ダイオキシン類・PCB類の毒性 ダイオキシン類は塩素を含む物質の不完全燃焼や、薬品類合成の副生成物です。世界保健機関
(WHO)は、次の3種類をダイオキシン類としています。 ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(polychlorinated dibenzo-p-dioxins, PCDDs)
ポリ塩化ジベンゾフラン(polychlorinated dibenzofurans, PCDFs) ダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル(dioxin-like polychlorinated biphenyls, DL-PCBs):PCB のうちダイオキシン類特有の毒性を見せるもの ポリ塩化ビフェニル(PCB)類やダイオキシン類には400種類以上の異性体が含まれます。そ れぞれの異性体の毒性は似ていますが、その強さは化学式・異性体によって異なります。 油症の原因となった食用油にも、PCB、PCDFの中の複数の化合物やポリ塩化クアターフェニー ル(PCQ)が混入していたことが油症研究班によって明らかにされましたが、油症が発生した 当時は、その毒性の性質や強さについてはほとんど分かっていない状況でした。その後、非常に 毒性の強い2,3,4,7,8-PeCDFが患者さんのダイオキシン毒性の約75.5%を占め、他に1,2,3,4, 7,8-HxCDFが約11.6%、2,3,3′,4,4ʼ,5-HxCB(PCB156)が約1.5%、1,2,3,6,7,8-HxCDFが 約1.2%を占めていることが分かりました。 最近、ダイオキシン類やPCB類が毒性を発揮するためには、「ダイオキシン受容体Aryl
hydrocarbon receptor(AhR)」が必要であることが分かってきました(1,2,3)。ダイオキシン類が AhRに結合すると、細胞の中で強い酸化反応が起こり、活性酸素が過剰に産生され、酸化スト レスによって細胞内のいろいろな蛋白質やDNAが傷ついてしまいます(図1)。AhRはどの臓器 にも発現していますが、とりわけ肺、肝臓、腎臓、胸腺などで高い発現が認められます(4,5,6)。 さまざまな動物実験で、ダイオキシン類暴露によって、肝癌、肺癌などの発症を助長す
ることが報告されています(7,8)。一方、ダイオキシンはマウスの乳癌の転移を抑制すると いう報告もあります(9)。ダイオキシンによる発がんには、種差、性差、臓器差があるようです。 これまで、油症患者では、死亡率の増加は見られていませんが、何らかの癌による死亡 率が一般人よりも1.37倍高く、とりわけ男性の肝癌(1.82倍)や肺癌(1.75倍)による死亡率が一般人よりも高率でした(10)。 また、油症発生後の10年間に流産、早産、胎児死亡が増加したり、母体ダイオキシン類濃度が高いと児の出生
体重が減少していました(11-16)。 油症患者の血中ダイオキシン類濃度体内に取り込まれたダイオキシン類は徐々に排泄されます。しかし40年以上経過した現在でも 患者血液中のPeCDF濃度は健常者に比べて有意に高値であり、その平均値は健常者平均値の約 10倍もあります(表1)。血中PeCDF濃度の半減期も40年以上に伸びている患者さんが増えてき ています。いまだに異常高値の患者さんでは、PeCDFは一生涯体内に残留し続けると考えられ ます。ダイオキシン類が長期にわたって人間の健康にどのような影響を及ぼすかを把握するため に、油症研究班では、各自治体と連携して、患者さんの検診を行っています(1-6)。 油症の症状と経過油症の急性期には、全身倦怠感、食欲不振、体重減少、頭重感といった全身症状や、著明なマ イボーム腺の分泌亢進(図2)、眼瞼の浮腫、結膜の充血、視力の低下といった眼症状が起こり、 引き続いて塩えん素そ痤ざ瘡そう(塩素ニキビ)とよばれるダイオキシン類中毒に特徴的な皮膚症状:痤瘡様 の丘疹、黒こく色しょく面めん皰ぽう、嚢のう腫しゅ、色素沈着(図3、図4、図5)を始め注1、多汗症、喀 かく痰たん注2、咳がい嗽そう(せき)、関節痛、頭痛、腹痛、四肢のしびれ、知覚鈍麻、月経異常などの症状がみられました。 注1 酸化ストレスによって皮膚の毛嚢脂腺が異常に角化し破壊され、塩素ニキビが発生する
