|
これは、今から15年くらい前、当時、小学生3年生だった私は、はじめてクラスが一緒になったA君と仲良くなった。その彼と、一緒に行った駄菓子屋の話である。
夏休み中、小学校では自由プールといって学校のプールを開放していた。先生からは、自由プールの日には積極的に学校のプールへ行って、たくさん泳ぎましょう、と言われていたが、私は、学校が遠い上に泳ぐのが苦手だったので、行くのがイヤだった。それでも、まったく行かないと、夏休みが終わってから先生に注意されるので、イヤイヤながら時々は行くようにしていた。
そして、7月終わりのある日。その日、私はイヤイヤながら自由プールに行っていた。泳ぐのは苦手だったので、同じクラスの子たちと水遊びをしただけで帰ることにした。そして、更衣室で着替えていたらそこに一学期に仲良くなったばかりのA君がいた。A君が私に話しかけてきた。
「そういえば、お前、どこに住んでいるの?」
私が、自分の住んでいるところを説明すると、A君は
「途中まで方向が同じだから一緒に帰ろうよ。」
と言った。私は、別に断る理由もなかったので、一緒に帰ることにした。
そして、歩いて帰りながら、A君は私に、
「ねぇ、買い食いしていかない? 絶対にバレないお店があるんだ。」
買い食いは、夏休みに入る前の生活指導の中でも先生からしていけないと注意されていた。私は、気が小さかったので、買い食いなんてしたことなかったし、お小遣いも少なかったので、お金はほとんど持っていなかった。だから、A君の誘い対して私は、
「買い食いなんてしちゃだめだよ。まっすぐ帰ろうよ。」
と言って、断ろうとした。そしたらA君は、
「お金も少しは持っているだろ。そこの店には、100円もあれば買えるものはけっこうあるから大丈夫だよ。店に寄ってもバレないから。一緒に行こう。」
こうして、A君と買い食いすることになった。彼のあとをついていくと、細い通りへ入っていった。そして、またしばらく歩くと彼は、急にふりかえって私にこう言った。
「ここが、お店だよ。一緒に入ろう。」
そこは、どう見ても人の家の敷地内だった。普通の2階建ての家と農機具を置いてある小屋と小さな物置しかなかった。私はたまらず、
「ここが、お店なの?」
と、A君に聞いた。
「ここだよ。」
というA君の得意そうな返事がかえってきた。A君は、大きな声で、
「すいませ〜ん。あけてくださ〜い。」
と言った。すると、60をこえたくらいのおばあさんが出てきて、敷地内にある小さな物置のカギを開けてくれた。
物置の広さは、人が3人くらいしか入れないような本当に狭かったが、たしかに駄菓子屋だった。私自身、駄菓子屋が好きで、親にもよく連れて行ってもらったりしていたので、物置の中を見た瞬間、胸が高鳴った。A君と一緒に中に入ってみると、普通の店では置いてなさそうなものがあった。とは言っても、売っているお菓子とかは同じようなものだが、お菓子の状態がすごかった。お菓子の表面にほこりがついているのは当たり前。当時流行っていた、ビックリマンアイスとかも置いてあったが、中身が一度解けてまた固まったものが売られていた。ミニ四駆やその他プラモデルのようなものも置いてあったが、いつのものかわからないくらいかなり色あせていた。そんなひどい店ではあったが、当時の私の目には新鮮に映った。
私は、そこで、10円ガムとかをいくつか買った。そして、店を出てA君と別れ、一人で歩いて帰った。私のはじめての買い食いはこんなかんじだった。
それから、私はまたあの店に行きたいと思っていた。そして、自由プールの帰り、今度は勇気を出して一人で寄ってみた。この間、A君と歩いた道と同じ道を歩いていくと、例の家の敷地に辿り着いた。そこで私はおそるおそる、
「すいませ〜ん。」
と言った。そうすると、前と同じおばあさんが出てきた。私が、
「お店に入らせてくださ〜い。」
と言うと、おばあさんは急に不機嫌そうな顔になった。
「こんなところにお店なんてないよ。見ての通り、家と農機具小屋と小さい物置しかないよ。子供が一人でこんなところに来て。親が心配するからまっすぐ帰りなさい。」
とまるでやっかい者にものを言うような口調で言った。私は、物置の中がお店ということを知っていたのでおばあさんに、
「物置の中がお店でしょ。開けてください。中を見せてください。」
と言った。すると、おばあさんは、
「物置はただのガラクタ入れだよ。そんなに見たければ開けてあげるけど、何もないよ。」
そう言って、面倒くさそうに物置のカギを開けてくれた。私は、おばあさんが子供に買い食いさせないためにそんなことを言っていると思っていた。それで、中を見てみた。
すると、なんとおばあさんが言うとおり、ただのガラクタしか置いてなかった。お菓子やプラモデルなどは影もかたちもなかった。私は、おばあさんに、
「前にあった、お菓子とかはどこに行っちゃったの?」
と聞くと、おばあさんはあきれたように、
「ここにお菓子なんてないの。人の家に勝手に入ってきてなにを言っているの。親が心配するから早く家に帰りなさい。」
と言った。私は、買い食いがばれたから店を片付けたのかな、と思いつつも、おばあさんには何も聞かずに、その後、まっすぐに家に帰った。
そして、夏休みが終わって二学期が始まった。先生に買い食いしたことを怒られることもなかった。A君とも、一緒に遊んだりしたが、例の店についてなかなか聞くことができなかった。そして、二学期も終わりに近づいたとき、突然、A君の転校が決まったのだった。二学期の終了式の日、A君といろいろ話しをしたが、ついに、例の店のことは聞くことができなかった。その後、他の友達に、例の店の話をしても、知っているヤツはだれもいなかった。そんなひどい店なんてあるわけない、と笑われるだけだった。
それから、15年たった今、例の店のことを知っている人に会ったことはない。それどころか、駄菓子屋じたいが、姿を消しつつある。自分が小さいころよく親に連れて行ってもらった駄菓子屋も、いつしかなくなってしまった。このままでは、駄菓子屋自体が、幻になってしまう。
小学校3年のときにA君と寄った駄菓子屋が現実か幻かはいまだにわからない。だが、駄菓子屋自体が幻になってしまうのは本当にさびしい。自分と同じような不思議な経験をする子は、もういないだろう。
(注:一応、フィクションです。)
|