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今から二年前、衆議院予算委員会における、中山成彬議員の答弁を覚えていますか?
従軍慰安婦において、軍の強制性はなかったことを、自前のボードを準備し説明する、といった内容でした。

この答弁は、従軍慰安婦問題において神経を尖らせていた右派に大いに持ち上げられました。ネット上で盛り上がると、抜粋動画やそれらを素材にしたMADが投稿されるのは、ジャンル関わらずよくある光景に思えます。
この国会答弁も御多分に洩れず、Youtubeに抜粋箇所がアップロードされていました。
しかし、アップロードされた動画は、権利者削除、つまり、動画の元となった映像の権利を持つNHKの要請により、Youtube側で削除されました。
これに異議を唱えたネットユーザーの間には、様々な噂が飛び交います。
「これはよほど世に知られたくない情報らしい」「当時の韓国の警察が関わっていたっていうのがまずかった」「テレビ業界で働いてる人間だけど〜」
こんな感じの噂が、まるで本当のことのように各まとめブログ、個人ブログの間に拡散されていった様子を、今でも鮮明に思い出せます。

当時の私は、これらの噂に非常に懐疑的でした。なんせ、同じ従軍慰安婦問題に関して、強制連行による被害者がいないとする自らの論を、櫻井よしこ氏がNHKスペシャル 対立は克服できるか〜で語る様子の動画が、当時Youtubeなどに抜粋箇所がアップされたままだったからです。もし本当にNHKが慰安婦問題の強制連行の否定を対象に隠蔽を行っているのだとしたら、そこら辺も削除されていて然るべきなのでは、と思いました。

また、NHKに国会の動画を削除する権利なんてない、国会に著作権は存在しない、果ては、インターネット上でNHKが国会を公開していないのは問題だ、といった声まで聞こえていました。
これらの声に丁寧に答えますと、まず権利者問題についてですが、NHKは国会中継に関して、著作権を有していません。著作権とは、創作性のある作品に認められる権利であり、国会答弁に仮に著作権があるとしても、それは答弁者それぞれに著作権があるはずですし、国会において著作財産権だけNHKが管理するような取り決めがあるようには思えませんから、NHKが国会において著作権を有していない、というのは正解であります。
しかし、NHKは国会を削除する権利を有しています。著作隣接権です。
著作権法では、著作物を作った人物に付与される著作人格権、著作者またはそれに委譲、譲渡された人が持つ著作財産権、そして、テレビ局やレコード会社が主に持つ著作隣接権、これら三つの権利が定められています。
この著作隣接権というのが非常に強力でして、テレビ局は、放送した全ての内容に、創作性の有無を問わず、複製権、送信可能化権などを有しています。
つまり、放送したものを許諾される範囲外で勝手にコピーしてはいけないし、アップロードしてもいけないのです。その内容に創作性があろうとなかろうと。ダーウィンがきた!でスズメの鳴き声が放送されたとしたら、その鳴き声ワンシーンにさえ、著作隣接権は適用されるのです。ね、非常に強力でしょう?ちなみに私もこの権利の強さには疑問を感じています。

そんなわけで、NHKの国会削除は、権利の面から言えば正当な行使であります。

また、国会の動画をネット上に公開しろ、との意見もこのNHKの削除が権利による正当性に対するカウンターとして叫ばれていましたが、そもそも、NHKがやっているわけではないものの、国会答弁は既にネット上に公開されています。
衆議院TVという衆議院の模様をネット中継するサービスが展開されており、そこにはビデオライブラリで、日付を指定して過去の中継を見ることが出来ます。もう、至れり尽くせりですね。だから、知る権利を盾に、国会をネット上に公開しろ、とNHKに求めるのも、やや筋違いの話です。
余談ですが、中山議員が自ら国会中継の様子をアップしたわけですが、何のことは無い、衆議院TVからの転載です。しかし、それにネットユーザーは大歓喜。私には理解に苦しむ瞬間でした。いやまあ、Youtubeの方が皆見るのはわかるけどさあ……

結局のところ、この一連の問題は、よくある権利者削除を、ネットユーザーが勝手にお祭り騒ぎにしたて、NHKを散々こき下ろした、というのが実際のところでしょう。
そして、見逃せないのが、その際時の人になった中山議員の発言です。以下に引用します。
「私の国会質問がYouTubeから削除されたということで、NHKに抗議が殺到しているみたいですね。初めてだとか。どっかから圧力が掛けられたのでしよう。衆議院で撮ったものを入手していますので、近々使った資料と合わせて私のホームページに掲載します。」(2013-03-12 @nakayamanariaki)
この発言は、ややネットユーザーの声を鵜呑みにしすぎているように思えます。
まず、国会を始めて削除した、何てのはNHK側がITmediaの取材で否定していますし(しかし過去に削除したのを証明しろというナンセンスで無茶な指摘もある)、とにかく、ネットユーザーの意見を鵜呑みにし、かつ彼らを煽ろうとするツイートのように受け取れます。
これは問題です。右派左派関わらず、扇動的な政治家というのは、政治家ではなくただのパフォーマーに成り下がってしまいます。
中山議員の答弁は、慰安婦問題に一石を投じるものであるため、議論としては(場はともかく)有意義だったにも関わらず、その後の発言に残念さを感じずに入られません。

なお、NHKの権利者削除は、先述のITmediaの記事を参考にする限り、自らパトロールするか、指摘(恐らく俗に言う通報)を受けてからの対応となるようなので、一概にNHKが中山議員の答弁だけ恣意的に削除したというのも、早計に思えます。単に再生数が一気に伸びたから目に留まっただけの可能性もありますし、同じ理由で通報がきて対応しただけの可能性もあるわけですから。

私はNHKの人間ではないので、悪魔の証明に付き合う義理も理由もないですが、状況として、NHKが国会答弁を削除した一連の”事件”は、そもそもネットあるある権利者削除だったと考えるのが妥当に思えます。
この動画削除が恣意的なものだったと強く信じる人は、今一度、広い視野と正しい著作権知識で考えて頂きたいものです。

まとめ
・著作隣接権はヤバイ
・衆議院TVのアーカイブ性ヤバイ
・人の思い込みってヤバイ

余談
私は普段NHKの番組ばかり見ているので、騒ぎ立てるネットユーザーよりも、実際の番組の内容や趣旨を理解していると思います。故に、私の知っているNHKとネットユーザーの言うNHKがあまりにも乖離しているものが目に留まりやすく、これはどうしてこんな噂が、と思ううちに、「ああ、こんなデマか」と行き着くことが多々あります。故にNHKが被害にあっているデマの紹介が多めかもしれません。(笑
ボヤレベルのデマでしたが、地震によってツイッターの発言が集中してサーバダウンした際、ツイッターと連動したニュース番組NEWSWEB24が、放送中ツイートをリアルタイムでツイートを反映できないはずなのに、番組中ずっとツイートが出ていた、捏造に違いない、と声高々に言う人がいて失笑しました。(ふきだし笑いの意味です)
番組中で放送前に番組宛に来ていたツイートで乗り切ったことを明言していたのに、何をどう考えたら捏造というキーワードに結びつくのか。プロパガンダだなぁと思ったのを覚えています。

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