸れた。
 ヒィ=シィはマルに歩み寄った。子はその背中に自らをぶつけ、首を掴んでねじった。長い、不気味な、人間の誰にも理解できない類の叫びがヒィ=シィから漏れた。

 ホロウは操作機を口に咥えた。そのままゆっくりと口に中に入れ、舌でスィッチを探った…

 その悲鳴は苦痛からでなく、悲しみに満ちて発せられたものだった。ヒィ=シィは、羽で子を払い、もう一撃でその首を折った。子は崩折れた。

3
「何だ!」
 議員か誰か叫ぶのがホロウに聞こえた。ガラス越しに議員の姿が揺れた。ナンバー1は動揺を見せずに静かに立っている。
 

 よくテレビで見かけるコナカ議員とナンバー1が立っていた。マルは銃を腰に構えて広い室内を見渡した。リトの姿はない。ガラス張りの向こうの部屋に男が二人向き合って座っている。手に何か黒いものを握っている。一人は知らない影。一人はコナカ議員だ。マルは目の前のコナカと部屋の中のコナカとを見た。そっくり、瓜二つだ。そしてナンバー1を見た。
 マルは微笑んだ。
 「殺れ!」
 議員の姿をしたヒィ=シィが妙に上ずった声で叫んだ。
 ナンバー1は振り返って、議員=ヒィ=シィに低い少年の声で言った。
 「殺るのはお父さんだ」
 驚きなのだろう。ふっと議員の顔がずれ、位相を変え、形ないものとして揺れた。
 「お母さんを襲わせたね。あなたの送りこんだコウモリ連中の手で」
 ナンバー1は一瞬のうちに姿を変えた。
 黒い翼と白い嘴、ヒィ=シィに。
 議員は突っ立っていた。
 「十年以上も前、あなたが突然疲れ果てた鳥のみすぼらしい姿で家にやって来たのを覚えている? あのときお母さんは貴方を介抱し、何も聞かずにあなたが元気を取り戻すまで食事を与え、世話をした」
 議員はホログラム・ゴーストのようにその姿が揺れていた。
「あなたは人間に姿を変えいつの間にか姿を消したが、そのときどんなお礼をしたのか今わかる。母は僕を生み、そしてあなたの帰りを今も待ち続けている。僕は小さな鳥の姿をし、母が人々の姿をしているのを何にも不思議とは思わなかった。僕と母はパラドから二千キロも離れた農園で自給自足の生活をしていたから。−とき折り、一年ごとに補給員が来てその時だけ母は僕を隠した。でも僕はやがて何にでも形を変えられるのを知ったので、少年の姿を取ることにした。補給員の持ってきた本の中に少年が書かれてあったから」
 ナンバー1は殺したんだな、とホロウは思った。こいつの手で。そして議員よりこの議員の姿をしたヒィ=シィがすべて取り仕切っていたのだ。あいつを殺すことが彼女の鎮魂のため、そしてこの苦痛を逃れる唯一の方法だ。
 ホロウは胸ポケットに差しこんだ筆記具に頭を下げていった。ワードバルーンの製造ぺんだ。

2
議員の顔をしたヒィ=シィが言った。
 「私はどんな姿にでも変身できる」
 ホロウは彼女との後追い心中だと思った。然し彼女のことを考えるだけで、激しい怒りが吹き出た。ホロウはマウスのスイッチを押した。
 コナカが悲鳴を上げた。スーツの肩の下を緑色の光がつきぬけた。
 「いいな」
 ヒィ=シィは人懐っこい笑顔を見せた。
 「白状してくれたら、この姿で指令を出して君は解放してやる」
 コナカは叫んだ。
 「この日和見野郎と一緒に地獄へ行くさ!」
 コナカはまた悲鳴を上げた。
 彼の左腕に直径五ミリの穴が開いた。
 ホロウは押した。
 黄色い炎が頬を貫通した。信じられないくらいの苦痛だった。
 「一回だけだ。何度押しても一本の光しか出ないよ」
 「お前のスィッチを押せ」
 叫んだ。
 「殺してやる。お前を殺してやる!」
 小中の声は狂おしかった。
 炎が机とホロウの靴を貫通し、親指を貫通した。
 どっと苦痛とそして憎悪が吹き出た。
 彼はマウスを握りしめた。

 マルは扉を開け、モーゼルをネズミたちに撃った。
 廊下は突然灰色の塊で埋め尽くされた。十メートル先でコウモリが声を上げた。
 鼠はそちらへ向かった。三人が慌てふためくのが見えた。
 「顔はおっかないけどやっぱり鼠は苦手なのね」
 「ここにじっとして」
 男は腰を低くして走りながら、モーゼルのトリガーを引いた。初速540メートル・秒の弾丸が一人のコウモリの頭を貫き、脳漿が飛び散り血とともにべったり壁に張り付いた。ショットガンの弾丸は鼠のせいでとんでもない方へと飛んでいった。走りながらマルはフル・オートで三発その男の胸に打ち込んだ。目の前の男の腰に銃を押しつけトリガーを引いた。こもった音がして弾丸の衝撃で男の腰が半分千切れた。扉のノブに弾丸を撃ち込む。
 

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