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先日、所用でめったに歩かない道を歩いていたときのこと。
古い小さなマンションの前に、十台くらいの大きなトラックが止め放題に止めてあったんです。
地上げ?嫌がらせ?と思ったらそうではなく、マンションの各部屋から家具やごみを運び出してたんですよ。
家具もボロボロになってもう使えないものばかりだし、右手のない人形とか、折れたバットとか、人の匂いの残っている家具・道具ばかりがトラックに積み込まれていました。
つまり、その古くなったマンションを解体することになったんでしょうね。
1階には中華料理店が入っていたようなんですが、シャッターに張り紙がしてありました。
「10月21日に閉店いたします。11月より新店舗にて営業を開始いたします。」
10日ほど前まではここで営業していたんですね。
ほんの少し前まで営業していたはずのお店には人間の気配もなく、半開きになったシャッターの下から倒れた椅子がちらっと見えるのみ。
どんなものにでも終わりはあるのですが、やはり最後の姿は物悲しく、寂しい。
少し色あせた本棚が。
ちょっとまがった扇風機が。
傷のある椅子が、やぶれた障子が、腕の取れた人形が、すすけたフライパンが。
そのすべてが人のにおいをこびりつけたまま、死んだように積み重ねられているさまは、言葉に表せないほど寂しいものです。
亡き父を火葬した後、その残った骨の少なさに愕然とした、あの感覚によく似ています。
もちろん、このマンションを取り壊した後には、新しい建物ができるのでしょう。
もっと大きく、もっと便利で、もっと見栄えのいい新しいビルが。
それはわかっていても、今目の前にある建物がなくなることには変わりありません。
もう古くなってしまったビルをそのまま使うわけにもいかないけれど、やはり…
人の命と同じで、いつかは終わると分かっていても、やりきれないものです。
立ち止まってずっと見ていると、運び出された不用品の山のてっぺんに、赤い表紙の分厚い本が置いてありました。
山の下側に箪笥の引き出しがいくつか投げ出されると、その振動で下に落ちた赤い本。
開いたページを見ると、そこには写真が。
アルバムだったんです。
笑っている男の子と、優しげなお母さんの色あせた写真。
忘れて行ったのかな?
それとも、何か理由があっておいていったのかな?
もう少しよく見ようと思って近づいたとき、無情にもその上にほうりなげられた汚れた掛布団。
ため息一つ
もう後ろを見ないで、歩き出しました。
つまらない感傷だと分かっていながら、これ以上みていると確実に心を病みそうだったから。
最後にその建物の名前だけを目にとめ、心に刻んで歩き出しました。
いつかは私もこのビルのように、朽ちていくんだなぁ…
でも、お前の名前はちゃんと私が覚えておいてやるからな。
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