と考えられます。また、ダイオキシン類による酸化ストレスは色素細胞によるメラニン色 素産生を亢進させることがわかっています(1)。 注2 気道の上皮細胞にダイオキシン類が作用すると、粘液の分泌が過剰になります。このた め痰が激しくなると考えられます(2)。 油症発症早期(1968年10月)には、80%以上の症例に眼症状や塩素痤瘡が認められました(表
2)。体内に吸収されたダイオキシン類は、徐々に排泄されるため、症状はゆるやかに回復に向 かっています。塩素痤瘡はこの40年間で徐々に軽快し、最近の検診では何らかの皮膚症状が認め られる患者さんは約30%でした。一方、全身倦怠感、頭痛、手足のしびれ、喀痰、咳嗽、腹痛と いった自覚症状は、いまだに50%の患者さんに認められます(表3)。一方、血中PeCDF濃度は、 塩素痤瘡、全身倦怠感、頭痛、喀痰、咳嗽、腹痛、関節痛の症状の強さと正に相関することが明 らかになっています(3,4)。 油症研究班で、平成20年度に厚生労働省によって実施された油症患者実態調査(生存している
油症患者1,420名のうち1,131名が参加したアンケート調査)と、一般成人対象群1,212名(性別・ 年齢補正)における同様のアンケート調査結果を比較検討しました。 アンケート調査に基づく調査ではありますが、これまでの油症研究によって血中ダイオキシン 類濃度との関連が示唆されていた症状のうち、神経痛、頭痛、認知症、多汗症、不眠、鼻血が止 まりにくい、心肥大、動どう悸き、動脈硬化、糖尿病、十二指腸潰瘍、高脂血症、骨粗鬆症、紫斑、手 足のしびれ、などが一般成人よりも1.5倍以上あるいは3倍以上の頻度で油症患者に認められま した。 アンケート調査に基づく調査の限界や、一般的な非特異症状であることに留意が必要ですが、 今後の油症患者の健康管理や研究に活用できる可能性があります。 油症の認定
油症研究班は、時間の経過に伴う症状と所見の変化ならびに分析技術の進歩等に伴い、油症診 断基準の見直しを行っています。各自治体は、検診の結果、油症診断基準を満たすと判断される 方の認定を行っていますが、平成24年12月に、診断基準が改定され、油症発生当時に、油症患者 と同居し、カネミ倉庫製の、PCB等が混入していた当時の米ぬか油を摂取した方で、現在、心身 の症状を有し、治療その他の健康管理を継続的に要する場合には、検診を受けなくても、書類等 により、認定を受けられることになりました(現在の診断基準(表4))。2013年12月31日現在の 認定患者数は累計2,246名(うち同居家族認定264名)です。 認定された患者さんには、油症研究班が、ダイオキシン類が人体に及ぼす影響を把握し、治療 法を開発することを目的に、各自治体と連携して、検診を実施しています。油症検診でのチェッ ク項目は、http://www.kyudai-derm.org/yusho/4.html をご確認ください。また、原因企業のカ ネミ倉庫株式会社が、見舞金や医療費等の支払いを行っています(一部の医療機関では、カネミ 倉庫株式会社の発行する油症患者受療券を提示すれば、窓口での自己負担が無くなります。) 油症診断基準(2012年12月3日追補)
油症治療研究班 油症の診断基準については、時間の経過に伴う症状と所見の変化ならびに分析技術の進歩に伴っ
て、1972年10月26日、1976年6月14日、1981年6月16日、2004年9月29日に追補・改訂等が行われ てきた。 今般、「カネミ油症患者に関する施策の総合的な推進に関する法律」が制定され、同法に基づく「カ
ネミ油症患者に関する施策の推進に関する基本的な指針」に基づき、国から、事件当時の同居家族 で健康被害を受けた者が、家族内で認定結果が分かれることのないよう、診断基準を拡大する方向 で見直すよう要請されたことから、追補することとした。 発病条件 PCBなどの混入したカネミ米ぬか油を摂取していること。 油症母親を介して児にPCBなどが移行する場合もある。 多くの場合家族発生がみられる。 重要な所見
1.ざ瘡様皮疹 顔面、臀部、そのほか間擦部などにみられる黒色面皰、面皰に炎症所見の加わったもの、 および粥状内容物をもつ皮下嚢胞とそれらの化膿傾向。 2.色素沈着
顔面、眼瞼結膜、歯肉、指趾爪などの色素沈着(いわゆるブラックベイビーを含む) 3.マイボーム腺分泌過多
