大陸にて

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白い選択

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白い選択完結編

 「その前にまずこの世界を作ること。この世界は本当に、かっての世界でぼんやりただ日々を生き延び

るといったときに許されていたような甘えは許されない。この世界もあの世界と同じように、ただ平凡で

退屈な日常が続くと思う。でも大切なのはこの日を凌ぐこと。

 蜥蜴や蛇を捕まえて飢えを満たすのに私は必死だった。その中に何の意味も見出さなかったけど、それ

が日常というもの。重いとも馬鹿馬鹿しいとも思わない。要するに、さりげなく、この日々を耐えるこ

と。そして絶対に、わたしは絶対にというわ、そうやって耐えているうちに、何かを会得するはずだわ。

 そして本当に気をつけねばならないことは、日常は脆い、ちょっとした衝撃で粉々に砕けるものだとい

うこと。貴女は今確固とした世界の中にいるように感じているけれども、以前の世界よりはずっと危ない

世界の中にいるの。なぜなら貴女は『想像』の世界にいるのだから。

 以前の霧の中でも貴女は、現実が砂のように崩れていくのを酒のせいで感じたと思う。


でもこの世界ではあなたが明晰でない限り、貴女の世界が端から輪郭を失っていく。貴女は最終的には宙

ぶらりんになってしまう。そうしないためには、貴女の意識を明晰にすること―小さな、些細な、日常の

ことを大切にすること……ちょうど、星の王子様がバオバブを退治したようにね」

 「でも、何をどう創造したらいいの? この砂漠で? 一人ぼっちで?」

 「貴女が作品を創造するのではない。作品が貴女を創造するのよ。その原稿、あなたが手に持っている

原稿を読んでごらんなさい」

 わたしはすっかり忘れ去ってチェアの下の床においてあった原稿を取り上げて、ためらいながらその白

いおもてをくった。

 「白い選択」

 という題名があった。

 私は二枚目を開いた。

 「私は夢から覚めたようにまじまじとあたりを見廻し、そして手元のナイフとフォークを見た。一瞬の

感覚はわたしは眠っていたんだという確信だった。それがベッドとうす暗い室内の代わりに、眩いくらい

明るい部屋とテーブルの前でシチューと鶏肉の唐揚げを前に坐っていた。まだ噛み切れない肉の塊が」

 私は慌てて原稿を閉じた。

 私は混乱し、途方にくれた。読み進むのが、心底から怖かった。

「X−12の世界になれるのには時がかかるの。時間も空間も想像を絶している。

 でも、本当に分かってほしい。彼が言ったように、私たちはもう彼から離れたのよ。まるで不条理、そ

の事実も、この世界も……でもそれは、私たちが負わなければならない重荷。」

一つの終わりそして始まり
 
彼女はわたしの家に三日滞在した。私たちは思い切り語り合い、ときには左の掌を軽く合わせもした。三

日後、彼女は去った。

 わたしは彼女が去って何日か経って「白い選択」の原稿を完成されたものとして、すでに過去のものと

して、書斎の机の元の抽斗の奥深くしまいこんだ。

 残されたことは「引っ掻く」ことだ。そう、「創造」なんかよりむしろ、ペンで「引っ掻く」という言

い方がわたしは好きだ。

 内部のわたしのダイナモは働いているか?

 こればかりはペンを「引っ掻き」始めないとわからないので、厄介だ。

 でも、もう題名は決まっている。

 「神々の糧」。

 読者は?

 ―そう、彼女がいる、彼女というわたし自身が………

                               (完)

白い選択20

 「もっと続くのよ。あの人が辿って来た遠い星の一生や、銀河の生誕から死までや」彼女が言った。

 「でも大切なことは、彼が宇宙空間を漂流している死骸だということ。燃え尽きた抜けがら。最後のエ

ネルギーを振り絞って、さっきは出てきて、そして私たちを同調させた」

 「X−12は?」

 「あれは彼がわたしたちが本当に彼の束縛を抜け出させるために、死ぬ前に細工したの。彼は恐ろしく

親切だわ。と同時に怖いけど」

 「それからどうなったの?」

 「わたしは元の砂漠に帰れた。風の娘にも再会した。そして私はいまのこの能力を知った。私は風の娘

にあの人の言っていたことを直接教えた。私たちは独り立ちしなければならないって」

 「あなたは死に、甦り、そしてあなたの人生を生きる。たぶん伝道師としての人生を。でもわたしは?

わたしはこれからどうしたらいいの?」

 「わたしには砂漠がある。と同じように、貴女には『創造』があるわ」

 「でも私には読者がいない。私ひとり。創造を分かち合える他人がいない」

 「耐えること、わたしのように。私が苦労したことを忘れないで」

 「いつか誰かが現れるということね?」
                                (続く・次回完結)