4.血液PCBの性状および濃度の異常
5.血液PCQの濃度の異常(参照1)
6.血液2,3,4,7,8-pentachlorodibenzofuran(PeCDF)の濃度の異常(参照2)
参考となる症状と所見 1.自覚症状 1)全身倦怠感4)眼脂過多7)月経の変化 2)頭重ないし頭痛5)せき、たん 3)四肢のパレステジア(異常感覚) 6)不定の腹痛 2.他覚的所見
1)気管支炎所見6)血清ビリルビンの減少 2)爪の変形7)新生児のSFD(Small-For-Dates Baby) 3)粘液嚢炎8)小児では、成長抑制および歯牙異常 4)血清中性脂肪の増加(永久歯の萌出遅延) 5)血清γ-GTPの増加 参照1 血中PCQの濃度は以下のとおりとする。
⑴ 0.1ppb以上:高い濃度 ⑵ 0.03〜0.09ppb :⑴と⑶の境界領域濃度 ⑶ 0.02ppb(検出限界)以下:通常みられる濃度 参照2 血中2,3,4,7,8-PeCDFの濃度は以下のとおりとする。
⑴ 50pg/g lipids以上:高い濃度 ⑵ 30pg/g lipids以上、50pg/g lipids未満:やや高い濃度 ⑶ 30pg/g lipids未満:通常みられる濃度 また、年齢・性別についても勘案して考慮する。
註1.以上の発病条件と症状、所見を参考にし、受診者の年齢および時間的経過を考慮のうえ総合 的に診断する。 2.この診断基準は油症であるか否かについての判断の基準を示したものであって必ずしも油症
の重症度とは関係ない。 3.血液PCBの性状と濃度の異常および血液2,3,4,7,8-pentachlorodibenzofuran(PeCDF)の
濃度の異常については、地域差、職業などを考慮する必要がある。 4.測定は油症研究班が適切と認めた精度管理が行われている検査機関にて行う。
追補:油症患者(同居家族)に関する条件 油症発生当時に、油症患者(本追補により油症患者とみなされた者を除く。)と同居し、カネミ
倉庫製の、PCB等が混入していた当時の米ぬか油を摂取した者で、現在、心身の症状を有し、治療 その他の健康管理を継続的に要する場合には、油症患者とみなす。 【高木基金プレゼン1質疑】カネミ油症
石澤さん: 最初に国の研究を担当した医師グループ中心の体制がずっと続いている。これを変えないと、「油症研究班」をまず解体しないと始まらない。いろいろ公害があるなかで、なぜ油症への扱いはこんなに冷酷なのか。明らかにしていきたい。 【高木基金プレゼン1質疑】
遠藤選考委員: 水俣病では原田医師の研究で胎児性の被害が認められるようになったが、油症では政府はなぜ認めないのか。 石澤さん: なぜ胎児性が未認定なのか、理由は明らかにされていない。 【高木基金発表会14】質疑 瀬川さん: 診断基準が症状の実態にあっていないということか? 下田さん(北九州): 76年以来、臨床面での診断基準は変わっていない。 石澤: いまだに家族内での認定/未認定という不条理が残り、厚生省と油症研究班とでたらい回しをしている。 第 4 章 油症を起こした原因化学物質 47
4.1. ライスオイル中の毒性化合物 油症事件が発生した1968 年に,患者の家庭から集められたライスオイル中の毒性有機塩素化合物
を最初に分析したときは,電子捕獲検出器付きガスクロマトグラフによる分析法,赤外線吸収スペ クトル法,塩素を滴定で測定するホルハルド法及び放射化分析法によるものであった (1)。ライス オイルの加熱に使用された熱媒体であるカネクロール-400 (KC-400) には塩素が48% 含まれていた。 したがって,上記の方法でライスオイルには1,000〜1,500 ppm の塩素が含まれていると分析された
ので,ライスオイル中の PCB 含量はその2 倍の2,000〜3,000 ppm であろうと推定された。蛍光 X 線分析法により,このライスオイルを製造したカネミ倉庫から2 月の初めに出荷されたライスオイ ルには500 ppm までの塩素が検出されたが,他の月に出荷されたライスオイルにはわずかの塩素が
検出されるのみであった。1968 年2 月の5 日または6 日に製造されたこのライスオイルは数年後に 電子捕獲検出器付きガスクロマトグラフで再度分析された。この場合には PCB の全ピークの高さ による方法または完全塩素化して十塩化ビフェニルとして定量分析する方法が用いられ,より正確 に濃度が求められた(2)。このライスオイル中の PCB 濃度は800〜1,000 ppm であり,初めて分析 された値の1/2 から1/3 となった。図4. 1 に示しているように,そのライスオイル中 PCB のガスク ロマトグラムパターンは未使用の KC-400 のパターンと少し異なり,保持時間の比較的小さい部分 の PCB ピークが割合に少なくなっていた(3)。これはライスオイルに混入された PCB が脱臭工程 等において減圧下で加熱される操作がより強く行なわれたために,低沸点部分の PCB が比較的多 く消失したために生じたものと考えられる (4)。 Vos らはヒナの胚の生育実験により,PCB 製品はその中の不純物である PCDF の含量によりその
毒性が強められていることを発見した(5)。したがって,PCB 混合物の毒性を評価するときは,そ の中の混在物である PCDF 含量が重要な意味を持つことになる。活性アルミナによるカラムクロマ トグラフ法は PCDF を大量の PCB より分離するのに有効であることを見いだした。 このアルミナカラムクロマトグラフ法によりライスオイルの PCB から PCDF を分離することに成功したので, 電
子捕獲検出器付きガスクロマトグラフ装置によりライスオイル中の PCDF を初めて定量分析するこ とができた (2)。その結果ライスオイルには PCDF が5 ppm 含まれていた。この値は未使用の KC- 400 がライスオイルに混入されたとしたときの250 倍の高濃度であった(6)。この高濃度 PCDF の 発見は,後に宮田らにより確認された(7)。 このようなライスオイル中 PCDF の濃度増大は次のようにして発生したと考えられている。カネミ工場のライスオイル脱臭工程で熱媒体として使用された KC-400 は長期間 200°C 以上に加熱され,その間 PCB は徐々に PCDF に変化していった。
このようにして PCDF 濃度が増大した KC-400 は加熱パイプの溶接ミスにより生じた穴(3.4.6 参照)を通
してライスオイルに混入したものといわれている。高温加熱により PCB が PCDF に変化すること http://www.kbc.co.jp/tv/kanemi/image/midashi_outline.gifhttp://www.kbc.co.jp/tv/kanemi/image/btn_nenpyo.jpg
概要http://www.kbc.co.jp/tv/kanemi/image/image_outline.jpg1968年、北九州市に本社を置くカネミ倉庫が製造した食用の米ぬか油を食べた西日本一帯の1万4000人以上が吹き出物や内臓の疾患、がんなどの被害を訴えた。原因は油に含まれた猛毒のダイオキシン類。患者の症状は44年がたった今も続く。認定患者は2012年3月末現在、1966人(うち死亡者数596人)にのぼる。
被害の発覚カネミ油症事件は1968年(昭和43年)10月10日、朝日新聞が「正体不明の奇病続出」と第一報を報じたのが発覚の発端だった。西日本各地で吹き出物や手足のしびれ、倦怠感などの健康被害を訴え出る人が相次いだのである。原因は北九州市に本社を置くカネミ倉庫の米ぬか油「カネミライスオイル」。被害は福岡県を中心に西日本一帯に及び、1万4000人以上が被害を訴え出る「国内最大の食品公害」となった。
人類初のダイオキシン類による食中毒被害中毒の原因は当初、油の臭みを取る工程の熱媒体として使われた有機塩素化合物PCB(ポリ塩化ビフェ二ール)とされ、患者の症状は次第に軽減されると考えられていた。しかし1974年、油にはPCBが加熱されることで変性した猛毒のダイオキシン類、PCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)が主な原因物質であることが判明する。2001年には国もダイオキシン類が主原因であることを認め、カネミ油症事件は「人類が初めてダイオキシン類を直接口から食べた」事件であることが明らかとなった。
患者の症状ダイオキシン類はベトナム戦争(1960年〜1975年)でアメリカ軍が使用した「枯葉剤」にも含まれていたことで知られる。症状は吹き出物などの皮膚症状や手足の痺れといったものから、肝機能障害、骨の変形、歯の異常や頭髪の脱毛、流産、がんに至るまで全身の多岐に及び、カネミ油症は「病気のデパート」とも言われる。