白い選択19

 「そうやってX−12の世界で死んだら、わたしは無の中にいた。

 意識だけがある。そしてその他には何も無い。風も、空も、草も、砂漠も、花も、何も、およそこの生

に付随する、雨も、臭いも、土も、木の葉のさやぎも、何も無い。目と耳と鼻をもがれ、自ら動くことは

できず、見、聞き、匂い、触ることはできない。そこで意識だけがある。意識だけが冴え渡る。

 蛇が自分の尻尾を呑み込むような、自意識のどうどうめぐり。どのくらいの時間続いたかわからない。

地獄だった。それは19世紀のロシアの作家が、地下生活をしている男に語らせた地獄に似ている。でも

わたしの場合、それは十万倍も増幅されていた。

 私は眠ることも許されていないから、明晰な意識ではっきりとその人の声を聞いた。百万年、いや一億

年目だった。

 <われ深き淵より呼ばれたり>

 そう確かに聞いた。でもそうじゃなかったのかもしれない。何かの応答、何かの微かな囁きとでもいっ

たもの。意識の存在を知らせるものだったかもしれない」

 「神よ! 神に違いない!」

 「あなたがいろいろ想像する前に、直接知ってほしい。立って」

 わたしは立った。彼女も立ち上がり、左腕をゆっくり上げた。

 「すぐにその人の意識が直接私の中に入ってきた。それがわたしを一杯にした。そしてその意識は今で

も私の中に残っている。誰とでも分かち合うことができる。あなたも左腕を上げて、わたしの左の掌を貴

女のと合わせるようにして」

 わたしはおずおずと、伸ばした左の掌を彼女の掌に近づけた。触った瞬間、パチンと火花が散ったよう

だった。そして、その人の意識がわたしを一杯にした。

 ハンショク二千ねんまえからジカンはカンケイない二オクネンまえから20の100ジョウノグウ

ゼンでウまれたセイがここにシュツゲンしてイライわたしはハンショクしたセイがわたしだイきとし イけ

るものがわたしだセイあるものスベてにスみついたきみがなぞったシンカのすべてのミチスジをその

セイあるもののコタイのスベテがたどった一つ一つをスベテ100チョウのセイそのカコからゲンザイまで

の一つ一つにヤドリアジわいつくしそのセイをいきたそしてシんだディキンソンはわたしだそのハゲしさ

はわたしだったキれナガのメのかのじょもわたしだそのサビしさがわたしだオナジクキミもわたしだわた

しはタンセイセイショクだキミタチスべてがわたしのブンレツしたジガだクローンニンゲンだわたしのサ

イボウのしかしもっとそれイジョウのものキミタチジシンがわたしジシンのナカでムサボリツクサれても

ナオイキルわたしはこのウチュウのチツジョとソンゾクをはかるチカラソノチカラの一つのアラワレにス

ギナイソレをキミタチはカミと

 私は耐えきれず掌を離した。

白い選択17

 私は話を中断するにも構わずに、気になったことを聞いた。

 「あの、切れ長の目の、白い部屋に住んでいた女の子は?」

 「あなたがパーティであった娘」

 「でも飛び降りた後のあなたは私です」

 「衝撃で本来のわたしに戻ったとわたしは思う。このX−12の世界では、それを飲んだ人にとって、

記憶や幻想や夢が大きく干渉してくるみたい。あなたはたまたま記憶のパーティの娘を選んで、白い部屋

で長い時間を過ごした。その時には、貴女にとってはあの娘が最高だった」

 「詩を毎日書いていた娘」

 「そう。あなたにはやっぱり、何とかしようという意欲があったと思う。詩を書き続けることがあなた

にとって何よりも大切だった。それが白い部屋の机にも、何にも書かれていない原稿用紙にも出ていた。

あなたはあそこで、世界を驚かせる詩を書き続けるつもりだった―でも、本当はそれは表層の、仮の言い

訳だった。

 隠されたところに、死への衝迫があった、憧れが。自殺未遂のあの娘には死のイメージが満ち満ちてい

て、それをあなたは心の奥底、タナトスの導くままに選び、死を計画していたといっていいと思う―あな

たの詩は、あの世界でもそうだったように、挫折する運命にあった……

 何かしら? あなたを、そしてわたしを、こんな深い絶望、そして死へと駆り立てるものは?

 答えなくてもいいわ。わたし自身も少しづつ分かってきているみたいだから……

 わたし達がくり返しくり返し読んだ、カミユの『異邦人』にあるあの文章。

 『人生が生きるに値しない、ということは、だれでもが知っている。結局のところ、30歳で死のう

が、70歳で死のうが、たいした違いはない、ということをわたしは知らないわけではない。というの

は、いずれにしたところで、もちろん他の男たちや、ほかの女たちは生きてゆくだろうし、それに何千年

もそうしてきたのだから。要するにこれほど明らかなことはないのだ。今であろうと、20年後であろう

と、死んでゆくのは、同じくこのわたしなのだ』

 あの世界そしてあの時代ではそんな風に、何か、徹底した虚無、しかし能動的な、強い虚無があなたを

支配していた。そのせいで貴女の処女作は時代の虚無と合致した。しかし時代が平穏になり、貴女の深い

虚無は行き場を失った。あなたは心の表層だけを時代のつまらない軽い風潮に合わせ、深い意識では垂直

に心の奥深くへと降りたっていった。そのためにあなたは酔いどれになった。

 弓の玄が張り詰めて切れかかった頃、貴女はX−12に出会う。藁をもすがる気持ちでそれに飛びつ

く。そしてようやく、何か本当のものを見つけたのよ」

 「X−12は幻覚剤です」

 「それ以上のものだということは後で分かる。でも先ず聞いてほしい。ちょっとした心構え。

 まず、世界を固定したものと考えないこと。あなたとわたしはX―12の世界にいる。そしてどうや

ら、ここがずっといるところになる。ここでは現実が、私たちのいた世界よりずっと流動的で、物と物と

の境目があいまい。

 そしてあの時代」

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