これまで多くの被害者たちが、がんなどを発症し、死亡している。ダイオキシン類は体内での残留性が高いことでも知られており、患者たちの症状は44年がたった今も続いているのが現状である。 次世代被害ダイオキシン類の大きな特徴の1つは被害が子や孫の世代に引き継がれることである。事件発生当時には油を食べた女性患者から皮膚の色が黒ずんだ「黒い赤ちゃん」が生まれるケースが数多く報告され、社会に大きな衝撃を与えた。2010年5月、国は認定患者を対象に実施した健康実態調査の結果を公表したが、子供、もしくは孫に「吹き出物がある」、「疲れやすい」などといった被害を訴える患者が調査対象者ののべ半数以上に及んでいる。
差別と偏見カネミ油症の根本的な治療法は今も見つかっていない。また「黒い赤ちゃん」など被害が次世代に引き継がれていく懸念などから患者たちは事件発生当初から結婚や就職などで激しい差別や偏見に見舞われた。患者たちは次第に被害について口をつぐむようになり、毎年一部の自治体で実施される油症検診すら受診しない患者が相次ぐようになるなど、被害の実態把握は大きく遅れた。また患者の多くが家庭の食卓でカネミ油を食べたケースが多いことから、家族ぐるみで油症の症状に苦しみ、働けなくなったり、医療費がかさむなどして生活困窮に陥るケースが相次いだ。
未認定問題と認定基準2012年3月末現在、カネミ油症患者として認定されたのは1966人(うち死亡者は596人)。被害を訴え出た1万4000人の約14%に過ぎない。厚生労働省の全国油症治療研究班が定めた認定基準によって被害者の認定、未認定が振り分けられ、現在は血中のダイオキシン濃度が最も重要視されている。しかし、その基準の妥当性には疑問の声も上がっている。
裁判と仮払金問題カネミ油症をめぐる民事裁判は発覚の翌年1969年に始まった。裁判は責任企業のカネミ倉庫やPCBを製造したカネカを相手取り1986年までに8件が提起され、うち5件については被害の拡大責任を問われた国も相手取って行われた。原告は1985年までにカネミ倉庫だけでなく、国にも2度勝訴。しかし、翌86年5月、全国統一民事訴訟第二陣の二審判決で流れは変わり、国に逆転敗訴した。その後最高裁も原告敗訴の見通しを示したことから、原告は国への訴えを取り下げる。その結果原告は先に受け取った1人当たり約300万円の賠償金の仮払金を返還する義務が生じ、すでに医療費や生活費などにつぎこんでいた原告たちの中には返還に応じきれず、自殺者も現れるようになった。その事態を重く見た当時の自公政権は2007年に仮払金返還を免除する特例措置法を成立させ、仮払金問題は一定の解決に至る。
2008年には87年の裁判終了後に新たに認定された新認定患者がカネミ倉庫を相手取り損害賠償請求訴訟をおこし、現在も裁判は続いている。 取り残されていた患者救済(〜2013年3月)カネミ油症の被害者は油症検診を受診して患者と認定されない限り、一切の医療費助成を受けることができない。さらに認定されても責任企業のカネミ倉庫からは見舞金23万円の支給(認定時のみ)と、認定後の医療費の一部が支給されるだけで、過去の裁判の原告への賠償金500万円も経営難を理由に支払いが凍結されたままである。国は治療研究の資金として全国油症治療研究班に約2億円の研究費(2012年度)を、そしてカネミ倉庫には経営を支援するため政府米の倉庫代 およそ1億5000万円(2011年度)を支払っているが、過去の裁判で原告側が国への訴えを取り下げたことを根拠に、患者に直接、医療費などの公的支援を行うことを一貫して拒んでいる。
政権交代で芽生えた救済の機運事件から42年が経過した2010年、患者の高齢化が進む中、患者と支援者は政権交代を機に2010年1月以降、医療費の公的負担などを盛り込んだ「カネミ油症被害者救済法案」の成立を求めて全国で被害者集会を開催し救済を訴えた。そして3月には、患者と支援者が民主党幹事長室に救済法案の成立を陳情。民主党内でも一部の議員が救済法案の議員立法の検討を進めるなど、法案成立への機運が高まっていたが、2010年6月の鳩山総理辞任などの 政局の混乱を受け、法案の通常国会提出は断念された。
被害者救済法の成立2011年8月、被害者からの声を受けて民主、自民、公明など有志の国会議員は超党派の国会議員連盟を設立。被害者救済法成立に向けた機運が再び高まりはじめた。そして、翌2012年3月には自民、公明両党がまとめた救済法案に民主も合意し、救済法成立は現実性を帯び始める。しかし厚生労働省などが「食中毒は原因企業による補償が原則」などとして法制化に強く反発。それを受けて民主党は一転、法案ではなく国の予算措置による救済案に傾くなど救済へ向けた動きは迷走する。結局、自民、公明が民主を引き込む形で超党派の議員連盟は法案をまとめ議員立法で国会へ提出。2012年8月29日の参院本会議で救済法は可決、成立された。
医療費の公的支給ならず・・・ カネミ油症被害者救済法国は救済法に基づく支援策として2013年度から当面、認定患者を対象に毎年1回健康実態調査を実施し「支援金」として年19万円を支給。また従来からカネミ倉庫に対し行われている備蓄米などの保管委託を拡大してカネミ倉庫の経営支援策を拡充させ、カネミ倉庫からも年5万円を支給する。さらに認定基準も見直し、被害発覚当時に認定患者と同居していた家族などで未だ未認定のままの患者も認定することになった。しかし、患者の医療費については国からの支給は見送られ、従来通りカネミ倉庫から支給されることとなり、国からの直接救済を望んでいた患者からは失望の声が相次いだ。
残された次世代被害今回の救済法成立は、患者にとって完全救済への「大きな一歩」に過ぎないと言える。認定基準が見直されたとはいえ、大半の未認定患者は救済されないままであり、被害者が高齢化する中、未だ根本的な治療法の開発にも至っていない。また子や孫への「次世代被害」に対する救済も手付かずの ままである。カネミ油症被害者の完全救済には未だ多くの課題が残されたままとなっている。
http://www.kbc.co.jp/tv/kanemi/image/midashi_archives.gif
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カネミ油症「補償貧弱」
国内最大の食品公害「カネミ油症」の患者救済を求める声が、1968年の発生から38年を経て再び高まっている。
患者や支援者約<150人は24日、東京で集会を開き、原因企業による補償が貧弱で、 国の取り組みも足りない」として公的な救済を訴える。 同じ食品公害の水俣病や森永ヒ素ミルク事件との比較を通じて、立ち遅れているカネミ患者救済の現状を追った。
「1人たった23万円じゃ、何にもならん」
04年に油症患者と認定された長崎県五島市・奈留島の さん(76)は、カネミ倉庫からの見舞金の額にため息をつく。 妻の(75)も05年に認定された。 夫婦と息子5人の医療費に、島外の病院に通った交通費を合わせると、 「認定までの35年で1千万円は超える」と思うからだ。
最高裁で87年に一括和解した訴訟の原告は、PCBの製造企業カネカからの和解金などで最低300万円を受け取った。 だが、古木さんら和解後に認定された四十数人が得たのは、見舞金と、カネミ側が支給する医療費や交通費だけだ。
2018/6/9(土) 午前 7:17 [ 生活や子育てを守れる労働条件を ]
カネミ油症患者は裁判所で静かに語り始められました。
カネミのライスオイルを使った食事を取ったあと、かなりの早い時期に発症したこと、ひどい発作に襲われたが当時は原因不明、その後、油症のことを知るも検診を受けられず妹さんだけが認定されたこと、関節の痛み、めまい、・・・・ 数々の病苦を味わうも当時は情報も少なく検診が続いていることさえ知らされていなかったこと、ようやく最近になった検診を受けられたものの、認定されたのは3年後だったこと、慢性の毒性症状を訴えていたにもかかわらず長い間、皮膚症にのみ偏った診断しかなされて来なかったこと、ご家族の中にはご自分よりも高い血中ダイオキシン濃度が検出されているのに未認定のままの方がいらっしゃること、 嗚咽されながらもこれまでの、そして現在の苦痛を懸命に訴えられました。
議場は静まり返ったままです。人類として始めて猛毒による食品公害の犠牲者となった自分たちが切り捨てられたままでは次世代には何も残せないと言われ、落ち度のない被害者の救済への道を閉ざす原審の判決を覆すような判決を望まれて発言を締めくくられました。
2018/11/10(土) 午前 11:56 [ 歴史を学び未来の平和を繁栄を祈る ]